第2話 ミノリちゃんの黒歴史!? 樹成ミノリは仮想通貨ショック系バーチャルユーチューバー!?
第2話第1節 ミノリちゃんの黒歴史!? 樹成ミノリは仮想通貨ショック系バーチャルユーチューバー!?
ユーチューバーになりたかった。
みんなに反応される存在になりたかった。
2010年中頃から世の中で急激に広がりだした動画投稿サイト。
オレはこどもの頃からネット動画ばかり見ていた。
サングラスをつけた大人達がする、ちょっとおバカな動画。
それがユーチューバー。
何が面白いのかわからなかったが、彼らのするバカな動画がオレの幼少時代を楽しくさせてくれた。
両親が共働きということもあって、大人を見る機会はそういう動画サイトからしかなかった。わんぱくなオレをおとなしくさせるにはネット動画を見させるのが一番だと両親は思ったのだろう。
――おもいっきり大声を出して、大げさなリアクションを取る。
動画の中身よりも、そういうことができるユーチューバーがオレの童心を刺激した。彼らはこの世界にいる誰よりも自由なんだと、オレは思っていた。
小学6年生のとき、オレはある動画を見た。
――冷たい青色の液体に包まれるユーチューバー。
――何とも言えぬ表情でリアクションをする。
スライム風呂。青い液体風呂に入るだけの動画に、オレの心はわしづかみされた。
その動画は学校の中で有名になって、おれならもっとリアクションが取れるとか、ボクもやってみたいという話になった。
もちろん、オレも例外ではなかった。
――ああいう動画を配信してみんなに反応してもらえるユーチューバーになりたい。
あの動画はオレにユーチューバーになりたいきっかけをもたらしてくれた。
学校の授業中、先生の話をそっちのけで、じゆうちょうの余白にユーチューバーになってやりたいことを書いていく。
――スライムぶろ! プールぐらいの大きさの空飛ぶスライムぶろ!!
――さかだちでうどんぐい!
――耳なしよーいちはどれだけの文字をからだに書いたの!!
思いついたことを並べていく。
必死に夢を書いていく。
きっとくだらないことばかり書いていただろう。
けれど、そういうのを書くことが自分にとって一番楽しかった。
――しかし、書いているだけじゃダメ。
――実際に動画を撮らないと始まらない。
そこでオレは姉さんと一緒に動画を撮ることにした。それがオレと姉さんが始めて作った動画で、はじめてのユーチューバー動画だった。
「みのるのいきなりチャレンジ。バランスボールをよつんばいでのります」
一語一語しっかりと説明してからバランスボールの上に乗る。
ただバランスボールの上に乗るのは面白くないからよつんばいで乗る。
これは誰もやったことがない、絶対ウケる! と、オレは本気でそう思った。
しかし、よつんばいでバランスボールの上に乗るのは意外と骨が折れた。
両肘両腕にサポーターを付けながらやったが、バランスボールから落ちて、色んな所をケガした。
けれど、なんとかよつんばいの状態でバランスボールの上に乗れた。
そこから3秒間だけジッと留まった。
――この3秒は必死だった。
――目が痛くなるほどギュッとつむる。
手足の筋肉がグルングルン回った。
――しがみついてやる! 絶対! ここから落ちない!
気合を入れた。顔の筋肉が引きつるほどに力を入れた。
しかし、そんなこどもの願いはむなしく、バランスボールは回転し、オレはすてんころりと転がってしまった。
でも、バランスボールの上に乗れることができた。感涙ものだった。
姉さんにすぐ動画投稿サイトに投稿してもらった。『みのるのいきなりチャレンジ。バランスボールでよつんばい』というタイトルで動画を配信した。
――何人見るかな? どんなヒトが見てくれるかな。
本気でやり遂げた達成感をみんなに見てもらいたいという気持ちは今でも覚えている。胸にこみあげてくる何かがあのときのオレを動かしていた。
動画を撮った翌日、オレの動画の再生数を見た。
3回
……なんで?
オレはそう思った。普通なら10万、100万行くだろう!? って、こどもながらにそう思った。
再生数3という事実を信じられなかったオレは、他の動画配信者のコメント欄に、『オレのオモシロ動画を見てください』と書き込んでいた。
今から思えば、ネットのいたずら行為に等しかったと反省している。そこは動画の感想を書くべき所なのに、自分の動画の宣伝で使うなんて……、今思うととても恥ずかしかった。
けれど、自分が心の中で覚えた達成感を誰かに伝えたい気持ちでいっぱいだった。これがオレの動画だと言いたかった。
その次の日、再生数はなんとか二ケタを突破したが、動画コメント欄にはこんな書き込みが書いてあった。
――危ないからダメだよ、こんなこと。
――おとなだからやっていいんだよ、バカなことは。
――今度は普通の動画を出そうね。
悲しかった。すごく悲しかった。
大人はズルいと言う言葉があったが、オレはそのズルさを理解できた瞬間だった。
大人はバカな動画とか危ない動画とか作っているのに、こどもはそういう動画は作っちゃいけない。
……なんでだよ、なんでだよ。
こどもの頃のオレにとって、これはチャレンジだった。本気のチャレンジだった。
――チャレンジを笑われるのは平気だった。
――でも、誰かに心配されるなんて予想していなかった。
こんな気持ちになるくらいならもう動画なんて投稿しない。
オレがユーチューバーを諦めた理由はそれだ。
誰かのやさしさが、オレに夢を諦めさせたのだ。
それから数年後。
オレはバーチャルユーチューバー樹成ミノリのアフレコをしていた。
ディスプレイの上に表示される女のコ、樹成ミノリ。
その両手にはミノリよりも大きなバランスボールを持っている。
樹成ミノリはバランスボールを床の上に置くと、オレは台本を読んだ。
「樹成ミノリのいきなりチャレンジ! バランスボールの上によつんばいになって乗ります!!」
……まさかオレが女のコになりきって、もう一度バランスボールの上でよつんばいで乗るとは思わなかった。
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