7.愛を継ぐ(新山莉衣奈)

 夏休みも折り返しにさしかかる頃、アユハからめずらしく電話がかかってきた。

「新山、急なんだけど、明日会えない?」

「どうしたの。ずいぶん熱烈なお誘いじゃん」

「ちょっとツラ貸しなさいよ」

「物騒だなぁ」

 軽口にも応じず、アユハは「なるべく静かなところで話したいの」と硬い声で言う。明日は土曜日で、夏休み真っただ中。飲食店はどこも混みあうだろう。

 思いあぐねた末、少々突飛な提案をした。

「ねえ、うちのおじいちゃんちに来ない? あそこなら周りを気にせずゆっくりおしゃべりできる。祖母の遺品整理中でちょっと散らかってるけど」

「おじいさまのお屋敷? そんな、わざわざ悪いわ」

「いいのいいの。もともと明日はお母さんと屋敷の片づけに行く予定だったし、そのついでだよ。それに、おじいちゃんの天文台もいよいよ取り壊すことに決まったんだ」

 電話のむこうでアユハがちいさく息をのむのが伝わった。

「……そう。残念ね。でも、維持するのも大変だものね」

「うん。さいわい望遠鏡だけは譲り先が見つかったけど、ドームはもう撤去するしかないみたい。だから、最後にアユハにも見てほしいなと思って」

「光栄だわ。明日が楽しみになってきた」

 ようやく声を弾ませたアユハにすこしくすぐったい気持ちになって、その日は通話を切った。




 祖父母の家は高台にある。急勾配でカーブする坂をのぼり、ゴルフ場や自然公園を通りすぎると、ケーキ箱のような鉄筋コンクリートの家が見えてくる。屋上に設置された銀色の半球がトレードマーク。祖父母の家は「天文台のある家」として近隣の人たちに親しまれてきた。

 ところで、遺品整理中の家というのはひとたび玄関を開ければ得てしてひどい惨状だ。不用品を詰めたごみ袋は廊下まであふれ、ビニール紐で結んだ紙の束がタワーのように積み重なる。ひとまず一番マシな状態の台所でお茶の準備を整えると、母は今日も今日とて腕まくりをし、

「それじゃあ、あとはごゆっくり」

 と言い残して台所を出ていった。今日こそ寝室に手をつける、と息巻いていたが、はたしてどこまで進むだろう。

「大変そうね。お邪魔しちゃって申し訳ないな」

 手土産のクッキー缶を自ら開けながら、アユハは雑多な台所を見回した。

「気にしないで。この夏は家族総出でずーっと遺品整理だよ。もう片づけてるのか散らかしてるのか分かんなくなってる」

 結婚式の引き出物らしき未使用のティーカップ(こういう物が次から次へ出てくる)に紅茶を注ぎ、「それで、話って?」と促すと、アユハは途端に顔を曇らせた。

「あいつよ、あいつ」

「あいつ?」

「まえに帰り道で偶然会ったじゃない。あんたの中学の同級生とかいう瀧高の男子」

「もしかして、木村伸二のこと?」

 アユハは心底どうでもよさそうに「そんな名前だった気がするわ」と言った。

「塾の夏期講習で彼に会ったの。姫女と瀧高はいつも別々の曜日で授業が組まれてるんだけど、夏休み中の講習は合同になるから。それで、むこうからなれなれしく話しかけてきて」

 なれなれしく声をかける木村の姿が目に浮かぶ。彼は中学の頃から「女子に気さくに話しかけられるオレ」を気取っている節があった。

「木村は一緒にいた友達を私に紹介してきてね。それが渡利わたりくんっていう物静かな男の子で、こいつ物理のテストでいつも学年一位取るんだぜ、ってなぜか木村が自慢してて」

