番外編29〔熱き女性達の闘い〕



番外編29〔熱き女性達の闘い〕



ナカリーに、1本取られ、方膝をついていたタスフォーレは、「ふぅ…」っと大きく深呼吸をすると立ち上り、開始線まで歩いた。

その途中、ナカリーの持っている武器の事を考えていた。


タスフォーレは、今大会が初出場だが、前回、前々回と、選手の付き添いとして、大会には来ていた。

そして、『エミナー』や『チェスハ』の闘いは勿論の事、『ダシール』『ニーサ』そして『ナカリー』の事も知っていた。


タスフォーレは、対峙するナカリーを見ながら、


「さすがは 『ユーリセンチ』だわね。

戦士でもない、ただの『城のお手伝い』が、ここまで戦えるなんて、しかも『あの棍棒』…

前回は、何の仕掛けもない『ただの棍棒』だったのに…あれを1本でかわすのは無理か…

仕方ない…あの2人と当たるまでは、手の内を見せたくなかったけど、そうも言ってられないわ…」


『あの2人』とは、勿論『エミナー』と『チェスハ』の事だ。


タスフォーレは、棍棒をナカリーに向け構えると、審判の合図を待った。


対するナカリーも、


「あの身のこなし…さすがは本物の戦士だわ。ただの棍棒なら、絶対勝てない。

試合が長引けば、実戦経験のあるあっちに有利…ここは一気に決める!

間合いの差を利用するしかない。」


ナカリーは、棍棒の長さの差を利用し、相手の間合いの外から攻撃しようと決めたのだ。


「もし…かわされても…」


ナカリーは、棍棒を構えると、セオシルを見た。


セオシルもナカリーと目が合うと、黙って大きく頷いた。


と、同時に、


「3本目!始め!!!」


審判の声が、会場中に響き渡った。


先に動いたのはナカリーの方だった。

わざと棍棒を後ろ手に持ち、タスフォーレから棍棒が見えないようにした。


そして一気に距離を詰めると、左に飛ぶと見せかけて、右に飛んだ。

これもミウが練習で見せた動きだった。


一瞬、ナカリーの姿を見失ったタスフォーレだったが、素早く反応し、ナカリーの姿を捉えた。


が、ナカリーはお構い無しに、横からタスフォーレの胴に向かって、渾身の力を込めて棍棒を凪ぎ払った。


「タァーー!!!」


「ガキッ!!」


タスフォーレは、慌てる事もなく、その攻撃を棍棒で防いだ。

が、それこそナカリーの思うツボだった。

力一杯振り回した棍棒は、止められた瞬間、その遠心力の力が先に移り、折れ曲がった先が……?!


「え!?曲がらない??」


焦ったのは、攻撃したナカリーの方だった。

止められた場所を起点に、棍棒は折れ曲がり、タスフォーレの背中を直撃するはずだった棍棒は、曲がる事なく1本のままだった。


そう!タスフォーレは、折れ曲がる起点よりその先に棍棒を当て、ナカリーの攻撃を防いだのだ。


タスフォーレは2本目の闘いの後、ナカリーの棍棒を観察していた。


「まさか、棍棒から繋ぎ棒になるとは…、約三分の一ぐらいの長さか…」


ナカリーは決めに来るときは、両手で棍棒の端を持って攻撃をしてきた。

だから、止めようとしたら、つい棍棒の真ん中辺りを止めてしまうのだ。

故に、初めから曲がるように細工された、残り3文の1が襲って来るという仕組みだったのだ。


その事を2本目で把握したタスフォーレは、その繋ぎ目よりさらに先を止めたのだ。


さらに、タスフォーレは、両手で持っていた棍棒を「グイッ」とねじると、


「スポッ」!


