第3話 主人を選ぶ剣

食堂中が時が止まったかのように沈黙する。


「おい、ハルマ大丈夫か?」


食堂内の沈黙はアルベルトによっていつも通りの賑やかな食堂に戻る。だがハルマは動かなかった……。


「ハルマ……いい奴だったよ……」


アルベルトはそっと手を合わせる。すると、いきなり床に倒れていたハルマが急に立ち上がる。


「まだ死んでねぇ!! こんなんで死んだら男が廃るぜ!」


ハルマは豪語する。まるでケガなどないぜ! と言わんばかりに。……だが、その頭は血まみれだった。

そのままではいずれ死ぬぞ! ……と言いたいところだが自業自得だと思い、何も言えないでいると。


「大丈夫? リケアかけようか?」


ありがたいフォローだ、とファスティーに心の中で礼を言う。


「いーや、大丈夫だ……」

「でも……一応かけとこう?」

「……」


ハルマはおし黙る。


「おいハルマ、聞いてるのか?」


名前を呼んでも返事がない。ハルマの様子がおかしい。


「おい! ハルマ! いい加減にしろ!! 」


ハルマにキレてしまった俺はハルマのことを少し突き飛ばす。


「バタッ……」 

「はっ?」

「えっ?」


あっけない死だと心の中で手を合わせる。というようなことをしている場合ではない。


「はぁー、こいつ立ったまま気絶してたのか……」


アルベルトは溜息をつく。そしてファスティーが、呆れているアルベルトに声をかける。


「とりあえず椅子に寝かせよう? アルさん」

「そうだな」


ハルマを椅子に寝かせるとファスティーは治癒魔法のリケアをハルマにとなえる。ハルマの傷跡や血後は跡形もなくなくなっていく。そしてアルベルトは椅子を少しの間借りようとカウンターに向かう、そしてルミアのことを呼び出す。


「ルミア、ちょっといいか?」

「はい! 何でしょう、アル様」


ルミアはそういいながらカウンターの横の、できた料理を運ぶ際の小さいドアから出てくる。


「ハルマを少しあそこで寝かせておきたいから少しの間借りてていいか?」


アルベルトは申し訳なさそうに聞く。


「あの男に貸す、と言うのは嫌気がさしますが、アル様のお願いとあれば喜んでお貸ししますよ!」

「助かる、ありがとうルミア」


アルベルトが礼を言うとルミアは小さくお辞儀をして厨房に戻っていく。そしてアルベルトは気を失っているハルマとその看病をしているファスティーの元に戻る。


「アルさん、とりあえず傷は治ったよ」

「ありがとう、ファスティー」


アルベルトはハルマのためにここまでしてくれたファスティーに軽く礼を言う。


「友人として、当然のことをしただけです」


ファスティーは腕を組み自信満々にそう言う。そして何かを思い出したような表情をする。


「アルさん、僕、依頼受けてるんだった。他のみんなを待たせるのはあれだから広場の方に行きますね」

「それなら俺も団長に呼ばれているから途中まで一緒に行こう」


そして二人はハルマを置いてアルベルトは団長室、ファスティーは依頼受付広場へと歩き出す。


「アルさん、ハルマのこと起こさなくてよかったの?」

「ああ、大丈夫だ、」


実際のところ、あいつがいると問題がこっちに降りかかってくる可能性があるので一緒に行動する時は結構周りに気を使っている。さっきみたいな食堂長のおたま攻撃がこっちに当たってしまう可能性もなくもないので、恨みや怒りをすぐ買うようなハルマとは極力離れて行動したいとも思っている。ここ最近は、朝のおはよう、朝食、訓練、自由時間、晩飯、そして風呂の時と一日中一緒、というのはどうかと思う、実のところ鬱陶しいくらいだ、あいつには俺の他に友人がいないのかと思ってしまう。アルベルトは深い溜息をつく。


「アルさん、僕はここで」


ファスティーは軽くお辞儀すると冒険者や団員がたくさんいる広場へと歩いて行く。そしてアルベルトは団長室のある二階へと向かうため、階段を登る。そして、団長室と書かれたドアをノックする。


「失礼します」


ドアを開けると、大きい机の上に置いてある書類を読んでいる女性がこちらに気づき返事をする。


「ああ、アルベルト君か、入りたまえ」

「はい」


目の前にいるこの女性は茶髪でスタイル抜群、彼女を見たら惚れてしまうだろうと思うほどの絶世の美女は今現在、現役の『烈火』と呼ばれている女性だ。俺とハルマが所属している『焔の双神』の団長でもある。ちなみに独り身である。


「エリアル・へスタ・レーダスだ、名前は覚えたか?」

「はい、フルネームで覚えるのは少々手こずりましたが」

「なら、呼びやすいように呼ぶがいい……アル君」


突然のあだ名に気をとられながらも彼女の気遣いには感謝する。この長い名前をフルネームで呼ぶには少々厳しい部分があったので、呼びやすいように呼べ、と言う気遣いは救いであった。アルベルトは小さく頭を下げ礼を言うと早速自分の呼びやすい呼び方で答えた。


