突撃!初試合!?

第31話 AKATEN Big Four


「残念なお知らせがあります」

 

 7月半ば、期末考査を終えて夏休みを数日後に控えたその日。学生にとっては浮かれるべき時節であるのに、九重祭は沈痛な面持ちでチームメンバー全員に告げた。

 場所は美浜市郊外のラフトボールのフィールド、祭のチームの活動拠点、そこのブリーフィングルームだ。

 

「私達は……活動を……無期限で休止します!」

 

 ずがっしゃーー、と謎の衝撃がその場にいる全員にはしった。

 最初に衝撃から回復して反応したのは枝垂健二である。

 

「ど、どうにもならねぇのか? そ、そうだお前の家の金の力なら!」

 

 祭は静かに首を横に振った。

 どうにもならないのだ、どうにかしようにも学生の身分では力不足、なにより九重家の財力を駆使しても覆る事はない。諦めるほかはないのだ。

 健二は虚ろな瞳で虚空を見つめている。それだけショックという事だ。

 

「やはり、こうなるんかいな」

 

 原武尊は涙を堪えながら持っている紙を握りつぶした。その紙こそが全ての元凶である。

 

「僕達は……なんて無力! 上級貴族の私ですら足元にも及ばないなんて!!」

 

 南條漣理は悔し紛れに床を叩いた。その拳にはやはり例の紙が握られている。

 

「仕方ないのよ……だって私達は……だって」

 

 祭の視線が下へ向く、そこにはやはり紙が。

 そして憎々しげに祭は続く言葉を放つ。

 

「だって……期末考査で赤点とっちゃったんだもん!!」

 

 先日行われた期末考査にて、九重祭と枝垂健二、原武尊と南條漣理の4人は見事に赤点を取ってしまい、夏休みの半分を追試&補習で過ごす事になっていた。

 

「ちっくしょう!!! 数学とかわけわかんねぇよ!! 何だよ平面ベクトルって!? こちとらサインコサインタンジェントすらわかんねえんだぞ!!」

「せやせや!! 世界史がなんぼのもんやねん!! 古代オリエントとかわかるかい!!」 

「そもそも炭素式なんて上流階級には必要ありませんて!」

 

 などと醜い叫びが始まった。

 健二は3教科、武尊は1教科、漣理は5教科、祭は全教科赤点をとるというダメダメっぷり、彼等が握っている紙は赤点目立つ答案用紙である。

 


 ――――――――――――――――――――

 


 祭達が荒れてる一方、赤点を回避した上原宇佐美とクイゾウと武者小路枦呂の3人は、未だ悲しみの叫びを続ける4人を冷ややかに見つめながら、夏休みの計画をたてるという実に学生らしい事を行っていた。

 

「じゃあ自分達はどうするっすか?」

「ヘイヘイヘイ! あっしはこの3人で遊びに行きたいですぜ!」

「いいねそれ、でも僕が行くと足並み揃わなくて迷惑じゃないかな」

「そういうの気にしなくていい所で遊ぶから平気っすよ、ねーロロっち?」

 

「当然! あんちゃんも楽しめなきゃあっしも浮かばれないっての!」

「ありがと、じゃあどこ行こうか。できれば近場がいいな」

「お? ウサミンもノってきたっすねー」

「少し楽しくなってきたよ、クイゾウもたまには七倉さんの方できてよ」

「うっ、考えとくっす」

 

 実に楽しい会話である。ほっこりする一幕、誰もが優しいこの空間、そこだけが不思議と暖かな光を放っていた。 

 当然ながらそれを良く思わない人間がいるわけで。

 

「ちっ……おい武尊、ちょっとシメてこうぜ」

「せやなーあんまりイキっとると腹立たしいわ」

「良ければボクも混ぜて貰えないかな下等市民」

「楽しそうねー、私も混ぜなさいよ!」

 

 つまり赤点四天王である。

 赤点四天王は憤怒と嫉妬の仮面を顔に貼り付けながら、幸せオーラ満開の3人へと詰め寄り始める。

 そして、ある程度距離を詰めたところで一斉に飛びかかった。

 

「覚悟しやがれー!!」

「「「ヒャッハー!」」」

 

 と世紀末よろしくな声をあげながら襲いかかる赤点四天王。

 無慈悲な襲撃に宇佐美達は為す術もない、と思われたが。

 

 宇佐美とクイゾウはサッと前に出て枦呂を背中に庇うように下げる。

 クイゾウは先に来た健二の攻撃を躱しながら足払いで体制を崩し、倒れゆくその胴体を左手で掴んで抱えあげる。

 次に武尊の打撃をその身で受け止める。体は鉄なので痛くも痒くもない。むしろ痛いのは武尊の方だった。あまりにも強く打ちすぎたのか拳を抑えて悶絶している。馬鹿だと思われる。

 最後に跳んできた漣理をペシっとはたいて地面に突っ伏させた後、踏みつけた。

 

 宇佐美の方は自分へ襲ってきた祭の手を取ってグルンと捻る、合わせて祭の身体も回転して地面に背中から倒れてしまう。

 素早く馬乗りになり、文字通り押し倒す形になってから祭の両手を右手で封じる。

 至近距離で見つめ合う姿勢になったためか、祭は顔を赤くして狼狽える。

 

「ふあ……ちょ、ちょっと近いって宇佐美君」

「こうしないとまた暴れるでしょ? そもそも九重さんの方からきたんじゃないか」

「そ、そうだけど……とにかく、もう暴れないから離れて! 恥ずかしいよ」

「ん」

 

 祭の言葉を信じて宇佐美が離れる。耳まで真っ赤な祭とは違い、宇佐美の方は至って涼しげである。家では姉による過剰なスキンシップを受けているため意外と慣れていたりするのだ。

 

「あんまり意識してなかったけど、宇佐美君もやっぱり男の子なんだよね」

「えっ……今まで女の子だと思われてたの? それはちょっと傷付く」

「なんでよ!」

 

 こうして多少、もとい力業で暴動は抑え込まれたのだった。

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