棍棒の半分より下が抜け、2本の棒になった。


上の1本で、ナカリーの棍棒を止めたまま、下の2本目でナカリーの胴を凪ぎ払った。


「もらった~!!!」


ナカリーは、攻撃を防がれた上、さらに棍棒が2本に分かれ、攻撃されたことに焦り、うしろに下がろうとしたが、足がもつれ、しりもちをついた。


「キャッ!!」


「ドスン!」


「ブンッ!!」


しかし、タスフォーレの攻撃は、ナカリーの数センチ先を通り空を切った。


ナカリーは、しりもちをついたまま、後ろに転がり、タスフォーレとの距離を取った。


「た、助かった~…ま、まさかタスフォーレの棍棒にも仕掛けがあったなんて…」


タスフォーレにとっては、運が無かった。

ナカリーがしりもちをつかなければ、攻撃は届いていたかもしれない。


しかし、力一杯振り回された棍棒を止め、その体勢のまま胴を凪ぎ払おうとしたのだ、当たらなくても誰が文句を言おうか。


それに、相手に攻撃が当たれば勝ちの、この大会。奥の手を出した以上、タスフォーレは、「少しでも当たれば」と思い、攻撃をしたのだった。



再び対峙した2人の構えは、先程とは明らかに違っていた。


タスフォーレは、最初から2本の棒を両手に持ち、1本は頭の上に水平に、もう1本は先を地面に向けて構えていた。


ナカリーの方は、最初から三分の一を外し、紐で繋がったその先を相手に向け、クルクルと回し始めた。その回転が上がるたび、棍棒の影は薄くなり、その円はまるで見えない丸い盾のようにも思えた。


その対峙した2人を見ていたオリアン達は、大きくタメ息をつきながら、


「ふう~、一体なんだってンだ、今回はよ…?」


オリアンの言葉につづいてスラインも、


「まったくだ…息をする暇も無いじゃないか…レベルが上がって来てるんじゃないか?まだ1回戦の第1試合だぞ?」


2人の言葉にラウクン新国王は、


「良いことじゃないか。人も武器も進化してるって事じゃないか。『進化無くして進歩なし』ってな。ハハハハハ!」


するとスラインが、


「これでお互いの手の内を晒した事になるんだが、どう思うオリアン?」


するとオリアンは、


「どうもこうも、実力は『タスフォーレ』の方が上だろうよ。僅差に見えるのは、『ナカリー』の武器のおかげだ。

それに、ここが戦場なら、さっきの一撃でナカリーは死んでいる。」


「さっきの一撃?ナカリーが『しりもち』をついたやつか?」


スラインが聞き返した。

すると今度は、ラウクン新国王が、


「あの攻撃は、しりもちをついたおかげでかわしたんじゃないのか?」


すると、オリアンは、


「俺が言いたいのは、『ここが戦場なら』って事だ。

もし命を賭けたやり取りなら、あの場面だとタスフォーレは剣を凪ぎ払いに行かないで、体ごとナカリーに向かって、剣を突き刺しに行ったはずだ。当たるか当たらないかわからないような無理な体勢をしてたらなおさらだ。

