番外編31〔発酵料理と絶対領域〕



番外編31〔発酵料理と絶対領域〕



オリアンの雄叫びと共に、試合の会場を後にしたリムカとサーラン。


そして、その2人と入れ替わるように、ダシールとトッフィが試合場に入って来た。


顔だけ見ると、2人は同世代に思えた。持っている武器も『棍棒』で同じだ。仕掛けがあるのかどうかは、今の時点では判断が出来ないのだが、

ただ、対照的なのはその体格だ。


ダシールは、全体的に細くきゃしゃに見える。肩まで伸びた栗毛色の髪を後で束ね、スラリと伸びたカモシカのような足が印象的だ。


方やトッフィは、よほど筋肉に自信があるのか、鎧らしきものは装着せず、赤いシューズに赤い手袋、白い短パンに同じく白のタンクトップ、髪も短くカットされ、とてもラフな格好だった。

しかし、鎧の必要など無い事は、誰の目から見ても明らかだ。

ダシールの足の倍はあるであろう二の腕、太ももはさらにその倍。まさに筋肉の鎧である。


その2人を見たラウクンは、試合がどうなるのかを、オリアンとスラインに聞きたかったが、オリアンは、リムカの試合が終わると同時に、部屋を飛び出し、リムカの所に飛んで行ってしまった。



ラウクンは、スラインに尋ねた。


「スライン将軍、この試合はどう見る?」


するとスラインは、両手の肘を膝に乗せ、指を絡めると、そこにアゴを乗せながら、


「『ジェンドレ王国』の戦士か。確かにあの国は、『強さ』のみを欲していたからな。

修練専用の建物を作り、そこで寝泊まりをして、ただ己の肉体を鍛え上げる修練をしているらしい。

あの体を見ろ、お前の所のダシールでは、歯が立たないだろうな。」


「ほう?それではこの試合は、トッフィの圧勝だと?」


と、自国の選手の負けを宣言したスラインに、少し不機嫌そうにラウクンは答えた。


が、しかし、スラインはそうなる事を予想していたかのように、


「まあまあ、そう怒るな。俺が言っているのは『力比べ』をした時の話だ。剣の技を競い会うこの大会では、力の強さはさほど問題ではない。

ただ、あの体でスピードまで備わっているとなると、勝負はわからなくなるがな。」


「なるほどな、闘ってみなければわからん。って事か。」


「まあ、そういう事だな。」


と、今度はイスの背もたれに寄りかかりながら、背伸びをするように答えた。


と、そこへ、酷く落ち込み、今にも倒れそうな顔をしたオリアンが無言のまま部屋に入って来た。

それに気付いたラウクンは、


「おう?どうしたのだ、オリアン?どうだったリムカちゃんは。」


するとオリアンは、さっきまで座っていたイスに、「ドカッ」と座ると、下を向きながら小さな声で、


「どうもこうもねえよ…」


その声がよく聞き取れなかったスラインは、


「なに??よく聞こえねえ!!」


すると、下を向いていたオリアンが、「ガバッ」と顔を上に上げ、スラインの胸ぐらを掴んだかと思うと、


「リムカが!リムカが!『もうお父さんとは遊ばない。お母さんに教えて貰う。』って言うんだ!なんでなんだよ~!!俺のリムカが!俺のリムカが~!!!」


と、泣き叫びながら、スラインに訴えて来た。


その光景を見たラウクンは、呆気にとられていたが、

抱き着かれたスラインはというと、てっきりオリアンを突き放し罵倒し、からかうかと思いきや、


オリアンの体を優しく抱き寄せると、


「わかる!わかるぞオリアン!お前のその気持ち!俺もニーサに同じ事を言われた事があるからな。」


それを聞いたオリアンは、


「スライン…お前もか…」


「ああ、俺もその時、酷く落ち込んだんだ。だかな、エミナーに言われたんだよ、『ニーサはあなたの事を嫌いになったんじゃない、少し大人になっただけなのよ。挫けそうになった時や落ち込んだんだ時には、必ずあなたに助けを求めて来るから、その時は、力を貸してあげて。』ってな。」


「そ、それでどうなったんだ?」


「どうもこうも、エミナーに怒られる度に、俺に泣きついて来たよ。さすがに今は少なくなったがな。ちょっと寂しいが、娘が成長したのは、素直にうれしい。」


スラインは、どこか遠くの何かを見ながら言った。


するとオリアンは、スラインの手を握り締めると、


「そうか!お前も苦労したんだな!父親ってのは悲しいもんなんだな…」


と、父親同士の熱き友情が芽生えた。


それを見ていたラウクンは、


「子供とは、大変なものなのだな。私は当分はイサーチェと2人きりで過ごしたいかな。ハハハハ…」


それを聞いたイサーチェは、真っ赤になってうつむいていた。


後に、その何気無いラウクンの言葉が……



と、その時!


