第12話〔穢(けが)れた陰謀…〕



第12話〔穢(けが)れた陰謀…〕



僕と、溺れた2人を乗せた馬車は、真っ直ぐチェスハの店に向かった。


2人には毛布を被せ、他の衛兵に見つからないように荷台に乗せていた。


街に入ると、いつものような賑わいはなく、人も少なく、城に集まった、厳つい男達が目についた。


馬車が人目を避けるようにチェスハの店に着くと、僕は馬車を降り、店の扉を開けた。


「こんにちは~、チェスハ…居る?」


あまり大きな声は出したくなかったので、店の中にしか聞こえないぐらいの声を出した。

すると、奥から、


「ハ~イ…」


チェスハの声がしたが、いつものような元気な声ではなかった。

そして、少しうつむきながら出て来て、ゆっくりと顔を上げながら、


「いらっ…しゃ……?…

タ!タロン!!?タロン!!」


僕を見るなり、驚くと同時に抱き付いて来た。


「タロン!無事だったのね!良かった!本当に良かった。ドラゴンに食べられたかと思って心配したのよ~。」


チェスハは僕の無事を、泣きながら喜んでくれた。

しかし、僕には再会を喜んでる暇はなかった。


「チェスハ、頼みたい事があるんだ。湖で衛兵が溺れていたんだ。助けたんだけど、ここで手当てしてくれないかな。少し寝かせてあげるだけでいいんだ…」


「衛兵?」


「うん、昨日『ドラゴンフルーツの木』の所に居た2人なんだけど、城の衛兵に船から突き落とされたみたいなんだ。」


「え!?なんですって?そんなバカな…」


チェスハが驚くのも無理はなかった。

あの門番だった2人には、重い罰を与えないように懇願し、国王も重い罰は与えないと約束してたからだ。

毒水の中に突き落とされれば、死んでしまう事など、街の人なら誰でも知っている。

そんな中、2人を湖に突き落とすという行為は、公開処刑と同じことだった。


「そんな…、だって昨日、国王と約束したばかりなのに…」


チェスハは「信じられない」という表情で呆然としていた。


「とにかく、2人を早く中に入れよう。」


「う、うん。わかった。」


チェスハは部屋の隅に毛布を惹き、僕が衛兵をそこに寝かせた。

2人とも顔が真っ赤だ。


チェスハは2人の顔を覗き込みながら、


「確かに昨日の2人だ。顔が真っ赤だけど、大丈夫なの?」


僕はニコリと微笑み、


「うん、大丈夫。一時的なものだから、寝てれば元に戻るよ。気分が悪くて吐きそうになるようだったら、我慢させずに水を飲ませて吐かせてあげて、楽になると思うから。」


「う、うん…わかった。でも、あんたよく知ってるわね。毒水の事…」


チェスハは不思議そうに聞いてきた。


「実は、僕の国にも同じような飲み物があるんだ。」


「え?!毒水を飲むの!?」


チェスハは更に驚いた。


「うん、でも飲み過ぎると体にも良くないし、子供は飲んじゃダメだから、僕は飲んだこと無いんだけどね。

父さんが、よく飲んでて、真っ赤になって寝てたから、よく覚えているんだ。いつも母さんが介抱してたな。」


「へ~、そうなんだ。ところで、ミウには会ったの、無茶苦茶心配してたんだから。」


「いや、これからお城に行こうかと。」


「早く行ってあげなよ、城であんたの帰りを待ってるはずだから、でも…おかしいわね?」


チェスハは少し考えるように言った。


「え?「おかしい」って?何が?


