第4話第2節 人生賭けた生配信! バーチャルユーチューバー! まさかの恋の告白!!
「へぇー。ミノリちゃん、生配信するんだ」
萌菜はスマホで樹成ミノリが生配信をすることを知ると、そのことをオレに振ってくる。
「そうみたいだな」
オレは興味のない態度で返事する。
「ミノリが好きなヒトも発表するって、生配信一回目からやる気だね」
河北さんは「好きなヒトがいるってことを生配信中で発表すると盛り上がると思います」と言うと、姉さんはそれを採用し、第一回目の生配信の目玉にすることにした。
まあ、その好きっていうレベルは片思いのものであり、マジ告白ではない。樹成ミノリは胸に秘めた思いがあるキャラであることを、みんなに知ってもらうのが狙いである。
「生配信で好きなヒトを言うって思い切ったことするね」
「こういうのって、ロケットスタートが肝心じゃないの?」
「そうだね。ロケットスタートをしたのはいいけど、見切り発車になっちゃうケースも多いからね」
「ハハハ」
「樹成ミノリの生配信は水曜日の午後7時、――って、かなり早めに配信するね」
「高校生だからじゃない?」
その日、母さんは仕事で午後9時まで帰ってこない。
とはいえ、何が起こるかわかったものじゃない。もしかすると、午後7時に帰ってくる可能性だってある。
だから、オレたちは母さんが帰ってくるまで、できるだけ早めの生配信をしておくことにした。
「高校生か。……守るんだ、そういう設定」
――設定ちゃうわ。
「イケボマンも見るの? ミノリちゃんの生配信」
「イケボマン言うな」
萌菜は、クラスのみんなからイケボ作りしているとオレにバラしてから、事あることにイケボマンと口にする。
「ゴメンゴメン、で、どうなの? ミノリちゃんの生、見に行く?」
「オレはちょっと忙しいかな」
「忙しい? 塾?」
「塾じゃない」
「なら、見ようよ。一緒に」
「忙しいの、その日は」
その日はオレが樹成ミノリになるんだからさ!!
「もったいないな。生の樹成ミノリちゃんが見られるのに」
「バーチャルユーチューバーに、生も何もないだろう?」
「いや、ありますぜ。お兄さん」
萌菜はぷぷっと頬をふくらませて、隠し事を言いたがっている。
「なんだよ、それは」
オレはイヤイヤながらも聞いてみる。
「生配信にはね、生配信の神様がいるんですよ!」
生配信の神様と耳にして、オレは興味を持つ。
「ナマハイシンのカミさま?」
ナマ=ハイ
「そう!! 予想外なことが起こるんだよ! 生配信には!」
「へぇー、どんなことが起こるんだ?」
「顔バレ、バグ、なんでもあり」
「顔バレはわかるけど、バグってなんだ?」
「バーチャルユーチューバーの顔が停止して、そのまま生配信が終了したり」
「うんうん」
「バーチャルユーチューバーの身体があらぬ方向に曲がって、邪神像になったり」
ナマ=ハイ神のお怒りに触れたな、そいつ。
「そんな予想外のことが起きたとき、バーチャルユーチューバーがトラブルにどうやって対処するのが見どころなんだよ!」
「……萌菜、なんていうか、オマエ、バーチャルユーチューバーの生が見たいんじゃなくて、生のトラブルが見たいんじゃないの?」
「そうそう」
――本性現したな、こいつ。
「それで一番面白かったのは生配信、赤ちゃんが泣き出して、子持ちバーチャルユーチューバーかよ!? って、盛り上がったことかな」
「盛り上がるの!? それ!?」
「父さん誰? お父さんに隠れてバーチャルユーチューバー!? いや待て、これはバーチャルユーチューバーの赤ちゃんがこの場で生まれたんだ! とかで、コメ欄が盛り上がった」
バーチャルユーチューバーの赤ちゃんが生まれたって、どういう意味だよ!?
「で、もう中のヒトが振り切れて皆野ママという名前に改名して、ママさんバーチャルユーチューバーとして、舵を取ったよ。しかも、ご丁寧に赤ん坊のバーチャルユーチューバーも一緒に」
なんかもうやりたい放題だな……。
「もう引退だろう? それじゃ」
「今でも人気あるよ、そのヒト。バーチャルユーチューバーなのにお弁当動画をあげているよ」
「どうしてだよ!!」
「赤ちゃんバレはしても、身バレはしていないからね。ただ赤んちゃんが泣いただけだから」
――なんだろう、身バレの方がいいような気がするのはなぜだ?
まあ、身元はバレていないから引退ではないか。
「生配信をうまく利用するのもバーチャルユーチューバーの腕の見せ所、失敗をおいしく調理できるヒトが生き残るよ」
バーチャルユーチューバーって、ホントにマジでヤバゲな世界だ。
――失敗が失敗ではなく、それを成功につなげられるか勝負の世界。
よほどの機転が回らなければ生き残れないぞ、これ。
「……そういえば、萌菜」
「何?」
「生配信で一番冷めるのって何?」
オレは少しでも生配信に関する情報を萌菜から引き出したかった。
「わざっとぽい失敗、スベリに行っている生配信」
「ああ」
「わかるんだよね、そういう配信者って。目をチラチラして、もうわざと失敗してやるぞ、オーラが滲み出ている。それで、あらーやってしまいました~って、半笑いで言うのだからもう見てられない。そういう配信者は、動画の神様にお仕置きされてしまえて話だよ」
ナマ=ハイ神の背信行為ってことか、――って、やかましい。
「あと、2時間ぐらい生配信で再生数が伸びなくなったら、やる気を出さなくなる配信者とか」
「ああ、あるね」
「中でも許せないのは自分からキャラを破りにいっているヤツかな」
「いるよね、そういうヤツ」
「中のヒトのことは知りたいけど、やっぱりそのキャラ目的で見に来ているのだから最低限それはきちっと守ってほしい」
「うんうん」
「バーチャルユーチューバーでもやっていいこと悪いことがあると思うんだよ。特にキャラデザインのイラストをもらっておいて、声当ててる中のヒトがそのキャラを壊しにいったらダメって話でしょう?」
「うんうん」
「一人ならまだしも、二人三人と作っているのなら問題だよ。仮にキャラを壊すとしても、みんなの意見を汲んでから壊して欲しいんだよ。それがバーチャルユーチューバーでやる上で一番大切なことだと思う」
バーチャルユーチューバーはみんながいる。
一人じゃないか。
「萌菜。オマエ、たまにはいいこと言うな」
「え? そう? そうかな?」
ホメられて慣れていない萌菜は恥ずかしそうに視線を左右する。
「ナマ=ハイ神様の祝福あれ」
「ナマ、ハイシン? 誰それ?」
「知らないの? 動画の神様だよ」
今、作った架空の神様だけどな。
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