 その光景もたやすく想像できる。木村には他人の功績を我がごとのように語る癖があった。

「そのときはふうんって流したんだけど、この渡利くんが本当に物理や数学のできる人でね。おまけに宇宙や航空工学に興味があるとかで」

「まいったな、きみと話が合っちゃうじゃないか」

 茶化すように言うと、アユハはげんなりした顔で「そうなのよ」とうなずいた。

「渡利くんは口下手だけど、好きなことの話になると目をキラキラさせて夢中でしゃべるの。そのギャップがいいなと思えて。となりに木村みたいなうるさい人がいるとなおさら……」

「その朴訥とした感じがよく見えたわけだ」

「そう。だから、告白されたときも悪い気はしなかった」

 お盆前に渡利くんからおつきあいを申しこまれ、アユハはOKしたと言う。こともなげな口調とは裏腹に、薄く頬を染めながらしきりに髪をいじる友人はなんとも可憐に見えた。

 けれど、恋する乙女の日々は長くは続かなかったらしい。

「お盆休みにさっそくデートのお誘いが来たの。行きたい所を聞かれて、私は夢ノ森自然科学館でプラネタリウムを観るか、県立博物館の粘菌展に行きたいって答えた」

「まって、粘菌展はこないだ俺ちゃんと行ったじゃない」

「おもしろかったからもう一度見に行ってもいいかなと思ったの。江戸絵画展も同時開催してるし」

 ふうん、と引きさがったものの、正直あまりいい気分じゃなかった。友達との夏の思い出をどこの馬の骨とも知れない男に上塗りされるなんて、考えただけで虫唾が走る。

「渡利くんは、博物館へ行くとなるとバスの時刻がどうでこうで、そうすると何時から展示を見て何時には昼食を取らなきゃどうのこうの言いはじめて。そもそも展示を一緒に回るっていうのがよく分からない、観たいものも鑑賞ペースもお互い違うだろう、って」

「まあ、言わんとすることは分かるよ」

「だから、消去法で行き先はプラネタリウムに決まったのね。で、当日。科学館の最寄り駅で待ちあわせたまではよかった。でも、歩き出したとたん、渡利くんがいきなり肩を抱きよせてきて……」

「ひぇ!」

 おもわず自分の両腕をさする。一学期の国語の授業で「鳥肌が立つ、という慣用句を感動の意味で使う人がいますが、本来は恐怖や不快感などネガティブな感情を表すことばです」と教わったが、いままさに正しく鳥肌が立っている。

「つきあってまだ数日よ。しかもその日はすごく暑くて、くっついて歩くなんて正気の沙汰じゃないと思った。その時点で帰りたくなったけど我慢したの。チケットを買うときはさすがに離れてくれたし、プラネタリウムに入ったら私もなんとか気分を持ち直したの。けど、照明が落ちて、解説が始まったら……」

 さしものアユハもそこで目をつむり、ギリギリと音が出そうなほど歯をくいしばりながら、

「手を、こう、指をからめて……私の頭を、撫でまわして……!」

「ひいい!」

 こんなに金切り声をあげたのは学年末テストで立てつづけに赤点を取って以来だ。ふだんなるべく使わないようにしている安直で便利なワードが、このときばかりは口をついて出た。

「き、きもい……」

 こめかみの辺りをしきりに揉みながら、アユハは、

「本番はここからよ」

 と、恐ろしい宣言をした。

「そのあと館内のカフェでランチをしたのね。お料理が来るまでのあいだ、私はプラネタリウムで観た火星探査の話をしようとした。だけど渡利くんは、そんなことよりさ、って私のことばをさえぎって、鞄から一枚の紙を取りだしたの」

「まさか、今後のデートプランでも書かれてた?」

 思いつくかぎりで最悪な答えを出したつもりだったが、アユハは「それならどんなにマシだったか」と首を横にふった。

「彼が見せてきたのは、今後の彼と私の人生プランよ」

 絶句とはこういうときに使うことばなんだろう。ぽかんとする友人をよそに、アユハはやにわに髪をかきあげ、一瞬で渡利くんになった。

「阿由葉さん、あなたほど賢くて話の分かる女性に出会ったのは初めてだ。僕の生涯の伴侶は君しか考えられない。改めて結婚を前提におつきあいしてほしい。自分で言うのもおこがましいが、きみにとっても僕はそこそこ優良物件だと思うんだよね」

