第123話 East Side Story ⑥

 昇格戦から一週間が経過した。

 本日もまたバイトと学校と練習の合間に強化パーツの製作を行っていた。実を言えば既にパーツは仕上がっており、後は整備士の調査とシミュレーター用にスキャンと塗装だけとなっている。

 

「うっす、昇格戦の結果みたぞー」

 

 パーツは置いておいて、機体の方の塗装を進めていたところ、普段から世話になってる整備士が入ってきた。

 

「おぉ、どうよ俺、やればできるだろ?」

「何でそんなイキってんだよ」

 

 結論から言うと健二は昇格戦に合格して準レギュラーとなる事ができた。他の合格者は田中のみのよう。

 昇格戦の合格者が少ないのはいつもの事らしいが、それで一緒にチームを組んだ人が全員辞めてしまったのは少し寂しい。

 

「っし、じゃあ早速パーツの検査してくれよ」

「はいはい、まあ大丈夫だと思うがな」


 台に乗せられたパーツをスキャンして細部を調べていく、同時に機体スペックと比較し、実際に動かした時のシミュレーションを行って安全性を確かめる。

 

「終わったぞ、安全性に問題は無いし使ってても問題ないだろう」

「そうか、それは良かった」

「整備士からのアドバイスだが、もう少し低出力のスラスターに切り替えた方が扱いやすいと思うぞ」

「あぁ、じゃあ考えておく。どのみちもうお金無いからな」

 

 残る作業は塗装と取り付け、この強化パーツは左腕につけるもので、攻守ともにバランスのとれたパーツになってる。筈だ。

 見た目はただの大きなグローブ、前腕部を丸ごと覆い尽くす程大きなグローブ.......というよりほとんど篭手だが、装着するとマニピュレーターが連動してグローブの指を動かす事ができる。

 大きい手というものはアドバンテージがある。大きければボールを掴みやすいし、相手の拘束もしやすい。メリットしかないと言っても過言ではない。

 デメリット、というのは少し違うが、規約により大きい手の強化パーツは片手しか装備できないとしている。何年か前、両腕が大きな手の強化パーツを装備するのが鉄板となってしまって試合として面白みが無くなったかららしい。

 

「せっかくだから塗装も手伝ってやるよ」

「まじで? じゃあ俺コンビニ行ってくる」

「押し付けんなよ!!」

 

 塗装用のスプレーを持って健二と整備士の二人がふざけ合いながら色を塗っていく、グラムフェザーのチームカラーに合わせていく。

 色は黒、同時に機体の方も黒に染めていく。シミュレーターに登録しているのは黒だが、なんだかんだと実機の方は未だに赤のままだったのだ。

 インビクタスアムトの赤からグラムフェザーの黒へ、この時ようやく枝垂健二はグラムフェザーに加入したのだという実感を得たのだった。

 

 

 そして時は巡り、七月末。

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 西側、インビクタスアムトの会議室では九重祭と桧山恵美がホワイトボードの前で決めポーズをとっていた。

 無論、決めポーズに意味は無い。無意味である。

 

「流石にあたしは恥ずかしいさね」

「ダメよ、コーチ、それだと言い出しっぺの私がバカみたいじゃない」

 

 みたいではなく馬鹿である。

 

「ま、それはそれとして。コーチからお知らせがあります」

「急にノリを変えないでくれ、若い子の考えはわからん。えぇと、ここ半年実績作りのために奔走して皆お疲れ様。

 おかげで先程審査が無事終わり、インビクタスアムトはスプリングランドの予選に出れることになった」

 

 周りから『おおおおおお』と感激の声が聞こえてくる。実際にこの半年は毎週試合をし、イベントには毎月五〜六回でていたためあまりにも過密すぎたのだ。

 あの苦労が報われた気がして感動したのは言うまでもない。

 

「予選に向けての対策はこれから祭ととっていく、皆は指示あるまで厚と大蔵の指導の元練習するように、解散!」

 

 パンパンと手を叩いて終了、メンバーがぞろぞろと部屋を出ていく。足取りは軽やかではないが、誰もが胸に興奮と緊張を抱いていた。

 

 スプリングランド予選が始まる。 

 

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