番外編33〔職人剣士〕


番外編33〔職人剣士〕



「3本目!始め!!!」


審判の声が大空に響き渡った。


「ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン…」


「ヒューン!!」


スタルカは、少し躊躇したが、2本目と同じようにノビルを使い、遠距離攻撃を仕掛けた。


もちろん、絡め取られるのを覚悟しての事だ。

そして、2本目とは違い、目一杯の長さのノビルを使った。


剣に巻き付くノビルが多いほど、剣が抜けにくくなるからだ。


さらにスタルカは、少し後ろに体重をかけ、絡み付いた瞬間、引き寄せようと、体勢を整えていた。


そんなスタルカの思惑を知った上でなのか、チェスハは「待ってました」とばかりに、剣にノビルを巻き付けた。


しかもわざと絡め取るというか、巻き取るように、ノビルを剣に巻き付けた。


それを見たスタルカは、迷う事なく、チェスハが剣を離す前に、思い切り自分の方に引っ張った。


それはさながら、『カツオの1本釣り』を見ているかのような光景だった。


しかし、それはチェスハも同じであった。

スタルカがノビルを引っ張った瞬間、チェスハも負けじと剣を離すどころか、逆に引っ張ったのだ。


「い~!よいしょ~!!!」


「ギュッ…」


お互いが引っ張りあった為、剣に巻き付いたノビルは、さらに固く剣を締め付けた。


力比べになれば、1本目同様スタルカが有利だ。スタルカはさらに力を入れて引っ張った。


その瞬間、スタルカは、「フワッ」っとチェスハの力が弱くなるのを感じた。

そして、チェスハを見て見ると、体勢を崩したのか、やや前傾姿勢になっていたのだ。


スタルカは『勝った』と思った。

チェスハは、かろうじて片手で剣は持っているものの、体勢を崩した今では、その手を離すのも時間の問題だと思ったからだ。


そしてスタルカは、さらに引き寄せようと力を込めたが、すでに棍棒の先は自分の後ろを向き、『1本釣りスタイル』ではこれ以上、引けない所まで来ていた。


スタルカは、もう一度『1本釣りスタイル』で引き寄せようと、自分が後ろに下がり、棍棒を前に向けた。


と、同時に、チェスハがスタルカに向かって突進して来た。

しかも剣をグルグルと回しながら、ノビルをさらに剣に巻き付けながらである。


スタルカがそれに気付き、棍棒を跳ね上げようとした時には遅かった。


「ガシッ!!」


ノビルを全部巻き取ったチェスハの剣が、スタルカの棍棒の先に、くっついてしまったのだ。

ちょうど『T』の字のように。


こうなると、純粋な力比べである。

しかもスタルカは棍棒を真っ直ぐに持っているため、押すか引くしか出来ない。

横に振るにも、縦に持ち上げるにも、チェスハの体重がもろに棍棒にかかって来る。


棍棒を引こうにも、ノビルの『延びしろ』がもうない以上、剣から離す事も出来ない。


スタルカ自身が下がったとはいえ、棍棒を前に向けた事が、結果的にチェスハとの距離を縮め、棍棒を引き上げる前にチェスハが到達してしまったのだ。


身動きの取れないスタルカは、チェスハの出方を伺った。

身動きが取れないのはチェスハも同じだからである。


しかしチェスハは、そんなことはお構いなしに、さらに強く捻るように剣にノビルを巻き付けた。



ここで1つ質問をしてみたい。


『ノビルはどうやって、棍棒に付いているのだろうか?』


棍棒といえば『木』だ。だいたい、『木』に物を付ける時には『釘』を使う。この場合もそれが『正解』だ。


しかも『棒の先』である。あまり太い釘は使えないし、何本も使えない。

ただ飛んでいくのを防ぐ為だけなのだから、せいぜい1本を途中まで打ち込み、それを折り曲げて『半円』を作り、それにノビルを結びつけているのであろう。


と、チェスハは考えていたのだ。

チェスハは『職人』だ。釘の長所も短所も知っている。


釘の短所は、刺さっている真上の方向に弱い!


