第8話
「…………は?」
この女は何を言っている?
「私ね、服屋と掛け持ちで夜のお店でも働いていたんだけど、時々能力でお客さんを操って、私好みのプレイをさせたり、個人情報を聞き出たりするのが密かなブームだったのね」
一体、何の話だ?
「で、ある日、いつものように操ったお客さんが、たまたま魔王だったってわけ。彼も結局は、性欲に抗えない一人の男だったということね。ていうか、今、私の隣にいるのがそうなんだけど。ねえ」
「ああ。ワシが魔王じゃ」
ずっとカイラの隣で棒立ちしていた男が、初めて口を開いた。
そんな、バカげた話があっていいのか?
この見るからに冴えない中年が魔王だって?
「因みに彼のアソコはとても魔王って感じじゃないわよぉ」
「下らない嘘は止めて!」
「あら、本当よ? ほら、よーく見てごらんなさい?」
「そ、そこじゃない! 魔王が本当にあなたに操られているのなら! なんでモンスターはいなくならないのよ!?」
「だって、モンスターがいなくなったら、能力者たちを探しだすのが大変になっちゃうじゃない。まずは優秀な能力者を支配下に置いてから、ゆっくりと世界を変える予定なの」
「ふざけるんじゃないわよ……」
本当にこんな奴に魔王がやられてしまったのだろうか。
私達は今まで、こんな変態女を相手に命を張っていたというのか?
いや、こんなの戯言に決まっている。
私を困惑させて楽しんでいるだけ。
フレアはそう結論づけた。
「なんだか、話が大幅にそれちゃったわね。とにかく、私が言いたかったのは、その下着を脱いだらあなたも奴隷の仲間入りよ? ってこと」
「……ふん。下着くらいなら別につけていたって大差ないわよ。サムは私と違って、無から生み出す能力者……体力の減りは彼の方が早い。根比べなら私が勝つわ」
「確かにあなたの言う通りかもね……でもこうされるとどう?」
「きゃあっ?」
カイラが指を鳴らした途端、フレアのブラホックが外れた。
「元パートナーの能力をお忘れかしら?」
「リップ……」
「フレア。裸の世界は最高だぞ。お前も早く来い」
相変わらず抑揚のない声でリップが話しかけてくる。
「リップに変なことを言わすな!……ってちょっと、あっ駄目……」
リップは容赦なく最後の一枚――パンツを脱がしにかかる。
「やめてっリップ!」
フレアは必死で自分のパンツを抑える。
「あはははは! いい光景よ! これが見たかったの!……どう? 昔のパートナーと今のパートナーから同時に責められる気分は!?」
「ううっ……!」
「ほら! ギャラリーもこんなに集まっているわよ!」
気が付くと、広場には街の人々が押し寄せていた。もちろん、全員カイラが操っているのだが。
「み……見ないでっ」
「いいわぁその反応!! 暑さにやられると羞恥心が薄まってしまうと聞いていたけど、どうやら演出が上手くいったようね。流石、私だわ」
――さっきまでは、全員全裸だから脱いでも恥ずかしくないと思っていたのに……。
フレアはすっかりカイラのペースにハマってしまっていた。
「いい? リップ。まだよ。まだ焦らすの……一気に脱がせては駄目……はい、ここでサムっ!」
「フレアさん。今、どんな気分ですか? 気持ちいいですか?」
――聞くな。言わされているだけよ。
「フレア。もう諦めろ。俺に脱がせないものはない」
――聞くな…………あっ
不意にフレアは思いついた。逆転の可能性を。
確信は全くないし、恐らく今以上に恥ずかしい思いをすることになるけど。
でも、今はこれに賭けるしかない。
「さあて。そろそろ頃合いかしらね」
フレアのパンツは既に足首までずり下がっている。
「あなたもこれで、一生私の奴隷よ。二度と服を着ることはない……」
「…………変態が」
「裸だったら何が悪い! それが私の座右の銘よ! さあリップ、やってしまいなさい!!」
絶頂寸前といった様子で、カイラがリップに指示を下す。
「了解しました」
――リップ。
「はあっ」
リップが力を込めると、フレアのパンツが足首を通り越して上空へと吹き飛んだ。
「きゃあああっ!!」
その勢いでフレアは思い切り転倒してしまった。
――リップ。
「あはははははは!! ようこそ素晴らしき裸の世界へ!!!」
――悔しいけど、私じゃこの女に勝てない。
「さあ、こっちへ来なさい! サムはもう壁を解除していいわよ」
フレアは黙って歩き出し
――だから。
リップの目の前まで来ると立ち止まり
「……? そっちじゃないわ。まずは私の方へ……」
――あとは頼んだわよ。
そっとキスをした。
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