相手が後ろに下がっても対処出来るしな。

だが、さっきも言ったように、これは殺し合いじゃねえ、剣技大会だ。

相手に攻撃を当てればいいだけだ。実力の差で決まるもんじゃねえ。」


するとスラインが、


「なんだよ?結局、お前にも解らないんじゃねえか。」


スラインの言葉に、オリアンは、頭をかきながら、


「ただな…俺の予想が当たっていたら、タスフォーレは負けるかもな…

タスフォーレが、『この事』に気付いて無ければの話だかな。」


「『この事』?」


スラインがいち早く食いついた。


「なんだよ?オリアン、勿体ぶらずに教えろよ!」


するとオリアンは、面倒臭そうに、


「だから、何度も言ってるだろ?ナカリーの棍棒の『しなり』だよ!」


「『しなり』って、1本じゃなく、2本を途中で繋げているんだから、どうしたって繋ぎ目が弱くなって、しなるのは当然だろ?」


スラインの答えに、オリアンは、


「俺が言いたいのは、上下均等にしなってるって事だ。

タスフォーレは、今は二刀流だ、今のナカリーの武器ならかわす事が出来るだろうが、もしあれが…」



「3本目!!始め!!!」


オリアンが言い終わらないうちに、審判の声が上がった。


今度は、タスフォーレが先に動いた。

二刀流になった今、接近戦で勝負を賭けて来たのだ。

元々、『野戦』を得意にしていたタスフォーレなので、まさに本領発揮だった。


一方、ナカリーは、懐に入られまいと、クルクルと回す手にも力が入った。

懐に入られたら、長い棍棒は不利だ。誰もがわかりきっている事だった。


ナカリーの回転の速さは更に増し、その円すらも見えなくなった。まるで透明のバリアだ。


しかし、タスフォーレはそんな事はお構い無しに、真っ直ぐナカリーに向かって突っ込んで行った。


タスフォーレは、そのスピードを緩める事もなく、左手に持っていた棍棒を見えないバリアに向かって突き刺した。

しかし、高速回転をしているところに、棒を突き刺せば弾かれるのは目に見えている。


が、ただ1ヶ所だけ突いても弾かれない場所があった。

そう、『円の中心』だ!回転する円の力は、外側になるほど強くなる。逆に中心に近付けば近付くほど、その力はゼロに近くなるのだ。


その事を知っていたタスフォーレは、迷う事なく、真ん中に棍棒を突き刺した。


「ウォリャァ~!!!」


「ゴン!ギュルギュル!?…」


ナカリーは、それでも回転を止めようとはしなかったが、逆にそれが仇となり、タスフォーレの棍棒に、繋げていた紐が巻き付き回転が止まってしまった。


が、タスフォーレも、絡まった棍棒が取れなくなり、手を離さざる負えなかった。


ナカリーは、中心を思いきり突かれた衝撃で、少し後ろに下がったが、踏み止まり、のこり三分の二でタスフォーレの胴を凪ぎ払おうと、ありったけの力で振り抜いた。


「ヤァーーー!!!」


「ガッ!」


しかし、タスフォーレも離した左手を、もう1本の棍棒に添えると、ナカリーの棍棒を止めた。

そして、そのまま棍棒を滑らすように、ナカリーに迫り、頭に一撃を加えようとしたその時!


「バキッ!」


「グハッ!?!」


タスフォーレの背中に強い衝撃が走り、持っていた棍棒を落としながら、気を失い、体をナカリーに預けて倒れ込んだ。


ナカリーも、倒れ込んで来るタスフォーレを片手で受けると、持っていた棍棒を離し、両手で支えた。

しかし、度重なる緊張感から、ナカリーも足の力が抜け、タスフォーレを抱えたまま、ヘタヘタと座り込んでしまった。


そして、


「3本目!勝者ナカリー!!!よって、この勝負!ナカリーの勝利とする!!」


「うおおおおおお~~!!!!!!!」

「オオオオオオ~~~!!!!!!!!!!」


審判の声と同時に、会場から割れんばかりの声援が舞い上がった。


その結果を見たスラインは、イスから立ち上り、


「ガタッ!!」


「さ、3本だと!?…」


するとオリアンが、


「やっぱりな…」


それを聞いたスラインは、


「や、「やっぱり」って…お前、知ってたのか、繋ぎ棒が3本だったって事を?」


「だから、さっきから言ってるだろ?『上下均等にしなってる』って、上だけ『繋ぎ棒』じゃ均等にはしならねえんだよ。

こうして、外から見てるとわかるが、闘っている最中じゃ、気が付かなかったか…」


タスフォーレに寄りかかられている体勢では起き上がれないナカリーを見たセオシルは、いち早く側に行き、ナカリーとタスフォーレを抱え起こした。そして、


「よくやったな、ナカリー。見事な勝利だ!」


と、ナカリーに祝いの言葉をかけた。

ナカリーは気絶したタスフォーレを抱えたまま、会場を出ようとしたが、足がフラフラで今にも倒れそうだった。

そんなナカリーにセオシルが、


「タスフォーレは、俺が肩を貸す。お前はムリをするな。」


すると、ナカリーは大きく首を振り、


「ううん…一緒にこの会場から出たいの…」


と、息を切らしながらも、一歩一歩、前に進んで行った。


そんな2人を見た、ラウクン新国王は、


「パチパチパチパチパチパチ!!!!…」


大きな拍手をしたかと思うと、


「見事な闘いであった。私は2人を誇りに思うぞ。

よくやったナカリー!、そしてタスフォーレよ、負けたからといって恥じることはないぞ!

