番外編37〔さようなら異世界〕その1


番外編37〔さようなら異世界〕その1



〔第1回美しき女性達による剣技大会〕は劇的?なチェスハの優勝で幕を閉じた。


とはいうものの、エミナー、ニーサの途中離脱、ミウの乱入と、なによりチェスハ本人が優勝を認めないものだから、ただの ラウクン国王誕生を記念した『エキシビジョン』になってしまった。


本来なら、優勝者にラウクン国王から『純金の剣』が貰えるハズなのだが、チェスハは断固としてこれを拒否!

ラウクン国王が競技場の真ん中で待っているにもかかわらず、姿を現さなかった。


仕方がないので、次の試合の為に試合場まで来ていたオリアンに、チェスハの代わりとして『剣』を渡そうとしたが、オリアンもこれを拒否。しかし、


「ラウクン国王、俺はチェスハの代わりに、その『剣』を受けとるつもりはねえ!

だけどよ、次の試合でタロウに勝ったら、その『黄金の剣』を記念として受け取ろうじゃねえか。それでどうだ?」


それを聞いたラウクンは、


「オリアン?お主は本当にタロウに勝つつもりなのか?タロウの強さは、お主が一番よく知っているだろう?」


するとオリアンは、「ニヤリ」と笑みを浮かべ、


「ああ、よく知っている。アイツがここに来た時から、何かと一緒に居たからな。『恩』もあるし『情』もある。

ただアイツは、これを最後に、ここには来ない気がするんだ。

今のこの国に『勇者』は必要ねえ。そうだろ?ラウクンよ。」


「まあ、そうだな。これだけ大きな国になった今、国を脅かすような事も起こらないだろう。

もし、何かあったとしても、お主達が居るからな。それに、タロウのおかげで財政にも全く困らなくなった。逆にどう使おうか、迷っているところだ。ハハハ…」


と、ラウクンは辺りを見回しながら笑った。が、その顔は、なんだか寂しそうでもあった。


すると、オリアンは「ポン!」と手を叩き、


「そうだ!タロウの力を、みんなに見せるってのはどうだ?

