番外編1〔イサーチェ、再び〕



番外編1〔イサーチェ、再び〕



ミウがこの世界に来た次の日、僕は学校でちょっとした有名人になっていた。


というのも、どうやら昨日、マ○クでミウと居たところを同級生に見られたらしい。


教室で掘り葉掘り聞かれたが、「母さんの友達の娘さんを預かっているだけ。」と説明すると、「な~んだ、やっぱりな。」と変な納得をし、波が去るように、僕の回りから人が居なくなった。


しかし、本当の事を知っている僕は、1人優越感に浸っていた。フフフフ…



その日は、学校が終わると急いで家に向かった。少しでも早くミウに会いたかったからだ。


しかし、そのはやる気持ちを抑え、少し回り道をして『タイヤキ』を買った。


さすがに3回目ともなると、僕のスマホには、忘れないようにと、妹からのLINEで『タイヤキ』の文字がびっしりと並んでいた。

しかも、ミウと一緒に食べるらしく、「少し多目に」とも付け加えられていた。


僕は、暖かい『タイヤキ』をミウに食べさせたくて、急いで帰った。

そして、あの壁の近くまで来た時、不思議な光景を目にした。


1人の女性が、道の真ん中で、通りかかる全ての人に声をかけているのだ。

が、しかし声をかけられた人全員が、女性に振り向きもせずスルーしていた。


無視をしてるというより、その女性そのものが、そこに存在してないかのように感じて見えた。


更に不思議な事に、その女性が通行人に触ろうとするが、すり抜けて触れないのである。それを見た僕は思わず、


「え!?幽霊?」


と、思ったが、幽霊にしては、『オロオロ、キョロキョロ…』してるし、足元もおぼつかない、フラフラしながら歩いていたかと思うと、挙げ句の果てには、道の真ん中でうつ伏せに倒れこんでしまった。


