王位継承編4〔シンタロー〕


王位継承編4〔シンタロー〕




警備員は自分の目を疑った。そして後ろを振り向き、自分が今、出てきた扉を見た。



「あ?…あれ?扉が無い?」



警備員は喜ぶツヴァイの横を通り過ぎ、出て来たであろう扉があった場所に手をついてみた。



「スルッ…」



「え?!」



警備員が驚くのも無理はなかった。壁を触ったはずのその手は、なんの抵抗もなく壁をすり抜けてしまったのだ。

警備員はすぐに手を引っ込めたが、壁には穴が空いている訳でもなく、自分の手を見つめながら、警備員の頭はさらに混乱した。


しかも、



「なんだ?この床…異様に柔らかい…床が腐っているのか?」



一見板張りに見える床も、ゴムのように柔らかかったのだ。

警備員がアレコレ考えていると、



「シンタロー!こっちだよ!」



ツヴァイが警備員の手を取り、反対側にある扉に向かって走り出した。



「あ、ちょっと待ってツヴァイちゃん!」



慣れない足場に戸惑いながらも警備員はツヴァイに引かれるまま扉に向かって走った。



「ここから外に出られるの!」



と、ツヴァイは扉の取っ手に手をかけた。



「スルッ!」



「あ…あれっ?」



ツヴァイは走って来た事と、手が取っ手をすり抜けた事もあり、バランスを崩し頭から扉に突っ込もうとしていた。



「危ない!」



警備員はそんなツヴァイに気が付くと、握られていた手を「グイッ」と引き寄せ、ツヴァイを抱き抱えるように自分から扉に突っ込んで行った。



「クッ!」



「ボヨンボヨン…」



「え?」



警備員は扉を突き破るつもりで、体に力を入れツヴァイを守るように体を丸めながら、扉に当たったはずなのだが、今の状況は予想とは違い、柔らかい土の上でポヨンポヨンとバウンドしているのだった。



「あれ?確かに扉に当たったと思ったんだけどな?」



警備員は振り返り、突き破って来たであろう小屋の扉を見た。

しかし、扉どころか小屋そのものも、何事も無かったかのように静かに佇んでいた。


警備員はツヴァイを抱き抱えたまま、ぐるりと辺りを見回した。



「山の中…?…でも…なんだ?」



警備員は初めて見る景色だった。しかし何故か懐かしい感じというか、どこかで嗅いだような匂いがしたのであった。



「ふう!ビックリした~!」



ツヴァイは大きく息をしながら警備員の胸に埋めていた顔を上げた。



「ツヴァイちゃん、大丈夫?」



警備員の問いかけに、



「うん!シンタローが守ってくれたから!」



そう言いいながら、ツヴァイは辺りをキョロキョロと見回し、



「あ!あそこ!あそこがお父さんの居る小屋なの!」



ツヴァイは1つの小屋を指差した。そして立ち上がると再び小屋に向かって走り出した。


しかし、なぜか小屋の前まで行くと立ち止まり、静かに窓から小屋の中を覗いていた。


警備員は歩いて小屋まで行くと、ツヴァイが覗いている窓から中を覗いた。



「ん?」



警備員は少し不思議に思った。山奥の小さな小屋にしては人の数が多すぎたからだ。しかも、



「え?!」



警備員はさらに驚き、自分の目がおかしくなったのかと思い、目を手の甲でこすり、再び小屋の中を覗いた。


小屋の中には人に混ざって、人のような姿をした狼が何人も居たからだ。


ツヴァイも想像していたのと違っていたのか、無言のまま振り向き、不安そうな表情で警備員を見た。


ツヴァイが驚くのもムリはなかった。お父さんが1人で居ると思っていた小屋に、母親のチェスハ、オリアンの仲間達、さらには町の人達と知っている顔が大勢集まっていたからだ。


