第42話 vs Seirin University ④


「あっしの必殺技! ライトニング・エレクトリック・デンゲキ・イナズマ・スパーク・シュート!!」

「全部電気じゃねぇぇか!!」

 

 受けた健二のツッコミを力に変えて、枦々はボールを蹴り飛ばす。足とボールが触れた瞬間、僅かに発生した静電気が高い電圧を纏いて電流と共にボールを包み込む。ボールはそのまま押し出され、超電磁砲の弾として相手陣地へ音速を超えながら抉り込む……なんて事になる筈もなく、枦々の蹴ったボールは普通に放物線を描いて星琳チーム陣地へと落ちた。

 

 ボールを拾ったのは星琳チームのランニングバックだった。

 

「来るわよ! 奪いなさい!」

「おう!」

 

 健二がランニングバック目指して駆け出す。否、エルザ・レイスとクリシナとヘイクロウを除く5機全てが走り出していた。

 ランニングバックはセンターバックを追い越して直ぐにパスをワイドレシーバーに向けてだした。

 

 星琳チームはサイドから攻めるつもりらしい。

 それに対応するのは漣理のT.Jだ。クイゾウは逆サイドにいるため直ぐには来れない。むしろ来ない方がいい。

 T.Jは突出してきたワイドレシーバーの前に立ち塞がる。

 

「フフ、抜けるものなら抜いてみるといい! オホホホホ」

 

 相変わらずブレブレのキャラクター性を発揮しながら相手を煽る漣理。

 ワイドレシーバーがサイドステップで揺さぶりを掛けてくる。漣理はそれに合わせて自らもサイドステップをきって進路を塞いだ。ワイドレシーバーはT.Jを抜く事にリスクを感じたのか、バックステップで下がって距離を取り、転身、自陣へと戻っていく。

 

 しかしただでは帰さない。漣理は背中を向けたワイドレシーバーの背に当たりに行き、ガツンと鉄が打ち合う音を響かせながら腰にしがみついた。

 腕をホールドしたわけではないので、ワイドレシーバーは無闇に動かずあたりを見渡してから、自陣深くにいるクォーターバックまでボールをロングパスする。

 それから、張り付いたT.Jを剥がすべく後ろ手で頭を叩くと……ポロっとT.Jの頭が取れてコロコロとフィールドを転がった。

 

 鈍く光る金ピカで先端が尖ったT.Jの頭部は、まるで放置された野糞のような絵面だった。


 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 時は過ぎ。

 九重祭はエルザ・レイスのコックピット内で腕を組んで悩んでいた。細められて厳しいものとなった視線はモニターの中で繰り広げられるボール遊びの光景に向けられている。

 

 試合開始から既に40分が過ぎ、その間、タッチダウンを取られることも取ることもなかった。

 星琳チームは大胆にも、自陣でパス回しを繰り返してボールキープを優先していたのだ。おかげで星琳チームへ攻める役割だった健二と武尊、クイゾウと宇佐美の4人は上空を飛び回るボールに右往左往するばかりだ。

 これではハミルトンの速さもいかせない。

 

 更に九重チームの攻撃は4人だが、星琳チームは自陣でパス回ししていたため8人全員で行っていた。2倍も戦力差があるのだ、例えボールを奪い取っても、九重メンバー1人につき星琳チームの1人〜2人がマークにつくので、大抵のパスはカットされるうえに進路も塞がれて速度もだせない。

 

「あと5分で前半終了か……さてどうしようかしら」

「ねぇ、これってヤバくない? まだ前半だよ」

 

 エルザ・レイスの背後に控える心愛から通信が入った。

 今現在、ゆっくり思考できるのは祭を除いて心愛だけである。枦々と漣理は突破して来た場合に備えて常に目を光らせなければならない。

 

「わかってる。このまま士気の低いまま後半戦に突入したくないわ。流れを変えないと」

 

 かといってどうすればいいかもわからない。唯一良くなったといえば、星琳のパス回しが単調になりつつあって、時たま健二達が奪い取っているところだ。しかしマークが厳しいため中々敵陣を抜けられない、抜ける事ができてエンドライン近くに持っていっても、ライドルの棒術に防がれて攻める事ができない。

 

 どうにかして一矢報いて士気を上げてから後半戦に入りたいが。その術が思い浮かばない。

 そんな折り、整備トレーラーで控えている聖整備長から緊急通信が入ってきた。

 

「祭ちゃん聞こえる!?」

「聞こえてるわ、どうしたの?」

「宇佐美君のステータスが異常を示してるの! 脈拍血圧共に上昇して」

「つまりなんなの!?」

「極度の興奮と覚醒状態にあるのよ!」

 

 

 ――――――――――――――――――――


 

 胸がドキドキする。恋ではない、いや恋かもしれない。上原宇佐美はラフトボールというスポーツに魅了され、恋をしているのかもしれない。

 そう、思った。

 

「ハァ……ハァ……ハァ」

 

 呼吸が荒い、しんどい、辛い、でもそれが気持ちいい。ランナーズハイというものがあるが、それに近い。

 宇佐美は目の前を通り過ぎたボールを獲るために横へと跳んだ。相手がボールをキャッチした瞬間、宇佐美はハミルトンのブースターを吹かせて最大限の加速をその機体へぶつける。

 当然、相手はよろける。この加速にはハミルトンをマークしていた機体のパイロットも驚いたようで、反応が一瞬遅れてしまっていた。

 その一瞬の隙をついて、よろけた機体からボールを奪って走り出す。

 

(……ハァ……なんだろう……凄くよく見える……それに、とても気持ちいい)

 

 ハミルトンの目の前に健二をマークしていた機体が立ち塞がる。当の健二は別の機体に阻まれて身動きとれずにいる。同じく武尊とクイゾウもだ。

 

(右!)

 

 ハミルトンの前に立ち塞がった機体は宇佐美から見て右側から手を伸ばしてきた。それに対し宇佐美は、あえてそのまま懐に飛び込んで相手の虚を狙う、狙い通り驚いて動きが固まった一瞬をついて、前傾姿勢をとって右側から抜けていく。抜けざまに星琳機体の背中を押してバランスを崩させて反撃を遅らせると同時に、それを僅かな推進力として加速の足しにする。

 

 時速45km、まだ最高速度には達してないが充分速い。

 次いでハミルトンの前にライドルが立ち塞がる。接敵まで約10秒、瑠衣はライドルの持つ棒の先端をハミルトンへ向けて待機している。

 

 棒の間合いに入った瞬間、ライドルは弾丸のように速く鋭い突きを放つ、狙いは一番当てやすいハミルトンの胴体、今まではあまりにも突きが速いため、これまでは宇佐美含めて誰も反応できず突きで沈められてきた。

 

 しかし今回の宇佐美は突きがくるのを見越して直前に斜め前に跳んで回避を測った。無論跳んだ方向は逆手側、そこなら順手を返して横打ちされにくいとふんだのだ。

 

 だが、そこは相手も流石の手練、突きと同時にハミルトンの方へと倒れ込み移動を阻害、更にそのままハミルトンへ当たりにいく。

 威力はそこまでないが、進撃を押し留める事には成功した。宇佐美は思わず足を止めてライドルへ相対する。

 

 そこで前半戦終了のホイッスルが鳴り響いた。

 

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