最終話〔異世界の忘れ物〕
最終話〔異世界の忘れ物〕
「ミウ!?なんで!?どうして?ここに?」
僕は、ミウと再会が出来た喜びよりも、驚きの方が大きく、質問攻めにしてしまった。
そんなあわてふためく僕を見ながら、ミウは、
「タロウ…ヶππ…ΖΧДΨΦ…Θ″кΖΡヵΩ″ЗΕΨΦ。」
「??…え?ち、ちょっと待って…」
僕は、ミウが何を言ってるのか、まったくわからなかった。
「そういえば、初めてミウが来た時も言葉は喋れなかったっけ。
何かこの世界の物を食べればいいんだよな。」
その事を思い出した僕は、
「ミウ、ちょっとここで待ってて。」
そう言って、僕は目の前にあったコンビニに飛び込んだ。
そして、パピ○のアイスを買って出てくると、半分に分け、片方をミウに渡した。
この日は、少し暑かったので、ちょうどアイスが食べたかったのだ。
僕は「こうやって食べるんだよ」とパピ○を食べてみせた。
ミウも見よう見まねで、パピ○を口につけると、僕の想像した通り、一瞬ビックリし、すぐに満面の笑顔になった。
僕の大好きな笑顔だ。
「タロウ!これ、冷たくて美味しい!!甘いだけじゃなくて、なんて言ったらいいのかわからないけど、とにかく美味しい!!」
興奮覚めやまぬミウに、僕はどうしてここに居るのかを聞いた。
「ミウ、また会えて本当に嬉しいよ。でも、こんなにすぐにミウから会いに来るなんて思わなかった。何かあったの?」
「あのね、実はチェスハから『荷物』を預かって来たの。いくら待ってもタロウが取りに来ないから、届けて欲しいって。
私なら、タロウの世界に行けるかもしれないからって。
それに「すぐ」じゃないよ、3ヶ月近くもタロウと会えなくて、寂しかったんだから…」
ミウは一旦目を伏せ、上目遣いで僕を見た。
「あ!そうか!ごめんごめん。こっちはまだ1日も経ってないから…
それにしても荷物って?なんだろう?…」
「これなんだけど…」
ミウが差し出したのは、30センチくらいの細長い箱だった。
「あと、手紙も預かって来てるの。
でも…その前に、1つお願いがあるんだけど、いいかな…」
「お願い…?もちろん!いいに決まってるじゃない!
ミウの願い事ならなんでもOKだよ!」
「ありがとう、タロウ。
実はね、もう1度行きたい所があるの…あの『黒いサタン』のお店…」
ミウは恥ずかしそうに、顔を赤らめた。
ミウはマッ○に行きたかったのだ。
「黒いサタン?ああ、マッ○ね。それじゃ、マッ○で手紙も見せて貰うよ。」
僕とミウは、久しぶり?に手を繋ぎ、マク○ナルドに向かった。
店に着くと、ミウはニコニコしながら店に入り、『ハンバーガーのセットを、僕は『テリヤキバーガーのセット』を注文した。
ミウは席に着くなり、早速『コーラ』に口をつけた。
「ん~~~…!パァ~…」
顔にシワをよせながらも、美味しそうにコーラを飲むミウの姿は、見ていてとても愛らしい。
「ん~!やっぱり『サタン』とは全然違う、『ファンタ』でもない。凄いね、これ。」
ミウは喉を潤すと、今度はハンバーガーにかぶりついた。
「やっぱり、全然違う。タンシェの所にあった同じようなパンも美味しかったけど、ここのはさらに美味しいね。」
「タンシェのハンバーガーは、とりあえず手に入る材料だけで作ったからね。
本当のハンバーガーは、もっといろんな材料を使っているんだ。
試しにこっちも食べてみる?全然違う味だよ。」
僕は、まだ手をつけていない『テリヤキバーガー』をミウに渡した。
「いいの?食べて…」
「もちろん!きっと驚くと思うよ。」
「じゃあ、ひと口だけ…」
「ガブリ…」
ミウが『テリヤキバーガー』をかじった瞬間、大きな目がさらに大きくなった。
「ん!?味が全然違う!それに、この黒い『マヨタロウ』みたいな物、すっぱいけど、甘い。
こっちとは全然ちがうけど美味しい!」
「でしょ?他にもいろんな種類があるんだよ。」
ミウはメニュー表を見て、目をキラキラさせていた。
「ところでチェスハからの手紙って?」
「あ!ごめんなさい。忘れてた。」
ミウはポケットの中から、2つ折りになった紙を出し、僕に手渡した。
「え~っと、なになに?」
『☆¢∃∠§→⊆∈#∞∀、⊥&∩%¢&£*∈⊇……』
「ごめん、ミウ。何を書いてるのか読めないや。」
