第4話第6節 人生賭けた生配信! バーチャルユーチューバー! まさかの恋の告白!!


 お兄ちゃん動画も終わり、生配信は後半戦を迎えた。

「じゃあ、ここから生質問タイーム。みんなのコメントから質問に応えていきたいと思います!」

 オレは右上に視線を動かしながらコメントを探していく。


『動画だと妹キャラだったけど、ホントにオレの妹だったらどうする?』


 来た! 姉さんの言うとおりドンピシャの質問が来た!

 ――この動画を見たら、必ずオレの妹だったらどうするという質問が来るはずだ。回答は用意しとくよ。

 オレは姉さんの予測した質問に対する回答を質問用紙から探していく。

「コメントにある『動画だと妹キャラだったけど、ホントにオレの妹だったらどうする?』に応えますね」

 オレは質問用紙を読み上げる。

「ワタシには兄がいませんが立派なお姉ちゃんがいます。お姉ちゃんは……」

 質問用紙にある回答を読むのを止める。

「えっと、ミノリちゃん、質問用紙にある内容をきちんと話してください」

「……わかりました」

 ヘッドホンイヤホンでしか聞こえないささやき声で返事した後、質問の回答を再開した。

「お姉ちゃんがいるんですけど、おねちゃんはすごくやさしくて、すごく頭が良くて、才色兼備の完璧無欠のお姉様なんです!」

 ――なんでオレ、生配信中でここぞとばかりに姉さんを賛美しているんだ。

 あの悪魔め……。

「もし、あなたがお兄ちゃんなら見比べてしまうかもしれません。ダメにぃと呼んで良いのなら、ぜひ、ワタシのお兄ちゃんになってください!」

 オレはなんとか樹成ミノリになりきって、質問を回答した。


『ミノリちゃん、眠たいの?』

『ものすごく悲しそうな顔ですごいジャンプを繰り返してる』


 自分の声は作っても、自分の顔だけはウソをつくことはできずにいた。


「次の質問は、ゲーム実況動画のゲーマーにしましょう」

 カキPはオレのメンタルチェックしてか、オレの応えやすいものを選択する。

「えっと、『ゲーム実況動画あったけど、ゲーマーなの?』」

 この質問はアドリブでいいタイプのものだ。好きなことを言おう。

「はい! ゲーマー入ってます! 最近だとモンスターを狩るゲームとかいいですねー。臨場感があるというか、モンスターを狩る醍醐味があっていいというか」

 コメント欄には『オレもしてる!』という好評のコメントが届いてくる。

「後、レトロゲームもやります! DSとか! 中古ショップでDSのソフトを漁って、それを一日中やるのがいいですね。こどもの頃できなかった大人買いみたいなことがやれるのが最高に楽しいです!」

 レトロゲームの話ならネットのみんなは食いつくと萌菜から聞いたことある。オレはその考えからこう回答した。

 しかし、コメント欄はオレが思っていたものとは違っていた。

 

『D、DS……』

『DSがレトロゲー……』

『ミノリちゃんの歳がマジならDSが発売されたのは幼児期か』

『……なんか年取るの早いな』

 コメント欄から「オレら年取ったな」という深い悲しみのオーラが漂ってくる。

 ――これはまずい空気!

 オレはあわあわとし、目線をものすごく動かす。

「みんな、大好き!」

 カキPから指示が聞こえ、オレはそのままオウム返しする。

「え、えっと、み、みんな大好き!!」

 オレがそういうと樹成ミノリは大ジャンプする。

 ――カキP、本番中、おかしな空気になったら、ミノリにって指示をしてくれ。それで場の空気はリセットできる。

 カキPは姉さんの言葉どおり、場の冷えた空気を温めるために、オレに、みんな大好きと言うように指示した。


『お、おう』

『なんか、元気出た』

『オレも大好きだよ! ミノリちゃん!』


 変な雰囲気が一変、なんとか場の空気を取り戻したようだ。

「次、質問タイムに行ってください」

 オレはいきなり質問の項目に斜線を入れ、次の部分を読む。

「ここでいきなり! みんなに質問タイム! もし、あなたがプロデューサーになったら、ワタシをどんな動画撮りたい。題して、樹成ミノリちゃんがあなたの専属バーチャルユーチューバーになったらどうするのコーナー!」