お主の頑張りは、私の胸に深く残った。美味しい物を食べて、ゆっくり休んでくれ!」


気を失っているタスフォーレに、ラウクン新国王のねぎらいの言葉は届かなかったが、観客からも、


「よくやった~!2人とも~!!」

「いい試合だったぞ~!」

「タスフォーレ~!また来いよ~!!」


と、2人に対して惜しみ無い声援が贈られた。


「…ん…?…」


そんな声援の中、意識を取り戻したタスフォーレは、隣に居るナカリーに、肩を抱えられ歩いている自分の状況を理解し、試合に負けた事を悟った。


タスフォーレは、足を止めると、


「ナカリーさん、ありがとう。もう1人で歩ける…私は負けたのだな…」


と、ナカリーの顔を見ながら言った。

ナカリーは、タスフォーレの手を肩から外すと、


「ギリギリでしたけどね。」


と、「ニコリ」と笑いながら言った。


タスフォーレは2、3歩歩くと、「ガクッ」と膝が崩れそうになった。


「あ…あれっ…?」


「ガシッ!」


崩れそうになったタスフォーレを再びナカリーが支えた。


ナカリーの攻撃を2発もまともに背中に食らったのだ、タスフォーレ自身も気付かないうちに、足にきていたのだった。


「す…すまない、ナカリーさん…」


「大丈夫よ。私の方がダメージ少ないから。」


気丈に振る舞うナカリーだったが、明らかに膝が笑っていた。

そんなナカリーを見たタスフォーレは、自分がどうやって負けたのか不思議に思った。


「なあ、ナカリーさん。ひとつ聞いてもいいかな?」


「え?何?」


「私は、どうやって負けたのだ?確かに最後の攻撃は防いだハズなのに…」


「あ~、あれはね…」


ナカリーは、タスフォーレの顔を見ると、視線を外し、自分の隣を歩いているセオシルに目を向けた。


隣を歩きながら、2人の会話を聞いていたセオシルは、ナカリーと目が合うと、右手に畳んで持っていたナカリーの『3本繋ぎの棍棒』を見せた。


「さ!3本!?」


タスフォーレは驚きながらも、納得の表情で、


「なるほど…3本繋ぎだったのか…

それには気が付かなかった…私の完敗だな…。」


と、言いながら、「ニコリ」と笑った。するとナカリーも、


「私だって…、まさか本当に2本になるなんて思ってもみなかったから…」


「え?!『本当に』?!って…」


タスフォーレは、ナカリーが自分の棍棒の秘密を知っていたかのような口ぶりに驚いた。


「ち、ちょっと待って!あなた、私の棍棒が2本になるのわかってたの?」


タスフォーレは、再び足を止め、ナカリーに問いただした。するとナカリーは、


「確信は無かったんだけどね。『知ってた』というより、「そうじゃないか?」って教えて貰っていたから。」


「え?「教えて貰った」って誰に?」


と、タスフォーレはナカリーを見たが、そのナカリーの向こう側に、頭をかきながら、上を向いて目線を合わせようとしないセオシルの姿があった。

その仕草を見たタスフォーレは、


「あ~、なるほど。ナカリーさんの旦那さんは、この国1、2 と言われるセオシル殿だったな。」


するとセオシルは、照れくさそうに、


「万年2位だがな。ハハハ…」


するとタスフォーレは、


「なぜわかった?セオシル殿、この『棍棒』は、この大会の為に作って、誰にも知られないようにしていたんだがな。」


タスフォーレの問いに、セオシルは左手に持っていたタスフォーレの棍棒を見ながら、


「この長さかな?棍棒をあえて不利な短さにするのには訳があるって思ったのさ。

あとは、ナカリーの使ったこの武器、俺達は『三節棍』と呼んでいる。

人の手足のように『関節』があるからな。『三本の関節がある棍棒』略して『三節棍』だ。

これを完成させるまで、イロイロと試してみたんだよ。

まず、棍棒を2本にしてみた。しかし、それでは1本づつが長すぎた。それで少しずつ短くして、ちょうど良くなったのが、この長さだ。」


と、ここでセオシルは、改めてタスフォーレの使っていた2本の棍棒を見せた。


「それで、タスフォーレも同じ事を考えていたかもしれないって思ったのさ。

ま、もっとも俺達は棍棒を3本にすることを選んだんだがな。しかし、3本にするとバラバラじゃ手が足りない、それで紐で繋げたってわけだ。2本繋ぎは見たことあるからな。」