ここにいるほとんどのヤツは、タロウの力を見たことのねえヤツらばかりだ。

噂しか聞いてねえから、他の国から来たヤツなんかは実在しねえと言いやがる。

さらには、俺が『黒龍』を手懐けたから、他の国が逆らえなくなって国が大きくなった。って言うヤツも居るくらいだ。

今ここですぐにタロウと俺が試合をして、もし俺が勝ってみろ、「なんだ…ただの子供じゃねえか。」「やっぱり噂はデタラメだったんだ。」てな事になってしまうぜ。」


すると、ラウクンは腕組みをしながら、


「確かにあれから10年以上経っているからな、もともと小さな国だったし、『聖戦』と言っても世界の国々から見れば、ただの親子喧嘩みたいな物だったからな。

まあ、一番の理由は、あの見た目だろうな…」


と、ラウクンとオリアンは、同時に僕を見た。


すると、オリアンはタメ息をつきながら、


「はあ…、もう少し強そうなら、真実味があるんだがな…」


「そうだろうな…、今、街で『タロウ』が何と言われているか知ってるか?」


と、ラウクンが呆れたように言うと、


「ああ、知ってる…

発明料理職人『タロウ』!」

「発明料理職人『タロウ』!」


と、2人声を揃えて言った。


「ったく、『勇者』の欠片もねえじゃねえか!…」


と、頭をかきながら言っているオリアンに、ラウクンは、


「しかし、どうやって、タロウの力を見せつけるのだ?」


すると、オリアンは、ラウクンの持っていた『黄金の剣』を指差して、


「それだよ、それ。『黄金の剣』をエサに剣士を集める。付加価値も付けてな。」


「付加価値?」


「ああ、もし『タロウ』から1本とった者は、今、俺が居る『国王軍総大将』の地位をやる。ってな。そして俺は国王軍を抜ける。」


それを聞いたラウクンは、少し不安そうに、


「しかし、今、お前に居なくなられては、私が困るではないか…」


いくさも何もねえ、今のこの国じゃ、俺なんかお飾りみたいなもんだ。それにタロウが負けるとでも思っているのか?」


「まあ、それもそうだが…、しかし、タロウに挑戦する者はいるのか?タロウの実力を知っている者ならなおさら…」


「そいつは心配いらねえ、タロウも言ってたって言ったろ、この国の男達は、どうしようもない『戦闘バカ』ばかりだって。

何度も言ってるが『強さ』は、力や体のデカさは関係ねえ。タロウはそれをラクの試合で証明した。

その瞬間、手の届かねえと思っていた俺やタロウまで届く事がわかったんだ。手を伸ばすに決まってるだろうが。

武器の使用は何でもありだ!本物でも構わねえ、ただし飛び道具は無しだがな。観客に当たるといけねえ。

とりあえず、お前はこの事を審判に話して来い。俺はタロウと男達を焚き付けて来る。」


ラウクンは大きく頷くと、


「わかった、そちらはお主に任せよう。頼んだぞ。オリアン。」


と、言い残し、ラウクンは審判の元に、オリアンはタロウの元に向かって行った。




審判の所に行ったラウクンは、審判に先程オリアンと決めた事を話した。


審判の驚きようは半端ではなかったが、一度もタロウの闘いを見ていない審判にとっては、タロウの闘いが何度も間近で見れるこの提案は、この上ない幸せでもあった。

この男も類を見ない『戦闘バカ』であった。


そして審判は、タロウの試合を今や遅しと、待つ観客達に、この事を伝えた。



「え~!!ただいまラウクン国王より、御達しが御座いました。

今!ここに居る『タロウ』が本物の『勇者タロウ』か見定めたいとの事です!したがって、オリアン対タロウの試合の前に、タロウに挑戦する者達を集います!!!!

もし、タロウから1本でも取ることが出来た者には、ラウクン国王より『黄金の剣』と『国王軍総大将』の地位が与えられます!!!

武器は飛び道工以外は何でもあり!本物でもかまいません!我こそ!と思う戦士の方が居たら、この試合会場に集まって下さい!!!」



審判の話が終わると、少しの静寂のあと、地響きのような歓声が上がった。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおお~~~~!!!!!!!!」

「マジか!武器は本物って?!」

「本物のタロウが見れるのか!?」


その審判の声は、もちろん僕やミウにも届いていた。

僕もミウも初めて聞く内容に、お互いの顔を見合わせた。


ちょうどその時、オリアンが目の前に現れた。


僕は慌ててオリアンに尋ねた。


「ち!ちょっとオリアン!?今の話は一体…」


すると、オリアンは、表情を少しも変えず、


「ん?聞いての通りだ。お前が本物がどうか見たいんだと。」


僕は、さらに詰め寄り、


「ほ、本物かどうか?って、本物に決まっているじゃない!オリアンならわかるでしょ!?」


オリアンは、困ったフリをしながら、


「もちろんだ!俺や城の者達は、お前は本物の『タロウ』だって知っているさ、

だだな~、他の国から来た者達はな~、見たこと無いからな~、お前が戦っているところ…

スラインも帰ったし、お前が自分で証明するのが一番手っ取り早いかなってな。」


「手っ取り早いって…、もし何十人も、挑戦者が居たらどうするの…、このあとオリアンとも闘わなくちゃいけないのに…」


この時、僕は「ハッ」っと思い付いた。

オリアンは自分との闘いの前に、僕の体力を少しでも削っておく作戦ではないのかと。


すると、オリアンは、


「何言ってやがる。3万の敵を暴れたヤツが数十人で泣き言うか?普通…」


と、呆れたように言った。さらにオリアンは、


「それにだ、ここにいる連中は、少なからず『タロウ』と闘ってみたいと思っている奴らばかりなんだ。俺も含めてな。

もちろん、お前に勝てるなんて思っちゃいねえ、ただ、お前みたいなバケモンと剣を交えることなんて、一生に一度あるかねえかだ。

ここはひとつ、みんなの夢を叶えてやってくれねえか?頼む、この通りだ。」


と、オリアンはいきなり頭を下げた。


それを見た僕はビックリして、


「オ!オリアン!何やってるの!?頭を上げて下さい!