 本当におこがましいわ。

「渡利くん、ちょっと待って。いきなり結婚の話は早すぎるんじゃない?」

 体の向きを変え、アユハが慌てたそぶりを見せる。どうやら一人二役演じるらしい。

「驚かせてごめん。でもね、阿由葉さん、僕らほどお似合いのカップルはいないし、お互いのメリットを考えれば、結婚はいたってベターな提案だと思うんだ。仮にふたりとも研究職につくなら、今から人生設計を立てるに越したことはない。僕は東大理一へ行く。遠距離恋愛は大変だから、できれば阿由葉さんも東京の大学に行ってほしいけど、こればかりは押しつけられないからね」

 すでに特大の押しつけをしている自覚はないんだろうか。

「問題はどのタイミングで結婚するか、だ。僕は学生結婚もアリだと思ってる。卒業後は当然、大学院に進むんだろ? 最近の理系女子はキャリアに集中できるよう在学中に出産するケースも少なくないらしいよ」

 なんだか笑いがこみあげてきた。友人の一人芝居に水を差すのも野暮なので、とりあえず目のまえのクッキーをつまむ。

「渡利くん、結婚とか出産とか、今の私には考えられない。それに私、海外の大学院にも興味があるから、卒業後は日本にいないかも」

「え、そうなの?」

 おもわず声をあげた。そうか、外国っていう選択肢もあるのか。「そうなの」と手短に返し、女優アユハは再び渡利くんを熱演する。

「だったらなおさら今、真剣に将来を考えるべきだよ。阿由葉さんは、こどもは何人ほしい? 僕はできれば三人を希望する。在学中に産むとなると経済的援助が必須になるから、早いうちに両方の親に許可を取っておいた方がいいよね」

 だめだ、しんどい。

「ひとまず現段階の計画を書きだしてみた。僕は長男だし、両親は少々古い人間だから、女は家を守れとか男児を産めとか言ってくるかもしれない。けど、僕はもうそういう時代じゃないと思ってるから、全力できみを守るよ。不安なら誓約書を作ってもいい。すぐに返事をする必要はないから、きみの方でも考えを整理して、その紙はお盆明けの夏期講習のときにでも返却してほしい」

 お盆明けまで待たずとも即答できる話だとアユハは思ったそうだ。にも関わらず、「あ、うん、そうね」などとおざなりな返事をし、その紙をハンドバッグにつっこんでしまったのだと言う。

「ちょうど店員さんがパスタを運んできたんだもの。私は彼との会話を聞かれたくなかったし、あの紙についてもひと文字だって読まれたくなかったから、慌てて話を切りあげちゃったの。人生初よ、あんなに味のしないカルボナーラ」

「ちなみに、その人生プランとやらには何が書いてあったの?」

 苦虫をかみつぶした顔のまま、アユハは「現物があるわ」とだけ言って、二つ折りの紙を鞄から取りだした。内容に目を通し、無意識に生唾をのむ。何年に大学入学、両家顔あわせ、何年までに第一子誕生……。すごいな。他人の妄想を一方的に突きつけられるって、こんなにも身の毛がよだつことなのか。

「ありえない」

 ようやく役から降りたアユハが、クッキーをボリボリかじりながら言い放った。

「挙式はいつ頃しますか? とか、妊活はいつからしますか? とか。なんなの? 病院の問診票じゃないのよ?」

「より完璧を求めるなら、一番下に保護者のサイン欄を設けるべきだね」

「やめてよ、冗談に聞こえない」

 気を落ち着かせるように紅茶をこくりと飲み、アユハはつづける。

「渡利くんね、ずっとほほえんだまま二倍速でしゃべるの。表情が変わらないし、会話に間を作るとかの気遣いもない。なんていうか、私に向かって話してるのに、私のことを全然見てない感じがするの」

