第2話早寝早起き朝ごはん!

「ろ.......きろ..........おい!」


「ん.......」


待ってあと五分......


「おきろってんだろーーーーが。」


「ん.....っわあっ!」


寝ていた敷布団を引っ張られて転げ落ち、壁に頭がぶつかり


その衝撃で意識が覚醒する。


「いってえ....もっと優しく起こせよこの愚弟!」


「ならちゃんと時間通りに起きろ。この愚姉。」


「うう........」


「早く制服に着替えて来いよ。あ、お弁当はつくっといたから。」


「お前はおかんか。」


「お前の弟だよ。じゃ。」


私の布団をきれいにたたみ、棚に入れていそがしそうにキッチンへと戻っていった。


「私はあんな弟に育てた気はないんだけどなあ........。」


そう呟きながらパジャマを脱いで、


今日から行く彩奏学園の制服に袖をとおした。


彩奏学園は、私のこの家からバスに乗り、電車を二回ほど乗り返えて、合計二時間かかるところにある中高大一貫校。


そこは絶対に寮に強制的に入らされるらしく、私の荷物も配達済みだ。


そして、たいていの生徒は中学から入り、大学までエスカレーター式らしい。


頭は馬鹿な人はバカ。いい人は東大に入れるくらいすごい人もいるらしい。


要するに、金さえ積めば誰でも入れるゆるーい学校。


そして去年改築したばっかなのでピカピカ。


頭がちょこっと悪い私にはぴったりな学校。


「これでよしっと。」


学校用のリュックサックに必要なものを詰め込みジッパーを閉めた。






「準備終わったよー!」


「おう。席付け。」


リュックをわきに置いてソワソワさせる私を見ながらトレイに乗った朝ごはんを前に置く。


「どうぞ。」


「いただきまーす!」


愚弟はご飯がうまい。


女子である私以上に、だ。


なぜこんなにパンを焼くだけでも私と違うのだろうか。(それはただ忘れてカピカピになったころに思い出すからだろby愚弟)


「さすが私の愚弟!」


「それほめてんの?」


「あったりまえじゃん。」


と素直に言うと少し笑いながら「じゃあ俺も食べよかな。」


そういって私の向かいでパンをくわえた。


「......ていうか昨日はびっくりしたよ。」


「なにが?」


「なにがって.................」


はてなマークを浮かべている私にため息をつきながら話し出した。


「だって、お使い頼んで遅いからやっと帰ってきたと思って扉開けたら服と右腕が血でベタベタって..........おかげで服洗うの面倒だったんだけど。」


「ああーーーーーごめんごめん。」


と私が言うと、


「まあ、いいけど。」


と言いながら目線をパンに移していた。


私も自分の右腕に目線を下ろして


制服の袖から見え隠れする白い包帯を見つめた。


結局あの子はちゃんと帰れただろうか................


「....................あと、もう一個あるんだけど、」


「?、どうした?」


「なんで俺の姉はこんなに背が低いの。」


「よしお前あとでマンション裏に来い。」


膝カックンからのアッパーをお見舞いしてやろう。


「だって俺今178だもん。で、我が愚姉は?」


「.............................................153」


「ほら。」


「うう..................」


私に成長期は来なかった。


中学校では5㎝しか伸びなかった。


それと真逆に愚弟は今年中二。


まだまだ成長期真っ盛りである。


「..........................ホントに俺たち血がつながってんのかねえ。」


「............つながってるよ。


だから、一緒に2人で暮らしてるんでしょ。」


「..............そうだね。」


そう。


私たち兄弟はこのマンションに2人で暮らしている。


しかも今日からは私は寮に入るので愚弟一人暮らしとなるわけだ。


「「ごちそうさまでした!」」


「はい、弁当。」


「ん。」


差し出された愚弟の弁当をリュックにしまい、忘れ物がないか確認してからローファーを履く。

  

「じゃあいってき『姉さん。』.........ん?わっ!」


がばっ、といきなり抱き着いてきた愚弟は、震えていた。


「........................。」


ズルズルと肩に絡みついていた両腕は腰にずり落ち、頭を私のおなかにぐりぐりしている。


さっきの威勢のようなものはどこに行ったのだろうか。


「.......離して?」


「ヤダ。だって行っちゃうんでしょ。」


私より身長の高いこの弟は怖がりでもある。


「お化けが怖い」じゃなくて、「独りが怖い。」


でも不器用だから見栄っ張りで弱いところを見せない。


「............................『楓雅』。」


名前を呼びながらぽんぽんと頭をなでる。


弟とつかっているシャンプーは同じはずなのに私とは違い、楓雅の髪の質はとてもいい。


「楓雅、大丈夫だよ。


楓雅は私より何でもできるし優秀なんだから、すぐ寂しくなくなるよ。


寂しいなら友達呼んでパジャマパーティーでもすればいいし、


私は長期休みはこっちに帰ってくるから。ね?大丈夫、大丈夫。」


「...............姉さん。」


「ん?」


「ホントに帰ってくる?」


「もちろん!」


「約束だからね。」


「わかってる。」


だんだん声に明るさが戻ってきて、いつの間にか震えもなくなっていた。


ゆっくり私のところから離れて私と目を合わせた。


「姉さん.....いや、愚姉、」


紹介をしよう。


おかんで、頭がよくって運動もできて顔もいい、非の打ちどころのない私の弟、


哀川楓雅は、


私、哀川風香の、


「いってらっしゃい。」


自慢の弟である。









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