も~、わかりました。やります、やりますから。誰の挑戦でも受けますから。」


するとオリアンは、頭を上げながら、


「お前なら、そう言ってくれると思っていたぜ!」


と、僕の手を取り喜んだ。さらに、


「実はよ、内緒にしてたけど、ファンの奴、新しい金棒をチェスハに頼んで作ってもらってたんだぜ。「タロウをぶっ飛ばせるような金棒を。」って注文してな。

そうだろ!ファン!!」


と、僕に耳打ちしたかと思うと、会場の隅で隠れるようにしていたファンに、大声で叫んだ。


それに気付いたファンは、


「オ!オリアン!!そ、それは内緒だって…」


すると、オリアンはさらに声を大きくし、


「何言ってやがる、粉々にされた金棒の『仇』だって言ってたじゃねえか、チェスハもノリノリだったよな!?」


と、チェスハにも向かって言った。


すると、チェスハは、


「ああ、作ってやったぞ!うちの親父の最後で最高の傑作品だ!ファンの『へなちょこ金棒』とはわけが違う!へし折れるならへし折ってみな!!」


と、自信満々にアピールした。が、ミウの後ろに隠れている姿では、説得力がまるで無かった。


すると、オリアンは会場に向かって、さらにけしかけるように、


「他には居ねえのか!!?この際誰でもいいぜ!衛兵だろうが、他の国のヤツだろうが、タロウと闘うってヤツは居ねえのか!?」


すると、オリアンの呼び掛けに答えて、意外な人物が名乗りを上げた。



「僕、やってみようかな?」


その声の主は『ラク』だった。10年前とは違い、たくましく成長して、立派な青年になっていた。

夜戦を得意とし、闇夜の戦闘では右に出るものは居なかった。


「他には?!」


オリアンの声に、


「ラクがやると言うのに、俺がやらないと言えるか!!」


当然のように、セオシルも名乗りを上げた。


すると、オリアンは、


「ふぅ、まあいい。あとは衛兵全員で、一斉にかかれ。」


と、半分投げやりな感じで、衛兵達に命令をした。そんなオリアンを見て僕は、



「もう、ケガしても知らないからね。」


と、嫌々試合会場に入って行った。しかし、また力を見せれる事に少し嬉しくなっていた。特に、ダシールやリムカにはカッコいい所を見せたかったのだ。


そして、会場の真ん中まで行くと、審判に挨拶をした。


「よろしくお願いします。」


と、頭を下げると、


「いやいや、タロウ様の試合に、審判は必要無いでしょうが、是非とも間近で見させて頂きます。そして、後世に語り継ぎたいと思います。」


と、審判も頭を下げた。



「さてと、最初の相手は誰からかな?」


と、僕は肩のストレッチをしながら審判から目線を外し正面を向くと、いつの間にかラクが視線の先に立っていた。


それを見たセオシルは、


「あ!アイツいつの間に!?」


セオシルだけではなかった。その場所に居た全員が、ラクがいつ会場に上がったのか、わからなかったのである。


ラクの能力『いつの間にかそこに』も磨きをかけて、鋭さ?を増していた。


僕は、最初の相手がラクだとわかると、


「どうやって、闘おうかな?ミウも見ているから、ケガさせたくないし。」


と、考えながら辺りを見回していると、地面に「キラリ!」と光る『何か』が落ちていた。


手に取ってみると、金属の破片のようだった。

手の平に丁度収まる位の大きさで、前に行われた激しい闘いの最中、プロテクターの一部が欠けたのか、剥がれてしまったのであろう。

僕は、鏡のように反射する光を見て、ある作戦を思い付いた。


「ラクはミウと一緒で目が凄く良かったよな…だったら使えるかも…」



