2.最後の一葉 (小野田舞子)


「わたしを束ねないで」


 教室の窓から青い風が吹きこんで、カーテンがわたしの髪を優しくなでる。


「あらせいとうの花のように、白い葱のように」


 遠くで聞こえる小鳥の声と工事の音。静まりかえった、ちょっと眠たい午後の教室に、坂田くんの音読がここちよく響く。


 束ねないでください わたしは稲穂

 秋 大地が胸を焦がす

 見渡すかぎりの金色こんじきの稲穂


 坂田くんは声がきれいだ。

 みんな気づいてないけれど、となりの席だとよく分かる。

 だから、国語の授業は一番好き。もちろん、三木みき先生の授業がおもしろいっていうのもあるけど、坂田くんの声で読まれる詩や小説は、たったワンフレーズだってきらきらひかって聞こえる。

 そういうことを言うと、

「そんなの、あんた、恋に決まってるじゃん」

 って、もっちゃんにいつもからかわれる。

 もっちゃんは、坂本好美さかもとよしみちゃん。さかもっちゃんが略されてもっちゃんになった。バドミントン部でばりばり活躍してて、アイドルが好きで、最近は俳優の君嶋翔馬きみしましょうまくんに夢中で、地味な美術部のわたしとはいろんなことが正反対。だけど、ふしぎと気があうんだ。

舞子まいこ、さっきの国語の時間、坂田のこと見てたでしょ」

 つぎの体育の授業中、もっちゃんにさっそく肘でつつかれた。女子は三チームに分かれてバレーボールの試合をしていて、わたしたちのチームは休憩中だった。

「見てないよ」

「見てたよ、ちらっと」

「見てないって」

「もう、早く告っちゃえよお」

「だから、そんなんじゃないもん」

 わたしの主張なんておかまいなしに、もっちゃんは「ほらほら、坂田にボール回ってきたよ!」とバスケットボールをしている男子たちを指さした。ドリブルもシュートもあんまりうまくない小柄な坂田くんに、背が高くて運動神経のいい男子たちが一斉に群がる。ちっちゃな小鳥を狙う鷹みたい。

「ひい。えげつねぇー」

「背が低いと狙われるよね」

 ちいさき者同士、わたしはちょっと同情する。

 すぐに囲まれて動けなくなった坂田くんのもとへ、そのとき、ひゅんっと風を切って飛びこんできたのは、おなじ剣道部の富士野くんだ。

「パス!」

 と短く声を飛ばし、坂田くんが山なりに投げたボールを受け取ると、敵チームのあいだをびゅんびゅんすりぬけてあっという間にレイアップシュート。すごい。まるでツバメみたい。

「富士野って、体育のときだけはかがやいてるよね」

 もっちゃんがあきれ半分に笑う。

「あれでもうすこし顔がよくて勉強ができて落ち着きがあればモテるだろうに」

「求めすぎだよ、もっちゃん」

「逆に坂田は体育になると全然かがやかないね。運動部なのに」

「まあ、武道と球技はちがうんじゃない?」

「あたしは運動できる男子の方がかっこいいと思うけどなあ」

 ぐぐぐっと伸びをして、もっちゃんは言った。

 そうかなあ。

 そういうもんなんだろうか。

 こんなとき、男の子って大変だなと思う。男なら運動できて当たり前みたいな、運動できないのは勉強できないよりずっとかっこ悪いみたいな、そういう空気。よそのクラスの男子が、男で文化部なんてありえないって話してるのを聞いたことがある。そうかなぁ。うちの美術部にも三年生でひとりだけ男子がいるけど、好きな漫画のキャラクターや戦闘ロボットの絵を描いてるときの彼の目、きらきらしてて、おお、かっこいいなって、わたしは思うけど。

