王位継承編3〔新・太郎??〕


王位継承編3〔新・太郎??〕



ツヴァイが物音のする方向を見ると、大勢の人達が見た事も無い真っ白な服を着て、世話しなく動き回っていた。


床に座り込み、ボーゼンと見ていたツヴァイだったが、ここにいる全員が父親の『オサケ作り』の仲間だと思い、思いきって声をかけようとした。



「あ…あの…」



すると、一番手前にいた男性が、手を伸ばしながらツヴァイに向かって来た。


ツヴァイは、どんどん近付いて来る男性に恐怖を感じ、思わず叫んでしまった。



「キャ~!!!!」



ツヴァイは頭を抱え込み床に小さくなった。しかし男性はお構い無しにツヴァイを踏みつけ通り過ぎると、ツヴァイが出てきた扉の取っ手をつかみ、扉を開け中から白い塊のような物を取り出し、再びツヴァイを踏みつけて戻って行った。


ツヴァイは踏みつけられた瞬間、「痛!」と思ったが、すぐに「痛…くない?」と、自分の体を突き抜けている男性の足に目が行った。



「え!?な、なに??これ?」



何がなんだかわからないツヴァイは、男性が去った後、酒蔵に戻ろうと自分の出てきた扉の取っ手に手をかけた。



「スルッ…」



「え?????」



ツヴァイが取っ手を掴もうとしても、その手は取っ手をすり抜け掴むことは出来なかった。



「スルッ…スルッ…」



「え?え?なんで??」



何度掴もうとしても、手はすり抜けるばかりだった。

わけがわからず、再び床に座り込むと、



「お父さ~ん……!どこ~……?…」



泣きそうになりながら父親を呼んだが、誰1人として振り向く者は居らず、その部屋のテーブルには次々と美味しそうなケーキが並んで行った。


途方にくれるツヴァイだったが、部屋中に漂って来る甘い匂いに気付かぬはずはなかった。



「クンクン……あれ?何だろう?いい匂いがする。」



ユーリセンチには『生クリーム』は無かった。バターやチーズはあったのだが、太郎は『生クリーム』の作り方を知らなかったのだ。


すぐにツヴァイはテーブルの上を覗き込んだ。見たことも無い『それ』はツヴァイの心をわし掴みにした。


匂いは嗅いだことのある匂いに近かった。『ミルクセーキ』だ。ミルクに卵と砂糖を入れてかき混ぜた物をチェスハがよく作ってくれていたのだ。


しかし、テーブルに並んでいる物は飲み物ではなく、どう見ても食べ物だ。


しかも、1種類ではない。白い物、茶色い物、緑や黄色、中には果物を中に巻いてあるものもある。


初めて見る食べ物に、ツヴァイは回りの事も忘れ、ケーキを凝視していた。



ツヴァイが除き込んでいる間も、回りの大人達はツヴァイの体をすり抜け、いろんな種類のケーキを並べて行った。


ツヴァイは、どんどんすり抜けていく大人達を見て、ふと思った。



「もしかして、この人達、私が居るのがわからない?」



先程まで恐怖で泣きじゃくっていたツヴァイは、そこには居なかった。

目の前に並べられたケーキを見て、誰にも見られていないのなら、目の前の美味しそうな物を食べてもバレないのではないか。


という、ケーキを食べる欲求が恐怖を上回ったのだ。


ツヴァイはたまにチェスハの目を盗み、つまみ食いをしては怒られていた。

しかし、ここにはチェスハは居ない。さらに自分の姿は誰にも見られてない。まさに食べ放題の状況だ。



ツヴァイは唾を飲み込み、おそるおそるイチゴの乗ったショートケーキに手を伸ばした。


すると先程までは、ドアノブや人の体はすり抜けていたのに、ケーキはしっかりと掴めたのだ。


そして…



「パクリ!」



ツヴァイの目がパチクリと見開いた。



「お!お!美味しい~!!」



ツヴァイは、あまりの美味しさに、手当たり次第にケーキを掴み、口の中に詰め込んだ。


その時!