回りの人達が、そんな状況に気付くはずもなく、さすがに放ってはおけなかったので、僕はおそるおそる、その女性に近付き声をかけた。


「あの…大丈夫ですか?」


するとその女性は、力を振り絞り、体を反転させながら僕を見た。


その女性の顔を見た瞬間、僕は思わず叫んだ。


「イサーチェ!??」


すると、イサーチェも、僕の顔を見るなり、


「タロウΝφ!ЗΖΨΦ~!!гΦΗΞ、ξαЬρ″ΨΧΩ″ΙΙЯρ″ΡΗΩα″ヵΖЗヵΕαΑБΨΩφΞΦ~…」


一気に涙目になり、僕に抱き付くと、大声で泣き出してしまった。


イサーチェは、僕になら触れるらしい、そして僕の声も聞こえるみたいだった。

しかし、やっぱりイサーチェが何を言ってるのかはわからなかった。


僕はイサーチェをなだめて落ち着かせると、持っていた『タイヤキ』を取り出し、食べるようすすめた。


僕が『タイヤキ』を目の前で食べて見せると、イサーチェも少しだけ同じようにかじって食べた。


すると、イサーチェの顔が驚いたようになり、


「な、なんですかこれ!?なんですかこれ!?美味しい!!なんなんですか~!??」


と、再び僕を見ると、


「タロウ様~!良かった良かった。会えて良かった~!!」


と、またまた僕に抱き付いて来た。


すると回りの視線が一気に僕達の方に集まった。


まあ当然の事だろう、メイド服を着た大人の女性と高校生の男子が、道の真ん中で『タイヤキ』を持ったまま座り込んで抱き合っているのだから…


「イサーチェ、イサーチェ、立てる?とりあえず、他の所に行こう。」


僕は、イサーチェを立たせると、すぐにその場から離れ、近くの公園に行った。

マ○クでもよかったのだが、また誰かに見られると面倒だと思い、公園で休みながら、話を聞く事にしたのだ。



公園のベンチに座ると、イサーチェは、手に持っていたタイヤキを食べながら話を始めた。



「タロウ様が、『ユーリセンチ』を去られてからのラウクン王子の落ち込み方は、相当な物でした。

しかし、「いつまでも悲しんでる訳にはいかない」と、王子は国民の為、必死に職務をまっとうしておりました。

そんな王子を陰ながら、支えておりましたが、時折お見せになる『寂しそうなお顔』に胸が痛くて仕方なかったのです。


そして、わたくしはタロウ様をなんとか連れ戻せないかと、何度もあの洞穴に行ってみましたが、道はありませんでした…


しかしある日、ミウがタロウ様の国に行くという話を聞いて、ミウの後について行けば、タロウ様の国に行けるのではないかと思ったわけでごさいます。

どうにかタロウ様にユーリセンチに戻って来ては貰えないだろうかとお伝えするために。


そして私は、ラウクン王子に御許しを頂こうと相談しましたところ、


「ダメだ!お前まで失うわけにはいかない!どうか私の側に居てくれ!」


と、言われたのでありますが、王子の悲しんでる顔は2度と見たくなかったので、王子や皆には黙って、ミウの後をつけたのでございます。


ミウが壁に吸い込まれて行くのを見て、私も壁に手を当て、「どうかタロウ様の元に…」と祈ると、気が付いたら『この場所』に立っていたのでです。

しかし、通り行く人々に、何を話しかけても無視をされ、文字は読めず、触ろうとしても触れず、お腹は空くし、ユーリセンチに帰ろうにも、帰る道がわからなく、ついには力尽きた所にタロウ様が現れて下されたのでございます。」


だいたいの話を聞いた僕は、


「あちゃ~…、王子に黙って来ちゃったのか…、きっと心配してるよ…

まったくユーリセンチの女性は無茶ばかりするんだから…」


するとイサーチェは、ハンカチで口を拭きながら、


「ですが…王子の事を思うと、いてもたっても居られなくて…」


「でも王子が言ってたんでしょ、「ずっと側にいてくれ!」って、それってプロポーズじゃないの?」


するとイサーチェの顔はみるみる真っ赤になり、


「い、いや、いやいやいや…そ、それは有り得ません!こんな年増のおばさんは、ラウクン王子には不釣り合いです!

そ、それに「ずっと」とは言ってません!そ、「側にいてくれ!」と言われただけでございます。せ、世話係りとして…」


「もう…イサーチェさんたら…、王子は年なんて気にしませんよ。」


「いいえ!王子にはそれ相応の素敵な女性が居るはずです。わたくしなんか、わたくしなんか…」


「ま、まあ、どうにかしてイサーチェさんがここに居ることを王子に知らせないと…」


とりあえず、僕は落ち込むイサーチェを家まで連れて行くことにした。


そして王子に知らせる、もしくはイサーチェを帰す方法を、ミウと考える事にしたのだ。

こうしている間にも、『ユーリセンチ』では何日も経っているに違いない。


試しに家に向かう途中、『例の壁』に触れてみたが、なんの変化も無く、『ただの壁』のままだった。

たぶん、何かの『クエスト』をこなさなければ、道が現れないのかもしれない。

そんな事を考えながら、家に着くと、


「あ~あ、また母さん達ビックリするだろうな~…、ミウもビックリするかな?知り合いが来て喜ぶかな?