 だから、わたしにとっては坂田くんも運動が苦手だろうがかっこいいし、好きかって聞かれたら好きなんだけど、でも、そういうのを口に出すのはすごく面倒で、だって、みんなすぐ恋だの告白だのに結びつけるから。わたしの好きは、そういう好きじゃない。憧れとか尊敬とか、そっちの方だ。初めて坂田くんの存在を知ったときから、ずっとそうなんだ。

 

 坂田くんの名前を初めて見たのは、二年生の秋、文化祭のときだった。

 二年生は美術の課題で絵を飾ってたんだけど、百二十枚ある絵のなかでわたしの目を引いたのが坂田くんの作品だった。

 それは、はるかかなたへ伸びる線路の絵だった。青空のした、銀色にひかるレール、その両側にはぴかぴかかがやく夏みかんの木が延々と続いていた。画用紙からさわやかな風が吹いてきそうで、希望を絵の具に溶かして描いたみたいだった。

 うわぁ、いいな、すてきだなぁ。

 でも、同時に自分の描いた絵がどこかこれみよがしな作品に見えて、わたしはちょっとだけがっかりした。

 それから数日後、もう一度坂田くんの名前に出会った。秋に発刊される学校文集に坂田くんの読書感想文が掲載されたのだ。二年生の最優秀賞。読んだ作品は、О・ヘンリの短編『最後の一葉』。

 わたしはそのとき、もう「わぁ、すごい」なんて言えなかった。だって、去年の学年の最優秀賞はわたしだったから。ううん、去年だけじゃない、小学校のときからずっと、わたしは読書感想文で一番を取りつづけてた。優秀賞に自分の名前を見つけても、わたしはちっとも嬉しくなれなかった。

 得意だった絵も感想文もポッと出の転校生に取られてしまったことに、わたしは自分でもびっくりするくらいショックを受けていた。きっとだれかに打ち明けたら「そんなこと気にしてるの?」って笑い飛ばされる。それくらい他の人にとってはなんでもないことなのに、丈夫だと思っていたガラスのハートはあっけなく砕けてしまった。そのくせプライドばかりは頑丈で壊れなかったから、わたしはにじむ涙をぐいと拭いながら、文集を本棚の一番端っこに突っ込んだ。捨てるほどの潔さもない自分が、いっそうみじめに思えた。

 二度と見たくないと思っていた文集を開くことになったのは、短い冬休みのあいだ。本棚の整理をしていたら、緑色の表紙が目にとまった。そのころにはさすがに傷心も癒えていたから、わたしはなんとなしにページをめくった。

 『最後の一葉』は、わたしも読んだことがあった。病に伏せた女の人が、窓から見える蔦の葉っぱが全部落ちたら自分も死ぬのだと思いこむ。けれど、それを知った絵描きのおじいさんが、雨のなか蔦の伸びる壁に一枚の葉っぱの絵を描く。嵐の夜をこえても落ちなかった葉っぱに女の人は生きる気力をとりもどし、そのかわり、一晩中雨に打たれたおじいさんは死んでしまう。

 有名なお話だ。小学校の道徳の教科書にも載ってた気がする。おじいさんの優しさに感動するお話。言ってしまえばそれだけのお話。わたしにとってはそうだった。

 でも、坂田くんはすこしちがった。

『長く病気で寝ていると、もうすぐ死ぬのかもと弱気になることがありました。それを口に出して、そんなことないよと言ってもらいたくなりもしました。』

 坂田くんは、自分が病気で入院していたときのこと、そして、仕事で忙しいお母さんの代わりに毎日お見舞いに来てくれた叔父さんのことを書いていた。

『叔父さんは、寝ている僕の手を握って、神様、直也の病気を叔父さんに全部移してくれ、といつも祈ってくれました。あんまり本気で祈りすぎたのでしょうか。僕の病気が治ると、入れ替わるように叔父さんに癌が見つかり、あっという間に亡くなりました。』

 優しいことは重いこと。それでもだれかに優しくしたいと思うこと。だけど自分の抱くその気持ちが絵描きのおじいさんや叔父さんのような「無償の愛」とおなじだとは思えない、結局自分のためかもしれない、そうだとしても、それが悪いことだとも思えない。