つまりチェスハは、最初から、巻き付けながらスタルカの攻撃を封じようとしたのではなく、ノビルを引き抜く、もしくは根本で引き千切ろうと思っていたのだ。



「あまり、人が作った『道具』を壊したくないんだがな…特に、こんないい道具は…」


チェスハは、自分の言っている言葉と裏腹に、さらに力を込めて引っ張った。


『ギギ…ギ…』


鈍い音が、棍棒の先から聞こえて来た。


「もう少し!!」


チェスハは、さらに剣を左右に捻りながら引っ張った。


するとスタルカが、


「そ、そんな事はさせない!」


と、棍棒の後ろを持っていた左手を「クルッ」と捻ると、


「スポッ!」


「これなら!どうだ~!!!」


なんと!スタルカは棍棒の『下半分』を抜き取り、チェスハのお腹に突き立てたのだ!


「クッ…!」


「ガッ!…」


一瞬の出来事に、会場は静まり返り、オリアン達もエミナーも、身を乗り出して、2人を見つめた。


「やっ、やったか?」


突きを放ったスタルカは、突いたままのポーズで止まっていた。

そして、その手応えに『勝利』をも確信していた。


「いっぽ……」


審判が叫ぼうとした瞬間、


「おい!よく見ろ審判!」


と、チェスハの声が聞こえた。


審判が改めて見ると、チェスハのお腹と棍棒の間に、チェスハの剣が挟まっていたのである。


チェスハは、スタルカが棍棒を2つにした瞬間、水平にしていた剣を縦にして、スタルカの攻撃を受け止めたのだ。

しかも、その縦にした勢いで、ノビルを止めていた釘が抜け、全てのノビルが剣に巻き付いていた。


「ふ~、あっぶね~…、やっぱりな…

あのセボルの親父の事だ、『ノビル』だけじゃないとは思ってたんだ。」


チェスハは、「信じられない…」という表情をしているスタルカに向かって呟いた。



「ふう~~…」


そして、ここにも「ホッ」と胸を撫で下ろしている人物が居た。


オリアンだ。オリアンは、スタルカの突きが決まった瞬間、身を乗り出して立ち上がったが、チェスハがその突きを防いだと知り、再びイスに体を預けた。


「ったく、ヒヤヒヤさせやがって…」


「ハハハハ、『最凶』オリアンも肝が縮んだか。」


ラウクンが、からかうように言うと、オリアンは、


「う…うるせえ、あの棍棒が2本になるなんて、思ってもみなかったんだよ…」


「ほう…、オリアンですら見破れ無かったという事か。」


スラインが、スタルカの棍棒を誉めるように言った。


「『ノビル』に気を取られていたのもあるが、『しなり』といい、『強度』といい、ありゃあどう見ても1本の棍棒だ。

よほどキッチリ継ぎ目を加工しないと、あそこまでは出来ねえ。

もしかしたら、攻撃用じゃなく、持ち運びに便利なように、2本にしたのかもな。」


「え!?じゃあ、スタルカは、それをあえて攻撃に使ったと?」


スラインは、驚きながらオリアンに尋ねた。


「あの状況で、攻撃出来るとしたら、それしかないからな。

それを思い付くスタルカの格闘センスもさすがだが、チェスハも、まさか2本になるとは思ってなかったはず、よく防いだもんだ。

自分の嫁ながら感心するぜ…」


そう言いながら、オリアンは、あらためてチェスハとスタルカを見た。



再び対峙した、スタルカだったが、もはや闘う気力は失せていた。

『ノビル』は壊され、今やチェスハの手の中にある。

一瞬のチャンスを狙った、『奥の手』もかわされ、勝つすべを失っていたからだ。


スタルカは、2本の棒を持っていた両手をダラリラリと下げると、


「参り……」


スタルカが、審判に『降参』の意思を伝えようとした時、


「なあ、スタルカ…お前、『棍棒』好きか?」


「え?!」


チェスハは、スタルカが降参しようとしたのを気付いたのか、スタルカの言葉を遮り、尋ねた。


いきなりのチェスハの質問に、戸惑ったスタルカだったが、すぐに、


「はい!大好きです!チェスハさんに憧れて、いつかチェスハさんと『試合』が出来たらと思ってました。

でも…あたしなんかチェスハさんの足元にも及びませんでした…」


するとチェスハは、スタルカを睨み付けながら、


「いいや!まだだ!まだあたしはお前の『棍棒』を見ていない!