「それは……まさにその通りなんじゃないの」

 慎重にことばを選びながら、けれど結局はストレートな見解を口にするしかなかった。

「渡利くんが見てるのはアユハじゃなくて、自分に見合う理想のお嫁さん候補なんでしょう。悪い人ではないんだろうし、彼と幸せを築ける女の子はいると思う。でも、それはアユハじゃない」

 一呼吸おいて、アユハの口からため息が漏れた。引っぱればお餅のようにどこまでも伸びていきそうな長い長いため息だった。

「そう……そうよね。よかった。本音を言うと、まだ彼を嫌いになりきれない自分がいて、それがなによりショックだったの。でも、新山にきっぱり言ってもらえて踏ん切りがついたわ」

 そう言うなり、アユハは渡利くんの人生プランを真っ二つに引き裂いた。決して乱暴な手つきではなく、むしろとても丁寧な、美しささえ感じる動作だった。

「渡利くんにはお断りのメールを入れる。お盆明けに塾で顔を合わせるのは、正直、ちょっと怖いけど」

「塾に話せる友達はいる? 周りの席を女子で固めれば、むこうも下手なことはできないはずだよ」

「そっか……そうよね。ちぃちゃんとユイユイと、あと手塚さんもたぶん……」

 充分だ。三人に声をかければ九人は集まる。こういうときの女子の結束は目を見張るほど速くて強い。

「そうだ、念のため木村伸二にもお目つけ役を頼んでおくよ」

 木村の名前を出したとたん、アユハは「そんな、おおげさにしないで!」と取り乱した。

「あの男に借りを作るなんて絶対にイヤ!」

「信用ないなぁ。たしかにあいつは軽いところがあるけど、意外と義理人情には厚いんだから」

「軽いところしかないように見えるけど」

「いいところがひとつもなかったら、俺ちゃんだって中学で仲よくしてないよ。人にはいろんな面があって、その見え方も十人十色ってこと。アユハが渡利くんの短所を長所と捉えて、嫌いになれないようにね」

 我ながら痛いところを突いてやった。アユハはこれ以上ないほど眉間にしわを寄せて、

「サイアク」

と毒ついた。



 二階の西のつきあたりに、屋上の天文台へつづく階段はある。

 体をかがめ、段差に手をつきながらのぼる。このたった数段が、小さいころは冒険のようでワクワクした。天井の扉をグッと押しあげ、手探りで壁のスイッチを押す。

 直径三メートルのドームに明かりが灯る。その中央には、西村製二十五センチメートル反射望遠鏡が凛とした立ち姿で佇んでいる。

 望遠鏡を見上げ、アユハはしばらく立ちつくしていた。

「触ってもいい?」

「好きなだけどうぞ」

 頑丈な鏡筒におそるおそる指を滑らせる。その表情を見ていたら、ストンと胸に落ちたものがあった。

 祖父は造園業を営んでいた。庭師だった曾祖父のもとで修業を積み、二十代で独立して造園会社を創設した。本人いわく、庭師としてはパッとしないが経営の才はあったらしい。たった一人で始めた小さな植木屋は、四半世紀のうちにおよそ五十人の社員を抱える会社へ成長した。

 築いた財の一部を祖父は庭ではなく星につぎこんだ。質素な暮らしを好んだ祖父の、人生で唯一の大きな買い物がこの天文台だった。

 ふたりの兄の背中を懸命に追いかけ、ドームへつづく階段をのぼったあの頃。祖父に抱きかかえられ、望遠鏡のレンズを覗いた。たしかに観たはずの星の姿はもうほとんど覚えてない。ただ、カーペットの独特なにおいが好きだった。壁の取っ手を祖父が力強く回すと、天井のスリットがゴリ、ゴリと徐々に開いていく、その石臼を引くような音が好きだった。全開のスリットから顔を覗かせた星空に、宇宙を切りとって押し花みたいに栞にできればいいのにと思った。

