第2話 神様にお願い


「こちらへどうぞ。 」


暗闇の先から上半身を前のめりにしながら、先ほどの男が手招きして言った。



私が手招きする暗闇のほうへ歩いて行くと、扉がひとつ。

自分がもう生身の人間ではないものの、緊張で唾をのんだ。


「神様がお待ちです。」男が扉を開いた。


「神様だよーん。」

ダンディーな50代くらいのおじさんが、黒目を鼻に寄せて神様だよーん、、、なんて。


ふざけてる、拍子抜けした。




「生前の旦那との約束を果たしたいと?」

神様と名乗るおじさんはすぐさま

真剣な顔をしながら椅子に腰を下ろして、わたしの生前の成り行きの書類に目を通しながら訪ねた。



「はい。」



「残念だがそれは出来ない。」



「約束をしたんです。」

わたしは机に手をついて神様をじっと見つめた。


「これは私の問題ではなく、生前の旦那は

亡くなってすぐ生まれ変わったんだが…無理なんだよ。」



「なにが無理なんでしょうか?」


「彼は女性として生れ変わった。そしてすでに結婚している。それはもう幸せに暮らしているんだよ。」


わたしは膝が震え、その場に崩れた。


「そんな…」


言葉とは残酷だ。


生れ変わっても一緒になろうって約束したのに…。


絶望したわたしの前に膝ま付いて、神様は呟いた。


「しかしな、ひとつだけ方法があるんだよ。」




「どんな方法でしょう?」




神様は、にこっと笑って

「子供として、君が生まれ変わればいい。」



何も考えられなくなって頭が真っ白になっていると神様が続けて言った。


「夫婦は子供を望んでいる。前世に子供に恵まれなかったことで、今回生まれ変わった学びはな、子育て。と魂に刻まれている。だから、男としてではなく、女性として生まれ変わることを選んだようだ。どうだ?彼…いや、生前愛した者の子供としてまた出会ってみては。」


わたしは旦那を死んだ今でも愛してる。

男だろうと、女であろうと

ひとりの人間として彼を愛していた。



「愛しているひとの子供として、生まれ変わります。」


立ちあがり、わたしは神様をまっすぐ見つめた。


神様の立つ後ろの窓から、

虹色なった

色とりどりの花畑が見える。少し開いたその窓からは子供の産声が聞こえた。


神様は、にこっと笑って

「よろし。」



ただ一言、そうわたしに返した。

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