第3話第2節 樹成ミノリいきなりの身バレ! 気づいた相手はプロデューサー志望!!
「あの、上村さん……」
オレと萌菜の会話を見守っていた河北さんが話に入る。
「どうしたの? まっちゃ? 運全振りゲーム動画を作りたくなったの?」
「……それは遠慮します」
「河北さんはそういうのが苦手なんだよ、萌菜」
「そう? まっちゃは動画とか興味あるよね?」
「はい、興味あります」
へぇ、だから萌菜と一緒にネット動画を見ているわけか。
「それでみのるに何か質問あるの? まっちゃ」
「ええ」
河北さんはオレの方を見る。
「上村さんはおしゃべりとか苦手なんですか?」
「どちらかというと」
まあ、確かに。この女の声のせいもあって萌菜以外とはあまり口を効かないな。
「そういえば、聞き専だよね、みのるって」
「まあな」
オレは喉に手を当て、低い声で返事する。
「どうして喉元を抑えるんですか? 上村さん?」
河北さんはオレの声を気にしてか、追及を止めない。
「えっと、あの」
オレが言い訳しようとすると、萌菜が声をあげる。
「いいのいいの、コイツこんなんだから」
助け舟を出してくれてありがとな、萌菜。
「そういえば、みのるの地声忘れたけどどんな声だったっけ?」
おい、オレを助けたんじゃないのかよ!
「……知らない」
まさかのシットリ系なんて言えるか。
「もうみのるったら……。そうやってイケボを作っても、イケボになんてならないよ」
オレは思いっきり首を傾げる。
「あのオレ、イケボになんてなりたいって、一度も言ってないんだけど」
「あれ、そうなん?」
「誰が言ったの? そんなデマ」
「みんなが言っていたけど」
発信者は不明かよ。
「だとしても、なんでオレに伝わっていないんだ?」
「……イケボマンって言ったら上村君を傷つけるからーってみんな黙っていたけど」
「マジでか」
オレはクラスのみんなからイケボマンと呼ばれていることを知り、大きなショックだった。
――女の声がバレるのはイヤだが、イケメンボイスをなるためにいちいち声を作っていると思われているのはもっとイヤだ。
ただでさえ、バーチャルユーチューバーになって黒歴史ノートに書いたことを実行するという、「生前オマエ何したの?」と言える八大地獄に新たに加えられる暗黒動画を配信しているのに、後から泣きたくなるようなことを言わないで欲しい。
……でも、こう勘違いでされてたことで、助かっていたんだな。
そう思うとオレは少し気が楽になったが、それでもなぜかやりきれなかった。
「そうそう、声といえばまっちゃはすごい能力持っていたね」
「能力?」
「まっちゃはね! 絶対声優聞き分け能力を持っているの! テレビや動画に出てくるアニメキャラやナレーションの声をすぐ当てるんだよ!」
使いどころがだいぶ限られる能力だな、それ。
「人生には何の役にも立たないモノですけどね」
河北さんは口をおさえて、小さく笑う。やっぱり河北さんは純朴でカワイイ。
「あ、そうだ!」
萌菜は何かを思いつき、スマホの電源をつけた。
「まっちゃ! 樹成ミノリちゃんの声、当ててよ!」
オレは、やめろ! 本気でやめろ! と、心の中で叫んだ。
「あの声どこかで聞いたことがあったけど、どこで聞いたのか忘れちゃってね。聞き慣れた気がするんだけど」
――そこにいる! そこにいるよ!! だから、気がつかないでくれ!
「って、あれ。動画どこだどこだどこ!?」
萌菜は指先を動かし、動画を必死に探す。
「ブクマしろよ」
「わかっているよ、みのる。でも、仮想通貨ショックで検索したらすぐ出たから、やめといた」
「で、今は出ないと」
「うん。――なんで仮想通貨ショックの動画がいっぱい出てくるの!」
探したい動画がいつの間にかネットの上からいなくなる。動画配信サービスだとよくある現象だ。
樹成ミノリの仮想通貨ショック告白動画が再生数を100万回突破したことで、他のユーチューバーも樹成ミノリの後を追うように次々とカミングアウトした。
ネット動画はネット流行に乗っかるものだが、自分のアイデアが他人に奪われた気がして、あまり気分のいいものではない。しかし、ユーチューバーは誰かのアイデアを取り入れないといけないほど、彼らはネタに困っている。
「こういう他人とマネばかりするから誰も見てもらえないんだよ!! 検索妨害!!」
ネットユーザーの
「落ち着いてください、落ち着いてください」
河北さんは萌菜をなだめる。
「別に無理して見なくてもいいじゃないですか。きっと今度、動画をあげると思いますから」
「うーん、そだね」
萌菜はスマホを動かすのをやめた。
「私が聞いたかぎり、ミノリちゃんはアニメやゲームとかの出演経験のない素人さんだと思います」
「ミノリちゃんが高校一年生の女子というのはホントなんだね」
「それはどうでしょうか?」
河北さんはオレの方を見て、首を傾げる。
「実さんはどう思いますか?」
「え?」
オレは固まった。
――なぜ、河北さんはオレを見た?
――ホントに絶対声優聞き分け能力があるというのか?
「みのるに聞いてもわからないよ。アニメとか見ないから」
「そうなんですか?」
「ええ、まあ」
オレには知らないととぼける。
けど、河北さんはオレが樹成ミノリだとにらんでいる!
なぜだか、それが手に取るようにわかる。
「まっちゃ、今度ミノリちゃんの動画が投稿するまで、誰が声を当てているのかクイズにしない?」
「無理だと思います。正解なんてわかりませんし」
「いつか尻尾が出るって、バーチャルユーチューバーも必ず中のヒトがいるんだからさ。……身バレは時間の問題だよ」
萌菜はそういってカバンを手にする。
どうやら帰るつもりのようだ。
「あ、萌菜さん」
河北さんの呼びかけに、萌菜は立ち止まる。
「樹成ミノリと名前を入れて検索すればよかったじゃ?」
オレ! またも大ピンチ!
「……漢字打つのめんどくさい」
めんどくさがりの萌菜の性格にオレは少しだけ感謝した。
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