「これより!1回戦、第3試合!『ダシール』と『トッフィ』の試合を行います!!!


審判の声が聞こえて来た。


2人が握手を交わし、開始線まで離れると、


「1回戦!第3試合!1本目!始め!!!」


審判の声が、高らかに響いた。


しかし、どちらも構えたままピクリとも動かず、お互い相手の出方を伺っていた。


トッフィは、対戦相手が決まった時は、ダシールの体格を見て一気に攻撃すれば、楽勝だと思っていた。

しかし、第1試合を見てダシールの棍棒にも、なにか仕掛けがあるのではないかと疑っていたのだ。

その為にうかつには攻撃出来ないでいたのだった。


しかし、それはダシールも同じであった。

トッフィの筋肉もさることながら、さらに棍棒にも秘密があるのではないかと勘ぐっていたのだ。


「なにも仕掛けの無い『これ』で勝てるかな…」


弱気になっていたダシールだったが、トッフィがすぐに攻撃をしてこないのを少し不思議に思い、


「もしかして…」


ダシールは、わざと構えを変えてみた。

棍棒の構えといえば、相手に棍棒の先を向けて構えるのが普通だが、ダシールは、あえて逆手に持ち、剣を抜く前のように構えた。


それを見たトッフィは、


「あの構え…棍棒であんな構えは見たことがない、やはり何かあるのか?あるとしたら、このただの棍棒では厳しいか…

いや…待てよ…だったら、なぜ先に動かない?ナカリーは、先に動いてかわされた所で奥の手を出した…ということは!」


実はこの2人、似ているのは年齢だけでは無かった。体格は違えど、同じ棍棒使い、真っ直ぐな性格、その性格ゆえ『棍棒』に何か仕掛けを施すなど、微塵も考えていなかった。

2人供、棍棒で頂点を目指そうと、日々鍛練を積んでいた。その為、思考もよく似ていたのだ。


お互いの『棍棒』に何も仕掛けなど無いと判断した2人は、今度は同時に飛び出した。


「あの棍棒には『何も無い!!!』


「イヤ~~~!!!」


「カン!カン!ブンッ!!」


「ヤ~~!!!!」


「カン!ブンッ!!ブンッ!カン!カン!」


中央でぶつかり合った2人は、お互い余すことなく技を繰り出した。突き、払い、振り回し、次々と攻撃を仕掛けた。


が、どちらも棍棒に精通している2人だ。攻撃は、かわしかわされ、一進一退が続いていた。


スラインの懸念していたスピードも、ほぼ互角であった。


2人の試合を見ていたエミナーは、


「チェスハ、ダシールの棍棒には何か仕掛けをしているの?」


するとチェスハは、首を横に振り、


「ううん、何もしてないわ。ダシールは『棍棒』が大好きみたい。棍棒で私に勝つのが今の目標なんだって。」


「ふ~ん、そうなんだ。見たところ、あの『トッフィ』って娘も似たような感じじゃない?

