ルミディアの平和

つかの間の平穏

 移民学校の第一期生が入学したとの知らせが、政府広報によって国民にも報告された。


 各学年には、年齢や母国における最終学歴などが考慮され移民申請を提出した者が振り分けられた。そして彼らが問題を起こさず無事卒業した際には、政府による就職斡旋を受けられる権利と、就職できなかった際にも就職活動をしている証明を出せば毎月最低賃金が交付される権利が与えられた。


 正当な手段で入国した者には制度上王国は優しくなった。その代わりとして、不法入国者には厳しい対応をとった。見つけ次第強制送還するほか、それからの入国は例え正式な手段をとっても認められない。不法入国者は指紋と身体的特徴を事細かに記録され、王国から未来永劫追放された。


 不法入国者や不法移民は、手続きを踏んだ者が受ける厚遇に嫉妬した。入国手続きを知らずに国境を越えた者は、無学な者が多かったため、自分らに非があることをなかなか理解できなかった。


 ――我々にも移民学校への入学権はある。


 不法入国者たちの団体が最初に主張しだしたのはそれだった。しかし、ミラケル王弟も、移民に対して否定的な感情を持つ王族や議員への説得材料として”不法入国者の断罪”を盛り込んだため、ここで団体に譲歩するわけにはいかない。それにそもそも、正当な手段を以て入国したものと、法をおかしたものを、国として同列に扱う訳にはいかないのだ。


 ミラケル王弟は学校から無事第一期卒業生を輩出できるよう、不法入国者の過激派が学校を襲撃するのを恐れ騎士たちに移民学校周辺の警護をひかせた。また、学校の運営者や教諭にも、安全に気をつけるよう注意喚起した。


 そんななか、恐れていた事態が起こった。王子は過労の疲れをいやす間もなくその対応に追われる。


「何、農場が焼かれただと?」


 軌道に乗ってきたジャガイモ栽培が、無に帰すかもしれない重大な事件だった。


「首謀者は誰だ」


「はっ、やはり不法入国者かと……」


「善良入国者にばかり嫉妬していると思っていたが、それも策略だったとでも言うのかッ!」


 移民学校入学権、定住権、就労権などと、正当な手段で入国した人々と同じ境遇を求めてきた彼らが、王弟の邸宅を襲撃するとは、予想が外れた形である。てっきり、同じ立場でありながら厚遇を受ける在校生へ敵意が向けられていると思っていたのだ。


「皆は無事か? ミクは怪我などしておらんだろうな?」


 ミクは身重でありながら、人恋しさか農場に出向くことが多々あった。


「幸いけが人はいないようですが、火の手は種の貯蔵庫にも引火し、このままでは改良したいい種が全て灰になってしまいます」


 ミラケルは頭を抱えた。ジャガイモの流通を一手に引き受けていることで移民学校の諸経費も融通できている。かつて反対派を押さえるために王宮の金庫の鍵は使わないと公言してしまっただけに、種を失えば学校の存続も危うくなる。


「まさか……それが目的かッ!」


「殿下……?」


 ミラケルは王宮から馬を飛ばした。言わずもがな、自分の邸宅に帰るためである。その心臓は激しく打ち、汗は噴き出ていた。

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