思わぬ敗戦

 将軍レオンが負けたという一報は大陸を駆け巡った。供給が追い付かない前線、慣れない気候、使い古された戦術、様々な要因があったと言われているが、帝政となったサオサーンという国で重要だったのは負けた、という事実のみである。


 政治的混乱が続き疲弊した国民の心を、常勝将軍としてのカリスマ性で繋ぎ止めていた彼の敗北は、彼の求心力の急激な現象を予感させた。


 レオン将軍は凱旋でない帰国を遂げ、第一に処刑を行った。言わずもがな、ワサの処刑である。頭のきれる参謀として使う一方、その切れ味に危機感も抱いていたレオン将軍は、敗戦の理由をワサの内通によるものとこじつけてギロチンを行使した。実に、ロベス派の独裁がレオン自身の手によって倒されてからというもの使われてこなかったあのギロチンである。


 邪魔者の排除と敗戦の申し開きを同時に達成したはずのレオンは、憂き目にあう。


 彼は将軍の称号を剥奪され、命の危険を感じてナン大国に亡命した――。


 ――そのころ王国では第二期目のトウモロコシの品種改良が行われ、ラカルの主導していた羊の角の工芸品への利用も軌道に乗りつつあった。第二王子邸に連れてこられた孤児たちのうち、力の強く声の大きい者は牧童に、手先が器用で美的感覚に優れた者は工芸品制作に回った。生まれつき舌がよい女の子は料理人見習いのチャコに連れられてあれこれ料理を習っているらしい。いずれ良家に輿入れできるまで鍛えると、チャコは気勢を張っていた。


 子どもたちには、王子の計らいで学校が邸宅の敷地内に贈られ、指を折って数を数えていた子らが暗算をできるようになったり、歴史書を諳んじられるようになったりしていた。牧師と呼ばれる国教キリスタ教の僧侶は子らの無教養に寛容で、子らに向き合い辛抱強く学問と神による救いを教えた。


 この後、隣り合う二つの国で、急速に進む大陸の寒冷化への対応に明暗が分かれることになる。徐々に加速していく寒冷化を示す初めの現象として、北国ニニ国から難民受け入れの要請が来た。度重なる飢饉により、ニニ国は国としての体裁を保てないほどになってきたのである。


 ニニ国出身の母と妻を持つ第二王子と、唯一の妃を無くし権勢を削がれ続けている第一王子の、最後の闘いも迫っていた。

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