第9話
「はあああああ?? なに?? なんなの!?」
フレアの予期せぬ行動に、カイラはわけが分からず混乱している。
その隙を利用し、フレアは首から外れたチョーカーをリップの首へ巻いた。
「……フレア、お前……」
「リップ、よく聞いて。まずはここからまっすぐ南へ……うっ」
何かを伝えようとしたフレアだったが、言い終わらないうちに短い呻き声をあげると、目から光が消えた。
「くそっ! 興奮のあまり油断したわ……! リップ! あんたには『全て』剥ぎ取るよう命令したはずよ!」
リップが顔を向けると、そこには鬼の形相をしたカイラがいた。
「……できなかったんだよ。このチョーカーは少し特殊な代物でな」
「……そうか、そのチョーカー、あの時買っていたやつね! まあ、いいわ。既にこの女も私の手中……あとはあんたのそれを剥ぎ取ればジ・エンドよ!」
カイラは冷静さを取り戻しつつも、自らの演出を台無しにされた怒りは収まらないようで、口調がやや荒っぽくなっていた。
「あは。自分で不意打ちでもすれば、まだ可能性はあったかも知れないのに、よりにもよって、わざわざあんたなんかに託すとはね!……この全裸軍団相手にどうしようってのかしら??」
フレア、サム、街の人々が一斉にリップの方を向く。確かにこの状況はどうしようもない。万事休すと言ってもいい。だが。
「……南へまっすぐ、か」
一言そうつぶやくと、リップは全速力で走りだした。
「逃げても無駄よ!」
前方に立ちはだかる全裸軍団だったが、この半年間鍛えまくったリップを捕まえるのは容易ではない。ちぎっては投げちぎっては投げ、グイグイと直進していく。時々、氷の塊が飛んでくるが、それも全て避ける。
リップはかつてないほど、怒りに震えていた。
カイラの卑劣ぶりもそうだが、それ以上に自分の不甲斐なさが許せない。
あんな女に騙されて、フレアを守るどころか傷つけてしまった。
それなのに彼女は、全てを自分に託してくれた。しかも勝利への道筋すら与えてくれた。
「これ以上、みっともないとこは見せられねえ……」
彼女の言う通り南へ向かえば、必ず勝機があるはずだ。
「はあ……はあ……ボケがっ! ちょこまかと逃げ回りやがって! いい加減諦めなさい!」
リップは繁華街のど真ん中にいた。そして彼は今、数えきれない程の全裸軍団に囲まれている。完全に逃げ場を失ってしまった。
「もう演出とかはどうでもいいわ! とにかく奴の首輪をはぎ取るのよ!」
「おおおお……」
全裸軍団はじりじりと距離を詰めてくる。
「……なあカイラ」
「なによ。命乞いなら聞かないわよ」
「お前には酷い裏切りを受けてしまったわけだが……一つだけ感謝しているんだ」
「はあ?」
「お前のおかげで、俺はずいぶんと能力の扱いが上達した」
「……時間稼ぎのつもり?」
「舞台にメッションタウンを選んだのは致命的なミスだったな。なんせ……」
「…………あ!! やばい!! 早く奴を……」
「もう遅い。はあ!!」
リップが叫ぶと同時に、近くの店という店から大量の衣服が飛んできた。
そう、ここはメッションタウン。食と、ファッションの街。
全裸軍団は次々と衣服を着せられる。
操ることだけに特化した能力である上に、実戦経験を積んだ今のリップであれば、これくらいの操作は朝飯前であった。
「お前たち! なにをやっているの!」
「……近づけません」
リップは自分と距離の近い者から優先して衣服を着せ続けている。着せられた者は我に返り無力化する。よって彼らは肉壁として機能していた。
「クソ無能どもがああああ!!!!」
「自分の能力を無能呼ばわりか。能力を生かすも殺すも自分次第。そう教えてくれたのはお前だぜ?」
皮肉を浴びせつつ、リップは最後の一人、自分にジャージを着せた。
この場で全裸なのはもはやカイラだけであった。
「勝負はついた。カイラ、お前の負けだ」
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