第4話 人生賭けた生配信! バーチャルユーチューバー! まさかの恋の告白!!

第4話第1節 人生賭けた生配信! バーチャルユーチューバー! まさかの恋の告白!!


 オレはスマホの録音ソフトを起動させるとスマホを両手につかみ、台本を読む。


「こんにちは! 樹成ミノリです! 今度、ワタシ生配信しようと思います! みなさん、ミノリに対して気になる質問があればどしどし送ってください!! もちろん、生配信中でコメントにいいのがあれば、それも答えていきたいと思います! もしかして、ミノリが好きなヒトも発表しちゃうかも! そんなドキドキな第一回目の生配信!! 日程や質問先などは後日連絡します! 以上! 生配信の連絡でした!!」


 スマホアプリの録音ソフトを停止し、今の録音データを姉さん所有のクラウドファイルに届ける。

「データ届いたよ」

 オレの背後にいた姉さんは答える。

「おつかれさまです」

 河北さんはそう言ってオレをねぎらってくれた。

 

 あれから河北さんは樹成ミノリのプロデューサーとしてオレの家へと通っている。カノジョの仕事は樹成ミノリのブログやツイッターといったネット上の営業、時間があれば収録現場へと足を運ぶ。

 本来ならブログやツイッターはオレの仕事だが、姉さんは「オマエじゃ足がつく」と言って、ログインすらもさせてくれなかった。しかし、河北さんがプロデューサーになってことで、カノジョにそれを任している。信用できる相手なのはわかるけど、少し仕事を任せすぎじゃないかなと思う。

 けれど、本人は楽しそうに樹成ミノリになりきってツイッターをしている。フォロワー数も山登りで、「このコ、インフルエンサーマーケティングの才能あるんじゃないの?」と、姉さんの信用を勝ち取っていた。


 オレは姉さんのベッドの上に座り、ふぅーとため息をついた。

「姉さん、スマホで音声収録ってあり?」

「仕方ないだろう? マイク壊れたんだから」

 オレが樹成ミノリの生配信の連絡を録音しようとしたらマイクが壊れていた。中古で安物なのはわかっていたが、たった一ヶ月で壊れるとは。

「いいパソコンを買うために、マイクとかカメラとかは中古品で揃えたのが裏目に出たな……」

「生配信中はそんなことがないようにしてね」

「わかってるわかってる。父さんからおこづかいが入ってきたからマイクは本番までに用意しておく。それとお金が入れば、カメラとかももっといいのを買うよ」

「バーチャルユーチューバーなのに、生配信でカメラっているの?」

「いるよ」

 姉さんはこっちに来るようにジェスチャーし、オレと河北さんは姉さんの元へと向かう。

 姉さんがパソコンのディスプレイを指差すと、そこにはゆらゆらと揺れる樹成ミノリの顔があった。

「このソフトはカメラの前にいる人間の動きをトレースして、CGアニメーションもそのとおりに動く画期的なフェイスキャプチャーソフトだ」

「聞いたことがあります。このソフトが生まれたから、一人でもバーチャルユーチューバーができるようになったんですね」

「そうそう。で、これに私が用意したCGモーションを動かすことで、生配信でも顔と身体が一体となって動かすことができるってわけだ」

「へぇー、これはすごい! カメラ! カメラはどこ!」

 自分の表情がアニメキャラの表情と一緒に動くなんて面白そう!

