第3話第7節 樹成ミノリいきなりの身バレ! 気づいた相手はプロデューサー志望!!
オレの魂は死んでいた。
完全に燃え尽きていた。
休み時間、教室の机でグッタリともたれかかって、ゆっくりと息するぐらいにしか気力が残っていない。
「実……? スライムごっこ?」
萌菜は心配そうに冗談を口にする。
「小学生でもやらんわ」
萌菜はオレの前にある椅子に座り、スマホをいじる。
「……精神力が欲しい」
オレが自然に出た言葉を萌菜は反応する。
「精神力?」
「どんな精神攻撃を食らってもくたばらないヤツが欲しい」
「社畜になれば」
タフネスマインドの能力者だよ、そいつら。
「精神がダメなときは動画セラピー」
「アルファ波が出まくりのヤツ?」
「マジプレイのゲーム動画。意外とこれ元気出るよ」
萌菜はオレに自分のスマホを見せてくる。
それは昨日死闘を繰り広げたオレのゲームプレイ動画、すなわち、樹成ミノリのゲーム実況動画であった。
――【wanna罠】ゲキムズゲーで目指すは世界記録! ミノリちゃんのマジ神プレイ動画part 1【ワナワナ】
「超絶神プレイ見せるよ!」
樹成ミノリが画面の右下の部分に映り込み、激ムズゲームの“wanna罠”をプレイする。
「絶対! 世界記録取る! 絶対! 絶対! 9分台に切ってやる!」
樹成ミノリはコントローラーのカチャカチャ音を鳴らし、ゲームを進めていく。
しかし、始めてから間もなく1ドットのカケラにぶつかり、自機を失った。
「えい!!」
樹成ミノリは
「世界記録、世界記録! 世界記録、世界記録!!」
樹成ミノリの中のヒトは樹成ミノリを演じることを忘れ、ゲームに没頭する。
――ワンミスがあったらすぐリセットボタン。
――世界記録の時間に遅れたら構わずリセット。
セーブポイントでセーブをせずに、激ムズゲームを攻略する。
「あぁああ!!」
つまらないミスで敵にぶつかり、心からのリアクションを取る。
「クリア」
ステージをクリアしても冷淡にクリアと言い捨てる。樹成ミノリの目的は全クリだからだ。
「あああ!!」
「わわあああ!!」
「だああああ!!」
編集が入り、死亡シーンのダイジェストが入る。
右上に死亡カウントが数えられ、自機の
しかし、樹成ミノリは手を抜かず、途中セーブといった初心者救済処置を使わず、最初からスタートする。
「こんなの! 地獄と比べれば!! 軽い軽い!!」
と、言ってからの穴に落ちる死亡事故。見事なフラグ一級建築士を見せる。
「ゲームクリアするまでみんな帰らせないからね!!」
オレと萌菜は樹成ミノリのゲーム実況動画を見終わる。
「すごい執念でしょ。なんていうか、中のヒトの精神が伝わる動画でしょ」
オレ、こんな精神でゲームをしていたのか……。
「わざわざ、リセットボタンとか押さなくてもいいのに何度も押している。これ、本気のマジプレイだよ」
あのとき、オレは自分の魂が焦げ付くほど本気で世界記録を狙っていた。
「ミノリちゃん、随分とハイテンションだったね。誰かと何か賭けでもしていたのかな?」
――河北さんをプロデューサーにさせないためにマジプレイしていました。
「けど、なんか荒れていたね。何かあったのかな、カノジョ。好きだったヒトに捨てられたのかな?」
どっちからというと、好きな相手に拾われたというべきか。
「どんな精神状況でプレイしていたのか、気になるな~」
あのとき、いや、昨日のオレの精神はズタボロマックスだった。
オレがバーチャルユーチューバーということが好きな女のコにバレたのだから、精神的動揺は半端なかった。
いつもは簡単にクリアできる部分も何機失ったことか。自分のメンタルケアを
「お二人は何を見ているんですか?」
河北さんが話しかけてきた。
「樹成ミノリのゲーム実況動画、世界記録取るまで帰りません」
いや、そんな大げさなタイトルは付けていない。
「萌菜さんはゲーム実況動画とかあまり見ない方じゃないんですか?」
河北さんの質問に、萌菜はコクリと頷いた。