しかも、誰1人として笑顔の者はおらず、みんな暗い表情をしており、中には涙を流している者さえも居た。



それもそのはずだった。リムカとツヴァイがオリアンの居る小屋に向かって、約2日間が経っていたからだ。



「リムカ…、ツヴァイ…どこに行ったのよ…、」



小屋の中では、チェスハが悲しみの声をあげていた。


子供達が次の日になっても帰って来ない事を不思議に思い、小屋を訪ねると手紙だけ置いてあり、2人の姿は無かったのである。

オリアンに聞くと、2人には会っておらず手紙を置いて、チェスハの所に帰ったのだと思っていたそうだ。


それからすぐにオオカミ族や街の知り合い、城の衛兵達も何人か集め、小屋の回り、山の中を探してみたが、リムカとツヴァイの姿はどこにも無かった。


うつむきうなだれているチェスハにストリアが、



「大丈夫だよ、チェスハ。あなたの子供だろ。きっと無事に帰ってくるよ。」



と、肩を抱きながら呟いた。



「くそ!一体どこにいるんだ…」



オリアンも一日中、森の中を走り回り2人を探したが見つからず苛立っていた。

その時、「ハッ」っとオリアンが思い出した。



「まさか、アイツら『西の森』に行ったんじゃないだろうな…」



『西の森』その名の通り小屋から少し離れた西にある森の事だった。

遥か昔、人族とオオカミ族の激しい戦いがあった場所で、オオカミ族の中では『聖域』、人族にとっては『死の森』と恐れられており、誰1人として踏み入る者は居なかった。


というのも、西の森にはオオカミ族が人族と戦う為に使ったとされる落とし穴が今もなお至るところに隠れており、オリアンでさえもその場所と数は把握しきれてないのである。


落とし穴と言ってもオオカミ族が掘ったものではない。

『西の森』の木はその半分以上が地下に埋まっていた。そして木が枯れると地下にあった木も無くなり、そこに自然の深い落とし穴が出来るわけだ。

オオカミ族はこれを利用し、人族と戦い勝利したと言われているのだ。

それから長い年月の間も、『西の森』では新たな木が生え、そして枯れては新しい落とし穴が出来るという自然の摂理を繰り返していたのだ。

無論、興味本位で森に入った者は当然のごとく帰っては来なかった。



オリアンが2人の事を心配をしていると、ファンが、



「オリアン、それは無いんじゃないか?2人共『西の森』の怖さは知ってるはず、ましてやそんな所にリムカちゃんがツヴァイちゃんを連れていくはずがない。」



「ガタッ!」



「じゃあ!どこに行ったんだよ!」



オリアンは椅子から立ち上がり、ファンの胸ぐらを掴んだ。



「まあ、待て、落ち着けオリアン」



オリアンを制したのは仲間のアイガだった。



「『西の森』には黒龍を飛ばせてあるんだろ?居たら知らせてくれるさ。

それに、お前昨日から何も食って無いじゃないか少しは何か食べろ。

ストリア、みんなに何か作ってやってくれないか?」



それを聞いたストリアは「ふう~」っと一息つき、



「そうだね、あの子達がお腹を空かせて帰って来るかもしれないからね。

チェスハ、ちょっと台所借りるよ。」



すると、



「あ!私も手伝います。」



ダシールが手を上げ、ストリアと一緒に台所に入って行った。


窓の外から中を見ていたツヴァイは、自分と姉を探して大勢の人達が集まっているのは理解出来た。

そして、姉はともかく、自分がここに居ることを伝えようと、窓を叩きながら叫んだ。



「お父さん!お母さ…?」



「スルッ」



「ゴロゴロゴロ~」



ツヴァイは窓を叩きながら叫んだ為、窓と壁をすり抜け、勢い余ってチェスハの足元まで転がって行った。



「ん?」



オリアンは何かの気配を感じ、さっきまでツヴァイが立っていた窓の方を見た。



そんなオリアンを見たファンが、



「どうしたオリアン?」



と、聞くと、



「いや、誰かが呼んだような…」



その言葉にいち早く反応した人物居た。

チェスハだ、



「え!?2人が帰って来たの!?」



と、言うやいなや、足元に転がっているツヴァイをすり抜け、窓に向かって小走りに走った。



ちょうどその時、外に1人取り残された警備員は、小屋に吸い込まれて行ったツヴァイを見ようと、小屋の窓に近付いた。


と、その時、



「ガラッ!」



チェスハが勢いよく窓を開け、顔を突き出して来た。



「え!?」



チェスハの顔は、警備員の鼻先数ミリに近付いていた。ビックリした警備員は2、3歩後退りするとしりもちをついた。


警備員はビックリしたのと、チェスハのような美人がいきなり目の前に来たのでドキドキしていた。


そのチェスハは、窓から顔を出したまま、左右に2、3度首を振ると、



「誰も居ないじゃない…」



するとオリアンは頭に手をやり、



「おっかしいな、確かに呼ばれた気がするんだけどな…気のせいか…。

よし!俺は黒龍と一緒に出て『西の森』を探してみる」



「い…いや、でも、『西の森』は…」



ファンが心配そうに言った。するとオリアンは、



「心配すんな、黒龍に乗ってりゃ落とし穴に落ちる事はねえ。俺は見えなくても気配を感じる事が出来る。リムカとツヴァイの気配ならなおさらだ。」



するとセオシルが、



「じゃあ、私達はもう少し森の奥まで入ってみます。」



「ああ、悪いなセオシル大変な時によ、城の衛兵達まで駆り出してくれて。」



「とんでもない!あなたがたの子供達が行方不明なのに、のんびり城になんか居られませんよ!