ただそれだと、ダシールが不利よね。

棍棒に対する想いも同じ、実力も同じ、スピードも同じ、でもパワーはトッフィの方が上みたいだからね。」


「そうよね…でも…」


と、チェスハが何かを考え込んでいると、

ダシールとトッフィの動きに少しずつ差が出始めて来た。


スピードでは互角でも、パワーのあるトッフィが少しずつ圧倒してきていたのだ。

ダシールは、トッフィの棍棒を弾き飛ばそうとするが、握力の強いトッフィには通用しない、押し合いになれば、簡単に押し倒されてしまう。


互角だった闘いも、いつの間にか、ダシールの防戦一方になっていた。


「…くっ…くそっ……お…押され…」


トッフィは、この時を逃すまいと、さらにスピードを上げ攻撃を繰り出した。

しかし、ダシールには当たらず、ギリギリの所でかわされた。


「くそ!こいつクネクネと…」


と、その時!ダシールは窪みに足を取られバランスを崩した。


「あ!しまっ…!」


「貰った~~~!!!」


「ヒュン!!」


バランスを崩したダシールに向かって、トッフィは渾身の『突き』を放った。


その突きは正確にダシールの体の中心に向かって行った。

体の中心は1番防御が難しい。盾でもあれば別だが、かがめば頭に、飛べば足に、左右に避けてもどちらかの腕に、と、どこかしら攻撃が当たるからだ。


バランスを崩したダシールだったが、向かって来る突きに対して、体を後ろに反らしながら、そのまま地面にペタリと背中を付けて、ギリギリの所でトッフィの攻撃をかわした。


さらに、自分の上を通過した棍棒を両手で掴むと、腕を絡ませながら、立ち上がった。


トッフィは棍棒を引き抜こうと、力を込め引っ張ったが、ただ握っているだけではなく、両腕も絡められている為、容易には抜くことが出来なかった。

が、両手でトッフィの棍棒を掴んでいるダシールも、このままでは攻撃が出来ない。このまま膠着こうちゃく状態が続くかと思われた瞬間、ダシールは落ちていた棍棒を両足の爪先で挟むと、


「ヤ~~~!!!」


そのままジャンプしたかと思うと、トッフィの棍棒に乗るかのように、全体重を預けた。と同時に、ダシールの体はエビ反り、両足で挟んでいた棍棒がそのままトッフィの頭に振り下ろされた。

それはまさに『サソリの一撃』を見ているかのようだった。


「ガン!」


「グッ!」


「1本!!ダシール!!!」


審判の勝利コールが静寂の中、響き渡った。その瞬間、


「おおおお~!!なんだ!?ありゃ?!!」

「なんだ?どうなってるんだ?!」


と、称賛の声と不思議がる声とか入り乱れた。

それは1本取られたトッフィも同じであった。


「な!なんだ?今のは?足で棍棒を持った?しかもあの体勢から攻撃??」


会場中、オリアン達も驚く中、チェスハとエミナーだけは、冷静だった。


そしてチェスハは、先程言おうとしていた事を、改めて呟いた。


「ただ、あの娘って、異常に体が『柔らかい』のよね~。」


するとエミナーも、


「うんうん、たまに練習を見てるけど、凄いよねあの柔らかさは。」


「まあ、そのおかげで私達もこうして若々しくいられるんだけどね。フフフ…でも、本当はあなたには教えたくなかったんだけどな…」


チェスハが、タメ息まじりに言うと、エミナーは、


「アハハ、ムリムリ。私の実家なのよ。帰る度に母さんが『あんなに』なっているんだから、理由を知りたいって思うのは当然でしょ?」


「まあね。あのエティマスがあそこまで痩せたら、疑う余地も無いからね。

まったくタロウのやつも、『あれ』の事をちゃんと教えてくれていたらよかったのに!」


2人が言っている『あれ』とは、スバリ『発酵料理』すなわち『漬け物』の事だ。


ダシールの家は、代々『宿屋』をやっている。もちろん、僕がこの国に来る前からだ。


200年ほど前、ある男が宿に泊まりに来た。その男は野菜を腐ったドラゴンフルーツに漬け、美味しそうに食べたそうだ。

ちょうどその頃、勇者が現れたという話が流れ、『タロン』ではないかと噂されだが、その男は『ハッコウ』とだけ名乗って居なくなった。


ただ、その『イブレドの宿』は、その男がいつ来てもいいように、その『ハッコウ』を作り続けた。

だが、あまりの匂いと、見た目の悪さから、『腐った料理』を出す宿として評判になり、お客はまったく来なくなった。


しかし、僕がこの国に来たことで状況は一変した。『ジャム』を作り『お酒』を作り、『マヨネーズ』を作った。


そんな僕が、この『ハッコウ』はちゃんとした料理で、体にもいいんですよ。と教えると、それまで肉中心だったエティマスは、健康の事を考え、少しずつ発酵料理を食べるようになった。