 限られた字数のなかで坂田くんの思考は目まぐるしく躍っていた。わたしは、これが印刷じゃなくて作文用紙ならよかったのにと思った。この人の思いを乗せた手書きの文字は、白いマス目をどんなふうに埋めていたんだろう。

『叔父さんが病気になってから、僕は、今度は自分が叔父さんに優しくしようと必死で、学校生活がうまくいかなくなっても、心配をかけないように元気なふりをしつづけていました。だけど、叔父さんが僕に望んでいたのは病人として気遣ってもらうことなんかじゃなくて、悩みごとも隠さず打ち明けてくれる、いままでどおりの叔父と甥っ子の関係でいることだったんじゃないか。そう気づいたのは叔父さんが亡くなったあとでした。ただ素直でいればよかったんだと後悔しました。』

 おしまいに坂田くんはこう綴っていた。

『誰かにとっての最後の一葉は、必ずしも描こうと思って描かれるものではなくて、自分でも知らないあいだに描いているのかもしれません。だから、僕はこれからも優しくなりたいという気持ちを持ちつづけるけれど、それに囚われることはもうやめにしようと思います。』


 美術室で夕方まで絵を描いたあと、わたしは教室に体操着を置き忘れたことに気づいて、小走りで三階へ戻った。階段をあがりきったところで、教室のまえの廊下にぽつんと座りこむ学ランがひとり。あれは――。

「坂田くん?」

 坂田くんはびくっとしてわたしをふりむくと、しーっと人差し指を唇にあてた。事情の分からないまま、とりあえずとなりにしゃがみこんだとき、

「えー? るみこ、まだ三谷に告ってないのぉ?」

 教室から女子の声がした。ちょっとかすれた高い声。井原いはらさんだ。

「だから二年のときに告っとけって言ったのに」

「だって、部活引退したあとの方がオーケーもらえると思ってさぁ」

「いつ告っても変わんねぇよ、あの剣道バカは」

「ひっど! よっちん、井原がいじめるー」

「知らねー。剣道部、キョーミないし」

「つーかさ、よく剣道部員好きになれるよね。あたしムリ。臭いもん」

「ひっでぇな中沢!」

 ぎゃはははは。

「はぁ……恋バナですな」

 ひそひそ声でそう言うと、坂田くんは苦笑いで、

「しかも俺の机でやってんの。まえの席、井原さんだから」

「あはぁ……」

 井原さんのグループは、クラスではちょっと派手な子の集まりだ。派手って言っても、先生の目を盗んでスカートの丈を折ったり、リボンを短く結んだり、ブラウスの第一ボタンを外したり、それくらいのレベル。ちょっぴり声が大きくて、話題はかっこいい男子のことばっかりだけど、べつにいじめとかしてるわけじゃない。話してみると案外ふつうで、いい子たちだ。

「忘れ物? わたし、かわりに取ってこようか?」

 坂田くんにこそっと提案してみた。イケてる女子が恋の話に花を咲かせる教室なんて、シャイな坂田くんにはハードルが高すぎる。それでも、冷たい廊下に座りこんでタイミングをうかがってるのは、忘れ物がなにか大事な物だからじゃないだろうか。

「え、いいよ、そんな」

 坂田くんはあわてて首をよこにふった。

「べつに明日でも……」

「ていうかさ、ぶっちゃけ剣道部ってどう?」

 坂田くんの小声をかき消して、井原さんの声が廊下まで響いた。

「正直、三谷以外いなくない? パッとした男子」

「中林は? 眼鏡の。背ぇ高くてさ、インテリ系じゃん」

「いや、まあ、悪かないけど」

「良くもないっていうか?」

「なんか存在が皮肉っぽいよね」

 分かるー!

