第3話第4節 樹成ミノリいきなりの身バレ! 気づいた相手はプロデューサー志望!!


 次の日、オレは一時間目と二時間目の休み時間の間、自分のプレイ動画を視聴していた。

 動画のあいさつとかは飛ばして、3分過ぎからシークバーを動かして、動画を再生する。

 ――我ながらほれぼれとするスーパープレイのゲーム動画、敵や障害を蹴散らすシーンを見て、オレやったねと自画自賛する。だが、それを誰にも見せられないというのはとても残念である。

「この動画はバーチャルユーチューバー樹成ミノリの動画として、ネット上には配信できない」

 そんなことを姉さんから言われた。

 確かに、ゲーム実況動画として見たら、見どころのない最悪の動画である。

 配信者が黙って、トントン拍子でゲームをクリアしていく。幾らネット上で有名の激ムズゲームと言われても、視聴者がこんなのを見せられたらポカーンとするだろう。

 ――もしかすると、ネット上にあるスーパープレイ動画をアフレコした動画と言われる可能性もある。

 ……うん、それはまずいな。

 残念ながらこの動画はお蔵入りになりそうだ。 


「めずらしー。実がスマホで何か見てるのなんて」

 オレは自分がプレイしたゲーム動画に没頭していると、萌菜はオレに話しかけてきた。

「そうか?」

「見せて見せて」

「ほら」

 オレは萌菜にスマホを見せつける。

「見せるんだ」

「何を期待してた?」

 萌菜はウシシシと薄ら笑いを浮かべる。

「男のコが見たがるいかがわしいもの」

 ――誰が見るか。


 オレはスマホの動画を再生すると、萌菜はそれを注視する。

「あ、これか。ユーチューバーが投稿してすぐ配信停止する悪魔のゲームとか言われる激ムズのアレね」

「よく見ろよ」

「よく見ろって言われても……って、すご、スーパープレイ!」

 さすがネット動画中毒者。ゲーム動画も詳しい。

 萌菜はオレのスマホを手にする。

「どこで見つけたの、それ?」

「……ネットで」

 さすがにオレのプレイ動画とはいえない。

「へぇー」

 萌菜はその動画を面白がって見る。

 ――ほら、やっぱり見るじゃないか。姉さん、心配しなくてもよかったじゃないか。

 ただ萌菜はネット動画のヘヴィユーザーであり、コイツの評価が一般人とは言えないのが残念である。


 オレはそんなことを思っていると、ステージクリアのファンファーレ音が流れた。どうやら、萌菜は誰が実況しているのか気になったのか、音量をあげたみたいだ。

「やった! この前よりもっと早くクリアした!!」

「この前?」

 ――ま、まずい!! 

 オレの声、……いや、樹成ミノリの声が教室内に響いた!!

「……今、女のコの声だよね!」

 ――女のコというか地声というか、樹成ミノリちゃんの声というか。

 頭が混乱し、うまく説明できない。

「誰、誰々?」

 ――変に食いつくなよ! 萌菜!

「女のスーパープレイってめずらしー!! ネット上にいる女ってさ、変にウケ狙うからこういうマジプレイって始めて見るー」

「ははは、……だよね」

 オレは笑いながらスマホを手元に戻すと、急いで動画を消去した。

「……って、あれ? 動画どうしたの?」

「消した」

「消した!? なんで!?」

「うるさいから」

 オレは首を振って、周りを見ろと萌菜に察するようにジェスチャーする。

 萌菜もオレの意図に気づくと、周りに愛想笑いで「みんなゴメン、まっちゃもゴメンゴメンと」と頭を下げた。

「……ホントに動画消したの」

「消した」

「じゃあ、動画主、教えてー」

 ――目の前にいる! 眼前に!

「……忘れたよ」

 ――でも、そんなこと言えない。

「ええー、こんなスーパープレイしたユーチューバーいたらチャンネル登録するのに!」

 ――もうしてるだろう! オレの、樹成ミノリのチャンネル登録を!!

「でも、ユーチューバーがマジのスーパープレイしたらイヤだろう」

「うーん、……モノによるね。この動画途中からしか見てないけど、マジプレイで実況とかしてなかったし」

「うん、うん」

「やっぱ、ユーチューバーは面白く実況してくれないと損だよね損。見る側が」

「どういう実況がいいんだ?」

「リアクション取りながらのゲーム実況。でも、わざとらしさがないそんなヤツ」

 なにげに無茶な注文するな。

「じゃあ、萌菜はどういうゲーム実況動画を見るんだ?」

「面白いの」

「具体的に」

「ぅーん、ゲームで困る実況者なのかな?」

「わかるわかる」

「後、スーパープレイとかも見応えがあるけど、やっぱりそのユーチューバーの持つキャラのある動画が見たい」

「ああ」

 やっぱり姉さんの言うとおりだったな。

 オレのスーパープレイ動画は樹成ミノリのキャラに合わなかった。

「じゃあ! じゃあ!! さっきスーパープレイ動画あったけど、それ以外は普通の実況動画だったら?」

「即切り。スーパープレイ動画チャンネルはスーパープレイしか興味ないから、実況なんか興味ない」

 ネット視聴者はそう思うか。

「ゲーム実況はキャラ命なんだよね。アニメとかのキャラクターはゲームまるまるしないからね」

「じゃあ、二次元に最も近いバーチャルユーチューバーがゲーム実況したら?」

「あ、それそれ、それ、最高! ちゃんとキャラを守って、ゲーム実況してくたらすごく得した気分になる!! 誰かやって欲しいなー!!」

 ――リアクションを取りつつ、キャラを守るか。


 樹成ミノリのキャラはみんなが気になるキャラクターという方向で売り出すつもりである。

 しかし、この“気になる”という要素はどうやって引き出せばいいものかわからない。

 例えば、気になるお店があるとして、なぜ自分はそれが気になるのだろうか? 店の色調がいいからか、置いている商品が見たいからなのか。

 そう言われたら“気になる”っていう感覚を考えてみたらとても抽象的な表現である。頭はなんとなくそれと言うことがわかるが、それを言葉にするのはとても難しい。

 ――気になる存在、誰もが気になるそんな存在。

 オレは学校の授業を集中せず、そればかり考える。

 樹成ミノリというキャラ作りに頭を悩ませるのであった。

 

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