するとタスフォーレは、『参った…』というような表情で、


「そうか…あなた方は、私の何倍も先を行ってたということか。勝てないわけだ。ハハハ…

しかし、次こそは必ず勝つからな。

と、その前に、このまま勝ち進めば『チェスハ』と当たるが勝てよ!ナカリーさん。」


するとナカリーは、苦虫を噛み潰したような顔をして、


「う~ん…どうだろう…『奥の手』全部出しちゃったから…

それにこの『三節棍』もチェスハさんに内緒で作ったからね~。あとで何を言われるか…」


するとタスフォーレは、


「大丈夫だ!その『三節棍』とやらは、いい武器だと思うぞ。使いようによってはかなりの優れものだ。次からは私も使わしてもらおうかな?。フフフ…」


実戦経験の豊富なタスフォーレは3本の棍棒が繋がった『三節棍』に、かなりの魅力があるとし、体力が回復したら、2回戦まで時間があるので、ナカリーに三節棍の指導をすることを約束した。


ナカリーはそのお礼に、大会が終われば、お城で好きなだけ食事を振る舞うことを約束した。


タスフォーレは、「国王の許可なくお城には入れない」と恐縮していたが、セオシルの「俺に任せろ!」の一言で、苦笑いをしながらも承諾をした。


会場の入り口には、次の第2試合に出場する『リムカ』と、ナカリーの子供達の『マイ』と『ロード』が立っていた。


「おかあさ~ん!」

「おかあさ~ん!」


子供達は、ナカリーに駆け寄り抱き付いた。


と、同時にナカリーに肩を預けているタスフォーレに


「大丈夫?お姉ちゃん?」


と、マイが心配そうに声をかけた。


タスフォーレは、2人の頭を撫で、


「ありがとう。お姉ちゃんはもう大丈夫。

あなた達のお母さんは強いのね。」


と言うと、弟のロードが、


「もちろんだよ!お母さんは、お父さんより強いんだから!」


それを聞いたセオシルは、


「あ!バカ!こら!」


と、慌てて黙らそうとした。


一瞬、キョトンとしたタスフォーレだったが、


「プッ!アッハハハハハハ!!ハハハハハ…

いや、すまないセオシル殿、アハハハハハ…

『母は強し』って事だな。

いや~、子供はいいな、正直で。」


それを聞いたナカリーは、


「タスフォーレさんは、独身なの?」


と、尋ねた。すると、


「ハハハ…こんな剣ばかり振り回している女に、言い寄って来る男なんて居るハズもない。ハハハ…」


するとナカリーは、


「そんな勿体無い、タスフォーレさん美人だし、スタイルもいいのに…

ねえ、あなた。誰かいい人居ないの?」


と、セオシルに誰かを紹介させようとした。


セオシルは少し考え、


「そうだな、独身の衛兵達は、たくさん居るからな。

どうだろうタスフォーレ殿、大会が終わったら、みんなで食事をするというのは?気に入ったヤツがいたら煮るなり焼くなり好きにすればいい。ハハハハハ!」


「いいのか?私なんかの為に…?」


「気にする事はない、逆にひ弱な男達を鍛えてくれたら言うこと無しだ。」


するとタスフォーレは、ナカリーの手を取り、


「ありがとう、ナカリーさん、セオシル殿。考えておくよ。

この国はいい所だな、よそ者の私にも、こんなに優しくしてくれる。

他の国みたいに、ヤジも無い。噂通りのいい国だ。」


するとセオシルは、天を仰ぎ、


「確かに住みやすく、いい国になった。これも全部タロウのおかげだな。」


『タロウ』の名前が出た事で、セオシルはイロイロと教わり、側近までに上り詰めれた事、ナカリーは『聖戦』で助けられた事を思い出していた。


「本当、タロウが居なかったら、この国はどうなっていたか…」