お互いが距離を取り、対峙すると審判が少し緊張したように、


「え~、それではこれより、タロウ様による模擬試合を行います。」


と、こっちが拍子抜けするような丁寧口調で試合の説明を行った。


とはいえ、観客達も初めてタロウが闘っているところを見れるとあって、歓声どころか、生唾を飲み込む音さえ聴こえて来そうな静寂が会場を包んだ。


審判が、僕の方をチラッと見たので、コクリと小さく頷いた。すると、


「無制限一本勝負!始め!!」


と、審判の声が静寂の中、響き渡った。


僕はすぐに動かず、ラクの動きを見た。が、ラクは全く動く気配が無かった。

剣を構えてはいるものの、微動だにしなかったのだ。


ラクの闘い方を知っている僕は、その姿は当然のように思えた。


ラクは、相手に気付かれないうちに距離を詰めてくるのが、いつもの作戦だからだ。


動いていないようで、近付いて来る、それがラクだった。


そんなラクに対して、僕は構えもせずに、ダラリと下ろしていた右手を、ゆっくりとラクに向かって伸ばした。

そして、右手が水平になると「ハッ!」っと気合いのような掛け声を放つと、同時に手の平をラクの顔に向けた。


その瞬間、


「ア"ッ!!」


ラクは小さな悲鳴とも取れる声を発すると、剣と盾をを地面に落とし、両手で顔を覆った。そして、


「め!目が~~!!」


と、叫びながら、もんどりうって膝をついた。



何が起こったのかわからない観客や審判は、呆気に取られ、再び静寂が会場を包み込んだ。


そんな静寂の中、僕は右手を下ろすと、ゆっくりとラクに近付いた。


すぐ目の前に、何かの気配を感じたラクは顔を上げ、左右に首を動かしたが、目の見えないラクはどうすることも出来なかった。


僕は、そんなラクの肩に「ポンッ」と手を置くと、


「大丈夫だよ、ラク。すぐに見えるようになるから。」


と、声をかけた。すると、


「タ…タロウ兄ちゃん?今、何かしたの?」


と、落ち着きを取り戻したのか、肩に置いた僕の手を掴み、立ち上がりながら言った。


ラクは、僕が物凄い速さで攻撃をしてくると思い、どんな小さな動きも見逃さないよう、目を見開き凝視していたのだ。

そんな所に強烈な光が入って来たのだ、たまったものではない。


ラクの問い掛けに僕は、


「ん?ちょっとね、太陽の光を貸して貰った。」


すると、ラクは、


「太陽の光?貸して貰った?」


と、的を獲てない答えに戸惑っていたが、『太陽の光』のワードで、前に太陽を直接見てしまい、目が見えなくなった時の事を思い出した。



僕がラクの肩に手をやっている頃、会場中もざわめき初めていた。


「何だ?いまの?タロウが何かしたのか?」

「右手を上げただけでラクが苦しみ出したぞ!」

「何かを投げたんじゃ?」

「だとしたら反則だぜ?」



それは、チェスハやオリアンも同じだった。


ミウと一緒にいたチェスハは、


「ミウ!あれは何だ?タロウは何をしたんだ?」


とミウに聞くも、ミウは首を傾け、


「私にもわからないわ。力が強くなって、速く動ける事しか知らないから…」


するとチェスハは、近くに居たオリアンに、


「オリアン!見えたか?タロウの奴何をした?飛び道工か?『手裏剣』の新しいヤツか?」


すると、オリアンは、


「いや、ラクの顔を見てみろ、キズ1つ付いちゃいねえ、飛び道具なんかじゃねえな。涙目になってるところをみると、何らかの方法でラクの目を潰しやがった。」


「目を潰す!!?」


オリアンの説明を聞いたミウは、青ざめながら叫んだ。


それに気が付いたオリアンは、


「いや…『潰す』と言っても、一時的に見えなくするだけだ。すぐに元通りになる。強い光を浴びた時みたいにな。」