お前は『棍棒』であたしと勝負をしたかったんだろ?その為に厳しい修練を積んできたはずだ。

しかし、あたしの知らない『ノビル』という素材を作った事で、楽に勝つ道を選んでしまった。

別にそれは悪い事じゃない。

ただ、お前はそれで満足なのか?お前の全てをあたしにぶつけたって言えるのか?」


「あたしの全て…」


チェスハの言葉に、スタルカの頭の中に、今までの記憶が甦って来た。

チェスハを初めて見た時の事、

セボルにせがんで『棍棒』を作ってもらった事、

手に血豆が出来て、痛くて泣いた事、初めて試合で勝った時の事、そして…


スタルカの棍棒を握る手に、力が入った。


「わかりました…チェスハさん。今までの『あたし』は、あたしじゃありませんでした。本当の『あたし』を見てください!」


そう言うと、スタルカは両手に持っていた2本の棒を突き合わせると、「クルクル」っと捻り、1本の棍棒にした。


その姿を見たオリアンは、


「ほう?あのスタルカってヤツ、この状況になっても、あれだけの『闘気』が出せるのか、なかなかやるな。」


オリアンの言葉にスラインが、


「まだ諦めてないって事か。」


「何!?まだチェスハに勝つつもりなのか?あのスタルカって選手は!」


ラウクンが驚きながら尋ねた。するとオリアンは、


「いや、そんなんじゃねえよ。もう、試合は終わってる。」


「え!?終わってる?どういう事だ?オリアン。」


スラインの問いに、オリアンは、


「まあ、見てればわかる…」


オリアンの言葉の意味がわからないスラインとラウクンは、試合場の2人を見た。


そして…



「3本目!!始…」


「イヤーー!!!」


「カンカンカン!!カンカンカン!!」


審判の掛け声が、終わるか終わらないかという所で、2人同時に飛び出し、中央で激しい攻防が始まった。


チェスハが剣で攻撃を繰り出すも、かろうじてスタルカは防いでいた。


「よし!さすがはセボルの娘だ。基本は出来ているようだな…」


チェスハは一度攻撃を止めると同時に1歩後ろに下がり、


「今度はお前の番だ!かかって来い!」


と、剣を構え直し、スタルカの攻撃を待った。

するとスタルカは、


「行きます!!ハァー!!」


ひと言かけると、チェスハに向かって、棍棒を振り回しながら、攻撃を繰り出して行った。


「エイ!ヤー!!ヤー!やーーー!!!」


「ブン!!ヒュン!ビュン!!」


するとチェスハは、剣を全く使わず、「ヒラリヒラリ」と身のこなしだけで、スタルカの攻撃をギリギリの所で、かわしていった。


と、同時に、


「もっと早く!もっと正確に!」


「はい!」


スタルカは、チェスハの言葉に同調するかのように、


「もっと早く…もっと早く…もう少し…もう少しで当たる…」


「まだまだ~!お前の本気は、そんなものか~!!」


チェスハは、叫びながらも、次々とスタルカの攻撃を避けて行った。


スタルカの攻撃が続くうち、足を止めて避けていたチェスハだったが、少しづつ後ろに下がりながら、避けるようになっていた。

さらには、避けるだけじゃなく、剣をも使い始めるようになった。


それを見ていたスラインは、


「おいおい、チェスハが押されているんじゃないか?スタルカの棍棒も早くなっているような…」


するとオリアンは、腕組みをしたまま、イスに深く座り直すと、


「大丈夫だ、あんなのは『試合』じゃない。ただの『練習』だ。」


と、わけのわからない事を言い始めた。


