樹成ミノリいきなりの身バレ! 気づいた相手はプロデューサー志望!!

第3話第1節 樹成ミノリいきなりの身バレ! 気づいた相手はプロデューサー志望!!


 放課後、オレは萌菜と河北さんと一緒に、“ラララとケケケのまほう☆ゲームちゃんねる!”というゲーム実況動画を見ていた。

 彼らは“運全振りの勇者一人旅で攻略する!”というゲーム動画を配信していた。



 ラララは勇者らららとなり、魔王を倒すために冒険に出ている。今、勇者らららはダバダバ火山でマグマの石を探している。

「ラララちゃん、体力だいじょうぶ?」

 甲高いおっさん声を話す変な生き物ケケケの助言を受けたラララはコントローラーを動かす。


『らららはテレポートの魔法を唱えた』

『ふしぎなちからでかき消された』


 ラララはぷぅと顔をふくらます。

「マジックポイントも残りわずかだよ。回復アイテムもあるけどどうするの?」

 ラララは一度両手を合わしてから敵が出ないように祈願する。

 その願いが通じたのか、ラララは道の途中で宝箱を見つけた。

「ラララちゃん、開けたらダメだよ。もしかすると魔物がいるかもしれない」

 ケケケのアドバイスを無視し、勇者らららは宝箱の前に立った。


『らららは宝箱を開けた』

『なんと! 中身はミミックだった!』


「もー、言わんこっちゃない」

 ケケケはがっくりと肩を落とす。

 一方、ラララはコントローラーを強く握りしめ、指先を動かし、にげるのコマンドを選ぶ。


『らららはその場から逃げ出した!』

『しかし、まわりこまれてしまった!』


「あのね! こういうのは逃げられないの!!」

 ケケケはラララに向かって怒るように言った。


『ミミックは即死魔法を唱えた!』

『しかし、らららは効かなかった!』


「……運だけはいいね、ラララちゃん」

 ラララはこくりと頷き、コントローラーを動かす。


『らららはテレポートの魔法を唱えた』

『しかし、ふしぎな力で魔法はかき消された!」


「なんで唱えるの! テレポートするぐらいなら! 他の魔法を選んで!!」

 ケケケの声に対して、ラララは顔を上下に動かして返事した。


『ミミックはらららを攻撃した!』

『らららは21のダメージを食らった!』


「ヒットポイントももう少し! このままじゃ死んじゃうよ、ラララちゃん!」

 ケケケはラララのピンチに不安がる。


『らららはミミックを攻撃した!』

『クリティカルヒット!』

『ミミックは85のダメージを食らった!』


「さすが運全振りの勇者!」

 ケケケはナイスと言うように腕を動かした。

 らららもケケケにホメられてか、喜びの表情を浮かべた。

「ラララちゃんのヒットポイントは残り36。ミミックは即死魔法と攻撃しか使ってこない。変な乱数を引いても30ダメージまで、パラ運全振りだから即死魔法は効かないはず」

 ケケケは安心し、ラララも気を抜いた。


『ミミックはらららに攻撃した!』

『クリティカルヒット!!』


「へぇあぁ!?」

 元から変な声からもっと変な声を出したケケケ。


『るるるは91のダメージを食らった』

『るるるは死亡した』

『パーティーは全滅した』


 ラララはコントローラーから手を離し、幽体離脱した。

「ラララちゃーん!?」

 ケケケの呼び声を最後に、動画は暗転した。



 オレと萌菜は笑いながらゲーム実況動画を見終わった。

「こういう風に落とすなんて。乱数の神様はいるんだね」

「乱数って確率みたいなものだろう? あんなうまく死ぬものか?」

「うまく死んだから動画にしてるんでしょう?」

「まあ、確かに」

「運全振りの攻略動画でクリティカルヒットで死ぬなんて。もう、このヒトー、持ってるね」

「萌菜、この動画の実況者って、二人じゃないの?」

「二人だけど二人じゃない。というか、しゃべっていたの、だけじゃん」


 “ラララとケケケのまほう☆ゲームちゃんねる”は、ラララという魔法少女と、ケケケという変な生き物のコンビで作っている動画だ。


 大原ららは変な生き物ケケケと出会い、バーチャル魔法少女ラララとなった。彼らは悪のネット動画エルサゲートからみんなを守るために、みんなが夢中になれる動画を配信することが使命という設定である。

 彼らは日夜ゲーム実況動画を配信している。ところが、ラララの声は一度も出ていない。そのかわりに、ラララのそばにいる変な生き物ケケケがすべてを話す。

 ケケケは甲高い男の声で、ラララのゲーム実況のサポートというかメインで実況する。ラララがゲームを実況しなくてもケケケが代わりにしゃべるために、ゲーム実況動画が成立する。

 ――絶対無口魔法少女系バーチャルユーチューバー。

 それがカノジョの肩書である。


「おっさん声、音声合成とかいるけど、無口でゲームを実況するバーチャルユーチューバーなんて聞いたことが無い」

「今までにいなかったタイプだな」

「そうそう。別におっさんが女のコにならなくても女のコのバーチャルユーチューバーを作れることを証明したんだよ、このヒト」

 オレもそういう発想を持ちたかったよ。

「なんで、おっさんは進んで女のコになろうとするのかな、みのる」

「オレに聞くなよ」

 オレだって進んでバーチャルユーチューバー樹成ミノリになったわけじゃないぞ。

「別に自分が女のコにならなくても、変な生き物になって掛け合いすれば、おっさんだけでも動画が成り立つのに」

「でも動画説明文にはこう書いてるじゃない?」

 “ラララちゃんは悪のネット動画、エルサゲートによって声を奪われた魔法少女です! ラララちゃんはエルサゲートから声を取り戻すために日夜動画を投稿します!”

「ほ、ほら! 中のヒトは妹とか恋人とか一緒にゲーム実況をしているとか何かとか?」

「だったら普通にユーチューバーでやるでしょ」

 オレは自然と頭を下げる。

「じゃ、じゃあ、音声合成で掛け合いをすれば!」

「孤独の傷口が広がるでしょ」

 オレは無意識にもっと頭を深く下げたのであった。

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