 ぎゃははははは。

「きゅうちゃんは?」

「きゅうちゃんはほら、マスコット的な感じ?」

 分かるぅー。

 あのおかっぱ整いすぎだよね。

 ねー。

「ぶっふ、富士野」

「いや、ないないないない!」

「ていうか、よっちん言うまえから笑ってんじゃねーか!」

 ぎゃははははは。

「え、じゃあ、坂田は?」

 中沢さんの声に、わたしの胸がきゅっと縮んだ。他の人のことは聞き流せていたのに、途端に耳をふさぎたくなる。どうしよう、なんにも聞きたくない。けれども、わたしの心中など知る由もなく、

「いやぁ、身長的に無理」

 ばっさり斬られた。

「井原きびしー」

「いいじゃん、坂田、ちょっとかわいくない?」

「いや、かわいいってほどかわいくはなくない?」

 ていうか、男にかわいさ求めてもさあ。

 ねー。

「……坂田くん、生きてる?」

 まえを向いたままささやきかけると、ほとんど死んでる声で「生きてる……」と返ってきた。

 もう置き忘れた体操着なんてどうでもよくなってきて、早くこの場を離れた方がいいんじゃないか、と思いはじめたとき、

「ていうかさ、坂田はすでにアレじゃん」

 るみこちゃんの含みのある声に、わたしは急に雲行きが怪しくなるのを感じた。

「え、なになに。カノジョいんの?」

「じゃなくて。ほら、この席の」

 こんこん、と机を叩く音。

「小野田舞子の好きな人」

 一瞬の沈黙のあと、黄色い悲鳴がわたしの全身に突き刺さる。

「うそ、マジで?」

「たぶん。てかゼッタイ? だって今日も体育のときずっと見てたし」

「わりと仲いいもんね、あのふたり」

「え、じゃあ、もしかして坂田の方も……」

「え? え? マジでマジで?」

「やばーい。青春なんですけどー!」

「きゃー!」

きゃー、じゃないよ……。

 わたしは動揺を通りこしてぐったりしてしまった。おそるおそるとなりを盗み見ると、坂田くんは見たこともないしょっぱい顔をしていた。

「……帰ろうか」

「……うん」

 どちらからともなく立ちあがる。お祭りさわぎの女子たちの声が、放課後の廊下にこだまのように響いていた。


「気にしないでね、さっきの話」

「うん」

「坂田くんのこと、べつに好きじゃないから。あ、じゃなくて、好きだけど、そういう好きじゃないっていうか」

「うん。知ってる」

 階段を三階から一階までゆっくりふたりで降りる。坂田くんは優しい。本当に全然気にしていないのか、涼しい顔でわたしの弁解を聞き流してくれる。わたしはだいぶほっとして、

「坂田くんって、好きな女の子、いるの?」

 なんて、ついなことを聞いてしまった。

「え?」

「あ、ごめん。なんか、みんなそういう話ばっかりしてるから」

 坂田くんは、ああ、と適当な相槌を打って、

「いないよ」

「ふうん。そっか。……じゃあさ」

 ふたりだけで並んで歩くなんて初めてで、わたしはそのとき、すこし浮かれていたんだと思う。

「じゃあ、告白されたことは?」

「それは……あるけど」

「あるんだ!」

「いや、あるにはあるけど……。小野田さんは?」

「わたし? ないない。あるわけないじゃん」

 だからさあ、告白されるとか、未知の世界だよ。さっきもさ、るみこちゃんが三谷くんに告る告らないの話してたけど、わたし、こないだ三谷くんがべつの女子に告白されてるの見ちゃったんだ。偶然。モテるよね、三谷くん。部活が忙しいからって断ってたけど。その硬派さがまた女子に人気なのかなぁ、なんて。はは。