それにこれは国王のめいでもあるんです。「彼らの力になってくれ」という。」



「ったく、ラウクンのヤツめ…自分も大変だろうに…」



そんなやりとりが小屋の中でされている間も、ツヴァイはオリアンやチェスハに声をかけ続け、自分の存在を示そうとしていた。



「お父さん!お父さんてば!!お母さん?!聞こえないの!?私はここよ!」



ツヴァイはオリアンの腕を掴もうとしたり、チェスハに抱きつこうとしたりしたが、誰にも気付かれず部屋中を転がり回っていた。



「ファンおじさんてば!」



ツヴァイはファンに助けを求めたが、当然のごとく気付かれず、ファンは目の前に置いてあったコップを手に取り、一口水を飲んだ。


それを見たツヴァイは「ゴクリ」と唾を飲み込んだ。


叫び続けていた為、喉が乾いていたのだ。



「私も何か飲みたいな。ファンタないかな?」



と、その時ふいにリムカの言葉が頭を遮った。


リムカは幾度となく、タロウの話をツヴァイに聞かせていた。

チェスハに聞いたタロウの信じられないような話、イサーチェから聞いたタロウの世界の話。

そして、その話の中にタロウの世界に行くと、ユーリセンチでは見えなくなる、というのがあったのだ。



「あ!確かお姉ちゃん言ってた!タロウの世界から帰って来ると、誰にも見えなくなるって。

え~っと、その時はこっちの物を食べたら見えるようになるって、言ってたっけ。

だからいつもお姉ちゃん、鞄の中に干し肉入れていたんだよね。」



そしてツヴァイはリムカに分けてもらっていた干し肉を、小さな鞄から取り出すと「ガブリ」と噛みつき口の中に入れた。

と同時に、テーブルの上にあったコップを手に取り、干し肉を水と一緒に喉の奥に流し込んだ。


不思議な事に、空のコップは手がすり抜けて掴めないが、中に飲み物が入っていると掴めたのだ。


が、まあ一番驚いたのは、それを目の前で見ていたファンであったのだが…


ファンもオリアン同様、一睡もせずにリムカとツヴァイを捜していた。そして、次は何処を捜そうかと考えていた所、目の前に置いてあったコップの1つがユラユラと宙に浮いたかと思うと、薄い人影のような物が現れ、だんだんそれがツヴァイの形になっていったのだ。驚くのも無理はない。


最初は自分が一睡もしていないが為に、幻を見ているのであろうと思っていたファンだったが、コップをテーブルに置き、トコトコとチェスハの所に向かって行く後ろ姿を見て、本物ではないかと思い始めていた。

