第101話 Battle against adversity ⑦
ホイッスルが鳴り、ボールがハーフラインから射出される。同時に鋼鉄の人形が二体動き出す。真っ赤な人形がボールを掴んで別の真っ赤な人形へパスをする。
インビクタスアムトが先攻をとった。ボールはアリからソルカイザー、そしてヘイクロウへと渡った。
と同時にフロントの機体がビートグリズリーのフロント機体とぶつかり合う。ビートグリズリーは茶色をチームカラーにしている。
赤と茶色がぶつかっている横をビートグリズリーのバックスがボールを奪おうとすり抜けてくる。ヘイクロウは後ろにいるエルザレイスにパスを繋げてからビートグリズリーの機体を一体抑える。
『クイゾウ! 鳥山! 走りなさい!』
エルザレイスの両腕が合体してカタパルトが出来上がる。各関節のスラスターが吹かれて先端に掴まれているボールを高く射出した。
先にリリエンタールが走り、遅れてバイクに可変したクイゾウが隙間を縫って走る。先に着地点へ着いたのはリリエンタールだったが、キャッチ姿勢には入らず周囲にいた機体へタックルをして押し倒した。
その瞬間にクイゾウが辿り着き、人型に変形してからボールをキャッチする。エンドラインへ向けて走るクイゾウの前にフルバックの機体が立ちはだかった。俊敏な動きで距離を詰めたフルバックだったが、その時クイゾウはボールを持っていなかった。
直前にリリエンタールへパスを繋げていたのだ。フルバックを抑えるクイゾウの横をリリエンタールが通り抜けて先制点を奪取した。
続くキックでアリが点を決めて追加で一点をもぎ取った。
勢いづいたインビクタスアムトは再びクイゾウとリリエンタールで攻めるが、流石はプロのプレイヤー、直ぐに防御を固めてきたおかげで攻めきれずにボールを奪われる事が多くなった。
逆にビートグリズリーが攻めてくる場面が多くなり、インビクタスアムト側は防御に回らざるをえなくなってきた。
辛うじてライドルとクリシナがギリギリ止めているが、瀬戸際なのでいつまで持つかわからない。
『向こうはこちらの動きを見切ってきてるわ』
パスを回しながら祭が通信をとばす。
『そうだね、僕のライドルでも流石に捌くのが難しくなってきた』
『そろそろ風の申し子ハミルトンに走らせた方が良いのでは無いか?』
涼一の言ってる事も最もだ。こちらの攻撃手段はハミルトンで走るかエルザレイスのロングパスしかない。ハミルトンにも走らせて点を取りに行く事を考えるべきだ。
しかし。
『ダメよ、宇佐見君はまだ温存するわ。ハミルトンは後半から走らせるの』
『前半終了まで二十分、このままやと耐えきれへんで』
武尊の言う通り、残り二十分でビートグリズリーは三回もタッチダウンをとってきて逆転してしまう。二一:七の十四点差で前半が幕を閉じ、十五分の休憩時間となる。
――――――――――――――――――――
インビクタスアムトとビートグリズリーの試合配信は多くの人に見られていた。その中にはグラムフェザーの炉夢もいた。
彼は練習場の食堂で以前一緒に展覧会に向かったカールと共に見ていた。
「思ってたよりインビクタスアムトの動きが良いな」
「いいコーチがついたのだろう。以前よりも基本ができている」
「だけど炉夢的にはあのハミルトンが一番気になるのだろう?」
「まあな」
「けど前半は全然動かなかったな、そのせいか配信見るの辞めた人結構いるぞ」
「それはそうだろう、視聴者側は試合ではなく新システムの機体が見たいだけなのがほとんどだ。ビートグリズリー側、というよりオーナーの九重弘樹もそれが目的だ。
なのに肝心のハミルトンが動かなければ関心が無くなるだろう。
対してインビクタスアムトは試合に勝つために来ている。そのためハミルトンを後半まで温存する作戦をとっただけにすぎない」
「なら後半は期待できそうだな、試合としても見応えがありそうだ」
「ああ、今配信を切った連中は悔しがるだろう」
――――――――――――――――――――
休憩が終わり、後半が始まる。この時点で視聴者は六千人にまで減っていた。
『さあ! 後半戦が始まります。前半では両チームが地道な攻防を繰り広げた末、ビートグリズリーに軍杯が上がりましたが! まだまだインビクタスアムトにも逆転のチャンスはあるぞ!
見逃せない後半戦始まり! …………の前にビートグリズリーはメンバーの交代を行うようです』
『セオリー通りですね、資金力のあるチームは前半と後半でメンバー交代を行うのがデフォルトですから、ふむ、どうやらビートグリズリーはタイトエンドとフロントを二人、系三名を交代するようですね』
実況の言う通り、ビートグリズリーは三名が交代する。そしてその中には。
「来たわよみんな、本命が」
彼女だ、ビートグリズリーのエースこと野中陽子。祭と恵美が散々警戒していた一軍のエースがフィールドに現れた。
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