第2話 やっぱり恋愛は経験者の意見が大事だよね
ある日、黛京真は奇病にかかった。それは、あと一年の間に恋をしなければ死んでしまうという、設定とかその他もろもろの事情をぶっ飛ばしている意味不明すぎる病気だった。医者が言うには、この頭のおかしな病気の名前は「ラブコメ病」と言うらしい。いや、意味がわからんぞ。何だよ、ラブコメ病って。しかも恋をしなければ死ぬってかなりハードだよね?つまり、恋するか死ぬかのデッドオアラブ・・・。これで死んだら死因は恋愛できずになるのか、それかなり死に方としてゴミすぎない?いや、別に誰かをかばって死ぬとか、悪の組織との戦いのすえ死ぬとか、そういう劇的な死に方を望んでいるわけではないけど。それでもせめて死ぬなら普通がいい。
それにまだ高校生だから、死ぬには惜しすぎる。だからラブをとるしかない。
「そうと決まれば、早速行動するしかないな。なんて言ったって俺には恋愛の知識がなさすぎる。さて、どこに行くべきか。」
選択肢一、本屋で恋愛小説や少女漫画を買う。
選択肢二、恋愛映画を見るために映画館に行く
選択肢三、街中の女の子にとりあえずナンパしてみる
…まず、選択肢三はあり得ないだろ。自分で出した案ではあるのだけどさ。
となると残る選択肢は二つか…。本とか読むのとかだるいし、映画のほうが偶然同じ学校の生徒と会ったりして、そこから会話を発展させれば意外とラブコメ的展開になるのでは?よし、そうと決まれば早速グー〇ル先生で調べてみるか。
ポチポチ…
ポチポチ…
「ま、まさかな…」
「そんなわけ…」
「…ない、だと」
バカな。今は春休みだぞ。ウハウハリア充進行形のやつらがそこかしこに出没する時期だぞ。どうなっていやがる、日本の映画。日の当たる場所にいる彼女とか、四月についちゃう嘘的な恋愛映画は一つもやってないわけ?…ん?意外と知ってるじゃないか俺…
「って、感心してる場合じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ」
マズいな、これは。俺の知識が浅はかすぎたのか、神様のいたずらなのか、はたまた誰かの嫌がらせなのかは知らんがもう選択肢がひとつしかのかってないぞ…
いや、これ絶対俺の知識が浅はかすぎるの関係ないよな?なぁ?
というわけで…
「来たぜ、
正直本なんて読みたくはなかったが、もう選択肢がこれしかないので仕方なく来る羽目になってしまった。
しかし、幸いなことに今は春休み。どうせ部活も入ってないし、春休みは宿題も大して出ない。つまり暇だ。だから暇つぶしになるからいいだろう。いや、そう思わないとやってられない。
「さてと、行きますか」
俺は、その重い足を何とか持ち上げて本屋に入った。ここ、
今回はこの立ち寄りやすさが俺のラブコメ的展開を作るカギにもなるのだ!何故かというと、今まで一度も言ってなかったが、この駅俺の通っている学校のすぐ近くなのさ!
つまりここは学生たちの娯楽場として使われる。だから同じ学校の生徒との遭遇率は高い。ソースは俺。ここで同じ学校の生徒を何度も見かけている。話しかけたりとかしないけど。い、いや別に俺がボッチっていうわけではないよ?