「俺、よく分かんないんだ」

 いつのまにかとなりに坂田くんがいなくて、ふりむくと彼は、階段の中程で立ちどまっていた。

「そういう好きと、そうじゃない好きのちがいが」

 踊り場の窓が夕焼けの空を四角く切りぬいていた。坂田くんは困ったように、どこか寂しいように笑った。

「好きとか、告るとか、つきあうとか。みんな、当たり前みたいに話してて、なんか、すごいなって思う」

 俺がこどもなだけなのかな。

 そう首を傾げてほほえむ坂田くんが、なんだか急に遠くに行ってしまいそうで、わたしは、

「そう、そうそう! みんなすごいよね。わたしもさ、全然分かんなくて」

 と、ことさら大きな声で笑ってみせた。

 それから別れるまでの帰り道、わたしたちはもう恋愛の話には触れなかった。英語の小テストの結果や最近読んだ本の感想、お互いの部活のことなんかを、ぽつぽつと、ときどき沈黙を挟みながら話した。

 川沿いを歩いているとき、坂田くんの携帯電話が鳴った。

「もしもし。ううん、大丈夫。……うん。そっか。いいよ、ちょうどよかったし。いや、借りてた本、学校に置いてきちゃったから」

 人の電話をとなりで聞くのって、どうしてこんなにそわそわするんだろう。わたしはわざと道端の花や床屋さんのくるくる回る看板なんかに目をやって、通話が終わるのを待っていた。

「土曜日、図書館行く? じゃあ、そのとき、また。うん。……うん?」

 なに? と、やわらかく聞きかえして、そのあと妙に間があったから、わたしはなにげなく坂田くんを見やった。

 そのときの彼の横顔を、わたしはきっと一生忘れないと思う。ケータイを耳にあてて、坂田くんはまるで迷子のような顔をしていた。それはほんの一瞬のことで、坂田くんはすぐに、彼にしてはめずらしく唇を尖らせて、

「してないよ。……してない」

 もう、とちょっと拗ねたようにため息をつき、でも、すぐにふわっと笑って、

「じゃあ、土曜日ね。うん。うん、またね」

 ぱたん、とケータイを閉じる音。

 だれから? とか、聞いてもいいのかな。不自然な笑みをほっぺに貼りつけたまま迷っていると、驚いたことに坂田くんの方から、

「ねえ、俺いま、どんな顔してた?」

 と、予想だにしないことを尋ねてきた。

「あ、ごめん。見てなかった」

 とっさにそう返すと、坂田くんは「だよね」とほっとしたように笑い、

「なんかね、いま困った顔したでしょ、って言われちゃった」

「……ふうん」

 だれから。とは、やっぱり聞けなかった。坂田くんもそれ以上はなにも言わなくて、ちょうど川の橋にさしかかり、私たちは手をふって別れた。

 今日はいろんな顔を見てしまったなぁ。

 とくとくと鳴る胸の音がなんだかくすぐったくて、わたしはわざとらしく「よいしょ」なんて言ってかばんを背負いなおした。やっぱり、わたし、坂田くんのことが好きだ。そういう好きじゃなくて、みんなが言う、そういうのじゃなくて。

 ほんとに?

 こころのなかで、わたしがわたしに問いかける。

 ほんとに。ううん、ほんとは……本当は分からない。坂田くんが言ったように、わたしだって本当は分かってないんだ。そういう好きとそうじゃない好きの境目なんて、わたしにはとてもぼやけて見えて、もしかしたら、自分でぼやけさせているだけかもしれなくて、でも、それも曖昧にしておきたい。

 そっと後ろをふりむくと、渡りきった橋の向こうで、坂田くんは夕陽に染まる山肌をぼんやり眺めていた。いや、二羽で連れだって飛ぶカラスを見てるのかな。それとも、ゆっくり流れる薄い雲かな。坂田くんの目には、なにがどんなふうに見えてるんだろう。

 だらりと垂らした右手にはまだ携帯電話が握られていた。ガードレールのまえに佇む後ろ姿が、なんだか胸がぎゅっとなるほどやるせなくて、わたしは、その背中をずっと見ていたかった。


 ※引用 新川和江『わたしを束ねないで』

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