普通の人普通の人って、俺たちだって普通に生きてるだけだよ。

1.君嶋翔馬『北校舎のカメリア』公開記念インタビュー

 ゲイであることを隠す高校一年生、神村真白かみむらましろ中田将通なかたまさみち)。同級生に性指向を暴かれかけたところを学校用務員の空木霜明うつろぎそうめい(君嶋翔馬)に助けられる。おなじく同性愛者だという空木に親近感を抱き、お礼をしたいと申しでる真白。しかし、空木の頼みは「自分の助手として学校の謎を探ること」だった。

 空木の助けを借りながら、真白は幼なじみの北條祈ほうじょういのり牧野阿澄まきのあすみ)、級友の津田山茶花つださざんか杉山奈々子すぎやまななこ)とともに校内で起こる不可解な事件に挑む。謎を追うにつれ、真白たちは十一年前に起きたある生徒の転落事故の真相に迫っていくのだが――。


 累計発行部数千二百万部を突破した御子貝圭登みこがいけいとの人気漫画『用務員探偵 空木霜明』(通称ヨムタン)シリーズがついに実写映画化される。シリーズ一作目『北校舎のカメリア』で主演を務めるのは気鋭の若手俳優、君嶋翔馬。博識でミステリアス、大胆にして繊細な探偵「空木霜明」をどう演じたのか。新境地を切り開きつづける彼に作品への思いを聞いた。



 ■マイノリティ性を特別視しない


 ――君嶋さんはご自身も原作のファンだそうですね。

 

 そうなんです。原作者の御子貝先生とは同郷で、先生が大学在学中に『落日の獅子』でデビューされたときは地元でも大きな話題になりました。田舎のちっちゃな本屋にもばーっと平積みされてて、その山の一冊を手に取ったのが始まりでしたね。『落日の獅子』が完結したときは心にぽっかり穴が開いた気分でしたが、まもなく『用務員探偵』が始まって、また息を吹きかえしました(笑)。


 ――空木霜明役が決まったときはどんなお気持ちでしたか?


 信じられなかったです。でも、不安より嬉しさの方が各段に勝りましたね。実写化は原作ファンの期待も大きいのでプレッシャーは感じますが、僕自身が空木霜明の大ファンですから、彼の魅力を余すところなく引き出したいという強い思いがありました。

 

 ――本作は学園ミステリということで、真白役の中田将通さんをはじめ、祈役の牧野阿澄さん、山茶花役の杉山奈々子さんなど十代の役者さんが多いですが、撮影の雰囲気はいかがでしたか?


 中田くんとは以前にも共演したことがあり、バディとして安心感がありました。今作ではより息のあった演技ができて楽しかったですね。牧野さんと杉山さんは、年下ですが僕よりずっとしっかりしていて、現場では何度も助けていただきました。とくに牧野さんは子供のころからテレビで観てきた天才子役あすみんの印象が強かったので、お会いしたときは緊張してなかなかうまく話せませんでした。撮影でだいぶ距離は縮まりましたが、未だに「あすみんさん」とお呼びしていて敬語が抜けません。


 ――本作ではマイノリティ性がテーマのひとつとして描かれています。霜明、そしてバディとなる真白はともに同性愛者ですが、演じるうえで意識したことはありますか?


 僕は、『ヨムタン』の魅力のひとつは、マイノリティ性を特別視しすぎないところだと思っているんです。霜明と真白はおなじ性指向ではありますが、ゲイとゲイではなく学校用務員と高校生としてコンビを組んでいます。また、同性愛者が日常で抱く悩みなどは描かれても、トリックや犯行動機として仰々しく扱われることはありません。さまざまな立場の人がいて、さまざまな人間模様がある。空木霜明もまたそのひとりにすぎず、彼の性指向も霜明という人の一面にすぎないと思うので、むしろ同性愛者ということはあまり意識しすぎないようにしました。もちろん、伝え方によっては誰かを傷つけたり、差別や偏見を助長したりしてしまうので、そのあたりは監督とも何度も確認しあって丁寧に作りこみました。


 ――回想シーンでは若き日の霜明の淡い恋心も描かれていますね。


 正直、そのシーンが一番難しかったです。霜明の想い人については、原作でもまだ断片的にしか触れられていないので。同性を愛することより、あの飄々として底の見えない空木霜明が愛する人ってどんな人なんだろう、どんな想いを抱いていたんだろう、と。原作を読みこんでイメージを固めていきましたが、最終的には中田将通くんの演技にヒントをもらいました。中田くんの演じる真白は、なんとも切なかったりかわいらしかったりで目が離せなくて。今でこそいくつものベールで本心を隠している霜明も、かつてはあんなふうに透明で脆いこころを無防備にさらすこともあったのかな、と思ったら、なんだか過去の霜明を抱きしめたくなりました。


 ■寄り道や回り道も悪くない


 ――霜明は用務員室を書庫にしてしまうほどの読書家ですが、君嶋さんも本がお好きとうかがいました。


 はい。子供のころから読書が好きで、よく学校の図書室に入り浸ってましたね。とくに阿部公房や夢野久作、カフカなどの幻想的な小説が好きです。今回の撮影でも、僕の愛読書のなかで霜明も読みそうなものを用務員室に何冊か置かせていただきました。


 ――もともとは声優や小説家などの職業に興味をお持ちだったそうですね。


 本の朗読が好きだったんですよね。小さいころ、母がよく絵本を読みきかせてくれて、すこし大きくなったら今度は僕が弟に読みきかせをするようになって。弟がいい反応をするもんで、必要以上になりきって読んでました。あとは、弟と交互に空想のお話を作るっていう遊びもしてましたね。空想リレーは成長とともに自然消滅しましたが、朗読はひそかな趣味としてずっと続けていて。その延長で漠然と物語に関わる仕事がしたいと考えていましたが、不安定な職業だと思い、気持ちに蓋をしていました。


 ――そんな君嶋さんが俳優を志すきっかけとなったのは「ジュピター・ボーイズ・コンテスト」への応募でした。当時はどんな思いだったのでしょうか?


