第7話
メッション街中央広場。
「どうしたんだい、フレア」
股間の息子をぶらつかせながら、リップが問いかける。
その声には全く感情がこもっていないように感じられた。
もう何がどうなっているのか全然分からない。フレアの目から涙がこぼれた。
「ふふ。いいわよ、その表情。前菜としてはカンペキね」
リップの後ろから、妙に艶かしい女性が現れた。もちろん全裸だ。横には冴えない中年男性を引き連れている。
「……誰よ、あんた」
「私はカイラ。この子のパートナーよ」
女はリップの首元に両腕を絡めながら言った。
「うそ……」
「あら、何故驚くの? あなただって新しいパートナーとよろしくやっているんじゃなくて?」
「…………」
「あ、でもごめんなさい。あなたのパートナー、サム、だったかしら……彼ももらっちゃった」
「……え?」
「フレアさん、おはようございます」
まるで機械のような口ぶりで現れたサムも当然のように、全裸だった。
「どういうことよ、サム!」
「だって、フレアさんは一年間も尽くした私のことを、全く信頼していないじゃないですか」
「そ、そんなことないわよ!」
「あなたはこの彼のことが今でも忘れられないんでしょう?」
サムは顎でリップを指した。
「ち、ちが……」
「あらぁ? 違うの? こんな役にも立たない能力持ちのことなんて、すっかり忘れちゃったぁ?」
カイラと名乗った女の心底楽しそうな態度に、フレアは却って冷静さを取り戻した。
「……分かった。全部あんたの仕業ね」
「ええ~なんのことかしらぁ?」
「とぼけても無駄よ! 恐らく能力で操っているのね……」
「あは。おバカさんでも流石に気がつくわよね。そう、全部、私のし・わ・ざ」
「バカですって……!」
「あら、ごめんなさい。あなたがアタフタする様子があまりに可愛らしくてつい。褒め言葉として受け取って頂戴」
「ふざけんな!」
フレアは素早くローブのポケットに手を入れ、ライターを取り出した。
「あなたの能力は知っているわ……そんなの人間に向けたら死んじゃうわよ? いいのかしら」
「大火傷程度で済ましてあげるわよ」
ライターの火が瞬く間に増幅し、巨大な炎へと変化した。
「はあっ!」
フレアの掛け声と同時に、炎の塊がカイラ目がけて飛んでいく。
――が、突然現れた透明な壁に阻まれてしまった。
「なによ、この壁は……!」
透明な壁は炎の熱で溶けそうになるものの、その度に元に戻ろうとする。
対して、炎は壁に当たった途端、威力が弱まってしまう。
「これって……氷!?……まさか!」
慌ててサムの方に目を向けると、彼は両手を前に突き出していた。見慣れたいつもの戦闘態勢だ。
「サム! 何するのよ! やめて!!」
「さっき言ったじゃないの。この子はもう私のものなのよ」
「うるさい!……サム、目を覚まして! あんた、操られているのよ!」
「そんな言葉でどうにかなるわけないじゃない……私の能力は私にしか解除できないわ」
カイラの言う通り、サムに変化は微塵も見られない。感情を失ってしまったような表情で、淡々と氷の壁を作り続けている。
「くそっ……はあ、はあ……」
「……あらぁ? 何だか苦しそうだけど、大丈夫なの?」
フレアは既に汗だくになっていた。
「……懐かしい、感覚だわ……却って、はあ、この方が、はあ、はあ……テンション上がるくらいよ……!」
そう強がりを言い、フレアは無理やり笑顔を作って見せた。
しかし実際、サムとパートナーを組んで以来、大量に汗をかく機会はなくなっていた。
そんなフレアの様子に、カイラは気持ちの昂ぶりを感じていた。
「いいわぁ……苦痛と快楽は表裏一体ってわけね……でもいつまでもつかしら」
確かに、懐かしんでいる場合ではない。このままでは暑さに耐え切れずに倒れてしまうだろう。フレアは今すぐ脱ぎだしてしまいたい衝動と戦っているうちに、あることに気がついた。
――脱いでも構わないのでは?
リップやサムを含め、街の人達は全員操られているようだし、何より全員全裸だ。
今更全裸の女がもう一人増えたところで、誰も咎めないだろう。
「そうと決まれば……」
フレアは手に持っていたライターを地面に起き、ローブを脱ぎ始めた。
裸になってしまえば、ある程度は根比べにだって耐えられるはずだ。
「……あなたってやっぱりおバカなのね」
フレアが下着だけになるのを待った上で、カイラはゆっくりと口を開いた。
「なんでみんな裸なのか、少しは考えてみたら?」
「はあ……? あんたの趣味でしょ? 変態女が」
「ふふ。半分正解よ」
舌なめずりをしつつカイラは答える。
「でもね、私の能力は趣味と実益を兼ね備えているの……すなわち、私は全裸の人間しか操れない」
「……なによ、そのふざけた能力」
「そう。ふざけていて最高に素晴らしいでしょう? 私はね、この能力で世界を平和へと導くつもりよ」
「平和、ですって?」
「ええ。まずは強力な能力者達を全員、私の支配下に置いて、誰も逆らえないようにするわ。その上で、人々から衣服を奪うの。あ、もちろん、武器も身につけては駄目よ。裸こそ平和の象徴。きっと争いなんてこの世からなくなるわ」
「どこまで本気で言ってるのか知らないけど、あんたの方がよっぽど頭悪いと思うわよ……そもそも魔王はどうするつもりよ。あいつを倒さずに平和なんてありえないわ」
「ああ、彼なら大丈夫……だってとっくに私の奴隷だもの」
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