「物置きにあるよ。今から取り出すのは時間がかかるから今度にして」

 今までは姉さんが樹成ミノリを動かしていたが、今度からはオレも動かせるわけか。なんだかとても楽しみだ。

「本来なら身体も本人がやってもらうのが一番なんだが、生配信のときは本人がいっぱいいっぱいになるはずだから、身体の操作は私がするよ」

「でもオレと姉さんが別々に操作するってなると、顔と身体にズレが生じない?」

「そこでプロデューサーの出番」

 姉さんは河北さんを妖しく見つめる。

「え? わたし?」

「そうだ。例えば、プロデューサーが喜んで、と言えば、私がその場でジャンプするモーションを操作して、実の表情は喜んでもらう」

「なるほど……。じゃあ、生配信のときはわたしが樹成ミノリちゃんになるわけですね?」

「そういうこと。顔が笑顔なのに、身体は棒立ちなんておかしな行動にはならなくてすむ。プロデューサーがブレインになって、私たちが命令を受け取るわけだ」

「ということは、樹成ミノリの性格は河北さん。表情と声はオレ、身体は姉さんということか」

 樹成ミノリの構成要素を一度、想像してみる。

 ……身体はすごくナイスバディなのに、顔がオレという異物なクリーチャーが生まれた。

「それなら表情も河北さんがしてもらったらいいな」

 脳みそに生まれたクリーチャーの顔を河北さんに置き換える。うん、最高の女のコが生まれた。

「ダメダメダメ! わたし! カマラ撮られると動けなくなります!!」

 いつもは清純な河北さんが突然、大げさに両手を振る。カメラをカマラとなまるほど、ホントに人前に出ることが苦手のようだ。

「実……、プロデューサーはさ、スタジオから離れた場所でやるからプロデューサーなんだよ。近くに居すぎたら場の雰囲気に飲み込まれるだろう?」

「それもそうか」

 プロデューサーって、ただ偉そうに現場に立っているわけじゃないんだな。

「場の空気を整えるのもプロデューサーなんだ。モノを冷静に見るヒトがやる仕事なんだ。このコはそれを持っている。ジグザグな私たちをうまくコントロールできる。そう信じている」

「えっと、その……、姉さんのご期待にそえるようにガンバリます!」

 河北さんは恐縮そうに頭を下げた。

「……にしても、生配信をやりたいとはどういう風の吹き回しなんだ? 実」

「このままだと目標の1000万再生まで届かないと思ってね」


 オレがバーチャルユーチューバー樹成ミノリを演じて、早一ヶ月近く、総再生数200万回を超えた。このままのペースで行けば、目標としていた1000万再生までは時間の問題である。

 しかし、ここで一つ大きな問題が見つかった。動画投稿サイトが広告収入として銀行口座に振り込む日が、次の月の24日前後になる。すなわち、オレに残された時間は半年ではなく、後5ヶ月だったってわけだ。

 1ヶ月で200万再生は5ヶ月で1000万再生。ホントにギリギリということになる。

 加えて、広告収入には手数料とかで二割カットされると姉さんは言っていた。もし、そうなら1000万再生だけだとダメということになる。

 ――再生数に少し余裕を持つ必要がある。

 樹成ミノリの勢いがあるうちにもう少しでも登録者を増えやしておきたい。そこで、オレは生配信のアイデアを出したってわけだ。


「確かに、半年でこのペースはちょっと遅いか」

 姉さんは腕組みし、何かを考え込む。

「生配信することで動画をアーカイブとしてに残すこともできる。面白い所をピックアップした編集動画や反省会とかもやれば、動画の再生数は全体的に伸びる」

「……実、オマエ、たまーに、私が恐ろしくなるぐらい頭のいい所があるな」

「それ、ホメてるの?」

「ホメてるホメてる」

 絶対、ホメてない。

「しかし、生配信か。……ホントに大丈夫だと思う? プロデューサー」

「大丈夫だと思いますよ、上村さんはガンバるヒトですから」

「……それはどうかな?」

「え?」

 姉さんは眉をひそめながら、オレの短所を声にする。

「実はすごくアドリブ力が弱いんだ。学芸会のとき、セリフを忘れて舞台を止めたんだよ」

「あれは小4のときの話で今は違うって!」

「……多分、そのときの上村さんは必死になってセリフを思い出そうとしていたと思います」

「時間かけてセリフを思い出すぐらいならそこでセリフを作ればいい。しかし、実がそれができない」

「本人は誰かを傷つけたらいけないと思って、言葉を探していたと思います」

「そうかな……、コイツは予想外のことが起きたら思考がぶっ飛んでおかしなことをするんだ。仮想通貨のときもそうだっただろう?」

 オレは仮想通貨ショックで100万円を失ったことを思い出す。

 確かに、あのとき、仮想通貨と実際のお金を出し入れして、気づけばすべてのお金が吹き飛んでいた。


 ――予想外の事態に対して軽く見積もる。

 ――そしてそれが起こると冷静さを失って、すべてをなくす。

 ……オレの悪いクセだ。

「仮想通貨? 仮想通貨って!?」

 河北さんは興味持って食いつく。

 まずい! 気づかれたか! 高校生が仮想通貨を買っていたなんて!! バレたら問題だぞ!

「――仮想通貨ショックの動画って、アドリブだったんですか?」

「台本をそのまま読んでいました」

 ……良かった、河北さんはそこまで察しのいいコじゃなかった。

「なら、大丈夫だと思いますよ。あの動画面白かったから、あの調子で生配信すれば、きっとうまくいきます」

「同じ失敗を何度も繰り返すよ」

「でも、くじけません。同じ失敗しても何度も何度もトライします」

「それって、同じ失敗しても少しも学ばないってことだよね」

 河北さんは「あ」とうろたえて、がっくりと肩を落とした。

「……ごめんなさい、上村さん。力になれなくて」

「謝らなくていいです、謝らなくていいです」

 河北さんのやさしさはオレ! 伝わったから!

「勝ったよ! 実! じつの姉としてオマエのダメさ加減を教えてやったよ!」

「姉さんはやさしさが気まぐれなんだよ!!」



 

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