そうこうしているうちに今回の目的地である恋愛小説コーナーにたどり着いた。
「なんか緊張するから、一応深呼吸をしておこう」
何故こんなにも緊張するかというと、俺は生まれてこの方恋愛諸説コーナーに入ったことがない。この感覚、あれに似ている。ちょっぴりエッチな大人の本を買わないけどつい横目で見たくなるあの感じ。いや、今日買うのは全然エロくないんだけど。むしろ全年齢版だし。
本日試しに買うのは所謂、ライトノベルとかいうやつだ。挿絵とかもあって比較的読みやすいと言っていた、グー〇ル先生が。
「よし、待っていやがれ恋愛小説!貴様なんぞコテンパンに読破してやるかんな!」
と、俺は意を決して恋愛小説コーナーという未知の領域に足を踏み込むのであった。
「…」
「…」
「…気まずい」
忘れていたが、今は不幸なことに春休みだった。
つまりは俺同様、みんな休みであり、それはもちろん他校の生徒も含まれる。今この場所には男は俺一人、その上周りの女性方はみんな知らない人。意外と誰かいるかもしれないと思った俺がバカだった。春休みな上に直前まで無計画だったのに、都合よく会えるわけがないのだ。神様はそんなに優しく世界を作ってはくれないよな、はぁ。とっとと選んで帰ってしまおう。ここは居心地がとてつもなく悪い。もはや間違って女子更衣室に入ってしまったくらいの気まずさだ。いや、それ以上まである。
「お、これ面白そうじゃん」
と、俺が一冊の本をとった瞬間…
「フフフ、そこのあなた!どうやら恋愛について悩んでいるようね!」
「そ、その声は…あれ?どの声だ?」
「知らないんかいな!」
なんだこの人。突然話しかけてきたと思えばやたら馴れ馴れしいし、何よりもやばいのが…
「その格好はわざとですか?」
「え?ナニが?」
マジか。この人はどうやら、これを本気でやっているらしい。どんな恰好かというと、ニット帽にマスク、それに明らかに時季外れなサングラスをかけていている。もはや芸能人か何かですかでは済まされない、警察に見つかったら即職質レベル。加えて最悪なことに、この変な人はうちの学校の制服を着ている。スカートなのでおそらく女子である。
オカマの可能性はあっても考えない。大丈夫だ、さっき聞いた声は確かに女の人の声だった。
それにしても、マスク越しでもしっかりと聞こえる上に透き通るようなきれいな声だった。本当に芸能人か何かなのかもしれない…可能性はかなり低いけど。
あと、変な人では面倒くさいのでこれからは変な人の頭文字をとってHさんとしよう。
「それで、僕に何の用ですか?Hさん」
「…」
「聞いてます?Hさん」
「あ、Hさんって私のことでしたか。すみません、イニシャルが違ったのでつい…」
「いや、この場にはあなしかいませんし、それにあなたのイニシャルなんか知りませんよ」
「…こいつ、私と同じ学校で私のことを知らないのかよ」
「え?なんて?」
「いえ、なんでもございません」
どうやら相手は俺のことを知っているらしい。なんでだろう、怖いなぁ。
「で、結局何の用ですか?」
「あぁ、すまない。コホン、あなたがどうやら恋愛についてお悩みのようでしたのでお力になってあげようと!」
「うわぁ…」
「い、今、うわぁって言ったわね!あなた!」
ヤバい、こいつガチの犯罪者なのかもしれない。どう考えても悪徳商売してるやつが言いそうな言葉だし、恰好的にもしっくりくる。
だがこういう場合、はじめから直接的断るのは逆効果なのだ。ほんの少し興味があるように見せつつ、断る意思はしっかりと持ち、やむ終えなく立ち去るのが一番いい。あくまで自論なのだけど。
なので俺はオブラートに包みながら断る作戦を仕掛けた。
「いやぁ、大変いい話ではあると思うのですが、僕これから用事が…」
「待ちたまえ!まだ話は終わってないりょ!」
「…」
「…すみません、まだ終わっていないので聞いてくれると助かります。」
どうやらオブラートに包む作戦は失敗だった。こちらの話を聞くどころか、俺の話の上に話を重ねてきた。しかも全然笑えないところで噛みやがった。
「で、なんだよ。要件をとっとと言え。でなけりゃ帰る」
「オブラートに包むのをやめた瞬間口が悪くなるとは…」
「あぁん?」
「ひぃぃい、こめんなさい。言います、言いますから!」
「ったく…」
どうやらオブラートに包んでいたのを見破られていたみたいだ。それにしてもこいつ、俺が恋愛で悩んでいるって言ったことといい、オブラートに包んでたことといい、意外と鋭いな。こいつはかなり危険かもしれない。
と、俺の警戒をよそにHさんは話し始めた。