 ものすごく進路に悩んでいた時期で。高校を卒業したら地元で就職して早くお金を稼ぐべきか、大学に進んでより堅実で安定した職業に就くべきか。だけど、本心はそのどちらでもなくて、文学や芸術への憧れがずっと消えなかった。そんなときに友達からコンテストの話を聞いて、とにかく袋小路の状態から脱却したいという思いで応募しました。最終候補で落選しましたが、いまの事務所のスタッフさんに声をかけていただき、そこからは無我夢中でお芝居の世界に食らいついていった感じですね。


 ――期待の若手俳優としてスターダムを駆け上がってきた君嶋さんですが、昨年、大学の文学部に進学されたそうですね。

 

 そうなんです。俳優も不安定な職業であることは確かなので、今まではこれ一本に集中しなきゃという思いが強かったんですが、この業界には意外と色々な経歴の方がいらして、それが役者としての個性や強みにも繋がっていると気づきました。だから、寄り道や回り道も悪くないな、って。役者としての自分にも少しずつ余裕が生まれてきたので、自分の好きなものをより深く知りたいと思い、同級生よりは遅いですが大学進学を決めました。


 ■嵐に襲われても、人生の舵を他人に任せない


 ――霜明は高校生の真白と異色のバディを組みますが、真白役の中田さんとはどのような雰囲気で撮影に臨みましたか?


 『北校舎のカメリア』はヨムタンシリーズの第一部であり、真白と霜明はまだ強い絆で繋がるほどの関係性ではないので、あまりなれあわないように気をつけました。初めて自分とおなじ性指向の人に出会えたものの、真白はまだ霜明を警戒していて、意外と恋バナとかしないんですよね。むしろ幼なじみの祈ちゃんにばかり相談している。考えてみれば、おなじ性指向だからといってなんでも分かりあえるわけではないですもんね。ただ、真白はここぞというときには真っ向から霜明にぶつかっていく。それが真白の強さであり、霜明のウィークポイントであり……いずれにしても人間臭いコンビだなと感じます。


 ――本作は、ゲイである真白が将来を悲観し、自暴自棄になりかけたところから物語が始まります。もし君嶋さんなら、真白にどんな言葉をかけますか?


 うーん。僕は霜明のように理路整然と導くことはできないので、とりあえずあったかいお茶を出しますね。それで、話せるようなら話を聞いてあげるかな。あくまで僕の場合ですが、心身ともに弱りきってるときって、どんな言葉も素直に受けとめられないんですよね。そこまでの余力が残っていないというか。だれかの言葉を聞くより、自分の気持ちを表に出してみる方が案外すっきりすることもあると思うんです。だから、まずは聞きっぱなしにして、具体的なアドバイスとかはそのあとでもいいかな、と思います。


 ――作品のなかで、真白は「自分らしく生きること」についてたびたび苦悩します。君嶋さんにとって「自分らしく生きる」とはどういうことだと思いますか?


 一言では言えませんが、自分の決断に納得する、というのはひとつ大事なことだと思っています。その時々によって選択肢は限られますし、生き方を制限されることの方が多いでしょうが、自分で決めたことだと思えば次に進めます。それが逃げやあきらめなどのネガティブな結果であっても、逃げると決めたのは自分、あきらめることを受け入れたのは自分。そんなふうに人生の主導権が常に自分にあることを忘れなければ、おのずと前を向けるんじゃないかな、と。あの人がああ言ったからとか世間はこうだからとか原因や責任を他人に押しつけるのは、楽なようでむしろ苦しい生き方だと僕は思っていて。たとえ嵐に襲われてうまく舵を切れなくても、舵を握る手は離さない、人生の舵を他人に任せない。そんな意志を持ちつづければ、自分らしく生きることに少しずつ近づけるんじゃないかと思います。


 ――ネタバレにならない範囲で、本作の見どころや印象的なシーンを教えてください。

 

 霜明が用務員として淡々と働いてるところですね。電球を取り替えたり、ツバメの巣を保護したり。用務員は仮の姿とはいえ、けっこう楽しんでるんじゃないかと思います。空木霜明という人物を知れば知るほど、素知らぬ顔で学校の風景に溶け込んでいるのがシュールで仕方なくて。そういうコミカルな部分も楽しんでほしいですね。


 ――公開前から映画の続編を希望する声も寄せられています。改めて皆さんにメッセージをお願いします。


 本当にありがたいことで、ヨムタンがたくさんの人に愛されていることを実感しますし、そんな素晴らしい作品に関わらせていただけて本当に感謝しています。『北校舎のカメリア』は製作陣全員が原作をリスペクトして、細部までこだわり抜いて作りあげています。だから、原作ファンの方にはぜひ安心して観ていただきたい。もちろん、原作を知らない方もこの映画をきっかけにヨムタンの世界にハマってほしい。皆さんの熱意が今後にも繋がりますし、正直、僕自身は続編に出る気満々です(笑)。空木霜明の魅力はまだまだこんなもんじゃないですから!

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