「なら、レーダス団長で」


「ああ、そっちの方が気が楽だ、ところでハルマ君は何をしてるんだ?」


アルベルトはすっかり忘れていた男を思い出す。ハルマは今気を失っていて今すぐにこれる状況ではない、しかし気を失っている事を言えば、なぜ気を失ったのかを聞かれてしまう、その理由として嘘を言えばその場はしのげるが目撃者が多かったのでいずれかはバレてしまう。そうなるとハルマだけではなく自分まで叱られることになってしまう。それは避けたいとアルベルトはハルマが今ここに向かっていると願いながら質問に答える。


「もうすぐ来ていてもおかしくないんですが……」


アルベルトが苦し紛れにそう言うとレーダスはドアの方に向かって今度は分かりやすいように答える。


「いや、私が質問したのはそこに隠れている男だ」


一体レーダス団長は何を言ってるんだ? 、そんなことを思ってるとレーダス団長はまたもドアに向かって喋り出す。


「そこに隠れていなくてもここで話を聞いてればよかろう」


するとドアが開く、そこに現れたのはハルマだった。


「いやーすいません、ちょっと話が盛り上がっているようでしたので……」


引きつった表情でそう弁解する。多分ハルマは自分が遅れた事について怒られないように部屋の中の様子を隠れて見ながら自分が出てくる機会を見ていたのだろう。少し焦ってしまった自分が馬鹿馬鹿しく思えてきた。アルベルトは呆れた表情をする。


「遅いぞ! ハルマ! 今までなにをしていた!」

「ちょっと怪我をして気を失っていまして……チラッ」


ハルマが自分の肩を持つよう羨望の眼差しを向けてくることにアルベルトはまた呆れた表情をする。怪我をした事を言ってしまえばその理由を聞かれてしまう、しかしハルマはその道を選んだ。理由として嘘の事はいえない、かといって本当の事を言えば別件としてハルマ自身が叱られるが俺は怒られない。しかし後になってハルマが俺のことをチクったとか、裏切り者、と言ってくるのは目に見えている。しかしその時は、自分でその道を選んだのが悪い。といえばいいだろう。アルベルトはそう決断をし、レーダスに答える。


「すいません団長、彼は怪我をしてしまい気を失っていたので寝かせておいたんです」


アルベルトは次に来る質問になんの慈悲もなく答えようと無表情になる。しかし帰ってきたのは意外な言葉だった。


「ふむ、そういう理由なら仕方がないが……次は遅れるなよ」


アルベルトは意外な返事に少しほっとしてハルマの方を見る、しかし。


「あざっす! レーダス団長」


アルベルトはハルマから離れる。なぜならこの男の口調にイラついた彼女の右手には業火が渦巻いていたからだ。


「うぉっ! ちょっと待ってください!!」

「あぁー待つさ」


待ってる間にも右手に渦巻く業火はどんどん激しくなっていく。


「すいませんでしたぁぁぁぁああああ」

「フンっ!!」


レーダスの業火はハルマのすぐ横の観葉植物を直撃した。


「あっ、あ、あが、ああ」


ハルマは体が震え魂が抜けたような表情をしている。アルベルトは自業自得だ、と心の中で呟く。


「はぁー久し振りに使ったなー」


レーダスは清々しい顔で言うとイスに腰掛ける。この場面だけ見れば一仕事終わった後に凝り固まった体を動かしてスッキリとした表情で椅子に座る、といったシーンだが、実際は久し振りに使う魔法で人を丸焦げにしようとした後に清々しい顔をし、椅子に座る。という悪魔のような場面である。アルベルトは少し緊張した様子で元の位置に戻る。するとレーダスは何も無かったかのように喋り出す。


「ところでアル君、君に渡したいものがある」


するとレーダスは混沌を思わせる黒と純白の美しい白色が施された剣をアルベルトに差し出す。


「なんですか? この剣は」


なぜこのような剣を? とアルベルトは疑問に思う。


「この剣は君のだろう?」


レーダスは落し物を持ち主に渡す際の顔でそう言うがアルベルトは見たことのない剣を見ながら首を横に降る。


「いや、違うと思います……」


見たこともない剣を前にアルベルトは押し黙る。


「んじゃ俺もらっていいっすかー?」


先程まで魂が抜けたような顔をしていたハルマが机の上の剣を持ち出す。アルベルトはレーダスがさっきのような魔法をハルマに繰り出さないか不安になる。しかしレーダスは呆れた顔をすることなくハルマのその行動をこころよく受け入れていた。アルベルトはその光景にすこしほっとする。


「そこの植木を切ってみろ」

「えっ?? 別にいいですけど……いいんですか?」

「ああ、思いっきり切ってくれ」

「んじゃ遠慮なく……」


ハルマはそう言うと植木の前に立ち、剣を頭上に据えて渾身の力を込めて振りかざした。


「ん?」


ハルマの剣筋は確かだった、だが剣筋は植木を反れて風をきって終わっていた。ハルマは続けて二回、三回と剣を振りかざす。


「なんで……」


ハルマは息を切らしているが、植木は傷一つついていない。


「腕の立つ団員にも使わせた……だか全員その剣でその植木を切れなかった……どうやらその剣は持ち主にしか扱えないようだ」


「でもなんで俺に…」


この剣は持ち主にしか扱えないと言うのはわかった。しかしなぜ自分なのかと疑問に思う。確かに俺が記憶を失う前にその剣を振るっていた可能性はあるが、その証拠はない。しかしレーダス団長はピンポイントに俺が持ち主だとさっき言った。アルベルトが疑問に頭を悩ませているとレーダスが口を開く。


「その剣は……君、アル君と見つかった物なんだ……」

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