第3話ご対面からのプロポーズ。その速さ一分。

弟と感動の別れをし、バスに乗り、電車に乗り、階段で転んで二時間ちょっと。


(階段で転ぶのはいつものことなので気にしないでほしい)


私は立派な校門の前に立っていた。


柱には金の筆文字で『彩奏学園高等部』とでかでかと書かれてある。


.........こんな風に説明してはいるが、私はパニック状態なのだ。


私が通うはずの彩奏学園はいくら改築したといっても、私が見学しに来た時にはもう改築されていたし、たしか普通の校舎だったはずなのだ。


なのに今私の目の前にある学校はなんだ。


立派な校門を抜けた先には石畳がきれいに敷かれており、入り口は自動ドア。


中に入ったらまるでホテルのよう。


案内人までいるだと......!?


「私は居世界に迷い込んでしまったのだろうか......」


「いやいや現実だよ。」


「だってこんな学校見たことも聞いたことも.........ん?」






今、誰と話してた?




と、私は周りの視線を集めていることに気づいた。


周りを見ると、女子生徒や男子生徒がこちらを囲ってざわつきながらみている。


『え?なんで?』


「やあ『風香』。一日ぶり、かな?」


耳によく響く声でみんなが水を打ったように静まり返った。


私は、背後にいたらしい声の主へゆっくり振り返った。


そうそう、言い忘れていたことがある。


ここ、彩奏学園の制服は女子はこげ茶のセーラー、そして男子は黒色の上着で茶色のチェックズボンのブレザーだ。


なのに、この人は真っ黒だった。


そう、学ランなのだ。、


ブレザーではなく、学ラン。


黒ズボンに黒い上着は肘が見えるまでまくり上げらえている。


でもそれすらもかっこいいと思ってしまうほど、その人はきれいだった。


楓雅をゆうにこえている身長。


少しあどけなさがのこる整った顔。


大きな目の端にはなみだぼくろが付いている。


そして金色に光るどこまでも見ていたくなるような両目。


今は片方の目が髪に隠れて見えないがそれはそれで魅力的。


何だこの男は。何だこの男は。


「......え、と。そのお............、っ!?」


私が何かを言おうとした瞬間、その人は微笑を浮かべながらゆっくりと、




ひざまずいた。


周りの視線が痛い、ていうかなぜ私がこんな目に合わねばならないのだ。


新手のドッキリか!


「風香。」


「あ、はい。」


ってなんでへんじしちまったんだああああああああ!


私が心の中で絶叫しているときに


その人は私の右手を取り、するり、と。







ん?



.................ン?


アレ、ワタシイマナニサレタ?


「俺はあなたを一生愛します。それに昨日のことも、風香のことはすぐ調べてね......」


私が思考停止している間にもその人はぺらぺらと話していく。


思い出したのか顔を少しうつむかせながら頬を赤くする様子はまるで恋する乙女の様。


そしてその人は私と目を合わせ、叫んだ。


あふれんばかりの思いが詰まったような声で。


「あなたの蹴りに惚れました!俺と結婚してください!」


さて、そこで意識が完全に戻った私は、叫んだ。


あふれんばかりの思いが詰まった声で。


「断る!」





「..........え?」


目の前で一大プロポーズをしたその人は固まった。


すまない。


でも私は早くこの場から立ち去りたいんだ!


まわりも固まっている。


私はそのすきに熱く握られた右手を取り戻し、


手に付けられたそれ_________指輪を丁寧に外し、私の手を握っていた手に返却。


キュッ、とローファーと床のこすれる音を聞きながらダッシュした。


いつもの数倍の速さで。


廊下にはその建物には全く似合わないバタバタという音がこだました。




_______________________________________________






「うそだろ.........」


「あの人が断られるなんて.........」


「でもあの女がおかしーんじゃないのか?」


「私だったら卒倒して、絶対オッケーもらってるのに........」


「ていうかあの女、見たことないよね。」


「ああ、例の高1に一人だけ入るっていう奴じゃない?」


ざわつく生徒たちはさっきの生徒を吟味していた。


と、パンパン、と聞こえた音でまたあたりは静まり返る。


その音を鳴らしながら近づいてきたのは、プロポーズをした彼と大差ない身長を持ち、


じゃらじゃらとシルバーアクセサリーをつけた大人びた少年。


「どうだった?君の愛しの風香ちゃんとやらは。」


少年は問いかけた。


「まさか君が一目ぼれする相手がああいう子だとは思わなかったよ。まあ、ロリコン趣味があるのなら納得する「『銀』」.......ハイハイ。」


銀、と呼ばれた少年は彼が立ち上がる姿を見て安心した。


もし彼がそのままだったら『リーダー』は、やめてもらわなければならないのだから。


立ち上がった彼は銀と目線を合わせて口を開く。


「面白い子でしょ。あんななのに俺を守ろうとしてくれた。


俺はあの時芝居でわざとたからせたんだけどね。」


「.......まあ、アンタに傷がついたら責任取るのは俺たちだろうしね。


『リーダー』さん?」


「その言い方やめろよ.....俺は『風雅』って呼んでって言ってるじゃんか。


銀は仮にも年上なんだし。」


「そうそう銀さんは高校四年生だもの。」


銀はからかいながら話を進めた。


「.........で?どうすんの?」


「風香は誰にも渡さないよ。俺が守る。


俺が、好きになったんだから。」


風雅はそういうと、指輪を握りしめながらいってしまった。


「...............じゃ、俺は恋のキューピッドやくでもやらせてもやらせてもらおうかな。」



さて、どうなることやら。


しかし、あの子も災難だ。


まさかここの番長であり、理事長の息子でもある子の心を、盗っていってしまうとは。
























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蹴って蹴られて蹴り飛ばせ イデア @akasagi

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