ええい!どうにでもなれ!」


僕は、なかばヤケクソで玄関の扉を開けた。


「ただいま~。」


するといつものように、廊下の奥から、


「おかえりなさい、ター君。」


母さんの声がした。ただいつもと違うのは、次に「パタパタパタ…」と小気味良いリズムの足音が聞こえた事だ。

しかし、同時にその足音をかき消すかのように、


「ドタタタタタタタタッ…」


2階から、物凄い勢いで、妹が駆け降りて来た。


「お兄…え!?おに~~~!!!おっかあさ~ん!!お、おに~いが、また知らない~!!!」


どうやら真っ先に、妹の目に入ったのは、僕でもタイヤキの袋でもなく、イサーチェだったみたいだ。

昨日と同じように、変わった言葉を発しながら、キッチンに向かって走って行った。


「しかし妹よ、兄を『鬼』呼ばわりするのはどうかと思うぞ…フフフフ…」


妹がキッチンに行く途中、廊下でミウとすれ違ったのだろう、小気味良い足音が止まったかと思うと次の瞬間、


「パタタタタタタタタタタタ…!!」


16ビートの足音に変わった。と、同時に、


「タロウ!!知らない女性って~!?」


と叫びながらミウがやって来た。


すると、イサーチェが


「ミウ!?」


「え?!お、お姉様!?え?え?なんでお姉様がここに!?…」


ミウは何がなんだか、まったくわからないみたいだ。


僕が頭をかきながら、


「どうやらミウの後をつけて来たみたいなんだ。」


と、言うと 


「私の後を?でもどうして?」


「それはね…」


僕が説明をしようとした時、妹が母さんのてを引いてやって来た。


「ほ、ほら、お母さん、お兄ちゃんが、また知らない人連れてきた。」


すると母さんを見たイサーチェは、いつものような燐とした姿勢になり、


「タロウ様のお母上で御座いますね?ミウが、お世話になっております。

タロウ様には、大変お世話になりました。この場を借りて、お礼を申し上げさせて頂きます。」


と、ユーリセンチの挨拶である、スカートの裾をチョンと指でつまみ、片足を少し退き頭を下げた。


「あらあら、ご丁寧にどうも。と、いうことは、ミウちゃんの知り合いかしら?」


すかさず僕が話に加わった。


「うん。ミウの仕事の先輩で、イサ……伊佐江いさえさんて言うんだ。」


すると、ミウとイサーチェが、


「イサエ?」

「イサエ?」


不思議そうな顔をしたが、僕はお構い無しに、


「伊佐江さんは、あるお屋敷の『お手伝いさん』でミウの先輩なんだ。

ミウの事が心配で様子を見に来たんだって。」


すると母さんはニコニコしながら、


「あら、そうだったんですか。ミウちゃんは、本当にいい子で、助かってますよ。きっと伊佐江さんの指導が良かったんでしょうね。」


「そ、そんな…わたくしなんかまだまだですわ。」


イサーチェは、首を2、3度横に振り否定をした。



「ね、ねえ、母さん?伊佐江さんを今晩泊めてあげられないかな?

も、もう夜だし…知らない土地で疲れているみたいだし…」


と、僕が尋ねると母さんは笑顔を浮かべ、


「へ~、ター君って、いつからそんなに女性に優しくなったのかしらね~。フフフ、

もちろん、いいわよ。ミウちゃんも話したい事あるだろうし。

私としては、伊佐江さんの仕事に差し支えなければ、当分居てもらってもいいんだけどね。

私って同年代の友達って、少ないのよね。まあ、ター君的には、もっと肩身が狭くなっちゃうかもしれないけどね。フフフフ。」


「当分って…母さん…」


ただでさえ、今もユーリセンチでは、凄い速さで時間が流れているというのに、イサーチェが何日もここに居たら、ユーリセンチでは何年も経ってしまうじゃないか。


と、思った瞬間、僕の頭に『ある考え』が浮かんだ。


その日、夕食を済ませた後、ミウとイサーチェに僕の部屋に来てもらった。


イサーチェ(伊佐江)は、初めて食べる日本の食事に感動し、まだ興奮が覚めてなかった。


「タロウ様、タロウ様!あの食べ物は、一体なんなんですか!?ジャガイモやニンジンが、あんなに柔らかく、しかも程よい甘さで、お肉の旨さを引き立てながら、お米とも良く合い、ついつい食べ過ぎてしまったではないですか。

お魚も身が柔らかくて、味がしっかり染み込んでいて、これもお米を食べずにはいられませんでしたよ。

はぁ~、美味しゅうございました。」


今日の夕食のメニューは『肉じゃが』と『サバの煮付け』だった。どちらも『醤油』が不可欠なので、『醤油』の無い世界から来た、ミウやイサーチェ(伊佐江)にとっては初めての味だったのだ。


