第100話 Battle against adversity ⑥

 いよいよ試合当日となった。試合会場は高槻市にあるビートグリズリーのフィールドを使う事になった。つまりインビクタスアムトの初試合はアウェーで試合をする事となる。星林大学の時はまだメンバーが揃っていなかったのでノーカンだ。

 以前弘樹が記者会見で発表していたせいか、観客ブースの席は全て埋まっているらしい。それだけ新システムが気になるという事だろう。また、動画サイトでの公式チャンネルのアクセス数も高く、現在一万人近くが待機している。

 

「うわわわ、自分緊張してきたっす、オイル漏れそうっす」

 

 観客席やアクセス数を見てクイゾウが物凄く動揺していた。何処からオイル漏らすのか。

 

「クイゾウはいいじゃないでありやすか! 本体は家にいるんだから。あっしなんかダイレクトでありやすよ! 普通にお漏らししそうでありやす!」

「炉々ちゃん落ち着いて、女の子がそんな言葉を男の子の前で使ったらダメだよ。使うならちゃんとオシッコて言わないと」

「み、心愛ちゃん、それ、それもどうかと、思う」

 

 流石は須美子、試合経験も豊富だから比較的落ち着いている。炉々は初試合だからガチガチに緊張しているのが誰の目から見ても明らかである。

 現状緊張しているのは、試合経験のない炉々とクイゾウと心愛ぐらいだ。同じく試合経験の無い筈の武尊は落ち着いていた。武尊曰く「武道の試合で慣れとる」らしい。

 

「九重さんは意外と落ち着いてるね」

「一応あたしリーダーだし、それにこの程度でビビってたらこの先も勝てないわ」

「頼もしい」

 

 フフンと得意気に両手を腰に当てた祭であったが、よく見ると肩が震えていた。

 

「なるほど」

「何がなるほどよ!」

 

 肩の震えを見ている事に気付かれてしまった。


「落ち着いてると言えば、貴族君も落ち着いているよね」

 

 控え室の隅、パイプ椅子でどっしりと構え静かにしている。普段の彼からは想像もつかない程の風格が滲み出ていた。

 凄いなあと感嘆していたところ、不意に涼一が肩に手を置いた。

 

「いや、よく見ろ宇佐美。奴からは死のオーラがでている」

「いやいや何を」

 

 と言いつつ漣理の肩を叩いてみると、漣理は静かに力なくパイプ椅子から落ちてしまう。すんでのところで涼一が受け止めたので怪我は無いようだが、彼の意識は既に無かった。

 

「し、死んでる!」

 

 死んでない。

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

『まもなく試合開始時刻となります。実況は私、実鏡じっきょうメコが担当します。そして解説には甲斐説男かいせつおさんに来ていただきました!』 

『どうも、甲斐説男です。今回は今年発表された新システムの機体同士の戦いという事で目が離せませんね』

『甲斐さんはやはりコントローラー操縦とACSが気になる感じですね、試合展開についてはどう思われますか? どちらが勝つとか』

『それはやはりビートグリズリーでしょう。いくら二軍チームといえども、インビクタスアムトは新設チーム、それもメンバーの半分は今年ラフトボールを始めたばかりとか。ビートグリズリーが負ける方を想定する方が難しいでしょう』

 

 漏れ聞こえてくる実況と解説からの評価は散々なものだ。実際その通りなのだから致し方ないのだが。

 

「いやはや、中々キツイ事言ってくれるね。ここまで言われたら見返してやらなきゃ魂が廃るってもんさ」

 

 試合前にコーチの恵美がハッパを掛けに来た。試合が始まるともう彼女はどうしようもなくなる。全ては現場判断に委ねられるのだからここでしっかり気を引き締めさせないといけない。

 

「外の奴らはあたしらが負けると思っているようだが、あたしはあんた達が強豪チームの二軍相手でも充分通用すると確信している。こちらの強みは個々の長短がハッキリしてる事さ、お互いの短所を補い合い、お互いの長所を伸ばし合えば必ず勝てる。あんな量産チームなんかひねり潰しちまいな!」

 

 無茶を言う。だがハッパはかけられた。

 

「コーチから有り難いお言葉を頂いた事だし。皆行くわよ、この掛け声も久しぶりに使うわね」

 

 最後に使ったのは星林大学の時だ。五ヶ月ぶりのチーム戦、五ヶ月ぶりの掛け声。

 全員の顔を見渡した祭は大きく叫ぶ。

 

「Be Win!」

『Good Luck!』

 

 十三人の戦いが始まろうとしていた。

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