この恋心をボールに乗せて

第21話 Love Heart Attack ①


 それはとある雨の日の出来事、日本では梅雨の時期となり、連日飽きもせず灰色の空が天水を垂れ流していた。

 そんなジメジメとした日々が続く中、健二達の通う洛錬高校2年2組の教室に転校生がやってきた。

 

「今日からこのクラスにお世話になる、七倉奏って言うっす。気軽にクイゾウって呼んで欲しいっす」

 

 健二達のクラスにクイゾウが転入してきた。遠隔操作している奏ではなく、ロボットの方のクイゾウが。胸に女子生徒を表すリボンを付けて。

 

「なんでやねん!!」

 

 武尊が何処にツッコミをいれたのかは誰も知らない。

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 昼休み。

 クラスメート達はロボットが編入してきたのが余程珍しいのか、休み時間の度にクイゾウを囲ってひっきりなしに質問を浴びせ、また無遠慮に触りちらしていた。

 

 クイゾウはそれらの質問に一つ一つ丁寧に答え、触ろうとする輩は放熱で追い払う。

 そうしてあしらうこと4回、昼休み終了間際になってついに解放された。

 

「まじでお前が来るとは思わなかったわ」

 

 ようやく話す機会を得た健二と武尊と連理、彼等はクイゾウの席周りに近くの椅子を持ってきて座り、当然の疑問と驚きから会話に入った。

 

「お嬢も転入してるっすよ、確か6組だったと思うっす」

「九重さんが! これは挨拶に行かなければ」

「もうじき昼休み終わるからやめとけエセ貴族」

「そういえばお嬢が放課後何処かに集合したいって言ってたっす」


「せやったら宇佐美の教室でええんちゃう?」

「思ったらウサミンだけ違うクラスっすね。何組っすか?」

「あいつは障害者用の特別クラスだから何組とかはねぇな」

「そうなんすか〜、じゃあお嬢に伝えとくっす」

 

 狙ってか狙わずか、ほどよく会話が途切れたところで昼休み終了のチャイムがスピーカーから流れる。

 健二達は椅子を戻して自分達の席へと着いて各々授業の準備を始めていく。健二は寝た。4人が再び顔を突きあわせるのはそれから2時間後、放課後になってからである。

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 放課後。

 授業が終わり、HRも終わってクラスメート達が思い思いに席を立つ。

 ある者達はこれから行うであろう遊びの予定に会話を弾ませ、ある者達は勉強やバイトの事を愚痴る事で共感を得ようとする。多種多様な会話によってザワザワと騒がしくなる教室の後ろにて、九重祭は粛々と帰宅準備を済ませていた。

 

「ねえねえ九重さん! この後暇?」

 

 HR終了早々、一人の女生徒が祭の机に駆け寄って藪から棒に尋ねる。茶に染めた髪、緩く絞めたリボン、シャツの袖は捲り、スカート丈は太腿の真ん中あたり。

 今時の女子高生といった着こなしだ。

 

「悪いけど予定あるの」

「そっかぁ、残ね……」

「いやいや、どんな予定か知らないけどウチらと一緒に行った方が絶対楽しいって」

 

 突如として会話に新たなギャルが加わった。

 こちらはアイシャドウやカラコン等のアイメイクで目元を強調し、チークで頬をやや染めている。一昔前に流行ったウサギフェイスのメイクだ。

 

 最初に話しかけてきた女生徒はバツが悪そうな顔で成り行きを見守っている。

 

「俺もそう思うぜぇ〜、こいつら遊びのプロだからな」

 

 今度はチャラ男が現れた。

 ワックスで髪を固めてテラテラと輝いている。頭の悪いキャッチコピーのついたメンズファッション誌に載ってそうなビジュアルだ。

 

「それに九重さんってトーラムマインド社の社長なんでしょ? つまりセレブじゃん! そんな九重さんが普段どんな高級ところへ行ってるかチョー気になる」

 

 また新たなギャルが現れた。

 あと正確には社長ではなく、会長の孫である。

 

「わかるー、きっとめっちゃ高い服屋とか行ってるんだって」

「あたしもあやかりたいわー、今度梅田いこうよ」

「イイネー!」

 

 あれよあれよと様々なギャルやチャラ男が集まってくる。全部で6人。どうも隣のクラスからも来てるらしい。

 

(ほとんどユ〇クロで済ませてるとは言えないわね)

 