興奮覚めやまぬイサーチェに、僕は尋ねた。


「ねえ、イサーチェ。」


「はい。なんでございましょう?タロウ様。」


「もし仮に、仮にだよ。ラウクン王子が、イサーチェと同じくらいの年齢、いや年上だったとしたら…それでもし「イサーチェと結婚したい」と言ったらイサーチェはどうする?」


するとイサーチェは、目をキラキラと輝かせ、うっとりとした表情を浮かべ、


「はぁ~…王子が年上だったら、どんなに幸せか…………

ハッ!なりませぬ、なりませぬ、わたくしは、ただの『お手伝い』ラウクン王子と結婚なんて、とんでもごさいません!」


「でも、あのスライン将軍は『世話係り』として連れて来られた『エミナー』と結婚したんだよ。

まあ、多少は反対されたって言ってたけど…でも、2人が結婚したおかげで『ユーリセンチ王国』と『ジプレトデン王国』は友好国になったんだし。

最後は本人同士の気持ち次第なんじゃないかな?

イサーチェは好きなんでしょ?王子の事。」


「そ、それは…」


イサーチェは赤くなりながら、うつむいた。

すると、ずっと話を聞いていたミウが、


「お姉様、諦めたらそこで恋は終わりですよ。

お姉様はいつも言っていたじゃないですか、諦めなければ必ず道は開けるって。

私はその言葉を信じて、行動したのです。そして、タロウに出会い、今こうしてここに居るのですよ。お姉様は素敵な女性です。もっと自信を持って下さい。」


「ミウ……貴女も立派な女性になりましたね。」


「ねえ、イサーチェ。さっき食べた食事を王子に食べさせたいとは思わない?」


「え?あの美味しい料理を?もちろんですわ、そんな事が出来るのなら是非。」


「じゃあさ、とりあえず1ヶ月この家に住むっていうのはどうかな?その間、母さんに料理を教えてもらってさ。

1ヶ月ぐらいなら王子も許してくれるんじゃない?王子には僕から連絡しておくから。」


「ま、まあ、1ヶ月ぐらいなら、いいんじゃないですか?わたくしもあの料理を王子に食べさせてあげたいし。」



「ガチャ!」


ちょうどそこに、妹が部屋に飛び込んできた。


「ミウお姉さん、伊佐江さん、一緒にお風呂入ろう!」


するとイサーチェ(伊佐江)は、


「え!?わたくしと一緒にですか?」


ユーリセンチには、他人と一緒に、お風呂に入るという習慣はなく、ビックリしていた。


まあ、昨日はミウが同じようなリアクションをしていたのたが。


「お姉様、この国では一緒にお風呂に入って友好を深めるという習慣があるらしいのです。

誰かと一緒に入るのも楽しいですよ。少し恥ずかしいですけど…」


ミウは顔を赤くし、僕を見た。


するとイサーチェは、納得したように、


「そうですね、『郷に入れば郷に従え』ですね。わかりました。智恵葉様、一緒に入りましょう。」


「おいおい伊佐江さん、どこでそんな『ことわざ』を覚えたんですか…」


などと、心の中でツッこんでいると、


「やった~!!」


妹は喜びながら、2人の手を取り部屋から出ようとした。

と、その時、僕はミウに、


「あ、ミウ、後で手紙を書いて貰いたいんだ、お風呂から出たら、もう一度来てもらえるかな?」


「うん、わかった。また来るね。」


と、手を振り、僕の部屋から出て行った。