 別れは早く、小学三年生の冬に祖父は他界した。天文台は主を失い、あとを引き継ぐ者はいなかった。というより、存続のチャンスをことごとく奪われつづけた。

 初めは上の兄が天文台を維持するつもりでいたらしい。祖父の友人や地域の天文愛好家からも「使わせてほしい」という声が年に数回は届いていた。けれど、その全てをぴしゃりとはねつけたのが祖母だった。

 お金に魂を売ったような性格の祖母にとって、このお屋敷は財産を通りこして自分そのものだったのかもしれない。身内に通帳を盗られたと思いこむのは認知症のはじまりと聞いたことがあるけれど、祖母は認知症を患わずとも生来そんな心理状態だった。その財力を見せびらかしながら、横取りされる恐怖にいつも支配されていた。値段の高さをそのまま価値の高さと信じ、使いもしない高級品に囲まれ、自分の所有物とみなすものには家族にさえ触れさせない。祖父の天文台もまたそのひとつとなり、しんしんと雪が降り積もるように朽ちていった。

「この望遠鏡は、次はどこへ行くの?」

「北海道の留萌るもいだって。おじいちゃんの天文仲間のツテのツテのツテを伝って、ようやく譲り先が決まったんだ」

「そう。長く使われるといいわね」

 閉ざされた天井を望遠鏡は十年近く見上げつづけてきた。その孤独の月日を労わるように、アユハもまた同じ方向を仰ぎ見る。その横顔を見つめていたら、自然とことばが出てきた。

「アユハがもし、このさき鈴木砂月や中村砂月になっても」

 唐突な未来の話にアユハはちらりと一瞥をくれ、つきあってやろうとばかりに肩をすくめた。

「分かんないわ。外国人の可能性もあるじゃない」

「じゃあ、スミス砂月とかロドリゲス砂月になっても」

「お笑い芸人さんみたいね」

「何になっても、俺ちゃんはきみのことをアユハって呼ぶからね」

 ほんの一瞬、真空のような間があいた。けれどすぐに「トーゼン」という不遜な返事がドームに響いた。

「いまさらあんたに砂月ちゃんなんて呼ばれたくない。私もあんたが将来どこで何してようが、新山って呼ぶから」

 祖父の天文台を守れなかった。守りたいという意志が生まれるには幼すぎたし、宇宙への強い憧れがあったわけでもなかった。仮に志していたとしても、祖母という門番のまえではきっと無力だったろう。

 罪悪感と呼ぶにはあまりに輪郭のないもの。その透明な何かを、沈黙したレンズが映しだす。

 ただ、祖父のいた空白の欠片が胸のなかで光りつづけていただけ。その光が照らす先を辿ったら、天文部があって、アユハに出会った。

 いまは無い星の光が長い年月をかけて地球に届くというのなら、祖父の残したものもまた、きっと広がりつづけるだろう。散らばった欠片のひとつは胸のなかで行く先を照らし、またひとつはたったいま天文学を志す十七歳の女の子へ受け継がれ、あるいはこれから北の大地で新たな星を生むだろう。

「ね、屋上に出てみない」

 夏のドームは温室のようになま暖かく、とても長くはいられない。スカッとした空気を吸いたくてそう言うと、アユハは、

「行く!」

 と目をかがやかせた。

「どこから出るの?」

「なんと、こんなところに秘密の抜け道があるんだな」

 壁の一部と化していた小さな扉を得意げにコツコツ叩いてみせる。小人の家のドアみたい、とアユハがはしゃぐ。かつて難なく通り抜けていた屋上への扉は、いまはもうぎゅっと体を縮めなければくぐり抜けられない。

 指に力をこめて、錆びた錠を外す。夏の終わりの太陽が薄暗いドームに転がりこみ、望遠鏡の足もとを喝采のように照らした。

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