番外編26〔第35代、新国王誕生〕



番外編26〔第35代、新国王誕生〕



僕が、イサーチェを『ユーリセンチ』に連れて来て3日目、ついにラウクン王子の『結婚式』及び『第35代目国王即位式』が執り行われた。


城の中には、各国の偉い人達だろうか、いろいろな洋服に身を包んだ貫禄のある人達が談笑をしていた。


僕も『客人』として招待をされてはいたが、その経験をしたことの無い雰囲気にのまれ、部屋の隅で、早く結婚式が始まらないかと小さくなっていた。


そんな僕に気付いた人物が、ドカドカと 近付いて来た。

スライン将軍だ。10年経って、ますます風格が迫力を増していた。


「よう!タロウ!そんな隅っこに居ないで、こっちに来い!!」


スライン将軍の声に、一瞬、その場に居た人達の談笑が「ピタリ」と止み、静けさが辺りを包んだ。と、同時にスライン将軍の目の前に居る僕に、全員の視線が集まった。


それもそのはずである、この場に居るほとんどの人が、『勇者タロウ』の名前を知っていても、実際には目にした事がないからだ。


中には「ユーリセンチ」が作った『空想話』という噂も流れていた。


僕は思わずスライン将軍の腕を掴み引き寄せると、


「ス、スライン将軍!お、大声を出さないで下さい…バレちゃうじゃないですか…」


と、言ったかと思うと、さっきまで談笑をしていた人達が、一気に僕の前に集まった。


「御初に御目にかかります。貴方様が『タロウ』様で御座いますか。私は『アタマンディ』の者で御座います。

我が国にも是非来訪して頂きたく申し上げます。国を挙げて歓迎を致しますゆえ。」


「いやいや、我が『ジェンドレ王国』に。『タロウ』様の噂はかねがね聞いて御座います。我が国にもお力添えを是非。」


「都合の良いことを言うではない!それよりも我が『スクエード王国』に。我が国の女性は綺麗な者ばかりで御座います。『タロウ』様もきっと気に入る事かと。いっそ我が娘を貰ってはくださらぬか。」


「こら!スクエードのスイトフ!何を失礼な事を!タロウ様は我が姫と。」


「お前こそ、図々しいぞ!タロウ様は我が国の跡取りに!」


そのやり取りを僕の隣で聞いていたミウが、僕の服の裾をつまみ、「チョンチョン」と引っ張った。

チラッとミウの顔を見ると、なにやら心配そうな悲しそうな、複雑な表情で僕を見つめていた。


僕は両手を挙げると、


「ち、ちょっと待って下さい。皆様のお誘いは嬉しいんですが、僕には僕の国で結婚の約束をしている人が居るんです。そ、それに今日の主役は、僕じゃなくてラウクン王子ですから…」


僕があたふたしながら説明をしていると、


「アハハハハハ!聞いたろ客人達!タロウには心に決めた女が居るんだと!諦めるんだな。」


と、スライン将軍は僕の隣で下を向いていた『ミウ』に軽くウインクをした。

さらにスイン将軍は続けて、


「ホラホラ、そろそろラウクン王子が出てくるぞ、散った散った。」


と、手で追い払うような仕草をした。

すると各国の要人達は、深々と僕に頭を下げると、もといた場所に戻って行った。


と、その場に誰も居なくなった次の瞬間、スライン将軍は僕の首を抱え込むと、


「おい!タロウ、聞いたぞ、オリアンと試合るんだってな?

まあ、お前の事だから、負けねえとは思うけどよ、絶対負けんなよ、オリアンのヤツ、最近調子に乗ってるからな。鼻っ柱をへし折ってやれ!」


と、僕の耳元で囁いた。


スライン将軍が参列者の1番前の列に戻ると、なにやら隣の女性と話をしていた。

すると、その女性はクルリと振り向き、僕に向かって大きく手を振った。


僕は、すぐに『エミナー』さんだとわかった。僕が軽く会釈すると、エミナーさんの隣にいた女性もこっちに振り向いた。その女性はビックリしながらも声を挙げようとしたが、エミナーさんに止められてしまった。


反対側の1番前には『オリアン』が居た。もちろんその隣には『チェスハ』さんだ。


チェスハさんはエミナーさんと対照的で、僕が手を降っているにもかかわらず、目も合わそうとはしなかった。そのくせチラチラとこちらを意識していた。

やっぱり10年の年の差を気にしているのだろうか。


そんな事をしてるうち、会場が薄暗くなった。すると談笑の声はピタリと止み、辺りを静寂が包み込んだ。


すると静かに黒い服を着た老人が参列者の1番前に出て来た。


「司祭様よ…」


ミウが小声で、僕に教えてくれた。


その後ろには『セオシル』が細長い棒のような物を持ってついて来ていた。


そしてセオシルは静寂を打ち破るかのように大きな声で叫んだ。


「只今より!ラウクン王子、イサーチェ様の結婚の式を執り行う!

