番外編8〔第二回剣技大会『タロウ杯』〕
番外編8〔第二回剣技大会『タロウ杯』〕
僕とミウが『ユーリセンチ』へ、母さんとイサッチが『イ○ン』へ、妹の智恵葉が『映画』を見に行く日がやって来た。
「ガチャ…」
「じゃあ、母さん。行ってきます。」
「気を付けてね、太郎。イ○ンで待ってるわ。
ミウちゃん、太郎の事よろしくね。楽しんでいらっしゃい。」
「はい、お母さま。行ってきます。」
僕とミウは遊園地にデートに行って、その後にイ○ンで母さん達と合流する。という事になっていたのだ。
僕達は、みんなより早く家を出て『ユーリセンチ』に続くあの路地に向かった。
早く家を出たのは、もちろん少しでも長く『ユーリセンチ』に滞在するためだ。
ミウは、次にいつ家族や友達と会えるかわからないし、下手をすれば2度と会えないかもしれない。そんなミウに少しでもみんなと一緒に居られる時間を作ってあげたかった。
そして、僕のやろうとしてる事も、どれだけ時間が掛かるかわからないので、少しでも時間が欲しかったというのも理由の1つだ。
僕のやろうとしてる事、それは『ユーリセンチ』で『大豆』食品を作る事だった。
『醤油』はもちろん、『味噌』『枝豆』『モヤシ』『きな粉』『豆乳』『豆腐』『油揚げ』などだ。僕はあまり好きじゃないけど『納豆』も出来るかも…
もしかしたら、似たような食べ物が、もうあるかもしれないが、『醤油』と『味噌』は確実に無かった。『発酵』という概念が無ければ存在しないのも当然だろう。
僕達は日本時間で『3時間』、ユーリセンチの時間では『約2週間』の滞在することを予定としていた。
まずは『大豆』が、もしくは『大豆』に代わる物が存在するかどうか確認する必要があった。
昨日、学校の帰りに少しだけ『大豆』を買って帰り、ミウやイサッチに『大豆』を見てもらったが、「こんな固い豆は見たことが無い」と言った。
当然の事ながら、僕も『大豆』の事は詳しくは知らない。豆まきの時に投げる豆。『味噌』や『醤油』の原料。その程度の知識しかなかった。
実際、『枝豆』や『モヤシ』が 『大豆』だったとは、インターネットで調べて、初めてわかった事だった。
もし、買った『大豆』をユーリセンチに持ち込んで、その大豆がそのままなら、ユーリセンチにも『大豆』があるということになる。他の豆に変われば、その豆が『大豆』の代わりになるということである。
もし…もしも、持ってきた『大豆』が消える、もしくはだだの石とかになるようであれば、この計画はすべて無かった事になる。それだけはなんとか避けたい。
僕とミウは、手を繋ぎあの路地に向かった。どちらかというと、ミウが僕の手を引いて歩いている感じだ。早くみんなに会いたいのだろう。
あっちの世界は2年近く経ってるということで、ミウも少しだけお化粧をした。
母さんに教えてもらい、口紅を塗ったのだ。もともと白い肌、ピンクの口紅がよく映える。一気に大人っぽくなった感じだ。
そして路地まで来ると、僕とミウは立ち止まる事なく、路地の奥に入っていった。
薄い路地を歩いて……「中略」……
気が付くと……
「あ…あ、あれ?…」
僕はあまりの出来事に言葉を失った。
岩山の洞窟を出た先には、広大な景色が広がっているはずだった。
つい2日前に来た時も、確かに広い平原の所々に岩山がある広大な風景が広がっていた。
しかし、今、見ている景色は、人々で一杯の、どう見ても建物の中だ。
隣にいるミウも戸惑いを隠せないでいた。不安そうに僕の腕を掴み、僕の顔を見ていたのだ。
「タ、タロウ…?」
「う、うん…」
僕は小さく頷くと、後ろを振り向き、出てきた方向を見た。