そして、今から10年前、たまたま出来た『納豆』にエティマスはハマり、食べ続けたそうだ。


結果は言わなくてもわかると思うが、見違えるように痩せて、肌艶もよくなっていった。

そんな母親を間近で見ていたダシールが、発酵料理や納豆を食べないわけがない。

匂いやネバネバと格闘しながらも、マヨネーズをかけてみたり、お酢をかけてみたりと、いろいろした結果、修練のかいもあり、今の柔らかさを手に入れたのである。


そんなエティマスやダシールをチェスハ達が放っておくわけがない。


チェスハはイブレドの所に行っては、何か自分でも食べられる漬け物はないかと、探しては貰ってきて食べていたのだ。

さすがに『納豆』だけは無理だったようだが…


それはエミナーも同じだった。

帰省する度に、母親が若返って行くのである。何をしているのか、問いただした事だろう。


チェスハ、エミナーに留まらず、エティマスの変貌をみた女性なら、必ず『発酵料理』を食べるに違いない。

さらに、僕の世界では『年を取らない』というのは、発酵料理を食べてるからではないかという噂まで流れたのだ。

現に今では、自分の所で『漬け物』を作っている家も、数多くあった。



それでは、トッフィとダシールの試合に話を戻そう。


1本先取されたトッフィは、取り返そうと怒濤の攻撃を繰り出して行ったが、体の柔らかさを活かしたダシールのアクロバティックな動きには当たらず、さらに運の悪いことに、1本目でダシールが躓いた窪みに足を取られ、捻挫してしまった。


しかも、足だけでなく、倒れそうな体を支えようとした手まで捻ってしまい、右手首まで捻挫してしまったのだ。

もはや、こうなると勝負にはならない。

『試合続行不能』を審判が告げ、ダシールの勝利となった。


トッフィとダシールは、試合後何かを話していたが、多分体の柔らかさについてだと思う。


ダシールは、試合が終わると、近くで見ていたチェスハとエミナーの所に走って行った。


そして何やら話して、ハイタッチをしていた。


チェスハ達の所に行く途中、僕の方を見たが、これから闘うかもしれない、知らない女性と一緒ということもあり、僕の所には来なかった。

しかし、僕はダシールの健闘を称え手を振り親指を立てて拳を上げた。



ダシールの勝利の余韻に浸る間も無く、つぎの試合がコールされた。


「続いて、1回戦第4試合を行います!両選手は中央へ!!」


審判の声を聞いたチェスハは、


「それじゃ、チャチャっと倒して来ますか。」


と、余裕の表情で試合場に入って行った。

しかも、先に入っていた対戦相手のスタルカを見ることもなく、僕と隣にいるクノン(ミウ)を見つめながら、歩いて行った。


僕はチェスハさんやエミナーさんを見てると、本当に10年経っているのか、疑問にさえ思えた。ダシールちゃんや、ニーサちゃんを見ると成長してるので、確信は持てたが、あの2人は年を取るどころか、むしろ若くなっているような気がしたのだ。


イブレドさんには、話を聞いていたが、これほど『発酵料理』が凄いとは思ってもみなかった。


僕はチェスハさんに手を振ってみたが、舌を出して、そっぽを向かれてしまった。


ミウはというと、『クノン』になりきっているのか、微動だにせず、チェスハを見つめていた。

本当は今すぐにでも飛んでいって抱き着きたいはなのに…。


しかし、相変わらずというか、反則級の美貌だ。ただでさえ綺麗だったのに、10年経って大人の色気が増していた。


その衣装は、ロングの赤いスカート、しかもかなり上までスリットが入っており、普通に歩くだけで下着らしき黒い物がチラチラと見えていた。


そして上は、そのスカートに合わせたかのような赤い革ジャンに藍色の手袋。


「ん?革ジャン?」


僕は、その革ジャンのデザインに覚えがあった。

僕が最初に着ていた、つまり僕の着ていた父さんの革ジャンによく似ていたのだ。


どうやら、僕の強さの秘密が『革ジャン』にもあるのではないかと思い、作ったのだと思った。


チェスハは、わざと下着を見せつけるかのように、ゆっくりと大きく歩きながら登場した。


もちろん、会場からは『やんや』の大歓声が上がった。


「いいぞ~!チェスハ~!もっとやれ~!!」

「もう、スカートなんか取っちまえ~!!」

「ちゃんと金は払うからよ~!!アハハハハ!」


男達からのヤジに手を振りながら、中央まで来たチェスハは、


「なんだ、なんだ!?そんなにあたしの下着が見たいのか?!!