どうやら自分の世界に帰って来た事で、ミウの世界の言葉がわからなくなったみたいだ。
「じゃあ、私が読んであげるね。」
ミウは僕から手紙を受け取ると、静かに読み始めた。
『タロウ!元気にしてるか?こっちは相変わらず賑やかだぞ。
タロウのおかげで、国は裕福になって、なに不自由なく暮らしていける。
他の国からも移住者が殺到して、さらに大きくなったぞ。
まあ、オリアンやラウクン王子は寂しがっているがな。
さて、今回ミウにお使いに行かせたのは、タロウから請け負った『仕事』を完了させる為だ。
タロウが初めて店に来た時、注文してくれた『短剣』が完成したぞ。
今度来た時、渡そうと思ったが、なかなか取りに来ないんでな、ミウに渡して来るように頼んだんだ。
ミウもタロウに会えなくて、寂しそうだったからな。
ミウから、だいたいの話は聞いた。タロウが異世界の人間だとか、時間の流れが違うとか、信じられない事ばかりだか、ミウがあたしにウソは言った事がないから、本当の事なんだろうな。
まあ、そう考えると、タロウの無茶苦茶ぶりや、見たことの無い食べ物や武器の説明がつく。
『ティージーの店』は、親切丁寧がモットーだ。その分料金ははずむがな。
この手紙を読んでいるって事は、無事にミウに会えたって事だ。
1度タロウの世界に行った事があるミウなら、もう1度行けるかもしれないと思ったんだ。
と、まあ、前置きは置いといて、ここからが本題だ。』
「え!?本題って?」
僕は、思わず聞き返してしまった。
ミウが僕の所に来た本当の理由を知らなかったからだ。
ミウは僕の質問をスルーし、手紙を読み続けた。
『ミウはタロウの事が大好きだ。タロウのお嫁さんになりたいと思ってる。今回、タロウの所に行かせたのは、タロウのお嫁さんにする為だ。
家族との別れも済ませてある。城のみんなも知っている。あとはタロウ、お前次第だ。
頼む、タロウ。どうかあたしの親友を幸せにしてやってくれ。
もし、ミウが泣きながら帰って来た時は、どんな手を使ってもお前の所に乗り込んで、ギッタンギッタンにしてやるからな。
タロウの戦友、チェスハとオリアンより。
追伸、もしタロウがもう1度こっちに来ることがあっても、あたしの所には絶対に来るなよ、わかったな。』
手紙を読み終えたミウは、顔が真っ赤になり、もはや僕の顔もまともに見れないくらいだった。
とかいう僕も、いきなりの話に動揺し、コーラを一気に飲むと、
「ゲホッ、ゲホッ…ケホッ…」
気管に入りむせてしまった。
そして改めてミウを見ながら、
「ミウ…本当なの?僕は勇者でもヒーローでもない、ただの男だよ…」
ミウは小さく頷き、下を向いたまま、
「うん…それでもいいの…私はタロウに会ってから、ずっとタロウのお嫁さんになりたいと思ってた。」
僕はミウの隣に置いてある『箱』を指差し、
「ミウ、その箱を貰えるかな?」
「はい。これ大切な物なんでしょ。チェスハが『御守り』みたいな物だって言ってた。」
僕は箱を開け、ミウに『守り刀』を見せた。
「これは『守り刀』と言って、1番大切な人に渡すんだ。その人を一生守ってもらえるようにね。
これをミウに持っていて欲しい。
もともと、ミウにあげる為にチェスハに作って貰ったんだ。
僕の1番大切な人はミウだから。それに、洞窟の前で約束したよね。「今度会ったら、僕のお嫁さんになって」って。
だから、すぐには無理だけど、もう少し僕が大人になったら、僕のお嫁さんになって下さい。」
僕はミウの目を見ながら、『守り刀』の入った箱をミウの前に差し出した。
ミウは箱を受け取ると、胸に抱きながら、
「ハイ……」
と一言だけ言って、笑顔で涙を流した。
僕は、そんなミウにドキドキしながらも、回りの目線が気になり始め、話を反らした。
「と、ところでチェスハったら酷いよね、「もう会いに来るな」だなんて。」
するとミウは、涙を手で拭うと、
「ウフフ、違うのよ。私が『時間の流れ』の事を話したら、「あたしの方が、タロウより早く年を取るって事!?」って言い出して、自分が『おばあさん』になった所をタロウに見られたくないんだって。」
「そっか、そういう事か。確かに『しわしわ』のチェスハは想像出来ないな、アハハ。」
「それからね、手紙には書いていないんだけど、チェスハとオリアンは、今一緒に暮らしているのよ。」
「え!?オリアンとチェスハが?