「え?試合じゃない?」


と、2人の試合を見ていたラウクンが、オリアンに尋ねた。すると、


「ああ、あれはチェスハの指導方法の1つだ。ギリギリの所でかわせば、相手はどう思う?」


するとスラインが、


「もう少しで当たる、もう少し早く動かせば…そう自分に言い聞かせるな。」


「そう、早く体を動かそうと、無駄な動きが自然と無くなる、結果、攻撃も早く鋭くなる。さらにそれをギリギリでかわせば…」


「さらに攻撃が早くなる。って事か。」


ラウクンが2人を見ながら答えた。


「しかし、試合の真っ最中に『練習』って…チェスハは何を考えているんだ?」


スラインが呆れ返っていると、全く同じ事を考えている人物が居た。


「…まったく…あの娘は…」


スラインの奥さん、エミナーだ。

実は、この練習方法はエミナーがチェスハに行っていたものだったのだ。


「何年経っても変わらないんだから…」


エミナーが呆れ返っていると、


同じ頃、スラインが、


「なあ?この試合、いつ終わるんだ?まさか『試合中』って事も忘れてるんじゃないだろうな?」


するとオリアンが、


「あ?とうぶん終わらねえよ。練習なんだから…チェスハのヤツ、1つの事に集中したら、他の事はキレイサッパリ忘れちまうからよ。『ノビル』の事も、『試合中』って事も忘れてるんじゃねえか?」


「な!なに~!!」


スラインの驚きをよそに、チェスハの指導は、厳しさを増して行った。



「ホラホラ、相手は攻撃もして来るぞ!」


「はい!」


「カ、カカカン!!」


「両端だけ使うんじゃない!真ん中も!棍棒の全体を使え!!」


「は…はい!!」


そんな2人を見ていたスラインは、


「じ、冗談じゃない!次は娘の『ニーサ』が出るんだぞ!は、早く終わらせてくれ!!」


するとオリアンは、


「ふう~~」…と大きくタメ息をつくと、


「お~い!審判~!!」


と大きく手を振り、審判に声をかけると、両手で大きな『X印』を作って見せた。


それを見た審判は、ラウクン新国王に確認を取ろうと、ラウクン新国王を見た。


審判と目が合ったラウクンは、大きく二度三度頷いた。


審判も、チェスハの行動には疑問を抱いていたのだ。



「よし!今度はもう一度攻撃からだ!気合いを入れて行け!!」


「はい!!」


審判は、2人が離れたのを見逃さなかった。


2人が離れた瞬間、2人の間に割って入ったのだ。


それを見たチェスハは、


「誰だ?お前!?練習の邪魔すんじゃねえ!!」


と、睨みながら、剣で審判をつついた。


「チェスハ!試合中だぞ!真面目にやれ!」


チェスハの剣に突かれながらも、職務をまっとうしようとした審判だったが、チェスハは、


「あ~?試合だ~!?そんなもん関係ね~!!練習の邪魔するヤツはぶっ殺すぞ!!」


と、我を忘れたチェスハは、審判めがけて、剣を振りかぶった。


試合のルール上、審判に危害を加えれば、即失格だ。それは誰もが知っている事だった。


そして、そんなチェスハを見たスタルカは、棍棒を地面に落とし、両手を上げると、


「こ、降参!降参します!審判!あたしの負けです!!」


と、大声で『負け』を叫んだ。


その姿を見たチェスハは、「ポカ~ン」としなら、


「え?なに?『降参』?何してんだ?お前? 」


と、スタルカの行動の意味がよくわからなかったチェスハだったが、審判は、そんな事お構い無しに、


「3本目!スタルカの試合放棄により、チェスハな勝利!!