ナカリーは、深いタメ息をついた。


そんな2人を見たスフォーレは、


「あの…2人に、ひとつお願いがあるんだが…」


と、なにやら控えめに、尋ねてきた。

するとナカリーが、


「ん?なあに?もう、お友達なんだから、なんでも遠慮しないで言って。」


するとタスフォーレは、


「私もタロウに会わせてくれないか?話がしてみたいんだ。」


すると、すぐにセオシルが、


「なんだ、そんな事か?任せろ、タロウは大の親友だ。話しておくよ。」


と、すぐにナカリーも、


「私から話しておいてあげるわ、なんたってタロウは私の弟みたいなものだから。」


すると、


「ちょっと待てナカリー、俺から話すって。」


負けじとナカリーも、


「い~え、私から話します。何たって、ミウとタロウの仲を取り持ったのは私みたいなものなんだから!」


すると、セオシルも


「ウソつけ!あの2人はチェスハがくっつけたって聞いたぞ?」


するとナカリーは、


「タロウがお城に会いに来る度に、私がミウを呼んだんだから!

あなたは、ただの親友でしょ?タロウは私の弟、家族なのよ!」


セオシルは、呆れ返って、


「本当の家族じゃないだろ!」


と、2人が口喧嘩を始めてしまった。


タスフォーレは、思いもよらない展開に、


「い、いや…わ、悪かった、私が変な事を言ったばかりに…」


と、謝ったが、当の2人は聞く耳を持たなかった。


あたふたしているタスフォーレを見た、マイは、


「大丈夫よ、お姉ちゃん。もうすぐお父さんが謝って終わるから。ね~リムカちゃん。」


と、タスフォーレに言うと、なぜかリムカと一緒に、自分の耳に手を当て、耳をふさいだ。


すると、


「あなた!!!!!!」


と、ナカリーがセオシルを一喝した声が会場中に響き渡った。


すると、観客席で雑談してた人も、その場にいた全員が黙り混み、一瞬の静寂が辺りを包み込んだ。


それはオリアン達も同じだった。


オリアンは、深いタメ息をつくと、


「フウ~…、またアイツらか…」


と、呟いたかと思うと、


「コラ!お前達!!夫婦喧嘩なら、よそでやれ!

後がつかえてんだ!さっさとどきやがれ!!」


と、2人に向かって叫んだ。


すると、観客席からは、


「そ~だ!そ~だ!夫婦喧嘩するなら、試合で決めろ~!」

「口喧嘩でナカリーさんに勝てるはずないんだから、あきらめろ~!!」

「アハハハハハハハ!」

「第2試合は、ナカリー対セオシルか~!?」


などのヤジが四方八方から飛んで来た。


すると、セオシルは、


「悪かった…ナカリー、タロウの事はお前に任せる。」


とナカリーに謝った。


それを見たマイとリムカは、


「ね!お姉ちゃん。」


と、ウインクをしながら、タスフォーレに言った。


タスフォーレは、呆気に取られていた。

マイが言った通り、喧嘩が収まったのも驚いたが、何より国民が国王の側近中の側近を笑い飛ばしていたのである。


これはタスフォーレの母国、『サップレイン』では考えられない事であった。

もし、国民が王族関係を笑い者にすることがあれば、即刻処刑されても文句は言えないのだったからだ。


タスフォーレは、ラウクン新国王が、怒ってはいないかと、見てみたが、ラウクン新国王は、呆れた顔をして、タメ息をついているように見えた。


「まったくなんて国だ…ここは…ハハハ…」


と、タスフォーレも呆れ返っていた。


リムカは2人が近くに来ると、


「ナカリーさん、おめでとう!あたしも勝つからね!