「おい!!何てことをしやがる!!!」



野太い声が部屋中に響いた。ツヴァイは思わず手を止め、声のした方向に顔を向けた。


するとそこには、恐ろしい形相をした男が、ツヴァイを睨み付けていた。


先程まで世話しなく動き回っていた人達もピタリと動きを止め、全員がツヴァイの顔を見ていた。



「あ…あれ?…み、見えてる?…の?」



するとその男は、



「おい!何処から入った?ここは関係者以外立入禁止だ!お父さんとお母さんは?」



男の口調は、厳しいながらも、まだ小さな女の子ということで、怒鳴るのを止め語りかけて来た。


しかし、ツヴァイは『お父さん』と『お母さん』につまみ食いしたことを知らされると思い、



「えい!」



と、持っていたケーキを男に投げつけ、すぐ近くにあった扉を開けると、部屋から飛び出した。



「あ!こら!待て!!」



すぐに次々とツヴァイを追って、部屋から数人出てきたが、その姿は少し追いかけると止まり、すぐに部屋へ戻って行った。


ツヴァイは物陰に隠れ、しばらく様子をみた。しかし誰も追いかけて来なかったので、静かに立ち上がると、回りを見ながら歩き始めた。


建物の廊下に居るのはすぐにわかったが、とても明るい、小さな太陽が天井に埋め込まれているようだ。


少し歩くと階段が見えてきた。下に降りる階段は無く、上に上がる階段だけだった。


ツヴァイは、おそるおそる階段を上がった。お城の階段みたいに絨毯じゅうたんはひいておらず、さっき見た床と同じでツルツルした石のように感じた。


階段を上がると、さらに明るい入り口が見えた。階段はまだ上に続いていたが、とりあえずツヴァイは、その明るい場所に少しだけ足を踏み入れた。



「ま!眩しい!!」



ツヴァイは、あまりの眩しさに目を閉じ顔を背けた。


すぐさま後戻りをし、階段の隅で気持ちを落ち着けた。



「び、びっくりした~…、外に出た?でも…そんな感じじゃ…」



ツヴァイは今度は薄目を開けながら、顔だけ中に入れてみた。



「うっわ~!!」



ツヴァイの目に映ったのは、到底建物とは思えない広さの部屋だった。

向かいの壁が全く見えない。そしてたくさんの人達。さらに数えきれない程の見たこともない洋服の数々。


ツヴァイはしばらくボーゼンとしていたが、ふとあることに気が付いた。



「あれ?子供が居ない?」



そこは婦人服売場がメインの場所だったのだ。店員はもちろん、客の殆どが大人だった。

中にはベビーカーを押している母親も居たが、ツヴァイは、まさか小さな押し車に赤ん坊を乗せているとは夢にも思っていなかった。



ツヴァイはオリアンの言葉を思い出した。



「ここは子供の来る所じゃねえ。」



ユーリセンチにも大人だけの店があった。オサケを専門としている店だ。


何軒かあったが、酔っ払い同士のケンカも少なからず起きており、店に入る事はもちろん近付く事さえ禁じられていた。



「ここは、きっと大人だけの部屋なんだ。」



ツヴァイはそこに入るのを止め、キョロキョロと辺りを見回した。



すると部屋の真ん中辺りに、階段のような物があるのを見つけた。


そこから大人だけでなく、自分と同じような年頃の子供達が上に行っているのも見えた。



「あそこから上に行けるんだ。上?」



ツヴァイは頭を突きだし、上に何があるのか見てみた。



「あ!」



上の階の天井付近には色とりどりの風船が飾られてあった。中には動物の形をしたのも見えた。



「何だろう?あれ…、綺麗!」



ツヴァイは風船を知らない。しかし、時折見える子供達が楽しそうに走り回る姿は、「きっと楽しい所にちがいない」と「行ってみたい」という衝動がツヴァイの体を動かそうとしていた。