よって!1回戦第4試合は、チェスハの勝利とする!!」


審判の勝利コールが響いた瞬間、


「パチパチパチパチパチパ…」


と、拍手をしたのは、僕とミウだけだった。


そして、その拍手をかき消すかのように、会場中から、大きなタメ息が漏れた。


「はぁ~~~……」


それは、オリアン達も同じであった。


実は、観客達もうすうす気付いていたのだ。チェスハが試合の事を忘れていると…


チェスハがボ~ゼンとしていると、澄んだ声が響き渡った。


「コラ!チェスハ!何やってんのよ!私と闘わないつもりなの!?」


エミナーの声に気付いたチェスハは、全てを思い出し、


「え?あ!アハハハハ…そうだ、大会の真っ最中だったんだ。悪い悪い…」


と、笑いながらごまかすと、スタルカに近付き、肩を「ポンポン」と 叩きながら、


「うんうん、君も才能あるよ。頑張ってくれたまえ!それじゃ!」


と、「クルッ」と向きを変え、ダッシュで走り出した。もちろん、手には『ノビル』を巻き付けた剣を持って。


スタルカがそれに気付いた時には、チェスハの姿は小さくなっていた。


「あたしのノビル~…」


スタルカは、ガックリと崩れ落ちた。


そのチェスハはというと、一直線に僕に向かって走って来た。


僕はその意味が、まったくわからなかった。

回りに誰か知り合いが居るのかと思い、見渡したが、隣には『ミウ』しか居ない。

もしかして、『クノン』が『ミウ』ということがバレた?と思ったが、そうでもないらしい。


僕の所まで、走って来たチェスハは、クノン(ミウ)に向かって、


「悪い、クノンとやら。タロウをちょっと借りるぞ!」


と、言ったかと思うと、僕の手を引き、試合場の端っこに連れ出した。


ミウは、正体がバレるのを恐れて、下を向いて頷いた。


そしてチェスハは、剣に巻き付いていたノビルを外すと、両手で伸ばしたり縮めたりしながら、


「なあなあ、これ凄くないか!?ノビルだぜ!」


僕は、チェスハが何を言いたいのか、わからず、


「はあ…ノビル?それって『ゴム』ですよね?」


その瞬間、チェスハの目の色が変わった!


「やっぱり!お前、知ってるんだな!ノビルを知っているんだな!!」


チェスハはさらに顔を近付け迫って来た。


「で?で?何が出来る!?これで何を作ってる?お前の国では、これで何してる!??!」


チェスハはさらに近付くと、僕に覆い被さって来た。


僕は、チェスハの下敷きになりながら、ミウをチラッと見たが、あきらかに『ほっぺた』を膨らませ、仏頂面をしていた。


「ヤバイ」と思った僕は、下敷きになりながらも、両手でチェスハを持ち上げると、ヒョイと隣に座らせた。


そして、


「落ち着いて下さい、チェスハさん。教えますから、教えますから。」


と、興奮しているチェスハを落ち着かせた。


そして、僕は『ゴム』について思い付く事を話した。


「そうですね~、僕の国では、武器にはあまり使いませんよ。洋服とか、アクセサリーとか、輪ゴムにして使います。」


「輪ゴム?あくせさりー?」


チェスハが、よくわかってなかったようなので、 僕はノビルを手に取り、少しだけ千切った。


「ブチッ!」


「あ!」


チェスハは、いくら引っ張っても切れなかったノビルが、簡単に切れた事と、まだ貰ってもいないスタルカのノビルを千切った事に驚いた。


「ま…まあ、少しぐらいならいいか…」


チェスハが何を言ってるのかわからなかった僕は、千切ったノビルで輪ゴム?輪ノビルを作り、


「これでいろんな物を、束ねたり、まとめたり出来るんです。例えば、失礼して…、こうして髪を束ねてみたり。」


僕はチェスハの髪の毛の横を少し束ねてみた。


「おお~!!」


「他には、「シュシュ」って言うんですけど…」


と、僕はチェスハの持っていた、剣を入れる赤い布袋を貰うと、


「これ、短くしていいですか?」


「ああ!いい!いい!好きなように使え!」


僕はその袋を短くし、ノビルを通すと、両端を結び、『シュシュ』を作った。


「おお~~~!!!」



「これを頭に付けたり、腕に付けてもオシャレでしょ?

あとは、ノビルをスボンやスカートの腰ヒモの代わりに使うんです。

紐だと、いちいちほどいたり結んだりしないといけないでしょ?

