スプリングランド予選

第124話 Preliminary Contest ①


 八月に入るとスプリングランド予選が始まる。

 予選は各県地区で行われ、その県のチームで争い、上位二チームが予選突破となる。

 予選方式はブロック大会、インビクタスアムトが参加するのは滋賀県Aブロック。滋賀県には二十三のチームが所属しており、うち一つは昨年にスプリングランド関西大会三位だった大津レイクワイルドだ。

 レイクワイルドは三位という実績のおかげで予選を免除されたので、予選にでるチームは二十二。

 AブロックとBブロックに半分ずつ別れる。インビクタスアムトは全十チームと争い勝たねばならない。

 

 だが、その前にインビクタスアムトのメンバー、もとい一部の、もとい赤点四天王が勝たなければならない戦いが七月末に控えていた。

 

「補習だああああああああ」

 

 教室に九重祭の悲痛な声が轟く。

 毎度恒例、三人しかいない赤点四天王による補習が始まったのだ。

 

「思い出すわね、丁度一年前に私達赤点四天王が結成されたのよね」

「せやったなあ、あの頃はまだ健二もおったし」

「しかし三人となっても我々の心は常に貴族的」

「「「赤点四天王は不滅よ!!」」」


「よおし補習始めるぞ」

 

 教師の淡々とした声で補習が始まった。この教師は本来残っている事務作業をするために学校へ来ていただけであり、決して補習のために来ていなかった。

 補習内容は至ってシンプルで、朝は出された課題をやり、昼はテストをする。それだけだ。

 

「じゃ、課題は出したからちゃんとやれよ。先生は職員室にいるからな」

 

 さて、ここで何故赤点四天王が相変わらず赤点なのかを考えたい。それは単純に勉強ができないからか? 違う。では馬鹿だからか? それも違う。

 答えは簡単だ、奴らはいつも勉強を放棄するからだ。

 

「よっしゃカバディすんで!」

「のったわ!」

「このボークに勝てると思いですか!!」

 

 そして彼らは課題などなんのその、カバディを始めるのであった。それも去年の反省を活かして冷房の効いた教室で始めるしまつ、その学習能力を別のところで発揮してほしいものだ。

 当然補習は延長されたし、持ち帰りの課題も大量に出されたし、他のチームメンバーからは白い目で見られた。

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 赤点四天王達が補習を受けている頃、インビクタスアムトのメンバーは来たるスプリングランド予選に向けて対策を講じていた。

 最も、予選の対策自体は既に祭と恵美によって練られていたので、今回はそれを発表するだけだ。

 

「知っての通り予選はブロック式で合計十試合さね、あたしらはAブロックで戦う事となる。ここまではいいね?」

 

 全員が頷く。今のところはあらかじめ各自で調べてあるので問題ない。

 

「はっきり言えば予選は楽勝といっても過言じゃないさ」

「えぇぇ!」

 

 心愛が思わず驚きの声をあげてしまった。無理もない、初めて大きな大会の予選にでるのだからすこぶる緊張しており、また恵美が油断をするようなタイプでもないからだ。

 

「言っちゃなんだが滋賀のチームはあまりレベルが高くないさね、レイクワイルドが頭一つ抜けているだけ。他は去年の冬に戦ったビートグリズリーの二軍の方が強い」

「でもビートグリズリーはハンデがあったから勝てただけで」

「その気持ちは大事さね、宇佐美」

 

 つまりビートグリズリーに勝てたのだから滋賀のチームには余裕と言いたいのだろうが、それならこうやって集まる必要性は無い筈だ。

 恵美の意図を計ったのか、厚が挙手してから発言する。

 

「全力でいけば予選突破は楽だが、全力でやるつもりは無いという事ですね」

「その通りさ、あたしらの最大の強みは何かわかるかい? 炉々」

「あっしでありやすか!?」

 

 突然当てられて狼狽える炉々、両手で頭を挟んで「う〜ん」と唸りながら考えること数秒、知恵を絞り出した答えは。

 

「えぇぇぇ、ハミルトンがべらぼうに速い」

 

 であった。

 

「まあ間違っちゃいないけどね、だけどそれ以外にもあるだろ? はい次は心愛」

「うぉっとぉ.......えっと、それじゃ新参チームだから警戒されない」

「いいとこつくねぇ、正解さ」

「ほっ」

「あたしらのチームは良くも悪くもそんなに目立っちゃいないのさ、去年の冬に大きな試合をしたが、一般の目にはデモンストレーションとしてか映っていない。

 ここ半年色んな大会にでたが、わざわざこんなチームの偵察にくるやつなんかいないだろ?

 それに成績もそこまで良くない」

 

 実を言うとあまり勝ちすぎないよう恵美がコントロールしたのもある。派手に勝てば警戒され、チーム最大のアドバンテージを失う可能性がある。

 無論、わざと負けるよう指示したりはしない。だが機体に制限をかけたりポジションを変えてやりづらくしたりして不利な試合運びを作ったりした。

 色んな意味でいい練習にはなったが。

 

「今回も同じ、なるべく派手には勝たない。だが負けるのもダメだ。ここから先は逆に情報を抑えながらだしていくプレイをしていく」

 

 待ってましたと言わんばかりに事務の雲雀がパソコンを操作して電子ボードにパワポの画面を映す。最近恵美コーチはパソコンの扱い方を学んだらしい。

 今まで基本的な操作しかできなかったとか。

 

「まずハミルトンは基本使わない。前半戦の動きを見て必要なら出す。ハミルトンを本格的に使うのは予選突破してからだと思っててほしい」

 

 これも情報を抑えるということ、ハミルトンのスピードを検証されないためだろう。

 ハミルトンを使わない。とパワポに表示される。

 

「続いてポジションはほぼ固定だが、何人かはメインポジションを外れてもらう。具体的にはバックスだね」

 

 そこで瑠衣が挙手して意見を述べる。

 

「つまりハミルトンの使用許可がおりるまで使ってたフォーメーションで予選を戦っていくってことですか?」

「おお! その通りさ!」

 

 なるほど、それなら理解というか納得をした。やたらとポジションを変えていたのは予選に備えていたからか。

 そしてパワポ画面にさっきの話が表示される。

 

「今日はもう少しフォーメーションを詰めていこうと思う」

 

 フォーメーションの文字がパワポ画面に映された。

 その時ある違和感をおぼえ、遅れて宇佐美はふと気付いた、もしかしてと思い挙手をした。

 

「コーチ」

「なんだい?」

「もしかしてパワポの使い方をまだ覚えてないのでは?」

 

 ブフォッと横で澄雨が吹き出した。

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