それから僕は、王子に手紙を書いた、

イサーチェが僕の家に居る事、料理を教えてもらっている事、そして…

ユーリセンチに帰るのは、10年後になる事を…。



しばらくして、ミウがお風呂から出て、部屋にやって来た。


少し赤らみをおびた白い肌、完全に乾いていない髪の毛、そんなミウが色っぽく見え、僕はドキドキしながら見とれていた。


「お待たせタロウ、急いで出てきちゃった。

『手紙』ってユーリセンチに持って行くの?」


「え?あ、うん、王子にイサーチェが、ここに居ることを教えておかなくちゃ。

それに10年も帰れないとなると、王子もしびれを切らして、他の人と結婚するかもしれないし…それだけは避けないと。

せっかくイサーチェが王子より年下になっても、結婚出来なきゃ意味無いからね。」


「やっぱりそうだったんだ。」


ミウは何かを確信したようにドヤ顔で呟いた。


僕はうなずきながら、


「ミウは1度経験してるからわかると思ってたよ。その時間のズレを利用して王子を年上にしようって作戦。名付けて『イサーチェ年下大作戦』!!」


「フフフフ、タロウってば、なんだか楽しそう。」


「え?そ、そうかな、ただ、楽しいっていうより嬉しいんだ。こうしてミウとずっと一緒に居られるなんて思ってなかったから…」


「フフフ…私も、ずっとタロウのお嫁さんになりたいと思ってたから…

お母様も優しくしてくれるし、智恵葉ちゃんも明るくて一緒居て楽しい。

まるでチェスハが小さくなったみたい。」


「そういえばそうかも、あいつは誰にでも好かれるからな、僕と違って。ハハ…」


「あら、私は大好きだよ、タロウの事。

ユーリセンチのみんなもタロウの事が大好きなんだから。」


「…ありがとう…ミウ…」


「…タロウ…」


僕とミウは、どちらかともなく近付き抱き合った。

と、その時、


「タロウ様~!タロウ様~!!」


「ガチャ!」


白いネグリジェを着たイサーチェが、僕の部屋に飛び込んで来た。


「なんですか?!なんなんですか!?あの白い泡!フワフワで柔らかくて、それにいい匂いで…ほら!見てくださいまし、肌もこんなにスベスベになりましたよ!」


イサーチェは服の袖をまくりあげ、腕を出して僕に見せた。


僕とミウは、飛び込んで来たイサーチェに驚き、すぐ離れたが、またすぐに目と目が合い、大笑いしてしまった。


「プッ、アハハハハハ…」

「ウフフフフフ…」


それもそのはずである、昨日、ミウがまったく同じセリフを言いながら、僕の部屋に飛び込んで来ていたのだ。


「お姉様ったら、私と同じ事を言ってらっしゃる。ウフフ。

それにそのお姿、とても素敵ですわ。」


するとイサーチェは、自分の姿を見回すと、


「そ、そうですか?少しハデではないかしら?

タロウ様のお母様が、この国の大人の女性は、この服を着て寝てると言うもので…お母様が貸してくだされたのですよ。

わたくしこういった服は着たことないですから、少々恥ずかしいですわ。」


お城に住む『お手伝い』は基本メイド服で過ごし、特にイサーチェのような責任者的な立場にいる人は、いつ呼ばれてもいいように、肌着1枚で寝ることが多く、たまにはメイド服を着たまま、イスで寝る事もあったみたいだ。