その時オリアンは、自分の言葉で、「ハッ」っと思い付いた。


「まさかアイツ…手の平から光を出しやがった!?でもどうやって?」



そんなあちこちのざわめきの中、ラクはおぼろ気に見えるようになった目で僕を見ながら、


「やっぱり凄いや、タロウ兄ちゃんは。僕もまだまだだね。」


それを聞いた僕は、少し照れながら、


「うん、そうだね。でも世の中にはラクの知らない事が一杯あるんだ。

たまたま僕がラクより多くの事を知っている。ただそれだけの事なんだ。いろんな事に興味を持って知識を増やして行けば、ラクはもっと強くなれる。

保証するよ、なんたってミウの弟なんだから。」


するとラクは大きく頷き、


「うん!タロウ兄ちゃんの弟でもあるからね!」


そう僕に言うと、審判に向かって両手を上げ、


「審判!降参します!」


と、元気よく告げた。


それを聞いた審判は、大きく頷きながら、


「ラクの降参により!タロウの勝利とします!!!」



すると、会場からは、


「うおおお~~~~!!!!…」


という、いつもの大歓声が起きると思ったが、


「なんだ?今の?ラクの降参?」

「タロウは何もしていないよな?」

「もしかしてヤラセか?」

「本当に本物のタロウなのか?」


と、会場はさらにざわつき始め、逆に僕が別人ではないかと疑い始めた人達もいた。


確かに噂のようにド派手な闘いを望んでいた者にとっては、『鏡を使った目眩めくらまし 』は地味に見えたに違いない。


しかし、まともに闘ってラクにケガでもさせたら、ミウに申し訳ない。そっちの思いが強く、観客の言葉を無視することにした。

信じて貰えなければ、最後に暴れればいいとさえ思った。


ラクは、審判と僕に一礼すると、試合場から下りて行った。

そして入れ違いに、セオシルが今までに無いぐらい真剣な顔をして、上がって来た。


セオシルがラクとすれ違いざまに、何かを話していたが、多分『光』の事だろうと予測はついた。



ラクは、試合場から下りるとすぐにオリアンの所に行った。

多分、いつものクセだろう、模擬戦、練習等の後の反省会みたいなものだ。


しかし、今回は、オリアンがラクに聞きまくった。


「ラク!何があった!?何をされた?アイツは、どうやって光を出した!?」


それを聞いたラクは、タロウの攻撃が『光』だった事に、オリアンが気付いた事に驚きながらも、


「はい…『光』でした。でもわからないんです。タロウ兄ちゃんの手の平がいきなり光って、何も見えなくなったんです。」


それを聞いたオリアンは、自分の手の平を見つめながら、


「手の平が光っただと…」


と、隣でミウとチェスハも、同じように自分の手の平を見つめていた。するとラクは思い出したように、


「あ!「太陽の光を貸して貰った」とも言ってました。」


「あ?太陽を貸して貰った?」


と、今度は目を細めながら、太陽を見つめた。

すると、隣でも、同じように目を細める、ミウとチェスハの姿があった。


「まったくあの野郎、どこまで底が知れねえんだ。」


と、オリアンは完全勝利と思っていた自分の戦法に少しの不安を覚えた。


「ふん、まあいい。次のセオシルとの勝負で何かわかるかもしれねえ。

アイツは『バカ』がつくぐらい優しいからな、知り合いにケガをさせたくなくて、光の攻撃を選んだんだろう。」


すると、ミウは、


「うん、タロウは優しい。」


と、ポツリと呟いた。


「じゃあ何か?タロウはセオシルにも同じ攻撃をすると?」


と、チェスハはオリアンに尋ねた。