そしてオリアンにその事を教えようと、



「オ…オリ…オリアン…ツ…ツヴァイ…ちゃん…」



驚きのあまり上手く喋れなかった。それを耳にしたオリアンは、



「ふう~、そうだな。2人が一緒に居るとも限らねえ、ツヴァイはまだ小さいから近くに居るかもしれねえ。ふた手に別れて捜すか…」



「い、いや…ツヴァイちゃんが…」



ツヴァイを指差しながらオリアンに教えようとしたが、外を眺めていたオリアンが気付くことはなかった。



「お母さん…お母さん?」



ツヴァイはうなだれるチェスハの足元まで行き、チェスハを呼んだ。



「ああ~…ツヴァイの声が聞こえるよ~…ツヴァイ…ツヴァイ……」



ツヴァイの声を空耳と勘違いしたチェスハは更に泣き崩れてしまった。その時、



「ガッシャ~ン!!」



食器を床にぶちまける音が小屋の中に響き渡った。と同時に、



「ツヴァイちゃん?!!」



ストリアの叫び声も小屋中に響いた。



「え?!」



ストリアの声を聞いたチェスハは、そっと目を開け、頭を上げた。

するとそこには、見慣れた靴と小さな足が並んで立っていた。



「ツヴァイ!」



「お母さん!!」



ツヴァイはチェスハの胸に飛び込んだ。



「ツヴァイ!よかった!無事だったのね!ケガは無い?」



「うん!あのね、私ね、シン…」



「リムカは?リムカも一緒にいるんでしょ?リムカ?リムカ!出て来なさい。怒らないから!出て来なさい!」



ツヴァイはシンタローの事を伝えたかったが、チェスハはそれどころではなかった。

ツヴァイはオリアンにその事を話そうとしたが、



「俺は外を見てくる!」



と言い残し、飛び出して行った。セオシル達もオリアンについて小屋を出て行った。



オリアンもチェスハも、リムカが怒られるのが嫌で、どこかに隠れているのではないか?と思っていたのだった。


ファンと同様にツヴァイが現れた所を見た者は何人も居たが、状況が状況だけに、幻か幽霊かと思っていた人がほとんどだったのだ。それゆえ誰も声をあげる事は出来なかった。


先程とは打って変わって慌ただしくなった小屋の中で、ツヴァイは膨れっ面をして立っていた。



「もう!お父さんもお母さんもシンタローの事、教えられられないじゃない!」



その頃、警備員はというと、窓を覗き込みながら、ツヴァイが母親であろう女性と抱き合っているところを見て、少し安心していた。


しかし、自分の状況はまったく変わっていなかった。

ここは何処なのか、すり抜ける体、窓越しに声は聞こえるものの、まったく聞いたことのない言葉を使い、何を話しているのかわからなったのである。


慌ただしく動き回る人々の中、ファンだけはツヴァイの側に居た。



「ツヴァイちゃん、喉乾いていないかい?ファンタ持って来ようか?」



ファンはツヴァイが一晩中飲まず食わずで居たのではないか?と心配していたのだ。


ツヴァイは喉が乾いていたこともあり、小さく頷くと、テーブルの横にあるイスに座った。


ファンはファンタをテーブルに置くと、ツヴァイに話を聞き始めた。



「ツヴァイちゃん、いったい何処に行ってたんだい?オリアンもチェスハも物凄く心配してたんだから。」



「ゴクゴクゴク…プハ~!」



ツヴァイはコップに注がれたファンタを一気に飲み干すと、少し興奮したように、



「ねーねー、ファンおじさんて『勇者タロウ』のこと、よく知っているんでしょ!?」



するとファンは少し自慢気に、



「ん、まあな。なんせタロウと最初に戦ったのは俺だからな!もう少しで勝てたんだが、油断しちまって、金棒…武器を取られてしまってな。その時は、子供達を捜すのに忙しかったから負けてやったんだ。」



それを聞いたツヴァイは驚いた顔をして、



「スゴ~イ、ファンおじさんてホントは強いんだ。タロウに勝てるのはお父さんだけだと思ってた。」



「でも、このことは内緒にしといてくれないか?俺が強いのが知られると、挑戦してくるヤツが増えるだろ?そうすると、忙しすぎて『ファンタ』が作れなくなっちまう。

『ファンタ』が飲めなくなるの嫌だろ?だから内緒にな。」



ファンは唇に人指しを当て、ウインクをした。それを見たツヴァイは「ニヤリ」と笑い、



「わかった。ファンタが飲めなくなるのイヤだから、内緒にしとくね。

じゃあ、ファンおじさんて、シンタローより強いんだ。」



「え?…シン…タロウ?」



「うん!私ねシンタロー連れてきた!」



「え?なに?シンタロウ連れてきた?」



ツヴァイはこの小屋に来てからの事をファンに話した。そして、窓の外にシンタローが居ることを教えた。



「ほら!あそこに立ってる。」



ツヴァイが窓を指差すも、ファンには外の景色しか見えなかった。


するとツヴァイは、



「あ!そうか!」



と、いきなり立ち上がると、窓に向かって走り出した。


そして、



「バーン!!」



「ゴロン…」



壁に勢いよくぶつかったと思うと、後ろに倒れしまった。



「い、痛たたたたたた……あ、あれ?」



「ツヴァイちゃん!大丈…」



窓の外からその光景を見ていた警備員は、ツヴァイを抱き起こそうと、両手を小屋の中に突っ込んで来た。



「ツヴァイちゃん!!」



が、一足先にツヴァイの元に駆け付けたファンがツヴァイをヒョイと持ち上げ、



「ほら、誰も居ない。」



と、窓越しに外を見せ、誰も居ないことを確認させた。


しかしツヴァイには見えていた。さっきよりは薄くなってはいるが、警備員の姿はハッキリと見えていたのだ。


するとツヴァイは、ファンに持ち上げられたまま、窓を開け、



「シンタロー!これ食べて!!」



と、先程、自分がかじった残りの干し肉をシンタローの鼻先に突き出した。


警備員は少し驚いたが、ずっと窓の外から小屋の中を見ていた事で、ツヴァイの持っている物を食べれば、状況が変わるということは理解出来た。なによりツヴァイの真剣な表情がその事を物語っていた。