するとそこには、確かに今、僕達が出て来た洞窟があった。
そして不思議な事がもう一つあった。
洞窟から突然表れた僕とミウに対して、そこにいる人達全員が無関心なのだ。
中には僕達に向かって、手を合わす人もいれば、小銭を投げつけて来る人も居た。
しかし、投げつけられた小銭は、僕の体を通り抜け後ろの洞穴の入口に落ちた。
よく見てみると、そこには小銭が大量に溜まっていた。
人々の目線をよく見ると、僕達ではなく、後ろにある洞窟を見ているような感じだった。まるで僕達が、そこに存在してないかのように…
その時、僕は「ハッ!」と同じような状況を見ていた事を思い出した。
それは、イサーチェが初めて僕の世界に来た時の事だ。
イサーチェが回りの人に声をかけるも無視をされ続け、手を掴もうとするとすり抜けていたのだ。
少しだけ状況を把握した僕は冷静さを取り戻し、
「ミウ、大丈夫だよ。まだ僕達は、この国の食べ物を食べてないから、認知されていないんだ。」
と、ミウに伝えると、改めて辺りを見回した。
すると、前に来た時にあった、入口の隣に立ててあった『立て札』が、さらに大きな『立て看板』になっていた。
2メートルはあるだうか、なにやら人の絵が書いてあるようだ。
僕とミウは、その看板の前に行き書いてある絵を見た。
「オリアン…?」
僕が呟くと、ミウが絵の下に書いてある文字を読み始めた。
「第一回剣技大会『タロウ杯』優勝者『オリアンタロウ』?」
「え?なんだって…?オリアンタロウ?」
不思議そうに僕がミウを見ると、
「ええ、そう書いてあるわ。『オリアンタロウ』って。」
「と、とにかくこの建物を出て、街に行こう。何か食べないと言葉もわからないし、字も読めない。」
僕はミウの手を取り、出口に向かって歩き始めた。早く出たかったので、人混みをわざと避けず、真っ直ぐに突っ切った。
ミウは人が自分の体をすり抜けて行くのが嫌そうだったが、出口付近になると、それが楽しくなったのか、わざと人にぶつかって行っていた。
僕は歩きながらも、考えている事があった。
「さて、認知されない僕達が、どうやって食べ物をゲットしようか…?川の水でも飲むか…」
と、その時僕はこれまでの事を思い出した。
「あれ?まてよ。ミウが初めて『僕の世界』に来た時、誰にも認知されないはずなのに、僕はミウに気が付いた。僕がミウに連れられて『ユーリセンチ』来た時も、まだ僕達が何も食べていないのに、ロコナのおじいさんは、僕達に気が付いていた。
イサーチェが『僕の世界』に来た時もそうだ、僕だけがイサーチェの存在に気が付いた。
は!まてよ、僕がこの前、ここに来た時、僕の存在に気が付いてくれた人がいるじゃないか!もしかして…」
僕はミウの手を引き、出口を飛び出した。
すると、そこには見慣れた景色が広がっていた。
多少、何やら建物らしき物が点々と建っていたが、紛れもなく『ユーリセンチ』だった。
ただ一つ大きく変わったのは、今、出てきた洞穴の岩山が大きな建物になっていた、という事だ。
建物というより、岩山の中腹から上を壁で取り囲み、屋根を着けたという感じだ。
僕とミウは岩山を下りると、街へと続く道に出た。道もキレイに整備され、幅も広くなっていた。
するとそこに、
「Α~ヴ!ΦЯヵ!」
何かを叫びながら近づく1台の馬車があった。
僕の予想は、確信に変わった。
「やっぱりだ……お~い!!」
僕はその人物に、大きく手を振り答えた。
馬車は当然のように、僕達の横に止まった。
そこには、ロコナおじいさんの孫『ミプレオ』の姿があった。
馬車は当然のように、僕達の横に止まった。