「あんたが、ドラゴンにさわられてすぐに、あたしとミウが国王に頼みに行ったの「助けて」って、そしたらすぐに、捜索隊を出すっていってたけど、会わなかった?」


「捜索隊?衛兵には1人も会わなかったよ。オオカミ族の村に居たからかな?」


「ふ~ん、オオカミ族………って!あのオオカミ族~!!?」


チェスハは今日一番驚いた。


「うん、多分そのオオカミ族。リーダーが『オリアン』って言ってた。」


「あ、あんた…ホントよく無事に帰って来れたわね…

衛兵達が、よく噂話してるの聞くけど、「アイツだけには関わらない方がいい」とか「アイツの目を見て、生きて帰って来た者は居ない…」とか、言ってたのに。」



「プッ、アハハハハ!」


僕は、思わず吹き出してしまった。


「そんな事なかったよ。初めて見たときは怖かったけど、話してみると、仲間想いの優しい人だったよ。」


「あんた!オリアンと喋ったの!?」


「もちろん喋ったよ。仲間の人に、晩御飯までご馳走になって、そのまま泊めてくれたんだ。」


「あんたって、ホント何者?もう、少々の事じゃ驚かないわ。」


チェスハは溜め息混じりに言った。

そして、僕はオリアンに聞いた『国王』の話をチェスハにした。


「ところでチェスハ、湖の外で、国王の良くない噂を聞いたんだけど…」


「良くない噂?」


「うん、チェスハ、国王が遠征に行くたびに、帰って来ない人が居るって知ってる?」


「何回か聞いたことはあるかな?事故とか、病気とか山賊に襲われたとか…旅は何が起こるかわからないからね…」


「それがさ、実は全部嘘で、国王が奴隷として、他の国に売っているんじゃないか。って」


「え!?そんなばかな!あの国王に限ってそんな事はない!」


チェスハは、真っ向から否定した。

とは言え、衛兵の事といい、タロンの捜索の事といい、府に落ちないことがあるのも事実だとチェスハは思っていた。



「とりあえず、僕はお城に行って、ミウに会ってくる。

それから、もし遠征に誘われても、行かないで欲しいんだ。仮に「もしも」って事があるといけないから…」


「あ!」


いきなり、チェスハは何かを思い出した。


「そういえば、今回の遠征に、着いてくるように言われているんだ。

なんでも、武器の点検、修理係とかなんとか。いつもは、そんな係は居ないのに、おかしいなとは思ってたんだよ。」


僕は胸騒ぎがした。


「チェスハ!絶対遠征には行っちゃダメだよ!」


「あ、ああ。わかった。遠征は断るよ。」


僕は、チェスハに釘を刺し、店から出ようとした。すると、


「タロン!あたしも調べてみる!城には知り合いが居るから。」


「わかった。バレないように気を付けて!」


「お前こそ、気を付けろよ、ミウを頼んだぞ。」


僕は、店を出ると、待っていてもらった、ロコナのおじいさんの馬車に再び乗った。


「遅くなって、すいません。お城まで行って貰えますか?」


おじいさんはニコリと微笑むと、


「なんだか、面白くなってきたようじゃな。フォッフォッフォ。しっかりつかまってるんじゃぞ。」


そう言ったと同時に、馬車は物凄い勢いで、走り出した。


「お、おじいさん!!」


僕は馬車にしがみつくのがやっとだった。


あっという間に、城に着き、僕は馬車を飛び降り、門番に駆け寄った。


「すいません。ここで働いている「ミウ」という人に会いたいんです。」


すると衛兵は、


「ちょっと待ってろ!」


そう言い残すと、1人の衛兵が中に入って行った。


そして、その衛兵は、上司にその事を告げた。


上司というのは、国王の側近だった。

彼は、2階の窓から、太郎を見下ろすと、門番にこう告げた。


「ミウは今、城の者と一緒に使いに出ている、すぐには帰って来ん。」


その言葉を聞いた門番は、一礼すると、その場を離れ、門の所まで戻って来た。そして、僕の前に立ち、上司と同じ事を言った。


「そ、そんな…」


僕は、ミウに会えなかった事が、ショックでたまらなかった。と同時に、胸騒ぎが更に大きくなった。


僕はその場を離れ、ロコナのおじいさんとも、城の前で別れた。おじいさんは、


「また、いつでも呼んでくれ、飛んでくるからの。」


と、いつものように、にこやかな笑顔で去って行った。

おじいさんを見送った僕は、力なく歩き再びチェスハの店に向かった。



その後ろ姿を、城の窓から見てる者が居た。

国王の側近だった。そして、すぐに国王の元に行き、僕が生きていることを告げた。



「国王様、どのように致しましょう?」


すると国王は、苦味虫を噛んだような表情になり、


「まさか、オオカミ族に襲われて、生きているとはな、しぶとい小僧だ!

あいつは、なにやら嗅ぎ回っているみたいだからのう、今「ミウ」に会わせて余計な事を吹き込まれては叶わん。王子にも会わすなよ。

とにかく、あいつは城に近づけるな!」


「は!かしこまりました。他の衛兵にも徹底しておきます!」


すると国王は、思い出したように


「ところで、ミウの家族はどうした?」


「はい、もうすぐ城に着くと思われます。」


「ホホホ、そうか、それでは、家族が着き次第、ミウと家族の涙の再会をさせるかの。違う意味の涙じゃがの、ハハハハ!」


「と、いいますと?」


「家族が来たら、ミウと一緒に地下の奴隷部屋に閉じ込めておけ!しばしの家族水入らずじゃ。」


「はは!」


「ところで、王子は今どこにおる?」


「今は湖のほとりの警備に着いております。」


「そうか、そうか。ご苦労な事じゃ、わしらが逃げ切れるまで城を守ってくれと、伝えといてくれ。」


「でも、いいんですか?いくら王子と言えど、あのオリアンには敵わないかと…」


「かまわん、かまわん、あのバカ王子は、人が良すぎる。国王の器じゃない、せめてわしらの人柱になって役にたって貰わんとな。

わしらが逃げる為の時間稼ぎにはなるじゃろうて。

王子なんぞ、わしと女が居れば、何人でも作れるわい。

この国も、そろそろ掃除する時期じゃて。手はずは整っとるじゃろな。」


「はい!我々が同盟国の中に逃げ切ると同時に、その同盟国が攻めてくるように、話をつけております。」


「ホホホ、いくらオリアンが強くとも、衛兵や王子に傭兵、さらに同盟国の兵士相手じゃ、タダでは済むまい。どちらも弱ったところで、同盟国が国を奪うって寸法じゃ。


そして、しばらくして、我らが戻り、そやつらを蹴散らすフリをして、国を再び取り戻す。

国民は、わしらをどう思うかの?

国を平和に導いた英雄と称えるかの?」


「はい!国民は、国を取り戻した国王様に、膝まづき生涯の忠誠を誓うでありましょう。」


「くれぐれも、同盟国の連中に「国民は痛めつけ、物を奪うのはかまわん、ただし殺すな」と、釘を刺しておけ。

あと、あまり物を壊すなとな。あとの処理がめんどうじゃ。

殺していいのは、衛兵とオオカミ族だけだ。

国民には、奴隷を生んでもらわんと困るからの。獣族も、オリアンさえ居なくなれば、ただの動物よ。」


「は!よく言い伝えておきます。」


「出発の準備は、あとどのくらいじゃ?」


「はい!あと2日もあれば完了いたします。」


「よし!明後日の朝、出発じゃ!」


「は!失礼いたします!」


側近は、クルッと180度回転し、国王の部屋から出ていった。


そして国王は、窓から街を見下ろすと、「フフフ…バカな国民共よ…」と、不適な笑みを浮かべた。




















































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