が、「この部屋に子供は入っちゃダメ。真ん中の階段は、大人と一緒ならいいみたい。」



と、勝手に解釈をしたツヴァイが考え出した答えは、



「そうだ!さっきの階段にも上に行く階段があったはず!」



ツヴァイはすぐに引き返し、自分が上がって来た階段をさらに上に駆け上がった。



「ハアハアハアハア……、」



いつもユーリセンチでは野山を駆け回っているツヴァイだったが、階段を少し上がっただけで息切れをしている自分に驚いた。



「ハアハア…ち…ちょっと走っただけのに、なんでこんなに疲れるの?…」



が、その疲れもフロアに出た瞬間吹っ飛んだ。



「うわ~~!!!!すっご~い!!!」



天井にはイルカやクジラのアドバルーンが上がり、目の前にはキッズスペースで飛び跳ねる子供達。見回せばおもちゃ屋や、可愛らしい小物の店。ツヴァイは引き込まれるように入って行った。



「何?魚が空を飛んでいる?あのお店凄い。お母さんのお店もいっぱいあった可愛い物がいっぱいあったけど、それ以上!」



ツヴァイは、ここがユーリセンチではない事はわかっていた。しかし不思議と怖くなかった。まるで夢の中にいるみたいだったからだ。夢なら覚めると元に戻る。そんな感覚だったのだ。



ツヴァイはそんな夢を楽しみながら、フラフラと歩き回った。


しかし、すぐに現実にひきもどされたのである。


1人の男性がツヴァイに駆け寄り、話しかけて来た。



「お嬢ちゃん、ちょっといいかな?」



声をかけて来たのは警備員の男性だった。

地下の厨房で女の子がケーキにイタズラをして逃げたという通報があり、手分けして探していたのだった。


通報した男性も女の子の特徴が、あまりにも目立つ為、何か訳ありではないかと考え、追いかけ回すのを止めたというのだ。


確かにツヴァイは特徴が多かった。オリアン譲りの藍色の髪の毛、明るい照明に照らされると更に青色が強く目立つ。そしてチェスハ譲りの赤い瞳。

さらに出で立ちは、着物をカジュアルにしたような上半身、袖口はやたら広く肩に行くほどピッタリとしている。

にも関わらず下は皮の黒いミニスカート、何より特徴的なのは、口の回りにべったりと付いた生クリームだった。


実はツヴァイがこのフロアに足を踏み入れた時から、ツヴァイを見た客が

「迷子のような女の子がいる」

「コスプレをしている小さな女の子が1人で居る」

とサービスセンターに何軒も情報が集まっていたのだ。



警備員は優しくツヴァイに話しかけた。



「お嬢ちゃん。お父さんとお母さんは一緒じゃないのかな?」



ツヴァイはいきなり現れた男性に訳がわからず黙り込んだ。

ツヴァイを近くで見た警備員は、



「お嬢ちゃん、日本語わかる?」



外国人ではないかと思った警備員は、ゆっくりと話しかけてみた。



「ニホンゴ?何それ?」



ツヴァイは攻撃をしてこない警備員に、少し安心したのか話し始めた。


言葉が通じる事が確認出来た警備員は、ハンカチを取り出し、



「とりあえず、口の回りのクリームを拭こうか、可愛い顔が台無しだ。」



と、ハンカチでツヴァイの口元を拭いた。


ツヴァイは、口元に付いたクリームと聞いて、ケーキを食べて怒鳴られた事を思い出し一瞬顔がこわばった。

しかし警備員の優しい笑顔が崩れる事がなかったので、そのままされるがままだった。



「さ、これで綺麗になった。改めて聞くけど、今日は、誰とここに来たの?」



警備員は他の人の邪魔にならないよう、ツヴァイをフロアの隅にあるベンチに座らせながら聞いた。


ツヴァイはどことなく見たことあるような男性の顔に安心したのか、小さな声で話し始めた。



「お父さんに手紙を渡しに山小屋に来たら、ここに来たの。でもこんな所、来たこと無いし、帰りたくても帰れなくて…」



「1人で来たの?」



「ううん、お姉ちゃんと一瞬に。」



「そのお姉ちゃんはどこに居るの?」



「わかんない。何か探しに出掛けた。」



「それはお父さんを探しに行ったのかな?」



「ううん、違うよ。何か大切な人。お姉ちゃんは「未来の旦那様」って言ってた。



「ん?未来の旦那様?恋人の事か?