そして、キョトンとしているミウに、
「Дヱ、ΖχΕ゛χヵΝк?」
「ヱεΦν?」
「ρ゛Ην『χρ゜ЮΑ』ЯΙεΞ゛ヴΝкι、φΙ゛εкΦ゛。」
「ЯΙεヱΞ゛ヴΝкι…」
「νЫ、ΙЮжΦπ゛Ω。」
「ヱЬヵ゛αヵ。」
ミウはミプレオからリンゴを受けとると、僕に手渡してくれた。
「ミウ、この人はね…」
「知ってる。ロコナおじいさんのお孫さんでしょ?さ、食べましょ。」
「あ…う、うん…」
僕とミウは、すぐにリンゴにかじりついた。
言葉がわからない事もあったが、少しお腹も空いていたのだ。
「う~ん!やっぱり美味しい~。」
「うん。美味しいね。」
ミウにとっては、何日かぶりの故郷の味だ。
「やあ、タロウ。また会えて嬉しいよ。
街まで行くんだろ?乗せて行くよ。」
「ありがとうございます。ミプレオさん、またお世話になります。」
僕とミウは、馬車の荷台に乗り込んだ。するとミプレオから、フードつきのローブを渡され、「これを着なさい」と言われた。
僕は不思議に思い、
「どうしたの?何かあったの?」
と、ミプレオに尋ねた。するとミプレオは、
「今や2人は超有名人だ、この国…いや他の国にも『タロウ』とその妻『ミウ』を知らない者は居ない。」
するとミウが照れくさそうに、
「ウフフ…『妻』だって…」
と、言いながら、僕にすり寄って来た。
ミプレオは話を続けた。
「今回来たのも、お忍びで、あまり知られたくないんだろ?」
確かに、あまり大騒ぎになると、『醤油作り』どころではなくなるかもしれない。ミウも家族との時間がなくなるかもしれない。
2週間の時間があるとはいえ、出来ることなら、初めて来た時みたいに、のんびりしたいと思っていた。
「タロウは、名前を言わなければ、気付く人も少ないと思うが、ミウさんは、その白い髪がよく目立つ。」
「え!?僕よりミウなの?」
するとミプレオは笑いながら、
「アハハハ、嫉妬したのかい?」
「べ、別に、そんなこと…」
僕は、思わず声をあげた事が恥ずかしくなった。
「仕方ないよ、ミウさんは全女性の憧れだもの、なんたって、異世界の勇者に連れられて、年を取らない世界にお嫁に行ったんだからね。
いつか自分を連れて行ってくれる勇者が現れるのをみんな待ってるんだよ。」
「あちゃ~、年の事バレてるのか。でもなんで?」
「あ!私がチェスハに言ったから…」
「あ、そうか!チェスハだ…あの人はもう…」
とりあえず僕とミウは、ローブを被りながら、新しい言い訳を考えた。
するとちょうど目線の先に、さっき出てきた洞穴の岩山が見えた。
「ねえ?ミプレオさん、あの岩山って、いつからあんな風になったの?」
「ああ、いつもタロウが出てくる洞穴だろ?
2年前、タロウが帰った後に、ラウクン王子が、「あの岩山を『聖地』にしよう」って言ったんだ。
そして、壁で囲い建物にしたってわけさ、すると一目見たいって人が、世界中から集まって、今や、ユーリセンチ1番の観光スポットになったんだ。」
僕は、洞窟の隣にあった看板の事を思い出した。
「あのさ、ミプレオさん、洞窟の入口に前には無かった大きな看板があったんだけど、あれって?」
「ああ、『オリアンタロウ』の絵の事だろ?」
「そ、その『オリアンタロウ』って…、あのオリアン?」
「もちろんだよ。絵の下に書いてあっただろ、〔第一回剣技大会『タロウ杯』優勝者〕って。」
「そ、その『タロウ杯』って…」
「あれ!?知らなかったの?てっきり今日の〔第二回剣技大会『タロウ杯』〕を見に来たんだと思ってた。」
僕は驚き、
「え!?今日!?今日、大会があるの?」
するとミプレオも驚き、
「え?本当に知らなかったの?