「まあ、そうだろうな。ただ、目潰し位じゃ、セオシルは降参しないだろうから、何らかの攻撃はすると思うぜ、何せアイツはラクと違って頑丈だからな。」



そして、セオシルが試合場に上がったと同時に、セオシルの横をすり抜けて上がって来た子供達が居た。


「あ!コラ!お前達!!」


慌てるセオシルを完全に無視をし、2人の子供達は、一直線に僕に向かって走って来た。


「お兄ちゃ~ん!」

「タロウお兄ちゃ~ん!」


それは、セオシルの子供の『ロード』と『マイ』だった。


すると、ロードがいきなり僕に向かって、


「ねえ、お兄ちゃん。さっき手が「ピカッ!」って光ったでしょ?あれ、どうやったの?」


僕は驚いて、


「え!?君達、見えたの?」


すると、今度はマイが、


「うん、お兄ちゃんが、手を動かした時、「ピカッ」って。」



どうやら、ロードとマイは、ラクの後ろで試合を見てたらしく、僕がラクの足元から光を上げているとき、ちょうど目に入ったらしい。


僕は、口で説明するより、見せた方が早いと思い、破片を持っていない左手で、地面を指差しながら右手を動かした。


するとロードが、


「あ!何か動いてる!」


そしてマイも、


「何あれ?早~い!」


と、左右に素早く動く光の影を、追いかけるように走り出した。


僕は、わざと子供達の反対方向に影を動かした。その影を追いかける姿は、まるで子猫のようだった。


自分達が止まれば、影も止まり、捕まえに行くと素早く逃げる。

子供達は興味津々だ。そして、たまに僕を見て、影をどう操っているのかを観察していた。


僕は、そんな子供達に、


「ねえ、君達もやってみる?」


と、言ってみた。


もちろん、断るハズがない。「やるやるやる!」と言いながら、僕にしがみついて来た。



ちょうどそこに、セオシルが怖い表情でやって来た。


「コラ!お前達!ここは試合をする者が上がる場所だ!!子供のお前達が来る所じゃない!さっさと下りろ!」


セオシルに怒られた2人は、シュンとして、


「ごめんなさい」

「ごめんなさい」


と、仲良く謝った。するとセオシルは、


「すまなかったな、タロウ。さあ、始めようか。」


そんなセオシルに僕は、


「ねえ、セオシル。僕と試合をする前に、この子達と試合をしてみない?」


すると、セオシルは目を見開き、ビックリした様子で、


「はあ?!コイツらと試合?!?」


ロードとマイも、ビックリした様子だった。


「え!?僕たちがお父さんと試合??!」


僕は大きく頷くと、


「そう、試合。ただし、セオシルは攻撃無しね。もし当たって子供達がケガしちゃダメだから。

セオシルは子供達の攻撃を防いだら勝ち、子供達は、セオシルから1本取ったら勝ち。それでいいかな?」


すると、セオシルは、


「タロウはどうするんだ?」


「僕は何もしないよ、ここに立っているだけだから。」


それを聞いたセオシルは、面倒臭そうに、


「わかった、わかった。さっさとやって、お前との試合をするぞ。」


と、僕を睨み付けながら言った。


そんなセオシルを、僕は手で「シッシッ」と払うようにしながら、


「ホラホラ、早く開始線に行って。」


と、追い払うように言った。


その光景を見ていたオリアンは、


「なんだ?アイツら?ガキも一緒にセオシルと闘わせる気か?」



セオシルが、開始線に歩いて行く間、僕はロードとマイに、僕の知っている中で、一番有名な『気功砲』のポーズを教えた。


作戦はこうだ、ロードとマイが気功砲を打つフリをして、その瞬間、僕が子供達の後ろから鏡の光をセオシルの顔に当て、目が見えなくなったら、子供達が攻撃するというものだった。


