第112話 Merry Merry Merry ⑥
週末、インビクタスアムトは正式に発足してから初の公式戦に挑もうとしている。奈良県奈良市の南部にあるラフトボールフィールドにて、参加チーム十あまりの小さなトーナメントが開催された。
二四〇×一二〇と通常より狭いフィールドが三つ。元々は三二〇×一六〇のフィールドが二つあったのだが、トーナメント用に無理矢理縮めて三つにしたそうだ。
「この短いフィールドてのがミソさ」
試合前のブリーフィング、恵美がフィールドの癖について語り出した。
「ゴールまでの距離が近いから得点の取り合いが激しい事が挙げられる、特にボールの奪い合いは通常より熾烈だろうさ」
事前にシミュレーターで訓練はしていたのだが、フィールドが二回り小さくなるだけでほんとに動きが変わってしまう。ほんのちょっとの移動で目的地に辿り着いてしまうので、機動力の高いバックスは激しい動きが求められる事になる。
「フロントは壁になりながらルートセットを意識するように、バックスはとにかくボールキープ」
簡単な指示だけ受けてインビクタスアムトは初の公式戦へと赴く。
ラガーマシンに乗ってフィールドに出ると、司会が淡々とインビクタスアムトの紹介を始めてくれた。やや疲れ気味に感じたのは八番目のチームだったからだろうか。
「やっぱり観客は少ないですね」
『ええ、地方の大会だからというのもあるけど。普通はドローンによる配信を見るから、今来てるのは他チームの偵察に来ている人か、記者だけよ』
「ふぅん」
あとでハッキリ理解できるのだが、祭の言う通り一般客は参加者の家族友人を除けば偵察と記者しかいない。皆配信サイトで視聴するのが一般的なのだ。
現に今配信チャンネルを確認すると、実に八千もの人が観ている。
『そろそろ試合開始よ、皆準備して』
――――――――――――――――――――
一回戦の相手は三重県からやって来たチームだった。名前は聞いた事無いが、少なくとも自分達より経験豊富な筈である。
油断はないが、緊張もない。先月強豪と戦ったおかげだろうか。
スターターが放たれ、試合が始まる。予想していた通りバックスによるボールの奪い合いが激しい展開が繰り広げられることとなった。
『澄雨がボールを取ったわ! 武尊が道を作って!』
『はいなぁ!』
武尊のアリが相手のフロント機体を横へとズラし始めていく。
インビクタスアムトの強みとして、資金源の豊富さが上げられる。無論トップランカーのチームには及ばないが、財閥令嬢と大企業の御曹司がいるので、元々の資本が他のチームと比べて群を抜いている。
要は金の力が強い。
故に金の力で強化された機体は最新装備を備えてる事が多く、アリにも最新のブースターが装備されていた。
『ぬおおおおおお、これがワイの最大パワーや!』
ブースターを全力稼働させて相手をジワジワ動かす。最新式のブースターの力は凄いが、生憎大会規定により連続で十秒しか使えない。だがその十秒で作り上げられた隙間はカルサヴィナが通るには十分な隙間だった。
『抜けました!』
『あっしも続きやす!』
カルサヴィナが抜け、続いてヘイクロウが抜ける。トリックスターの二機が相手陣地にくい込んで攻める。同時にアリが元の位置に戻って空けた隙間を塞ぐ、この時インビクタスアムト側には三機入り込んでいた。そのため武尊はその三機を戻らせないため道を塞いだわけだ。
フロント機体は全て抑えてある、バックス三機は封じた。残る敵は四機。
隙間を抜けてすぐカルサヴィナにラリアットを仕掛けてきた機体があった、しかしカルサヴィナは持ち前の柔らかさで上体を反らして回避し、その勢いのままサマーソルトキックをするように回転、あろう事かラリアットしてきた機体の腕に足を引っ掛けて立ち上がったのだ。
つま先で相手のカメラアイを潰してから着地、ワンテンポ遅れて来たヘイクロウと共に走り出す。
「何あの曲芸!?」
澄雨とはそれなりに長い付き合いになってきたと思う宇佐美だが、流石にこのようなアクロバティックな技を見るのは初めてであった。
いつもは相手を妨害するために絡みついたり足払いをしたりと地味に嫌な技を得意としていた、と思っていた。
『ポジションの違いで機体の運用が大きく変わる典型的な例よ、宇佐美だけじゃなくて全員よく見ておきなさい』
カルサヴィナはヘイクロウの支援と共に点を取った。この試合はカルサヴィナが能力を発揮する事ができたようで、ほとんど彼女の力で点を取り続け試合に勝つ事ができた。
余談だが、さり気なく九重祭は男子の名前を呼び捨てにし始めた事に誰も気付いていない。
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