ま、いいか。姉妹で父親に会いに来て、初めての土地で迷い、姉ともはぐれて、ここに来たってとこか、たまたま迷い込んだ厨房で、お腹が減ってケーキをつまみ食いしたんだろうな。厨房はいつもいい匂いがするからな。」



と、警備員は思った。



「わかった。僕も『お父さん』と『おねえさん』を捜すのを手伝うよ。もしかしたら2人とも、この建物中に居て、君を探しているかもしれないからね。」



警備員はいつものように手帳を取り出し、ツヴァイに名前を聞いた。



「お嬢ちゃんの名前は何かな?」



すると、



「ツヴァイ。」



「ツヴァイ?変わった名前だね。名字は?いや、え~っとそれはファーストネーム?ラストネーム?」



ツヴァイは首を傾け、



「みょうじ?らすとねーむ?ツヴァイはツヴァイだよ。ただのツヴァイ。」



それを聞いた警備員は、



「ただのツヴァイ?ハーフ?ただの?ん?どこかで…」



警備員はツヴァイの両親のどちらかが日本人だと思った。それなら日本語が上手なのも納得が出来る。



「お父さんとお母さんの名前はわかる?あと、お姉さんの名前も。」



するとツヴァイは、



「お父さんは『オリアン』お母さん」『チェスハ』お姉ちゃんは『リムカ』だよ。」



警備員は納得した頭が、再び混乱した。



「全員外国人?日本人が居ない?祖父母が日本人だったのか?」



警備員は混乱しながらも、一人ぼっちになったツヴァイを元気づけようと、自分のネームプレートを見せながら、



「わかった!ツヴァイちゃん。お父さんとお姉さんは必ず僕が見つけてあげるからね。

僕の名前はね、『倉…』」



「進太郎~!!!!進太郎~~!!!!!」



警備員がツヴァイに名前を教えようとした時、どこからか女性の悲痛な叫び声が聞こえてきた。


警備員は、すぐにその声に振り向いた。警備員に気が付いた女性は早足で近付くと、



「警備員さん!進太郎が!進太郎が居なくなったんです!!!」



それを間近で聞いていたツヴァイは、



「シン・タロウ?新タロウ?」



ツヴァイは『タロウ』の名前に反応した。家族から『勇者タロウ』の話は生まれた時から、さんざん聞かされていたからだ。


女性の話によると、数分の間ベビーカーから目を離した隙に赤ん坊が居なくなったというのだ。

話を聞いた警備員は、ツヴァイの両肩に手を置くと、



「ツヴァイちゃんはここに居てね。動いちゃダメだよ。すぐに仲間のお姉さんが迎えに来るからね。」



そう言うと、警備員は無線で状況を知らせ、女性の後について行った。


ツヴァイは警備員の後ろ姿を見ながら、



「あの人、『シンタロウ』って呼ばれてた。『新・タロウ』って、『新しいタロウ』なんだよね。

お父さんはいつも言ってた『タロウならこの国を守ってくれる!』あの人が『タロウ』なら国王様を助けてくれるかも!」



ツヴァイが警備員を追いかけようと、ベンチから立ち上がった時、自分の出て来た『非常階段』の入口にモゾモゾと動く物体が居ることに気が付いた。


ツヴァイは目を凝らし、その物体が何かを確認した。すると、



「赤ちゃん??!!!」



そこにはハイハイをしながら、非常階段に向かって行く、赤ん坊の姿があったのだ。


やっと掴まり立ちが出来るぐらいだろうか、イスに手をかけ立ち上がると、ヨタヨタと非常口に入って行った。それを見たツヴァイは、



「大変!!あそこには階段があるのに!!」



ツヴァイは小さい頃、階段から落ちた事があった。お城の階段でリムカと遊んでいた時だ。

しかし、お城の階段には絨毯が敷き詰められていたため、ケガも無く無事だった。

が、その時の恐怖と痛みはツヴァイの体に刻み込まれていた。



「あの階段は、絨毯も轢いていない!石のように固くて尖っていた。もし落ちたら…大変!!」



ツヴァイはすぐに赤ん坊を追いかけて捕まえた。

しかし、赤ん坊はツヴァイに両手でしっかりと体を抱えられているにもかかわらず、そのツヴァイをものともせずに、引きずったままハイハイしながら、下り階段に向かって行った。


ツヴァイは、赤ん坊の力強さにビックリしながらも、



「ダメだったら!そっちに行ったらケガするから!!!