「僕は何もしない」と言ったのを聞いたセオシルは、あきらかに油断していた。


「フッフッフ、セオシル君。すでに勝負は始まっているのだよ。」


などと思いながら、子供達に説明していると、


「ねえ、タロウお兄ちゃん。本当に僕たちが、お父さんに勝てるの?お父さん、むちゃくちゃ強いんだよ。」


と、ロードが心配そうに聞いてきた。


「う~ん、確かに強いんだけど、単純だからね~。」


「単純?」


マイは、僕の使った『単純』の意味がわからなかったようだ。すると、ロードが、


「僕、知ってる。『バカ』って事でしょ?」


すると、マイが、


「お父さん、バカなの?」


その瞬間、僕達の話を覗き込むように聞いていた審判が、思わず吹き出しそうになった。



僕は、自分が言い出した事とはいえ、このままでは、セオシルの父親としての威厳が無くなると思い、


「いやいや、お父さんは、素直なんだよ。なんでも信じちゃう。ここまで強くなったのも、僕の言った事を信じて修練したからなんだ。

まあ、そこがいい所でもあり、悪い所でもあるんだけどな…」


そして、その様子を見ていたセオシルは、僕達に向かって、


「おい!タロウ!何か俺の悪口を言ってるんじゃないだろうな!さっさと始めるぞ。」


と、叫んできた。


僕は、


「いいよ~!始めよう!」


と、セオシルに向かって叫んだ。と、同時に審審判に、


「お願いします。」


と、頭を下げた。


それを聞いた審判は、


「それでは!これより!セオシル対タロウ及び子供達の試合を行います!!!」



すると、観客席からは、


「なんだなんだ?子供が試合だって?」

「あれは、セオシルの子供達か?」

「いくらタロウがついていたって、子供はセオシルに勝てないだろ。」


観客達がざわつく中、いつの間にか、ミウの側にナカリーの姿があった。


心配そうなナカリーを見て、ミウは、


「大丈夫よ、ナカリー。タロウは子供達にケガなんか絶対させないから。いざとなったら私だって…」


と、ナカリーに告げた。そして、



「無制限!一本勝負始め!!」


審判の声が、ざわつく会場に響いた。


すると、子供達が、


「か~め~は~め~…」

「か~め~は~め~…」


と、声を揃えて、例のポーズを始めた。


観客達は、初めて見る動きに、何が始まるのかと話すのを止め、2人の動きに注目をした。


そしてそれは、セオシルも同じであった。初めて見る動きに戸惑いを隠せず、なおかつそれを教えたのが、タロウということもあり、下手に動くと何をされるかわからないという恐怖も重なり、ただ子供達を見る事しか出来なかった。


そしてその目線の先には、子供達の後ろにしゃがみ込み、子供達と同じ目線でセオシルを見ているタロウが居た。


そして、


「ヤー!」

「ヤー!」


と、ロードとマイが同時に叫んだ。


僕は、「え?『ヤー!』『!』じゃないの?」と、教えた掛け声と少し違う事にビックリし、さらにそのポーズが、あきらかに『三人組』のアレに似ていたので、思わず吹き出しそうになったが、打ち合わせ通り掛け声に合わせて、鏡の光をセオシルの顔に当てた。



「な"っ"!!」


セオシルも、ラク同様、声にならない叫び声をあげ、顔を左右に振ったり、腕で目をこすった。


そして、


「今だ!」


僕の合図と共に、ロードとマイが、セオシルの所に行き、僕の渡したトンファーで、セオシルの足をボコボコに、叩きまくった。


「エイ!エイ!エイ!」

「ター!エイ!ヤー!」


セオシルは、足の痛みよりも、目のダメージの方が大きかった。

何も見えなくなる事が、こんなに怖いものだとは思ってもみなかったのだ。これが戦場なら…

そう考えただけで、鳥肌の立つ思いだった。


この時点で、子供達の攻撃を防げなかったセオシルの負けなのだが、世界で2番目に強いとされている、自分の父親をボコボコにしている子供達は、その優越感からか手を止めようとはしなかった。


そのうち、目の見えない恐怖と、子供達のしつこい攻撃にセオシルがキレてしまった。



「いい加減にしろ~!!!!」


と、セオシルが目を閉じたまま、木刀を振り回し始めたのだ。


「うわ~!!!」

「きゃ~!!!!」


いきなり豹変した父親に慌てふためく2人だったが、すぐにセオシルから離れたロードに対して、あまりの怖さに腰が抜け、立てなくなったマイは地面に座り込んでしまった。


そこに目の見えないセオシルが、木刀を振り回し叫びながらマイの目の前までやって来た。


「マイ!!」


ロードは、マイを助けようと、マイに向かって走り出した。



「ヤバ!」


「ヒュン!!!」


「あ!危ない!!」


「ヒュン!!」


「たく、あの野郎…」


「ビュン!!」


セオシルがマイの前で木刀を振りかぶった瞬間、つむじ風が吹き、会場を砂ぼこりが包んだ。


その時!