そして、同時にラウクン王子35代目国王即位式も続けて執り行う!

ラウクン王子!イサーチェ様!ご入場!」


セオシルの号令とともに、会場は一気に明るくなり、参列者の後ろにいたラッパ隊が勢いよく音楽を奏でた。


と、同時に扉が開くと、ラウクン王子とイサーチェさんが会場に入って来た。


すると会場全体に歓声が挙がったと思うと、その歓声はすぐに『どよめき』に変わった。


例えるなら、こんな感じだ。


「おお~~~!!!…おお~??」


僕には当たり前の光景だったのだか、この世界の人達には初めてだったらしい。


というのも、後でセオシルに聞いた話だが、この世界の王族の結婚式は、他の国に対しての威厳や誇り、権力や財力を見せつける為、ハデな鎧や衣装、王妃になる女性には眩いばかりのアクセサリーを着けるというのが当たり前だった。

現に今までは『ユーリセンチ王国』では『黄金の鎧』着て結婚式を行っていたらしい。


しかし、今回のラウクン王子は、『真っ白なタキシード風の洋服に真っ白なマント』

イサーチェは、文字通り『純白のウエディングドレス、アクセサリーといえば胸元に真珠のようなネックレス、頭に白い花の髪飾り』


巨万の富を得たこの国の王子が、どのような出で立ちで登場するのかと期待していた者達には、何の変鉄もない『白』一色にガッカリしたのである。中には失笑した者も居た。

そんなどよめきの中、僕の隣にいたミウが、


「お姉様…綺麗…」


と、ひと言呟いた。


ラウクン王子とイサーチェは、どよめきなど気にする様子もなく、『凛』と背筋を伸ばし、中央にいる司祭様に向かって歩いて行った。


そして2人が中央に近付くたび、天窓から入って来る光が2人に当たり、真っ白い衣装は徐々に輝きを増し、司祭様の前に来る頃には、まるで光の中に2人が立っているような錯覚さえ起こしていた。


その頃になると、『どよめき』は『タメ息』に変わり、


「なんと神々しい…」


「どんな黄金や宝石でも、あの輝きには勝てまい…」


「このような美しい結婚式は見たことがない、よい土産話が出来た…」


と、あちらこちらで呟かれ、中には涙する者まで居た。ミウもその1人だ。


これも後で聞いた話なのだが、イサーチェが着ていた『ウエディングドレス』は、なんと僕の母さんが父さんと結婚式を挙げた時に着ていた物だった。


イサーチェが、僕の家に住んでいた時、テレビで『ウエディングドレス』を見たらしいのだ。そして、


「セラさん、なぜこの国の結婚式では白一色なので御座いますか?」


と、尋ねた。すると母さんは、


「そうね~、『私はまだ色がありません。貴方の色に染めて下さい。』って意味かしらね。」


母さんの言った言葉が、本当かどうかはわからないが、その言葉はイサーチェの胸に突き刺さった。


「どうすれば、あんな素晴らしいドレスを作ることが出来るので御座いましょう?いつかわたくしも…」


と、テレビを見ながら、ウットリとしていたのだ。そんなイサーチェを見て、自分の着ていた『ウエディングドレス』を手紙と一緒に、イサーチェの荷物に入れていたのだ。

手紙の内容は『王子様との結婚式に着てください。』とまあ、こんな所だろう。


ラウクン王子はというと、イサーチェが帰って来るのを、ただ指をくわえて待っていた訳ではない。

イサーチェが帰って来たら、すぐに式が出来るよう、国中の中から最高の仕立て屋を呼び寄せ、豪華なドレスを何着も作らせていたのだ。

ラウクン王子も最初は『真っ白』なドレスは目立たないと言っていたが、イサーチェの『わたくしを貴方様のお色に染めて下さいまし。』

の一言で、『純白のウエディングドレス』に決まった。さらに王子は、


「わたしもそなたのような『純白』を着る!