 ――どうせ生配信するのならみんなからネタをもらうコーナーを作ろう。

 姉さんのアイデアをもらい、生配信中でみんなからネタをもらうことにした。

「皆さんのコメント待っています!」

 樹成ミノリがそう言うと、コメント欄にはドッドッとコメントが来た。


『放課後バーチャルユーチューバークラブ』

「放課後バーチャルユーチューバークラブって? 何?」

 同じIDのヒトが答える。

『学校でバーチャルユーチューバーをする。バレたら退学』

「えっと、無理無理」

 ただでさえ、身バレしたら退学だというのに。


『ホラーゲーム実況でマジ泣きプレイ』

「イヤだよ~。怖いのは」

 マジで驚かせに来るからな……。


『英語力皆無で洋ゲープレイ』

「自分の学力バレるのイヤだな~」

 英語なんてチンプンカンプンだぞ。


 多くのコメントが引っ切りなしに来た。

 ――バーチャルユーチューバーは意外と多くのことができるんだな、と、オレはそう思った。

「ミノリちゃん、時間が来ました」

 カキPの指示に軽く頷く。

「みなさん、質問に答えてくれてありがとうございます! じゃあ、最後の質問! 多くの方が質問していたコレです!」

 オレは台本のページをめくる。

「樹成ミノリちゃんの好きなヒトは!!」


 樹成ミノリちゃんの好きなヒト――樹成ミノリの動画を見に来たヒトの大半はこれを知りたくて来たはずだ。これは絶対間違えてはいけない質問だ。

 オレはそう思いながら質問用紙を探す。

 ……あ、あれ?

 質問と回答が載っているはずの用紙が何処にもない。なぜかその回答は読みたくなかったということだけはなぜか覚えている。

「どうしましたか? 目が泳いでますよ」

 カキPの呼びかけに、オレは静かに応える。

「……質問用紙がない」

「え?」

「ホントか?」

 姉さんも驚き、オレに尋ねてくる。

「うん」

「ちょっと待っててくださいね。……えっと、こっちにありました! 同じ質問用紙が二枚」

「アチャー、なんでチェックしなかったんだ? ミノリ」

「いや、ちゃんとチェックしたけど……」

 この質問、音読とかするのイヤだったから本番で読めばいいかな、と思った。

「質問用紙持っていきましょうか?」

「いや、時間がない。ここはカキPが読み上げて、それをミノリが言うカタチで行こう」

「わかりました」

 二人がヒソヒソ声で話しているが、オレの耳にはその内容が全く聞こえてこない。

「カキP、カキP、早くして!」

 オレの声が次第に大きくなる。


『カキピー?』

『柿ピー、食べたいの?』


 オレの声が大きくなっているのも知らず、視聴者はそれを聞き取って、コメントに書く。

「プロデューサー!! カキP! カキP! プロデューサー!!」

 ついにはオレは胸にあった不安をはっきりと口に出てしまった。

「ミノリちゃん、口閉じて!」

 カキPの指示に、オレは黙る。

 沈黙したオレはスマホに表示されているコメント欄をつい目にしてしまった。


『プロデューサー?』

『カキピーって、プロデューサー?』

『もしかして、オレらのこと?』


 気づかれた。生配信が一人でないことが気づかれてしまった。

 ――プロデューサーぐらい居てもいいか、いや、一人で作っている方が好感を持たれるか?

 とてつもないピンチを迎えているというのに、オレは別のことを考えていた。

 オレの意識があれこれ考えていると、河北さんはこんなことを言い出す。

「――好きなヒトはプロデューサーで行きましょう!」

「えっ!」

 ――何言っているの!? カキP! 