これなら伸びるから、そのままでも履けちゃうんです。

食べ過ぎても、紐を緩めなくていいんですよ~。」


僕は、チェスハが食べ過ぎて、よくスカートの紐を緩める仕草を見ていたので、少しからかうように言った。


「おおおおお~~~!!!」


チェスハは、僕が『からかった』事に、まったく気付く様子もなく、


「い、いいか!今回は絶対いきなり居なくなるなよ!絶対だぞ!」


と、言い残し、僕の作った『シュシュ』?(あっているかどうかわからないが)とノビルを持って、崩れ落ちたままのスタルカの所に走って行った。


そして、チェスハは、自分の髪に付いている『輪ノビル』と、腕に着けている『赤いシュシュ』をスタルカに見せつけた。


そして、シュシュを自分の腕から外すと、


「いいか?これをこうして…ほら可愛い!」


チェスハはシュシュをスタルカの腕に着けてみた。


スタルカも年頃の女の子だ、可愛い物が嫌いな訳がない。


スタルカはチェスハの髪にも気付き、


「チェスハさん?それは?」


「ああ、これか?これはノビルを輪にしたものだ。これはタロウがしたから変になってるが、ちゃんとやれば、」


と言うと、チェスハは輪ノビルを外し、今度は自分で後ろ髪を束ね、ポニーテールにした。

今までは紐で結んでいたため、綺麗に出来ず、時間が掛かったり、他の人に頼んでいたりしていたのだ。

それを、チェスハはあっという間に綺麗に束ねてしまった。


「どうだ!凄いだろ?もっといろいろ知りたくないか?それにな、1番のとっておきは…ゴニョゴニョゴニョ…」


チェスハは、スタルカに耳打ちをした。

それを聞いたスタルカは、


「え!?食べ過ぎても平気なんですか!?」


と、驚いていた。その『平気』の意味がよくわからないが、チェスハの『とっておき』が食べ物関連だということは、よくわかった。


「で?どうだ?もっと詳しく知りたくなっただろ?」


ノビルが武器にしか使えないと思っていたスタルカは、自分の腕に着いているシュシュを見て、


「はい!もっと詳しく教えて下さい!」


と、チェスハに頭を下げた。


それを聞いたチェスハは、


「そこで相談なんだが、セボルと話をさせてくれないか?

あたしがいろいろと情報を教える、その代わりにノビルを分けて欲しいんだ。どうだ?悪くない話だろ?」


スタルカは、少し考えたが、


「はい!お父さんに聞いてみます。それに約束もしましたし。」


「約束?」


「あたしに勝ったら、ノビルの事を教えるって。」


「あ~、そういえばそんな事を言ってたな。あたしに勝とうなんて、十万年早いんだよ。

でも、練習がしたくなったらいつでも来い。相手になってやる。

リムカもヤル気になってるみたいだし、同じ年頃の子がいる方が楽しいだろうしな。」


スタルカは思いもよらない提案に、涙を浮かべながら、


「あ…ありがとうございます。よろしくお願いします。」


と、両手でチェスハの腕を強く握った。


そして、2人は何やら話をしながら、僕の所まで来ると、チェスハが、


「また後でな、タロウ。逃げるんじゃねえぞ!」


と、オリアンばりの迫力で睨み付けて来た。


僕はその迫力に、


「はい!」


と、直立不動で答えるしかなかった。


一緒に居たスタルカの表情がなんとも言えないぐらい複雑な表情をしていた。

まあ、そうだろう。『史上最悪の悪魔』と呼ばれた『タロウ』を一喝するんだから。


そして、2人は次の試合に出場するニーサとエミナーの所に行った。そこにはリムカも待っていた。


そして、チェスハがやって来るとニーサは、


「行ってきます。お母さん。チェスハおばさん。」


「頑張ってねニーサ。」


「ちゃちゃっと、やっつけて来い。」


「ニーサちゃんなら楽勝だよ。」


と、3人から激励の言葉を貰うと、チェスハと一緒にいたスタルカにも、ニコリと笑いかけ、


「三代目猿姫ニーサ!行きます!!」


と、自分に気合いを入れ、試合場に足を踏み入れた。



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