やっぱり、あの2人がくっついたのか。」
「うん、チェスハのお父さんは、お店をチェスハとオリアンに譲って、新しく建てた『オサケ工場』で、黒龍と一緒に『試飲』の仕事をしてるみたい。
チェスハのお店も、人の姿になったオリアンを見に来る女の子が一杯来てるのよ。」
ミウは楽しそうに話をしてくれた。
「でも、それってチェスハはヤキモチを妬かないの?」
「それがね、チェスハったらお店の半分以上を『女の子向け』の可愛い武器を置いて、それが売れに売れてるから笑いが止まらないらしいの。
今では「ユーリセンチ」のほとんどの女性が持ってるわ。
これもチェスハに貰ったのよ。」
ミウは、頭につけてあった『流れ星』の形をした髪止めを外して見せてくれた。
「ほら、ここの星が外れて、投げれるようになってるの。」
「まったく、チェスハってば、相変わらずだね。アハハ。」
僕は話を合わせながら、
「ただでさえ、ユーリセンチの女性は強いのに、ますます強くなっちゃうな…ごめんなさい、ユーリセンチの男達…」
と、心の中では、ユーリセンチの男達に謝っていた。
そんな事をやっているうち、辺りが薄暗くなり始めているのに気が付いた。
「あ、もうこんな時間だ。そろそろ帰らないと。」
僕とミウは、残っていたコーラを飲み干すと、店を出た。
僕は、とりあえずミウを家に連れて行き、ちゃんと母さんにミウを紹介しようと心に決めた。
ミウが初めて来た時のように、ヤモリに変身すれは、母さんにも気付かれずに一緒に暮らせるのだろうが、ミウが自分の故郷や家族とも離れてまで、僕の所に来た覚悟を考えると、隠れて一緒に暮らすのは間違っていると思ったのだ。
しかし、不思議な事に母さんなら、ミウの事をわかってくれるような気がしていた。
家に着くと、僕は「フ~」っと一息深呼吸をして、扉を開けた。
「ただいま~。」
すると廊下の奥から、
「お帰りなさい、ターくん…じゃなかった、太郎。遅かったわね。」
と、母さんの声が聞こえたかと思うと、
「ドタタタタタタタタタ!!…」
と、物凄い勢いで妹が、階段を駆け降りて来た。
「お兄ちゃん!遅~い!!タイヤキは!?」
「あ!」
僕はミウの事で頭が一杯で、妹に頼まれていた『タイヤキ』の事を、1度ならず2度までも、すっかりと忘れていた。
そんな僕の反応に、妹は、
「うそ!マジ?信じられない…あれだけ約束してたのに……」
妹が両手の拳を握りしめ、小刻みに震える姿を見て、妹の怒りがMAXになる前に、なんとか落ち着かせなければと思い、僕はとんでもない行動に出てしまった。
「ち、ちょっと待て、智恵葉。タ、タイヤキは忘れたが、お前が欲しかったのは『タイヤキ』だけだったか?」
「何、ワケわからない事言ってるのよ、お兄ちゃん!」
「だ、だから…お前が本当に欲しかったのは『白いタイヤキ』だけだったのか!?」
「だ~か~ら~!あたしが頼んだのは『白いタイヤキ』!それ以上でも、それ以下でもありません!!」
「そうか!じゃあ、お前が小さい頃から言っていた、この『綺麗で優しいお姉さん』は要らないんだな!」
と、僕はここで後ろに潜んでいた『ミウ』を妹の前に差し出した。
いきなり現れた可愛いお姉さんに、妹は口をパクパクさせて、固まった。
ここぞとばかりに、僕は更に畳み掛けた。
「よく見ろ智恵葉!このお姉さんは『綺麗で優しい』だけじゃない!更に『白くて可愛い』んだ!!