「先ほども言った通りあなたが恋愛について悩んでいたように見えたので、お力になれないかなと思ったので声をかけました」
「…」
こいつ、変人だが意外といいやつなのかもしれない…
だから、まずお前誰だよとか、お前なんで俺のこと知ってるのとかいろいろ聞きたいことはあるが俺はまず一番にこの質問してみた。
「なんで俺が、恋愛について悩んでると思ったんだ?」
「そりゃ、あんな死んだ魚みたいな目で恋愛小説を手にしてたら誰だって悩んでるように見えるにきまってるじゃないですか(笑)。もはや犯罪者の目でしたよ(笑)」
「その格好のお前に言われたかねぇ…」
前言撤回。こいつやっぱりいいやつじゃなかった。完全にただの屑だった。ごみ箱があったら捨てているレベル。しかしそれはともかく、死んだ魚の目をしていたことは今後気を付けなければ。目つきが悪いやつは現実では嫌われる。あれがかっこいいのは画面の中の住人のみだ。
目つきの悪さは特に世の女性方からの酷評がハンぱじゃない、ソースは俺。中学の時、睨んでいると勘違いされクラスの女子を三人ほど泣かせたため、クラスメイトからブーイングを食らうという軽くトラウマになりそうな出来事があった。その時言われたのが
「顔はそこそこかっこいいのに目が死んでる。」だ。
顔はそこそこかっこいいのか、やったぜ俺…自分で言うと悲しくなるからやめとこう。
「お力になるといってもお前、そもそも恋愛経験とかあるのかよ」
「ないですよ?」
「はぁ?」
「でも大丈夫です」
「なんでだよ?」
「私はよく告白されますし、職種的にもそういうことに触れることは多いですから安心ですよ!」
職種的…?なんだかよくわからない言葉が出てきたな。悪徳商売は枕営業的なことをするってことか?いやいや、それ全然信用できないだろ。
「あ、信用してませんね。いいでしょう、では、証拠をお見せします」
俺が疑っていることに感づいたのか、彼女は徐にバックの中からあるものを取り出した。
「携帯か?それは」
「はい、そうです。マイスマートフォーンです」
「…」
「ごめんなさい、調子に乗りました」
しかしあれだな、さっきまではこいつと話してたから気が付かなかっが、周りの視線がどんどん冷たくなってる気がする。こんなところを同級生に見られ…やめとこう、絶対言い切ったらフラグになってまず間違いなく回収するコースだ。
「準備ができました!ちょっとイヤホンをつけてみてください!」
そうして俺の耳につけられたイヤホンから流れてきたのは、とある告白シーンだった。
「ひ、一目見た時からあなたのことが好きでした!よ、よければ僕と、僕と付き合ってください!」
「いやです、ごめんなさい」
「え?」
「あなた一目見た時から私のことが好きと言いましたね?つまりは、一目惚れということですね」
「は、はい…」
「はぁ、それがまず駄目ですね。一目惚れとか、一見ロマンティックで運命的に聞こえますが、相手のこともよく知らないで容姿だけで判断するただの面食いじゃないですか。そんなペラペラな愛情なら、お金さえ払えば誰でも貰えるので、どうぞそちらへ」
と、そこで録音がきれた。
…ひ、ひでぇ。素直に告白したほうの男子が可哀想になってくる。これで心が折れてないといいのだが。
「どうです?信用できました?」
「あ、あぁ…」
確かに録音されてた声は間違いなくこいつ。しかもそれなりに告白されることになれてなきゃ、あんな残酷なフり方はできないだろう。こいつもしかして、意外とできる?どんなに性格はクズだとしてももてるやつの話は意外と参考になるかもしれん。でもこいつの場合自作自演なんじゃ…
「まだまだありますけど聞きます(笑)?」
あ、そうだった。こいつはクズだったんだ。自分がフった相手の告白を録音するくらいやりかねない。
「いや、もういい…ならお前は逆に、どんな男が女に好かれやすいのかも熟知しているのか?」
「そりゃあ、モチのロンですよ。男に好かれやすい女の私が言うのだからその辺は、保証いたしますよ」
「わかった、その話乗ろうじゃないか」
「あいあいさー、ではでは早速今後の予定を…」
今の俺は藁にもすがらなければいけない。そのためだったらこのHさんの提案に今はのるしかない!さぁ、来る新学期に向けて俺はラブコメ的展開を完全にマスターしてこのふざけた病気を一瞬で直してやるぜ。さぁ、俺の命がけの
「…あれは、黛君?」
「どうしたぁー、
「ううん、なんでもない。今行くよー。…まさかね」
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