聞いたぞ~!後で金よこせよ~!!!

しょうがねえな~!!

ほらよ!」


「ベリベリベリベリ!!」


「おお~~~~!!!!」


なんとチェスハは、腰に手を当てたと思ったら、「クルリ」と1回転しながら、スカートを剥ぎ取ったのである。


会場が大歓声に包まれたのはいうまでもない。


対戦相手である、スタルカも、思わず目を手で覆った。まだ10代の若いスタルカは、人前でスカートを脱ぐという、チェスハの行動に驚いていたのだ。


が、その大歓声もすぐに止み、違うヤジが飛び交った。


「なんだよ!ちゃんと履いてるじゃね~か!!」

「やられた…、またチェスハに1本取られた!」

「アハハハハ、チェスハにはかなわね~な!!」


そう、下着と思われていた物は、黒いホットパンツで、足にもちゃんと黒いタイツを履いていた。


みんながスカートと思っていたのたのは、布を腰に巻き付けていただけの『パラオ』的なものだっのだ。


つまりチェスハは最初から、この一連の行動を計画していたのだった。


チェスハは、この国の誰もからも愛されていた。裏表の無い性格、誰に対しても 言いたいことは言い、言葉使いも悪いが、それを文句言わせない美貌と実力、技術を持ち合わせている。

さらに、時折見せる間の抜けた可愛さ。

男性のみならず、憧れている女性も数多く居た。

もちろん、ミウもその1人だ。


しかし、特筆すべきは、そのエンターテイナー性だ。チェスハは、人を楽しませる事に長けていた。


真剣勝負の、この『剣技大会』そんな中で笑いを取れるのは、チェスハぐらいなものだ。


しかも本人は、その自覚がまったく無いときている。

チェスハは、別に回りの者を『笑わせよう』とか『楽しませよう』とかは、まったく思っていなかった。


逆に『自分』がこうしたら、回りの人達は、どんな反応をするのか?どんな言葉が返って来るのか。というように、回りの反応を自分が楽しんで、やりたい事をやっている。ただそれだけの事だったのだ。


まさにチェスハは、『天才的無自覚エンターテイナー』だ!



クルッと1回転しながら、スカートを剥ぎ取ったチェスハに、笑いとヤジが飛び交ったが、それもすぐに静まり帰った。

そして、


「な、なんか、いつもより可愛くないか…?」

「と、いうかエロい…」

「な、なんだ?目がはなせねぇ…」



女性達からは、


「可愛い!」

「私も真似してみようかしら。」


などど、あちらこちらから呟きが聞こえ始めたのだ。


いろいろ解説をしていた僕でさえ、こればかりは解らなかった。


チェスハが計算してやっているのか、はたまた無自覚でやっているのか…


と、いうのも、革ジャンの丈の長さが、ギリギリホットパンツが隠れる長さに設定され、パッと見、下に何も掃いていないように見える。


足にはタイツみたいな物を履いてはいるが、その長さは、膝上約5センチまで…


つまり、今、露出している肌は、顔を除いて『太もも20センチ』のみ!


そう!今、チェスハが観客に見せているのはズバリ『絶対領域』だったのだ!!


今まで僕の事を、散々無視して来たチェスハが、なぜかこの時ばかりは、僕の方を向き、「どうた!」と言わんばかりに、腰に手を当ててポーズを決めた。


そんなチェスハを見た僕は、恥ずかしくなり目を反らした。


この国に『絶対領域』という言葉は存在しないはず…

もし、無意識にやっているのだとしたら、天才的どころか、チェスハは『神憑り的無自覚エンターテイナー』だ!


きっとオリアンは、呆れ返っているだろうと思い、オリアン達の方を見てみると、呆れ返るどころか、目が輝いているように見えた。オリアンのみならず、スライン将軍までも…


それを見た僕は、


「あ~…、みんな『男』なんだなあ~…」


と、つくづく思ってしまった。



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