これでもお前は『白いタイヤキ』の方がいいと言うのか!?」
いきなり妹の前に連れ出されたミウはというと、
「は、はじめまして…ミウと言います。タロウの『お嫁さん』になりに来ました。」
「い!?い、いやミウ…まだそれは言わなくていいから…」
僕はミウが素直過ぎるのを忘れていた。
そして、再びゆっくりと妹を見ると、口のパクパクが更に激しくなり、
「お、お、お…お嫁~~!?!?!?!!」
すると妹は、2、3歩後退りすると、叫びながら母さんの所に向かった。
「お…母ぁ!おっか~!おっかさ~ん!!!
お、お兄ちゃんが…お兄ちゃんが!!し、白くて綺麗な…タ、タイヤキのオヨメ~!!!」
「おいおい、何を言ってる妹よ、口調が『日本昔話』風になってるぞ。
それに、僕がいつ『タイヤキのお嫁さん』になったんだ…」
まあ、これで妹の頭からは『タイヤキ』を買い忘れた事は、キレイサッパリ消えた事だろう。
ここに来るまでの間、事前にミウとは打ち合わせをしていた。
僕とミウは、あるSNSを通じて、3ヶ月ほど前に知り合い、恋人同士になったということにした。
ミウに「SNSって?」と聞かれたが、『スマホ』を知らないミウに『電波』で繋がっているという事が上手く説明が出来なかったので、
「テレパシーみたいな物かな。ミウが僕を見つけてくれた時、こう『ビビッ』って感じたやつ。」
と言うと、ミウは素直に納得してくれた。
そして、僕はミウから『ある本』を一緒に探して欲しいと頼まれる。その本のタイトルは『ターダのタロン伝説』
もちろん、そんな本は無いのだが…
僕は先週の土曜日に、ミウと一緒に田舎の図書館まで『その本』を探しに行っていた。という設定だ。
付け加えるなら、ミウは単身、外国から僕を頼って来たため、泊まるところもままならないという設定も付け加えた。
僕とミウが、玄関で突っ立っていると、妹が母さんの手を引っ張りながら、息を切らしてやって来た。
「ほ、ほらほら、お母さん…し、白いタイヤキのお嫁さん…ハァハァ…」
まだ頭の整理がついてないみたいだ。
ミウを見た母さんは、
「あらあら、可愛い娘さんだこと。ター君もすみにおけないわね~、いつの間にこんな可愛らしい娘と知り合いになったのかしら。ウフフ。」
そんな母さんに対して、ミウは緊張しながらも、
「は、はじめましてお母様。ミウといいます。」
ミウは背筋を伸ばし、深々とお辞儀をした。すると母さんは、
「ミウちゃんね。可愛らしい名前だわ。歳はいくつなの?」
「はい。20才です。」
それを聞いた僕は思わず、
「え?…」
と、ビックリした表情でミウを見た。その姿を見た母さんと妹は、
「え?」
「え?」
と、僕の方を見た。さらにその反応の意味がわからないミウも、
「え?」
と、僕を見た。
僕は、今の今まで、ミウは同じ年か、年下だと思っていたのだ。
「ミ、ミウって、僕より年上だったんだ…しかも3つも…」
するとミウは、
「タロウは、年上の女の子は嫌いなの?…」
ミウが寂しそうに聞いてきた。
「い、いやいやいや!全然、全然!ち、ちょっとビックリしただけ。」
焦って否定する僕に、母さんが、
「こら!ター君!女の子に歳の話をしたらダメなの!ね~ミウちゃん。
ところで、ミウちゃん?ここに来る事は、お父さんとお母さんは、知っているのかしら?」
「はい。両親には言って来ました。それから、これ…母がタロウのお母様に渡してくれって…」
ミウはポケットから1通の封筒を差し出した。
母さんはそれを受け取ると、中に入っていた手紙を出して黙読した。
隣にいた妹が、その手紙を覗き込んだが、
「え?!何語なのこれ?お姉さんて、どこの国の人?」
妹の鋭い質問に、僕は、
