第26、5話〔マヨネーズ誕生秘話〕



第26、5話〔マヨネーズ誕生秘話〕



僕が、この国に来て、1週間が経とうとしていた。

この国に来て早々、オリアンや国王、ジプレトデンの争いに巻き込まれ、慌ただしい毎日を送っていたが、一段落ついた今、ようやく落ち着きを取り戻した。



ここに来てから、成り行きとはいえ、『ジャム』や『お酒』といったこの世界には無い食べ物や飲み物を作り出してきた。


そうしてるうちに、是非とも作り出し、この国の人に食べて貰いたいという思いが強くなってきた『食べ物』があった。

『食べ物』というより『調味料』になるのか?


その食べ物こそ、僕が愛して止まない『マヨネーズ』だった。


作り方は、なんとなく知っていた。前に妹が家庭科で作ったのを聞いていたのだ。


主な材料は、『卵』『食用油』『お酢』、あとなんだかわかないが、『チャレンジする勇気』? があればいいと言っていたが、最後のはまったく意味がわからない。


『卵』と『食用油』はイブレドさんの所にあった。しかし、『お酢』は…お酢?

『お酢』って作れるの?そもそも『お酢』って何??


と、いうわけで、作る決心をして10分で行き詰まってしまった。



しかたないので、とりあえず簡単に作れるミルクセーキやお酒に果物を入れて、果実酒を作ろうと

何度かファンの家に行った。


オオカミ族の仲間達も、国王が居なくなった今、城の衛兵達と争う事も無くなった。

そして、前のようにピリピリした空気もなく、みんなそれぞれの仕事をこなしていた。


ただ、オリアンだけは、『伝説の勇者』の称号を僕から背負わされ、何かと大変そうだった。ごめんなさい。



そんなある日、ファンの家に行き、お酒の樽を置いてある納屋に入ると、鼻を刺激するような匂いが漂っていた。


「何だろう?」と思い、その匂いをたどって行くと、1番奥に置いてある樽からだった。


さらに鼻を近づけると、「ツン」と強烈な匂いがし、おもわず顔をそむけた、しかし、この匂いには覚えがあるような気がした。


その時、後ろからファンの声が聞こえた。



「お~い!タロウ!その樽はダメだ。腐ってやがる。どうやら最初の日に作ったやつが残っていたらしい。

ちょっと味見をしたんだが、酸っぱくて飲めたもんじゃねえ。

もったいねえが捨てるしかねえな。」


僕は「もしかして…」と思い、


「ファンさん、この『オサケ』を捨てるのは、ちょっと待ってもらえますか?確かめたい事があるんで。」


「確かめたい事?まあ、いいけどよ。でも絶対飲むなよ、喉が焼けるように痛いぞ。」


僕は樽のフタを開け、中の液体に指をつけ、舐めてみた。


「ん!?酸っぱ~!!」


やはり『お酢』だ。『お酢』はお酒から出来るのか?お酒の発酵したものなのか?

もしこれが『お酢』なら、『マヨネーズ』が出来る!


などと喜んでいたが、1つだけ不安要素があった。それは、


「これって、本当はただ腐ってるだけだったりして…」


不安になるのもムリもない、『お酢』の知識なんて、これっぽっちもないのだから…


もし、腐ってるだけだったら…、そんなものを混ぜた食べ物を、みんなに食べさすわけにはいかない。一体どうすれば…


カバンから、ただの板になってしまった、スマホを取り出しては、「ネットがあれば…」と、呟いてみたりする。


と、その時、前に妹が言ってた事を思い出した。


「お兄ちゃん、料理は『知恵』と『勇気』なんだって。タコやナマコなんて、今では普通に食べてるけど、「初めて食べた人って、凄い勇気がいったはず。」って家庭科の先生が言ってた。」


その言葉を思い出した僕は、もしかして『マヨネーズ』作りに必要な『チャレンジする勇気』って、この事なのか?

勇気を持って、この『腐った酒』が『お酢』かどうか確めろって事か?



幸い?にも僕は、お腹が弱い。もしこれが『ただの腐った酒』なら、すぐにお腹を壊すだろう、しかし『お酢』なら平気なはず、それどころか、もっと健康になるかも。


僕は1本のビンに『その液体』を入れ、


「この樽は、僕がいいと言うまで捨てたらダメですよ~。」


と、ファンに伝え、イブレドの宿に戻った。


僕は『その液体』を3日間、朝・昼・晩・飲むことにしてみた。

さすがにそのままでは飲めないので、水に薄めて飲んだ。

最初はかなり薄く、だんだん濃くしていった。


そして、無事何事もなく3日間が過ぎた。


最後の晩は、これは『お酢』だと確信していたのでご飯に少し混ぜ『酢飯』にして食べた。


その様子を見ていたイブレドが、


「兄ちゃん、その液体は何だ?『サタン』でも『オサケ』でもねえみたいだし。」


「ああ、これは『お酢』と言って…」


「まあ、飲んでみりゃわかるか。」


イブレドは僕の説明もそこそこに、コップに「お酢』をそのままついだ。


「あ!イブレドさん!ちょっと待っ…」


「グイッ」


イブレドはコップの『お酢』を一気に口の中に流し込んだ。


「ブッ!ブハッ!!ガハッ!ベッ!!ペッペッ!!み、水!!水!水くれ!!水!

ゴクゴクゴクゴクゴクゴク…」


イブレドは、むせて『お酢』を吹き出し、咳き込みながら、水をがぶ飲みした。


その様子を見ていた、エティマスは、自分も飲もうと思って持っていたコップを静かにテーブルの上に置いた。


どうやらイブレドさん達は、僕が顔をしかめながら飲んでいた『お酢』を、同じ顔をして飲んでいた『オサケ』と勘違いをし、新しい『オサケ』と思っていたらしい。



ようやく咳き込むのが収まり、落ち着いたイブレドが、


「に、兄ちゃん…何だこれ?オサケじゃないのか?」


「違いますよ、イブレドさんたら説明しようとしたら、飲んじゃうんだもの…

これは『お酢』と言って、『オサケ』をさらに発酵させた物なんです。薄めれば飲めない事もないんですが、他の食材に混ぜたり、野菜を浸けたりするんです。」


「お!?これも「ハッコウ」なのか?」


「まあ、そんなところですかね。これを使って『あるもの』を作ろうと思っているんです。」


「あるもの?なんだいそりゃ?」」


「まだ秘密です。完成するかどうかわからないので…」


「そうか、まあ、手伝って欲しい事があれば、何でも言いな。力になるからよ。」


「ありがとうございます。それじゃ、卵と食用油を少し貰えますか?」


「ん?なんだ?そんな物だけでいいのか?

調理場にいくらでもあるから、好きなだけ使ってくれ。」


「あたしも手伝う。なんでも言ってね、お兄ちゃん。」


「ありがとうね、ダシールちゃん。」


僕は、ダシールの頭をポンポンと撫でた。



次の日から、マヨネーズ作りが始まった。

『卵』1個に対して、どのくらいの『お酢』と『食用油』を混ぜたらいいか、コップに目盛りを書き、計量カップを作って、計りながら作った。


その結果を紙に書き出し、1番マヨネーズの味に近い配合を探した。



そして…


「出来た……」


試行錯誤の結果、ついに『マヨネーズ』が完成したのだった。



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