episode7

歌う様に笑いなさい。

祖母は私によく言い聞かせた。

祖母は50年間、女優として活躍してきた。


女はみんな女優なの。

祖母の口ぐせだった。

ことある事に、言われたのを覚えている。

私は祖母のことが大好きで、

悩み事を打ち明けるのだって、恋愛相談にしたって

全て祖母だった。


時は一方通行で。二度と戻ることはない。


祖母も亡くなってしまった。

形見にと受け取ったのは1本の口紅。

まだ私も子供だった。

その口紅を母から受け取り、

祖母を失った喪失感の中にも少しの興奮を覚えてしまった。

日付:12月19日



あたしの拙い日記なんか読みはって

どうしはるんですか。

ずるいお兄さんにお頼みしましょ

その口紅がぁこれどす

あたしの幼い頃、貰った当時のままなんよぉ

ちょいとお兄さん、あたしに塗ってくれはるかしら?

そうそう、そうやって。

お兄さん、上手やわぁ。

雪のような肌に似合うとるだなんて、

冗談までお上手なんやねぇ。


でもねぇ、これはただの白粉のおかげ。

これだってぇただの口紅。

お兄さんはぁ、勘違いをしてはる。

いくらあたしのことを気に入ってくれはったとしても・・・・・・ね


あたしはあたしのことが嫌や


こんなに演じてるあたししか

自分の好いとう人に好かれないんよ。


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