「バキッ!!」


何かが折れるような音がその中で響いた。


そして砂ぼこりが落ち着くと、そこにはマイに覆い被さるようにしゃがんだタロウと、ロードを抱き締めるミウ、さらに折れた木刀を持ったセオシルを、羽交い締めにしたオリアンが立っていた。


まだ目が見えていないセオシルは、いきなり羽交い締めにされた事に腹を立て、


「何しやがる!この野郎!離しやがれ!!」


そんなセオシルに、オリアンが、


「おい!少し落ち着け、このバカ!」


「そ、その声はオリアン?」


セオシルは、オリアンの声を聞き「ハッ!」っと我に返り、子供達と試合をしていたのを思い出した。


「痛たたたたっ…て、痛くないけど。」


セオシルの振り下ろした木刀は、僕の背中に当たり、真っ二つに折れたのだった。


僕はマイを抱き起こしながら、


「もう!セオシルったら、キレる事ないじゃない!」


「大丈夫?ロード?」


と、ミウもロードの心配をしていた。


「まったくよ、目が見えないぐらいでオタオタすんな!次の『総大将』になろうというヤツが情けねえ。」


「ポカッ!」


オリアンは、セオシルの頭をを軽く叩くと、


「ガキ共の勝ちだ!2人を連れて、さっさと下りろ。」


と、セオシルに子供達を試合場から出すよううながした。


うっすらと視界の戻ったセオシルは、僕に掴まり泣いてるマイと、今にも泣き出しそうなロードを見て、


「すまない…お前達…、怖い思いをさせてしまったな。」


と、片膝をつき、両手を広げて子供達に謝った。


ロードはすぐにセオシルの腕に飛び込んで行ったが、怖い父親を見たマイは、躊躇ちゅうちょしていた。


そんなマイに、僕は、


「もう怖くないよ。いつもの優しいお父さんだよ。」


と、ニコリと笑い、背中を「ポンッ」と押した。


すると、


「お父さ~ん!」


と、マイもセオシルに飛び込んで行った。


セオシルは子供達を両肩に乗せると、


「じゃあな、タロウ。なかなか楽しかったぞ!」


と、なぜか満足気に試合場を下りて行った。


ナカリーの所まで行くと、子供達を心配していたナカリーが、すぐに2人を抱き締めた。


気持ちが落ち着くと、今度はセオシルに向かって、何かを言い始めた。

するとセオシルは、何度も何度も頭を下げ、子供達を危険に晒した事を謝っているみたいだった。


それが一段落すると、今度は僕に向かってナカリーが、「チョイチョイ」と手招きをした。


僕は、なんだろうと思い、「え?僕?」と自分で自分を指差しながら、ナカリーの所まで歩いて行った。


僕がセオシルの隣に行くと、


「コラ!タロウ!!なに人の子を勝手に試合させてるのよ!危ないじゃない!!」


と、僕を叱り始めた。


僕は返す言葉もなく、ただうなだれてナカリーの話を聞いていた。


『伝説の勇者怪物タロウ』と『国王側近さらに国王軍No.2セオシル』が、1人の女性の前で2人並んでうなだれている姿は、なかなかシュールだったに違いない。


ひとしきり言いたい事を言ったナカリーは、


「ふう…もういいわ、次から気を付けてね。」


と、言ったので、


「はい…わかりました。ごめんなさいナカリー。」


「すまなかった、ナカリー。気を付けるよ。」


と、僕とセオシルは、再び頭を下げた。


すると、ミウも、


「ごめんね、ナカリー。私からもタロウに言っておくから。」


とナカリーに謝った。


そんなやり取りを、ずっと見ていたロードとマイは、


「お母さん、凄いや。タロウ兄ちゃんが謝った…」


とロードが言うと、マイも、


「もしかして、お母さんて、お父さんだけじゃなく、タロウよりも強いの?タロウが怖くないの?」


と、ナカリーに聞いてきた。


すると、ナカリーは、


「はあ?タロウが怖い?何言っているの、いつも言っているでしょ、タロウは私の弟のようなもの、弟より弱いお姉さんがいるもんですか。ね!そうでしょ?タロウ?」


それを聞いた僕は、2人の母親になったナカリーが、さらに強くなっているのを実感した。そして、


「そうだよ、ロード、マイ。僕なんかお母さんにはとうてい叶わないよ。」


と、言うと、ロードとマイは、


「お母さん!凄~い!!」


と再びナカリーに抱き付いた。


すると、そこにオリアンが現れ、


「もういいか?そろそろタロウを返してくれ。次のヤツラが待っているんだ。」


と、試合場を見ながら言った。

そこには50人いや、100人は居るであろうか、衛兵達が真ん中の試合場をグルリと囲むように集まっていた。




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