「最初は冷やかしだったけど、なんていうか、本気でゲームしてたから」
「本気?」
「本気でやっているプレイだから見る側も本気で見る。普通じゃない?」
「ええ、まあ……」
「そりゃ、アタシはバーチャルユーチューバーにキャラを求めているけど、中のヒトがそれどころじゃないのを見るのも好き。なんていうのかな。少し置いていかれているんだけど、中のヒトは何考えているのかなと考えてながら見ていくと、好きずつそのヒトの考えに追いつくのかな。それが一致したら、ああ、なるほどってなる気分がすごくうれしいんだ」
「そうなんですか?」
「まあね」
そういうと萌菜は次の動画を見る。その次も樹成ミノリのゲーム実況動画だ。
オレは萌菜のそばから離れ、河北さんの元へと行く。
「わたしのプロデュースどうでした?」
「まあ、その……、うん」
ネット動画大好きの萌菜を夢中にさせた手腕は見事と言うしかない。
「よくこの動画がウケるってわかったね」
「萌菜さんは、ゲームのうまいヒトの本気プレイは人気あるって言ってました」
「まったくの思いつきってこと?」
「はい」
河北さんはそう言い切った。
「そうか」
オレはスマホにかじりつく萌菜の姿を見つめる。
萌菜は真剣にゲーム実況動画を見ている。
時折、小さくぷっと笑い、首を上下に振る。
「……なんだか、アイツの気持ちを傷つけているな」
「え?」
「あのゲーム、世界記録を切ることができなかったからな」
外が暗くなり、河北さんが家から帰ることになって、オレは安全ルートでゲームを攻略することになった。ゲームはクリアできたがその記録は12分ちょっとでクリア。結局、世界記録には届かず、失敗に終わったのだ。
「なんていうか、裏切りだよな」
「裏切りじゃないと思いますよ」
「そう?」
「本気で挑戦したことに対して、ウソなんてありません。ただ結果が出なかっただけで間違ってことはしていません。もしそれがウソだという方がいるのなら、それは何事に対しても一度も本気で挑戦したことのないヒトです」
オレはそうだなと首を上下に振った。
「でも、あの動画で裏切りがあるとしたら」
「あるとしたら?」
「――わたしをプロデューサーにしたくないっていう上村さんの気持ちかな」
河北さんからそんなことを言われ、オレは慌てだした。
「いや、違うんだ! なんていうか……、オレと姉さんの動画にクラスメイトのコが入ってきたから、あんなことを言ったというか、なんていうか……」
あたふたするオレの様子を見た河北さんは――
「ゴメンなさい」
――と、嬉しそうに言った。
「上村さんをこまらせるいじわるでしたね」
「ええ、その」
「わかっています。動画作りのイロハがないヒトがバーチャルユーチューバー動画を作りたいと来たんですから本気で嫌がるのもわかります。上村さんが本気でゲームをプレイしていたのはそういう気持ちがあったのだと思います」
「ええ」
「けど、信じてください。わたしは動画をどう作ればいいかわかりませんが、みんながこんなのが見たいという気持ちだけはわかっているつもりです」
「みんなの気持ち?」
「はい。――バーチャルユーチューバーは次世代のアイドル。カノジョらを見た動画を見たヒトが、みんな、応援したくなる気持ちになる! わたしがプロデューサーになりたかったのはそういう気持ちを叶えたいという想いがあります」
――河北さんの気持ちは伝わった。
――遊び半分じゃなくて、本気でプロデューサーになりたいという気持ちがよくわかった。
「実さん、こんな私ですが、バーチャルユーチューバーとして、あなたをプロデュースしていいですか?」
河北さんは頭を下げると、オレも同時に頭を下げた。
「お、お願いします」
オレがバーチャルユーチューバー樹成ミノリとしてプロデュースされるのなら、このヒトでいいと思った。
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