「俺も買い物に付き合いたいわー、そんで奢られたりさ」

「九重さんお金持ちだよ、絶対太っ腹だってー」

 

 何やらおかしな方向へ話が進んでいる。

 そもそも、彼女達はハナから祭の財布にしか興味がなかったのだ。最初は隠していたつもりだったのだろうが、会話が弾むにつれて、また人数が多くなったことでマウントをとれると思ったのだろう、最早会話から滲み出る欲望を隠そうとしない。

 

「それじゃ行こっか九重さん」

 

 二人目に現れた女生徒が祭の腕を掴み連れて行こうとするが、祭はそれを空いた手で払って拒絶の意を露骨に顕した。

 

「予定があるって言ったでしょ? 私はあんた達に付き合うつもりはないわ」

「はあ? 何それ、感じ悪くない? せっかくウチらがあんたを歓迎してあげようとしたのに、何様のつもりよ」

 

 余計なお世話である。

 

「そうね、その気持ちは有難く受け取ってゴミ箱に捨てておくわ。それから私は私よ、何様だろうとなかろうと九重祭、それ以上でもそれ以下でもないわ」

「うわムカつく」

 

 女生徒は踵を返して教室を出ようとする。不快感を漂わせて他のギャルやチャラ男達を引き連れて行く。

 教室をでる直前に、祭は彼女達を呼び止めた。

 

「ちょっと待って、特別クラスに用があるんだけど、場所どこかしら」

「はあ? 特別クラス? なにそれ」

「てかこの流れでよく聞けるなおい」


 彼女達は足を止めて特別クラスについて呟き始める。そして一人の男子生徒が思い至ったようで声を高々にして言を発した。

 

「それってガイジクラスじゃね?」

「ガイジクラス?」

 

 祭の眉がひそむ。

 

「障害児のクラスだからガイジクラス」

「あぁあれね、てゆうか障害者がなんで健常者の学校来てんだって話だよね」

「それ! マジ意味わかんないしぃ、でもウケる」

「健常者と同じ学校きてもお前の身体治んねぇし!!」


「アハハ。バカだよねぇ〜」

「そんなところに用があるとか九重さん変わってるぅ」

「てゆーかこいつもガイジなんじゃね?」

「あぁなるほど」

 

 そして彼女達は結局、祭の問いに答えることなく教室を出ていってしまった。

 残された祭は健二あたりにでも聞こうかとスマホを取り出す。

 そんな時、最初に声を掛けた女生徒が残っていたようで、祭へ応える。

 

「特別クラスは東の校舎1Fにあるから。それから色々とごめん」

「別にあなたが謝る必要は無いでしょ」

「まあ、なんて言うか、あたしが話しかけたのがきっかけだしさ」

 

「フッ、あなたいい人ね。名前は?」

水篠みずしの心愛みあ

「よろしく水篠さん。それから特別クラスの場所教えてくれてありがとう」

「うん、じゃああたしも行くね」

 

 そう言い残して心愛は教室を後にする。

 

(東の校舎1Fか)

 

 鞄を手に取って、祭も教室を出ようとする。引き戸に手を掛けて開けた直後、先程のギャル達や、心愛とは違った女生徒の騒がしい声が耳元で響く。

 

「やあやあ、あっしの名前は武者小路むしゃのこうじ枦呂ろろって言いやす。気軽にロロって呼んでくだせぇ」

 

 と江戸っ子口調で話しかけらてしまった。

 ロロと名乗ったのは一人の女生徒、背は小さく下手をすると小学生並で、体型もそれに見合ったスレンダーなもの。腰まで届く髪はツインテールにしているため、余計に幼く見える。

 ニッと微笑む口からは八重歯がチラリと見え隠れしていた。

 

「次から次へと、めんどくさいわね」

「へへぇ、因みにこの口調はキャラ付けのためにやってるでやんすよ」

「どうでもいいわ!」

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 用語解説

 

 タイトエンド……フロントポジションとバックスポジションの中間に位置し、必要に応じて二つのポジションを行き来する。そのため一番忙しくて、一番難しいポジション。

 

 場合によってはタッチダウンをとらねばならず、また場合によってはフロントに入って相手を抑えなければならないため、タイトエンドのラガーマシンは大変バランスのいい性能となっている事が多い。

 

 また互換性の高いパーツを使っているため、装備のバリエーションも最も多いポジションである。

 

 

 

 

 

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