 ――質問の回答はクラスの誰かだったはず!

「プロデューサーを視聴者だと思わせれば、ゴマカすことができます!!」

 ――なるほど! その手があったか!

 今日の生配信の内容からプロデューサーは自分だと思うヒトはきっと大半だ。

「了解。カキP、ゆっくり読んでください」

「はい」

 オレはヘッドホンを強く握りしめ、一語一語聞き逃さないように集中する。


「わたしが好きなヒトはプロデューサーです」

「ワタシが好きなヒトはプロデューサーです」

「気づいていないのかもしれませんが」

「気づいていないのかもしれませんが」

「いつも言葉の端々に、わたしに気づいて欲しい気持ちを置いていました」

「いつも言葉の端々に、ワタシに気づいて欲しい気持ちを置いていました」

「でも、やっぱり振り向かせることはできませんでした」

「でも、やっぱり振り向かせることはできませんでした」

「こうしてバーチャルユーチューバーをすることで振り向かせることができるかもしれない」

「こうしてバーチャルユーチューバーをすることで振り向かせることができるかもしれない」

「今はそんなことを考えて、バーチャルユーチューバーをやっています」

「今はそんなことを考えて、バーチャルユーチューバーをやっています」

「こんなダメなわたしですが、皆さん、応援してください」

「こんなダメなワタシですが、皆さん、応援してください」


 耳元に聞こえてきた声とリピートするのをやめると、オレはコメント欄を見た。


『プロデューサーってことは俺らだよな』

『ミノリちゃんのファンはみんなミノリちゃんのプロデューサーだからな』

『でも、樹成ミノリちゃんのプロデューサーじゃないの?』

『バーチャルユーチューバーって基本一人で作っているだろう?』

『もしかすると、中のヒトのマジ告白?』

『それあるかも』


 好感的なコメントが多く見受けられる。この生告白は成功したと思いたい。

「ミノリちゃん、最後のあいさつ、お願いします」

 視聴者に向けて色々と説明したいことがあったが、オレは進行どおり、最後のあいさつをすることにした。

「――残念ですがもうお時間が来ました! ホント30分は短いですね! 今度は1時間2時間の生配信ができればいいな! 勿論、生配信以外にも普通の動画もありますからそれを見てくださいね。もしあなた好みの動画を見つけたら樹成ミノリのキニナルチャンネルを登録してね!! 登録方法はボタンを押すだけ!!」

 樹成ミノリちゃんは笑顔で登録ボタンがある方に向けて指差す。

「ここだよ! ここ! ここ! ちゃんと登録できたかな? じゃあみんな! 次のキニナルチャンネルでまた会いましょうね! バイバイ!」

 樹成ミノリは動画の舞台袖へと隠れる。

 樹成ミノリの生配信は終わりを迎えた。

 

「おつかれです。声出してもいいですよ」

 ヘッドホンイヤホンから河北さんの声を耳にすると、オレはグッタリと倒れる。

「ヤバかった」

 ホント、本番ヤバかった。途中で何度も意識が飛びかけた。

「実、おつかれ。本番一回トチったが、なんとかリカバリできてよかったよかた」

 姉さんからねぎらいの声が届いた。

 本番うまくやりきったのだと、強く実感した。

「そういや、カキP。樹成ミノリの好きな相手という質問の回答は誰? 確か、それはキミが書いたはず……」

 姉さんは、女のコの気持ちは女のコが書くのが一番だと言い、河北さんが樹成ミノリの好きな相手を書くことになった。

「えっと、読みますね」

 河北さんは樹成ミノリの好きな相手を口にする。もしかして、オレのことかな。

「樹成ミノリの好きな相手は、クラスに居るイケボ作りの男のコ、です」


 ……うん。

 確かにオレだ。

 オレだけど……。

 ……イケボ作りなんかしてねぇ。

 道理でオレ、練習中でそれを読みたくなかったわけだ……。

 

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