変わる勢力図
不可解な死
サオサーン共和国では反ロベス派の急先鋒だったレオンという軍人が急速にその勢力を拡大させていた。弁舌は巧みだが武力を持たぬ代議士たちはロベスの独裁にあまりに無力で、彼らが団結できたのはレオンの私兵のよるものが大きかった。
レオンは初めこそ謙虚だったが、ロベスの死後徐々に本性を現した。彼は自らの息のかかった四人の議員とともに混乱収拾の建前で統帥院という組織を設立させ、共和国の混乱を招いたロベス派の残党を治安維持と言っては狩った。治安は急速に回復し政治の空白は一か月で済んだ。
彼はサオサーンに王家が存在したころからの軍人で、周辺諸国の王家やそれに値する名家に使者を送り敬意を表したことから、革命の余波を恐れる諸国からは歓迎された。
そんな折、レオン統帥の手は各国に及び、ロベスの命によって動いていた工作員たちが暗黙のうちに消され、何事もなかったかのように代理が立てられた。
ルミディア王国の陸軍総帥シンにも、その気配は及んでいた。太子妃を手籠めにしたことをもみ消してくれる人間はいない。ぽつりぽつりと、軍の機密だと言ってごまかしてきた暗号の書かれた文が受取人不在で返される。
シンは恐怖におののいた。一方レオン統帥はシンの扱いに困っていた。王家を守る軍人を消すことはあらぬ誤解を招くし、第一シンは己の欲にほだされた下半身のだらしないただの男であって旧勢力の脅威ではないというのがレオンの考えだった。しかし、レオンはどこからかシンの罪を嗅ぎ付けていた。シンの強欲を暴き、操られ強欲のレッテルを貼られた太子妃の尊厳を守るか、他国のことと割り切ってそのままにしておくかであった。
「……ワサと言ったか」
ロベス派のスパイだったワサは華麗なほどの転身を遂げていた。かつての仲間を次々売り、レオンの強勢に一役買っていたのだ。捕らえたスパイからシンのやってきたことを聞き出し、それをレオンに告げたのも彼だった。
「王国の陸軍総帥はどうしたい?」
「ひとまずは置いておいてよいのではないでしょうか。それより
「かつての君の上司だろうに」
「彼には王国の第二王子ミラケルの妃に繋がりがあります。利用価値はありますからこのまま軟禁状態にしておきましょうか」
ワサの目に自身以上の冷酷さを見出したレオンは満足げにうなずいて、頼りにしているよ、とだけ言って席を立った。
その次の日、ルミディア王国の第一王子の妃が謎の死を遂げた。その死にレオンは関わっていない。なぜか陸軍総帥とも連絡がとれないことを不審に思った関係者が彼の邸宅に赴くと、罪を懺悔する文とともに服薬自殺した遺体がそこにあった。小心者が大胆なことをすると、ことが露見したときにあらぬ余波を産む。自分だけ死ねばよいものを、太子妃すら殺したとされたことで彼の生家は騎士称号剥奪の憂き目にあった。このことはレオンとワサにとって、また王族たちにとっても青天の霹靂だった。
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