だ…ダメだ…止まらない…、だ!誰か!…シ、シンタロー!!!シンタロー!!助けて~!!!!!」



ツヴァイは思わずシンタロウの名前を叫んだ。

その間にも、階段は目の前に迫って来た。


ツヴァイは渾身の力を込めて、赤ん坊を止めようとした。



「この!と~ま~れ~~!!!!!」



すると、



「ピタッ!」



と、同時に「フワッ」と赤ん坊の体が軽くなった。



「ツヴァイちゃん!」



聞き覚えのある声に、ツヴァイは振り向いた。



「あ!」



「良かった!ツヴァイちゃんが見つけてくれたんだね。ありがとう。」



警備員は片手で赤ん坊を抱きかかえながら、残りの手でツヴァイのあたまを撫でた。



ツヴァイは「ホッ」としたのか、



「で、でもね…止まらなかったの……一生懸命止めよう止めようとしたけど、止まらなかったの…、エ~ン!エ~ン!」



ツヴァイは泣きながら、警備員に泣きついた。


そこに母親が現れ、



「進太郎!進太郎!!」



と、警備員から赤ん坊を受け取り号泣した。

すると、警備員が、



「お母さん、この子が見つけてくれたんですよ。」



と、ツヴァイを母親に紹介した。すると、母親はツヴァイを抱き締め、



「お嬢ちゃん。本当にありがとうね。お父さんと、お母さんにもお礼をいわなくちゃ。」



すると、警備員が、



「あ!すいません。この子も迷子だったんです…、両親には僕から言っておきますから、赤ん坊もケガも無いようですし、今日はこのまま帰って貰っても大丈夫ですよ。」



「わかりました。本当にご迷惑をかけて申し訳ありませんでした。お嬢ちゃん、本当にありがとうね。」



母親は何度も頭を下げ、ツヴァイの頭を撫でると帰って行った。



「さて!今度はツヴァイちゃんのお父さんを捜さないとな。」



警備員は、ツヴァイの涙を拭きながら、優しく微笑んだ。


ツヴァイは警備員の顔を見ると、



「シンタロー!来て!!」



と、警備員の袖を掴み、階段に引っ張って行こうとした。


いきなりの行動に、戸惑う警備員だったが、



「もしかして、何かを思い出した?地下ではぐれたのかも?」



「早く!」



警備員は言われるがままに、ツヴァイについて行った。そして走りながら、



「ツヴァイちゃん!何か思い出したの?それから僕の名前は『進太郎』じゃなくて…」



「この部屋!」



ツヴァイは最初に居た部屋に飛び込んだ。



「ここは厨房?」



警備員も厨房に入った。匂いは残っていたものの、テーブルの上に置いてあったケーキは全て無くなり、従業員も居なかった。



「あの扉!!」



ツヴァイは厨房に入ると同時に、自分が出て来

巨大な『冷蔵庫』を指差した。


それを見た警備員は、



「あ、あれって冷蔵庫じゃないか!ハッ!も、もしかして、お姉さんか、お父さんが閉じ込められている?!!!」



そう思った警備員は、すぐに助け出そうと扉のノブに手をかけた。



「ガチャ!」



「大丈夫ですか!!…あ?あれ?」



警備員が驚くのも無理はなかった。冷蔵庫の中に入ったハズなのに、今、居る所は酒の匂いが立ちこめる薄暗い小屋だったのだ。


警備員が、辺りをキョロキョロ見渡していると、



「良かった~!お父さんの小屋に帰って来た~!!」



と、ツヴァイの喜ぶ声が聞こえたのだ。




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