第3話 ソシアの日記

「よろしくな、と言われてもな……」


ソシアはギルド外の扉の前で立っていた。なぜ、そこに立っているかというと先ほど遭遇した神とやらと話し終わった後にここに転移したのだ。


「私が小説という書物を書くというのはどうなんだ?」


私は日記は書くがそういう書物は書いたことはない、だが神の命とあらば書くしかないか……しかしなんで神は小説なんて……。

ソシアがそうやって扉の前で考えていると後ろで扉が開き、出てきた男にぶつかってしまう。


「すいません、すぐに行きますので」


ソシアがぶつかった男に謝りギルドを去ろうとすると、そのぶつかった男はまじまじとソシアの顔を見る。


「 貴女はどこかで……」

「そうでしょうか……多分人違いだと思いますが」

「失礼しました、知り合いに少し似てたので……それでは僕はこれで」


そういうと男は頭を下げギルドから去っていく。ソシアはそれを見送った後ギルドから歩き出す。


「……そういえば服はこっちで着ていた服だが、ポーチと杖がないな……まずは私の家に行ったほうがいいか……しかし……」


ソシアはここの世界での自宅に向かって歩き出しながら先ほどの転移先にいた神と、そこにいた他の人を思い出す。

私があそこに行った時に一人居たが……彼は私が社畜になっていたあの世界の格好をしていた。つまり彼は私と同じく強制的に転生させられたのだろう。しかし私の次に来たローブを着た青年と服をだるそうに着崩した青年は私の世界ではあまり見ない格好をしていた。そして皆、席に着くと紙とペンを差し出され、目の前にいる神が口を開く『君たちには最高の小説を書いてもらう』と。


「はぁー」


相手は神だが私ははっきり言わせてもらう。あの神は私に書類を押し付けるあの社畜だった頃の上司と一緒だ、実に不快だった、そして私が意見を言おうとすると突然何もない所に向かってぶつぶつと独り言をつぶやいている。私は、最初、高齢者特有のアレだと思ったがどうやら違かったみたいだ。なんともう一人、ここに転移された者がいたのだ。その最後に召集された人物を見て驚いた。……可愛いのだ、すごく可愛いのだ。見た目は獣人と変わらないが、背が小さく、そして転移されて驚いたのかキョトンとした顔で耳をピコピコと動かしていた。実のところ言うと私は獣人が好きだ、小さい娘が……。


「って私は何を言ってるんだ」


ソシアは思考を正そうと頬を軽く叩く。

私はあの獣人の娘を触ろ……話をしようとしたが、その前に元の世界に転移させられてしまった。実に残念だ、本当に……。

ソシアは深いため息をつき、歩くスピードを速める。そして、とある庶民的な家の扉の前に立つ。

そして深呼吸をしてドアノブに手をかける。そしてここの世界で生活していた頃の口調で挨拶をする。


「ただいまー」

「あら、お帰りルーちゃん、お客さんがいるけど、どうする?」

「自分の部屋に行くよ、荷物を確認しに着ただから」


そう言いながら自分の母、リフィルと話をしている客に踵を返すと二階にある自部屋に向かう。

そして自部屋のドアを開ける。


「フッ、私の部屋だな……久しいな」


ソシアは長い間来れなかった部屋の家具、置物、書物にベット、そして窓から見える風景を見ながら余韻に浸っていた。


「こうしていられないな、まずは旅の準備か……あぁ、そういえば小説の件もあったな……」


そうだ、忘れてはいけない神直々の命があった。ソシアはそのことを思い出すとこれからのことをどうするか考える。家にこもって小説を書くか、あるいは魔王ベリルランドを倒すか……どっちもやらないといけないことだ、両方を同時進行といっても……。

ソシアはテーブルの上に置いてある日記を手に取る。そして今まで書いてきた文章を見る。


「懐かしいな」


ソシアはこれまでの出来事が書かれたページをめくる。すると突然何かを閃いた顔をする。


「……そうか! これだ!!」


ソシアはそう言うと、部屋の中のタンスを開け、服を着替える。そして出かける時に羽織るローブとタンスの底においてある、銅貨、銀貨などが入った袋を手に取り腰にポーチと袋を掛けて、ローブを羽織る。このローブには金を入れておくポケットがあるのでそこにこれから使うであろう資金を入れる。そして日記を手に取りポーチに入れる。


「日記にその日の出来事を記しておく、そして魔王どもを倒した後にそれを参考に小説とやらを掛けばいい」


ソシアは身支度を整えると部屋から出て下に降りる。そして客と話をしているリフィルのところに行く。


「母さん、私、旅に出たいの」


娘の突然の告白にリフィルと客が驚く。しかしリフィルは反対する様子がなく椅子に座るようソシアに促す。


「ソシア、自分のやりたい事をやるのは立派なことよ……だけど……あなたまで私は失いたくない」

「母さん……」

「そうだよ、ソシアちゃん、行くのだったらこれを持って行きなさい」


その客人に差し出されたのは回復薬のポーションだった。ソシアがリフィアの方を向くとリフィアはそっと頷く。


「いいの?」

「うん……少し寂しいけど、あなたが死なないと約束するのだったら、お母さんはあなたを行かせてあげる」


ソシアはリフィアのもとに近づく。そしてそっと抱き合う。


「私は死なない、そしてお母さんのことも忘れたりはしない」

「そう……よし! ルーちゃん行ってらっしゃい!」

「行ってきます」


ソシアはそう言うと扉を開け、外に出て行くのであった。

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