2人で色をつけて行こうではないか。」と言ってイサーチェを抱きしめたのだった。



そして厳格な雰囲気の中、結婚式は滞りなく終了し、来賓の見守る中、イサーチェは無事にラウクン王子の妻となった。


続いて『国王即位式』が執り行われた。


ラウクン王子は司祭様の前に方膝をつき、頭を下げると、ラウクン王子の後ろでイサーチェも同じように頭を下げた。


セオシルが司祭様に、持っていた長い棒のような物を手渡した。


僕は『その物』を見て「ドキッ」とした。

なにやらその見覚えのあるものは、ミウがへし折り叩き壊した『黄金の剣』だったのだ。


これも後で聞いた話なのだが、代々の国王になる者には『黄金の剣』を受け継いで行かねばならないという決まりが在るらしい。

厳密には『黄金の鎧』とセットで受け継いで行かなければならないのだが、粉々になった今ではそれも不可能だ。

ただ『黄金の剣』だけは何かあった時の予備の為に、2本作ってあったらしく、形式上手渡したものらしい。


話を聞いて落胆していた僕に、セオシルはこう言った、


「アハハ、タロウ。そんなに落ち込むな、『人』は外見ではない、中身が大切なんだ。お前が身をもって証明してくれたじゃないか。

それにな、実際、今のユーリセンチなら『黄金の鎧』など何百…いや、何千着でも作れる。お前のおかげでな。あんな『剣』などただの飾りだ。ハハハ!」


セオシルの言葉に、僕は少し救われた気がした。


ラウクン王子は『黄金の剣』を両手で丁寧に受け取ると、さらに国王の証である『真っ赤なマント』を両肩から掛けられた。


そして司祭様が静かに口を開いた。


「ここに『ラウクン国王』が誕生したことを皆に伝える。」


司祭様が言い終わると、ラッパ隊が歓びの音楽を奏でた。

その音を聞いた城の回りに集まっていた人達から大歓声が上がり、城の中に居た僕達にまで、その声が届いた。

そして、その瞬間、ラウクン王子の妻だったイサーチェは『王妃』となった。


ラウクン王子は立ち上がると、皆の前で誇らしげに『剣』を両手で頭の上に掲げた。


その光景を見ていた僕は、


「真っ白な服に、真っ赤なマント、さらに金まで、『紅白金』…

なんて縁起が良いんだろう。さらに豊かになるんだろうなこの国は…」


などと思っていた。


ラウクン新国王は、式典がすべて終ると、城の外が見渡せるバルコニーに出た。


城の回りには埋め尽くさんばかりの人が集まり、新国王を一目見ようと待ち構えていた。


ラウクン国王が姿を見せるやいなや、地割れのような大歓声が沸き起こり、城が揺れた。


その大歓声はいつしか『ラウクンコール』に変わり、暫く続いた。


ラウクン新国王とイサーチェ王妃は、集まっていた国民に向かって、手を振り答えていた。


イサーチェの姿を見た女性達は、真っ白な『純白のウエディングドレス』に目を奪われた、シンプルな色ゆえに中身が引き立つ、しかも白一色なら金をかけなくても作れると。

それからのユーリセンチでの結婚式には、ほとんどの女性が『純白のウエディングドレス』を着ていたことは言うまでもない。


ラウクン新国王が、手を降るのを止めると同時に、国民からの声援も「ピタリ」と止んだ。


少しの静寂の後、ラウクン新国王が口を開いた。


「我が親愛なる、ユーリセンチの全国民の者達よ!

私はここに誓う!この身が朽ち果てるまで、そなた達に全力を尽くし、この国を守り通す事を!」


と、同時にラウクン新国王は、国王の証である『黄金の剣』を高々く頭上に掲げた。


ラウクン新国王の宣誓が終ると、再び地鳴りのような歓声がこだました。


と同時にあちこちから『エール』も送られて来た。


「期待してるぞ~!新国王~!!」


「なにかあったら、俺達も手伝うからな~!」


「イサーチェ様が、お側ついているんだ、心配なかろう!」


「アハハハハハ、ちげえねえ!!」


いつしか大歓声は笑い声に変わっていた。


僕は、ラウクン新国王、イサーチェさんの達の幸せな表情、国民の笑い顔を見ながら、いつしかミウの手を強く握りしめていた。


ミウもそんな僕の気持ちが伝わったのか、僕の手を握るその手に力が入った。

そして、イサーチェさんの幸せそうな笑顔を見て涙していた。


そして僕は思った。


「そうか、きっとこの日の為に僕はこの国に呼ばれたのだろう。

さあ!ミウ!僕達も帰ろう!母さんや妹の待つ、僕達の世界へ!」



めでたし、めでたし。



と、僕が『物語』の終わり的な事を考えていると、和やかな雰囲気の中、ラウクン新国王は再び口を開いた。


「皆の者聞いてくれ!堅苦しい挨拶はここまでだ!これから闘技場にて、『美しき女性達による剣技大会』を開催する!

城の庭では、我が妻イサーチェが作った、見たこともない料理がたくさん出てくるぞ!存分に楽しんで行ってくれ!」


と、言い終わったかと思うと僕の方を向き、


「楽しみにしてるぞ、タロウよ。」


と、「ニヤリ」と笑いながら、僕の肩を「ポンッ」と叩くと、城の中に入って行った。



「あ!オリアンとの試合…忘れてた…」



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