タスフォーレさんも、かっこ良かった!二刀流!凄いよね!」


リムカは『三節棍』より『二刀流』を好きになったようだ。


そしてここにも、話の尽きない2人が居た。

チェスハとエミナーだ。

お互い、勝ち進めば『決勝』で当たるので、それまではお互いの闘う相手について語り合っていた。

いつもなら、他の選手など気にも止めない2人だったが、今回は少し違った。

仕掛けのある武器が、1回戦の第1試合から、2つも登場したからである。


先程の試合もしっかりと見ていた。チェスハが1回戦を勝ち上がれば、ナカリーかタスフォーレのどちらかと当たるからだ。

しかし、チェスハとエミナーは、試合の内容より、ナカリーの三節棍の話しになっていた。


「ちょっとチェスハ、ナカリーの使っていた棍棒、何あれ?知っていたの?」


エミナーの問いに、チェスハは大きく首を振り、


「ううん、全然。セオシルの野郎、あたしに内緒であんなもの作りやがって!あとでとっちめてやらないと!」


チェスハは、自分の知らない武器があることが悔しかったのだ。


するとエミナーは、チェスハをなだめるように、


「でも良かったわね、タスフォーレが頑張ってくれたおかげで、3本繋ぎだって事がわかって。

知らずに闘っていたら、いくらあなたでも危なかったんじゃない?」


するとチェスハは、「ムッ」とした表情をして、


「そ…そんなことないわよ!ま、まあ、1本ぐらいは取られたかもしれないけどね…、

でも、3本になるのがわかっているなら、それように対策も立てられるし余裕でしょ。」


チェスハの発言は、けして虚勢やウソでは無かった。

あらゆる武器に精通しているチェスハは、武器の形を見るだけで、使い方、威力などを把握出来るからである。

しかし、まだ他に見たこともない武器が出て来るのではないかと、不安も少しはあった。


僕とミウも、もちろんこの試合を見ていた。

僕は、明らかに今までの剣技大会とは違っているのに驚いていた。

僕の知っている剣技大会は『木刀』のみ、だったからである。

『二刀流』に『三節棍』、まだ必ず他の武器も出て来るに違いないと思っていた。

しかし、今のミウなら、どんな武器が出てこようと関係は無いのだが。


そのミウはというと、すぐにでもナカリーの側に行き、「おめでとう」を言いたかったが、自分の考えた『壮大な』ドッキリの為、グッと我慢して自分の出番を待っていた。


そして…



「これより!1回戦第2試合を行います!!

リムカ選手!サーラン選手は、中央へ!!」


審判の号令と共に、リムカとサーランが会場に入って来た。


初出場のリムカは、辺りをキョロキョロとし、落ち着きの無い様子だったが、サーランは前回も出場していたので、落ち着いていて、観客の声援にも笑顔で答えていた。


リムカは初出場とはいえ、注目の的だった。まだ10才とはいえ、『あの』オリアンとチェスハの娘だ。どんな戦い方をするのか誰もが興味を持っていた。


リムカの姿を見たエミナーは、


「ホラホラ、あなたの娘が出てきたわよ!」


エミナーがチェスハをからかうように言った。


するとチェスハは、


「あたしは、まだ早いんじゃないか?って言ったんだけどね…あの人が「大丈夫!」だって…」


チェスハは、リムカが出場することを快くは思っていなかった。


遊びの延長で剣を覚えたリムカは、まだ真剣な試合をしたことがない。

いくらオリアンとチェスハの子供だからといっても、まだ10才の女の子だ。

チェスハはリムカがケガをしないかが、心配だったのだ。


サーランは、タスフォーレと同じく『白』を基調とした服だった、しかし、胸や肘、膝のプロテクターは黒に統一されており、鎧というより、僕には『ライダースーツ』のように見えた。


対するリムカは、チェスハのトレードマークである『赤』を基調とした何かの革で出来たような衣装を身に纏っていた。


リムカは、一度、試合場の中央へ行くと、辺りををキョロキョロと見回し、チェスハを見つけると、一目散に走って行った。


「おかあさ~ん!!」


「どうしたの?リムカ?何か忘れ物?」


すると、リムカは持っていた木刀を見せて、


「これ、もう1本あったでしょ?ちょうだい!」


リムカの木刀は特別にチェスハが作った物だった。既製品では身長の低いリムカには長すぎたからだ。


リムカの身長に合わせた木刀を作り、試合中に折れたりした時の為に、予備を持って来ていたのだった。


「どうしたの?その木刀にヒビでも入ってるの?」


と、チェスハが聞くと、


「ううん!いいから、いいから!」


と、リムカは予備の木刀を受け取ると、


「ジャ~ン!二刀流!!」


と、両手に木刀を持ち、構えて見せた。


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