僕はイサーチェのネグリジェ姿を見ながら、


「母さんて、こんなの持ってたんだ。全然知らなかった…」


と、思いながら、母さんのネグリジェ姿を想像してしまった。

僕が母さんの姿を想像し、苦笑いを浮かべてると、


「あら?どうかましたか?タロウ様?」


「い、いやなんでもないです…

ところで、サーチェって、眼鏡を外して、髪を下ろすと、別人みたいになるんだね。そっちの方が若々しく見えるのに。」


「え?え?そ、そうでしょうか?」


するとミウも、


「はい、とてもお若く見えますわ、お姉様。」


「でもわたくし眼鏡が無いとよく見えないし、髪の毛も束ねて上げてないと仕事の邪魔になりますから。」


「髪の毛は仕方ないとして、せめて眼鏡はもう少し違うのをかけてみたらどうかな?」


「でも、わたくしあの形の眼鏡しか持っていないのです。眼鏡屋の主人『イッシュウ』さんが、「あんたにはこの眼鏡が1番似合うよ」って言ってくださいまして…」


「あ~…あのイッシュウさんか…

あの人って、ちょっと『M』っぽい所があるからなぁ~…、絶対自分の趣味で選んだな。」


するとミウが不思議そうに、


「ねえ、タロウ?『M』って?」


「え!?い、いや、え、え~っと、なんて言ったらいいのかな?」


僕が答えに詰まっていると、階段の下から妹の声がした。


「伊佐江さ~ん。お母さんが呼んでるよ~。大人の女性は、お風呂上がりにまだやることがあるんだって~~。」


「わかりました~。すぐに参りますと、お伝えくださいませ~。」


イサーチェはドアを開け、妹に返事をすると、僕の方を向き頭を下げた。


「それではタロウ様、おやすみなさいませ。

ミウもタロウ様のお邪魔にならないようにするのですよ。」


「はい、わかりましたお姉様。お手伝いが終わりましたら、すぐに参ります。」


ミウは、スウェットのモモの辺りをチョンと摘み、片足を下げユーリセンチ風の挨拶をした。

イサーチェが、部屋から出ていくと、ミウが近付いて来て、


「ふふふ、やっと2人きりになれたね…」


「うん…ミウ…」


僕とミウは再び近付き、唇を合わせようとした瞬間、階段の下から、



「ギョエェ~~~!!絵が、絵が、絵が動いた~~~!!!」


「ドガッ~ン!!!」


「伊佐江さん!伊佐江さん?大丈夫??」


「ガタッ、ガタガタ、ガタッ!ガッタン…」


「お母さん!お母さん!伊佐江さんが転んだ!!」



僕とミウは目を閉じていたのだが、そのやりとりが聞こえて来て、思わず目を開け、2人とも吹き出してしまった。


「プッ、アッハハハハハ… 」

「プッ、アハ、アハハハハハ…」


「アハハハハハハハ…あ~、お腹痛い…「ギョエ~!」って、マンガじゃ無いんだから…アハハハ…」


「きっと『テレビ』を見たのね。

私も昨日、初めて見てビックリしたんだもん。」


「そうそう、昨日ミウも悲鳴をあげてたもんね。「ギョエ~!」じゃなく、もっと可愛い悲鳴だったけどね。アハハ…」


「もう!タロウったら。フフフ…」


僕とミウは、再び見つめ合うと、軽くキスをし、2人で聞き耳を立て、もう何も起きないか確認をした。そして少しの沈黙の後、



「さて、もう何も起きないみたいだから、本題に入ろうか。

今、王子に手紙を書いたんだけど、これを『ユーリセンチ』の言葉に書き換えて欲しいんだ。

このまま渡しても、僕みたいに読めなかったらダメだからね。」


「わかったわ。手紙はタロウが持って行くの?」


「うん、明日学校に行く前に、王子に直接会って話すつもりなんだ。お別れの挨拶もちゃんと出来なかったからね。

もし、王子が出かけて居なかったら、ナカリーにでも手紙を預けようかと思っているんだよ。」


「チェスハには会わないの?」


「う~ん、今回はやめておくよ。ついこの間、感動のお別れをしたばかりだし、「ミウをほったらかしにして何やってる~!」って怒られそうだから。

それに学校に間に合わなくなったら困るからね。」


「私が持って行こうか?」


「大丈夫、大丈夫。ミウにはイサーチェの面倒を見てもらわなきゃ。智恵葉も学校に行くから、母さん1人じゃ大変だろうからね。それにミウも、まだこっちの世界に慣れてないんでしょ?」


「う、うん、まだ少し体が重たいの…」


「体が慣れて来たら、2人でいろんな所に行こう。ミウと行きたい所が、いっぱいあるからさ。」


「うん、楽しみにしてる。」



それから僕とミウは、再びキスをし、 ミウに手紙を書いて貰った。

そしてミウは名残り惜しそうに部屋から出ると、母さん達の居る部屋に向かった。


次の日、僕は鞄に手紙を入れて、いつもより早く家を出た。

そしてあの路地に向かうと、予想通り『異世界』への道が開けていた。


「思った通りだ。必ず『イサーチェ年下大作戦』を成功させてやるぞ。」


僕は決意も新たに、再び『ユーリセンチ王国』に向かうのだった。





























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