この大会も前にタロウが帰った後、王子が言い始めたんだ。衛兵達のモチベーションを上げる為にね。
衛兵達は毎日訓練をしてるだろ?でもユーリセンチに戦を仕掛けてくる国なんて在るわけが無い。
だから強くなくてもいいんじゃないか?って言う衛兵もいるくらいなんだ。」
僕は、セシオルの言葉を思い出していた。
「最近、おもしろい事が無くてな…」
「そこでラウクン王子が、「それでは年に1回、ユーリセンチ最強の剣士を決めようではないか!優勝者には勇者『タロウ』の名を与える!!!」
って、始まったのが〔剣技大会『タロウ杯』〕なんだ。」
僕は複雑な表情で、
「凄い…凄い事なんだけど…その『タロウ』って名前が欲しい人って居るのかな?」
「何を言ってるんだい、ラウクン王子が、御触れを出したら、衛兵達だけじゃなく、国中から申し込みが殺到したんだよ。
そして各地域の予選を勝ち抜いた8人だけが特別に作られた会場で戦う事が出来るんだ。
それで去年の優勝者がオリアンだったってわけさ。」
「まあ、当然の結果だよな。でもオリアンがよく名前を変えたね。なんかオリアンだったら、「『タロウ』なんて付けたくねぇ!!」って言いそうだけどな。」
「それがね。本人が1番喜んでいて、回りの人も縮めて『オリタン』って呼んでるよ。」
「『オリタン』って…もう、ゆるキャラ扱いじゃないか。」
僕は思わず吹き出しそうになった。
「その8人の中には、他には誰が居たの?」
ミプレオは少し考え、
「そうだな、衛兵とオオカミ族の半々だな。」
「準優勝は?」
「君もよく知ってる『セシオル』だよ。」
「え?セシオルが準優勝??」
「まあ、当然だろうな、なにせオリアンが衛兵達に剣技を教えているんだから、セシオルはオリアンの1番弟子なんだよ。」
僕はチェスハの名前が無い事に気が付いた。
「あれ?チェスハは出なかったの、猿姫が出ればセシオルでも勝てないんじゃ…」
「女の人は出られないんだよ、なにせ『タロウ杯』だからね。『タロウ』の名前が付けれるのは男だけなんだよ。」
「ま、まあそうだよな…」
「でも、やっぱりうちのじいさんて、凄いな。」
「ロコナのおじいさんの事?」
「ああ、僕がここに来る前、大会の事を話していたんだ。」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「今日の大会も、オリアンの優勝だろうね。セシオルも強くなったけど、オリアンにはまだ敵わないよ。」
「ほほほ、それはどうかの。」
「え?じいちゃんはセシオルが勝つと思ってるの?」
「さあ、それはどうかな?ただし面白くなる事は確実じゃ、大番狂わせもあるかもしれん。
それからの、お前に仕事を頼みたい。」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「っていうわけさ、その『仕事』っていうのが、君が来るから、迎えに行ってくれって事だったんだよ。」
「凄いな、おじいさん…なんで来るのがわかるんだろ?」
「それで迎えに来たら、ミウさんも居たから、てっきり『ラク』君の応援に来たのかと…」
すると今まで僕達の話を静かに聞いていたミウが、
「え!?ラクが?ラクが大会に出てるの?!」
「え?あ、ああ、去年はまだ見習いだったから出てなかったんだけど、今年予選会に出たら、運良く勝ち進んで、8人の中にいるんだ。」
ミウは僕を見つめ、
「ねえ、タロウ…」
僕はミウが何を言いたいのか直ぐにわかった。しかし大勢の人がいる中に入って行くのは…と、一瞬思ったが、
「ミウ!ラクの応援に行こう!ローブを深く被っていればバレないよ。
ミプレオさん、大至急、会場までお願いします!」
「まかせろ!もう大会は始まっているからな、ブッ飛ばすぞ!しっかり捕まっていろ!」
そして馬車は……「中略」……
「あ、1つ聞き忘れてた、なんでミプレオさんは僕を認識出来たんだろ?ま、まあいいか、帰りにでも聞いててみみみみみよう。」
と、僕は跳び跳ねながら爆走する馬車の中で思っていた。
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