警備員はツヴァイの差し出した干し肉を手に取り口に入れた。


と、同時に、ツヴァイの表情が笑顔に変わった。

さらに、同時にファンの表情がひきつった。

干し肉がフラフラと宙に舞った瞬間、消えたかと思うと、そこに見たこともない服装の男性が現れたからだ。


ちょうどそこにオリアン達が帰って来た。



「くそ!やっぱり居ねえ…、ん?どうしたファン?ツヴァイを抱っこして?」



「お父さん!シンタロー!」



「あ?シンタローだ?」



ツヴァイが窓の外を指差すも、オリアンの位置からは見えず、不機嫌そうに答えた。


すると今度はファンが、



「オ、オリアン。窓の外、窓の外…」



ツヴァイを抱っこしていた為、両手を塞がれていたファンは、加尾を小刻みに揺らし、オリアンに窓の外を見るように促した。



「ん?外に誰か居るのか?」



オリアンは窓の外が見える位置まで歩くと、「ん~?」と目を細めて警備員を見た。


そして、



「お~!なんだ、ラウクン王子じゃねえか!わざわざ来てくれたのか!?城は大丈夫なのか?まあ入れ入れ。」



「い…いや…オリアン、違…」



ファンの制止も届かず、オリアンは再び外に出て行った。


いきなり肩を抱かれ驚いた警備員だったが、言葉が解る事、オリアンに敵対心が無いことがわかりオリアンのされるがまま、小屋の中に入って来た。


オリアンは警備員の姿に興味津々だった。



「この髪はどうした?タロウの真似か?服も見たこねえな、また新しい国から取り寄せたか?

オ~イ!ラウクン王子が直々に来て下さったぞ!


するとファンが、



「い、イヤ、だからラウクン王子じゃ…」



「あ?なに言ってんだファン?この顔、どう見たって、ラウクン王子…」



オリアンが言葉に詰まった事で、別人だということが伝わったと思ったファンは胸を撫で下ろした。しかし、



「あ!そうか。悪い悪い。今は国王だったな!なんか若返って見えたから、勘違いしてたぜ、アハハハハ!」



「い、イヤ、オリアン…」



再び勘違いを正そうとしたファンの目の前で、



「パコーン!!」



「痛て!何しやがる!!」



いきなりチェスハがオリアンの頭を叩いた。



「まったく、よく見なよ!その人はラウクン王子でもなけりゃ、国王でもないよ。

ごめんね、あんた。もしかしてツヴァイを連れて来てくれたのかい?」



すると警備員肩を抱いていたオリアンの手に力が入り、「グイッ」っと顔のすぐ近くまで警備員の顔は引き寄せられた。


そして舐め回すように見ると、



「誰だ!テメェ!!」



さらに、オリアンの手に力が入り、肩を抱く姿勢から、首を決める姿勢に変わった。



「もしかして、ツヴァイ達を連れ回していたのはテメェか!!」



先程とは違い、怒り狂うオリアンにビックリしていた警備員だったが、思ったより力が入っていない腕に、自分を攻撃する意志が無いのではと少し安心していた。


と、そこに、



「お父さんのバカ!!」



ツヴァイが駆け寄り、オリアンの足に蹴りを入れた。

これにはさすがのオリアンも驚いた。



「ツ、ツヴァイ…」



驚いたオリアンは警備員を離し、複雑な表情でツヴァイを見た。


そんなオリアンに対してツヴァイは、



「シンタローはね!優しいんだから!私を助けてくれたの!タロウの国で迷子になったのを、連れて来てくれたのよ!

そんなシンタローをいじめるお父さんなんてキライ!!」



オリアンは、始めて娘に「キライ」と言われた事がショックで床にへたり込んでしまった。


ツヴァイは更に、警備員に飛び付いた。


その光景を静かに見ていたチェスハは、



「ツヴァイがそこまで懐くなんて、貴方は悪い人じゃないみたいね。

でも、本当なの?タロウの国から来たって?」



それを聞いた警備員は、



「その「『タロウ』って人はよくわからないですが、この国とは違う事は確かです。ツヴァイちゃんが迷子になって、お父さんやお姉さんを捜していたら、いつの間にかここに来ていて…」



チェスハは少し考え込み、



「そう、じゃあリムカは一緒じゃないのね?貴方、名前はなんて言うの?」



「僕の名前は『倉…」



「シンタロー!!ユーリセンチを助けてくれる新しいタロウだよ!!」



ツヴァイが、警備員の腕の中で叫んだ。








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