「い、いや、あの…外国の…小さな田舎の国っぽい……」
と、ごまかそうとしていると、母さんが、
「『ふつつかな娘ですが、どうかよろしくお願い致します。』って書いてあるのよ。」
すると妹が、
「え!?お母さん、この文字読めるの?」
「ううん、読めないわよ、初めて見る文字だし。
でもね、智恵葉…同じ娘を持つ母親だからわかるのよ。
私も智恵葉がお嫁に行く時は、同じような手紙を相手の両親に書くと思うもの…
さあさあ、2人共そんな所に突っ立ってないで上がって上がって。」
事情も聞かず、あっさりとミウを招き入れる母さんに、拍子抜けした僕は、
「いいの?母さん…」
すると母さんは、ニコリと笑い、
「あら?ター君、こんな可愛らしい娘を、真っ暗な外に放り出そうっていうの?薄情ね~。」
「い、いやそうじゃなくて…」
「まあ、『お嫁さん』の話は後々するとして、ミウちゃんをこの家に泊めてあげる代わりに、1つだけ条件があるんだけど。」
「じ、条件……ゴクリ…」
僕は唾をの見込み、その条件を聞いた。
「な、何?その条件って…?」
「今ね、夕食の支度をしてるんだけど、お皿を並べるのを手伝ってくれないかしら?
うちの子供達ったら、全然手伝ってくれないんだもの…」
「え?…じ、条件って…それだけ?」
僕が拍子抜けしてると、
「はい!お母様。私、手伝います。手伝わせて下さい。」
ミウが元気に答えた。と同時に妹も、
「あたしもやる!」
と言ったかと思うと、ミウの手を掴み、
「お姉ちゃん、一緒にやろ!」
と、ミウを引っ張りあげ、母さんの後について行った。
母さんは、たまに振り向きながら、
「良かったわね、智恵葉。素敵なお姉さんが出来て。」
「うん!もうお兄ちゃんなんか要らない。アハハ。」
「智恵葉ちゃん、私、まだこの国の事知らないから、いろいろ教えてね。」
「うん!なんでも聞いて。」
「ミウちゃん、最初は体が重く感じるかも知れないけど、しばらくすると慣れるからね。
体調が悪くなったら、すぐに言うのよ、わかった?」
「はい。お母様。本当にありがとうございます。」
玄関に1人取り残された僕は、母さんと妹がミウの事を快く受け入れてくれた事が嬉しかった。
が、楽しそうに会話をする3人を見て、この家における僕の立場はさらに下がったのだと実感していた。
「フフフ…いいんだよ。女性が強い家は幸せな家なんだ…ユーリセンチみたいに…」
僕は自分に言い聞かせ、部屋に鞄を置いて着替えると、3人の待つキッチンに向かった。
その日、ミウは母さんと一緒に寝た。というより、当分は母さんの部屋で暮らすみたいだ。
まあ、当然といえば当然なのだが…
近所の人達には、『外国に住む母さんの友達の娘さん』ということにするらしい。
しかも、親同士が昔約束した僕の許嫁。
って、こんなベタベタな設定、今時アニメでも無いような設定なのだが、
逆にそれがいいらしい。
今時、そんなバカな話があるわけない。という位の方が、逆に真実味があって面白いと母さんは言うのだ。なんの事だか…
次の日、僕はミウに見送られながら家を出た。
早速、母さんが近所の人達から質問攻めに遭ったのは言うまでもない。
僕は学校に行く途中、例の路地の前を通った。しかし、やはり道は無く、ただコンクリートの壁が建っているだけだった。
また異世界へ続く道は開くのだろうか…
ユーリセンチのみんなに会える日は来るのだろうか…
少し重く感じる足取りに僕は、
「ああ、「ただの太郎」に戻ったんだな。」
と、実感しながらいつもの日常生活の待つ学校に向かった。
おしまい…
のはずが??
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