第14話〔つかの間の安らぎ…〕
第14話〔つかの間の安らぎ…〕
「………ち……ゃん…いちゃ……お兄………お兄ちゃん…お兄ちゃん?」
「ん…?…わっ!」
僕が目を開けると、すぐ目の前に、ダシールの顔があった。
「フフフ、お兄ちゃん。晩御飯の用意が出来たんだって。」
ダシールが、笑みを浮かべながら言った。
「あ!もうそんな時間なんだ。」
「お兄ちゃんてば、気持ち良さそうに寝てたから、起こすの可哀相だったよ。」
「アハハ…、ありがとうね、起こしてくれて。」
僕はダシールの頭を撫でながら言った。
その時、なんとなくダシールの雰囲気が変わってる事に気が付いた。
「あれ?ダシールちゃん、綺麗になってない?」
するとダシールは、モジモジしながら、
「エヘヘ…お母さんにやってもらったの。鏡を貰ったって言ったら、「じゃあ、お化粧してみる?」って。」
ダシールは、薄い口紅を塗り、髪型も整えていた。
今までとは違い、一気に大人びた感じだった。
「じ、じゃあ行こうか。」
僕は少し照れながら、ダシールと一緒に食堂に行った。
すると、途中でイブレドが、
「お~い!兄ちゃんは、こっちこっち。」
と、僕とダシールを手招きをした。
そこは、いつもダシール達が、ご飯を食べている台所だった。初めて来たときも、ここでご飯を食べさせて貰った場所だ。
「悪いな、兄ちゃん。食堂も一杯で、すまねえけど、ここでダシールと一緒に食べてくれねえか?」
イブレドが申し訳なさそうに言うと、
「あたしが頼んだの…お兄ちゃんと一緒に食べさせてって。」
ダシールが、父親をかばうように言った。
僕は「ニコリ」と笑い、
「もちろん!いいですよ。僕もダシールちゃんと一緒に食べた方が楽しいし。」
「ヤッター!!」
ダシールは、飛び上がって喜んだ。
イブレドは片手を顔の前に立て「すまねえ」と謝るようにウインクをした。
僕もなんとなくわかっていたので、「大丈夫ですよ。」の意味を込め、手を小さく振り、ウインクを返した。
僕が台所で食べる理由は、ダシールちゃんが「一緒に食べたい」と言ったこともあるだろうが、本当の理由は、他にもあった。
僕が食べたかったのは、白い『ご飯』と『ハッコウ』いわゆる『漬け物』だ。
今日ここに泊まりに来てる人達のほとんどが、パンとジャムを食べに来ている。
そんな中、同じ場所で臭いのキツい漬け物を食べると、ジャムの美味しさも半減するのは、目に見えている。その為の対策だった。
僕が居ない間も、イブレドは、ジャムの新作を作っていたらしく、イチゴ、リンゴの他に、ブドウやミカン、木の実といったジャムを作っていた。
その日の晩御飯は賑やかなものになった。
ダシールは、今日あった事を楽しそうに話し、
イブレドはジャム作りで成功した物、失敗した物を教えてくれた。
エティマスは、ゆっくりご飯を食べる暇もなく、後片付けに追われていた。しかし、なんだか楽しそうだった。
僕はご飯を食べながら、イブレドさんに、
「イブレドさん、よかったら後で「サタン」付き合ってもらえます?」
イブレドは少しビックリした顔で、
「お?おう、いいけどよ。珍しいな、兄ちゃんが「サタン」を飲みたがるなんて…」
するとダシールも、
「あれ?お兄ちゃん、「サタン」嫌いじゃなかったっけ?」
「まあ、そうなんだけど、ちょっと美味しい飲み方を見つけてね。それに僕も、大人だからね。」
僕は、そう言うと、胸を張ってみせた。
するとダシールは、
「そんな事言ってるうちは、まだまだ子供なんだって。
お母さんが、よく言ってるよ。」
と、笑いながら言った。
「アハハ、ちげえねぇ。兄ちゃん、ダシールに一本取られたな。アハハハハハ。」
イブレドも大笑いだ。
するとそこに、後片付けを終えたエティマスがやって来た。
「なんだい、あんた達、大きな声を出して。」
「いやな、兄ちゃんが大人ぶってるのが面白くてな。」
「何、言ってるの、太郎さんは、立派な男性だよ。私も20才若かったら、アタックするんだけどね~。アハハハハ。」
「ちょ、ちょっとエティマスさん…」
僕は、エティマスさんのアピールに少し照れてしまった。
すると、ダシールも、
「あたしも、アタックする~!」
と、言い出してしまった。
「お、おいおい…」
イブレドが困ったように頭をかいた。
すると、エティマスは、
「ダシール、あんたは、まだまだだよ。ちゃんと料理や家事が出来るようにならないとね。」
「わかった!お母さん!教えて!」
ダシールは元気よく返事をした。
すかさず、エティマスは、
「じゃあ、ダシールは、お風呂に入って寝なさい。」
「え~!まだ、お兄ちゃんと話がしたい~!」
駄々をこねるダシールに僕は、
「ダシールちゃん、夜更かしは美容に良くないんだよ。女の子は睡眠も大切なんだって。」
すると、エティマスも、
「そうだよ、ダシール。いい女になりたいなら、ちゃんと寝なくちゃ。」
「わかった。お風呂に行ってくる。また明日ね、お兄ちゃん。」
「うん、おやすみ、ダシールちゃん。」
ダシールはエティマスに手を引かれ、僕に手を振りながら、お風呂に向かった。
それに応えるように、僕も手を振り、ダシールを見送った。
女性陣が居なくなった所で、僕はイブレドに話しかけようとした。
しかし、イブレドはいきなり席を立ち、台所の奥に入って行った。
僕は「あれ?」っと思ったが、すぐにイブレドは奥から出てきた。
片手に「サタン」の瓶、もう片方の手にはグラスが2個握られていた。
イブレドは、何も言わずグラスに「サタン」を注いだ。
そして、ひと口飲むと、
「で?なんだい、兄ちゃん話って?」
と、唐突に口を開いた。僕は、
「え?え??」
まさかイブレドから、話を聞かれるとは思ってなかったので、ビックリして声が出なかった。
すると再びイブレドは、
「男が「サタン」を誘うときは、何か話があるときだからな、そうだろ?兄ちゃん。」
さすが、男を何十年も生きてきた人は貫禄がある。ちょっとカッコよく見えた。
そして僕は本題に入った。
「は、はい。そうなんです。イブレドさんは、国王の事をどう思います?」
イブレドはキョトンとしていた。たぶん自分が思っていた質問と違っていたのだろう。
しかし、すぐに僕が真剣な顔をしてることに気付き、イブレドも真顔で答えた。
「国王はいい人だぞ、文句を言うヤツは、街には1人もいないだろうな。国王がどうかしたのかい?」
「実は僕、昨日いろいろあって、湖の外に居たんです。」
「な、なんだと!兄ちゃん、1人でか!?」
「はい…。まあ、なんとか帰ってこれたんですけど…
湖の外に居るとき、国王の良くない噂を耳にして、イブレドさんなら、何か知ってるかなって?」
「良くない噂だと?」
「国王って何年か一度、他の国に『遠征』に行くそうですね。」
僕の『遠征』という言葉にイブレドは飲もうとした手をピタッと止め、口にグラスをつけることなく、テーブルに置いた。
「あ、あの…イブレドさん?イベントさん!」
イブレドは「ハッ…」と我に返り、止めた手をまた動かし、グラスのサタンを一気に飲み干した
「ふ~、悪い悪い…ちょっと嫌な事を思い出した…」
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