第11話〔最強の毒水〕
第11話〔最強の毒水〕
僕が、アイガさんの店で寝付けずにいる頃、お城では僕を探しに行った衛兵達が帰って来ており、王子に報告をしていた。
「ラウクン王子、湖の近くにこれが…」
衛兵が王子に手渡した物、それは足跡だらけでボロボロの『タロン証明書第1000番』の紙だった。
「おそらく、オオカミ族に殺されたものと…」
衛兵の報告に、王子は、ひどく落ち込み、
「ああ、なんて事だ…一足遅かったか…お前達もよく戻って来た。ご苦労だったな、国王には私から伝えよう。ゆっくり休むがよい。」
王子は、無事に戻って来た衛兵達に、ねぎらいの言葉をかけ、すぐに国王にこの事を伝えた。
すると国王も、ひどく悲しみ、共に戦う仲間を失ったことを悔やんだ。
そして王子に、悲しみに暮れるであろうミウに対して、ある提案を持ちかけた。
王子は、タロンが帰って来ると信じてる、ミウの所に行った。
「コンコン…」
「ミウ、起きてるかい…」
すると、すぐに返事が帰ってきて、扉が開いた。
「ラウクン王子!タロンは!?タロンは見つかりましたか?」
すると王子は、目を伏せ、1枚の紙をミウに渡した。
その紙を、手にしたミウは、王子の様子と、ボロボロの証明書が、何を物語っているのかを、察した。
「あ…ああ…あああ……タ…ロン……」
言葉にならない声を挙げながら、ミウは廊下に崩れ落ちた。
王子は、そんなミウの肩に手をやり、
「すまない、ミウ。一足遅かったようだ。許してくれ。大切な仲間を失ってしまった。」
深々と頭を下げ、ミウに詫びた。
ミウは、そんな王子に、
「頭をお上げ下さい、王子…私が…タロンをこの国に連れて来なければ、タロンも死ななくて済んだんです。私のせいなんです…」
「いいや、私がもっと早く、ドラゴンとオオカミ族を退治していれば、タロンは死ななくて済んだんだ。」
「王子……」
「ミウよ、こんな時になんだが、ひとつだけいい知らせがある。タロンの事を国王に報告したら、「ミウがひどく悲しむに違いない。家族を城に呼んで慰めて貰おうではなか。」と、言っておられた。
どうだ?ミウ、家族と一緒に城で暮らせるぞ。」
すると、ミウは王子の前に膝まづき、
「ああ、王子、国王様。ありがとうございます。」
両手の指を絡ませ、祈るようにお辞儀をした。
ミウは家族と一緒に暮らせるより、家族が綺麗なお城に住める事が嬉しかった。
しかし、タロンが居なくなったという事実は、ミウの心に、ポッカリと穴を開けた。
その夜、ミウが『証明書』を抱きしめ、一晩中泣いたことを、僕は知らなかった。
次の日、僕は朝からファンさんの家に向かった。『最強の毒水 』つまり『獨酒』(どぶろく)の詳しい説明をするためだ。
本当は『日本酒』が作りたかったが、作る工程がよく解らなかったので、前に、父さんと作った獨酒を作る事にしたのだった。
父さんは、酒が大好きだった。よく口癖のように「日本酒は世界一の酒だ!まさに最強だ!」といつも呑みながら言っていた。
一度「獨酒が作りたいから、インターネットで調べてくれ」と頼まれた事があった。
思いのほか、簡単だったので、こっちでも作ってみようと思ったのだ。「最強の酒なら、酒好きなドラゴンもきっと気に入るはず」そう思ったのだ。
オリアンに書いてもらった地図を頼りに、家を探したが、それらしい名前の家が無かった。
仕方なく、散歩をしていた、おじいさんに聞いてみた。
すると、
「ファンの家?あ~、それなら、ほれ、あそこじゃ。」
すぐ近くにあった家を指差した。
表札には『ファカーゴン』と書いてあった。
「ファカーゴン? 」
僕が不思議そうな顔をしてると、おじいさんは、
「おお!そうじゃった。ファンの名前はファカーゴンと言うんじゃったわ。ハハハ。」
ミウの名前もそうだが、この国の人は縮めて呼ぶのが好きならしい。
僕は、おじいさんにお礼を言って、ファンの家に入った。
玄関の呼び鈴を鳴らそうと思ったのだが、家の裏から煙みたいなのが立ち上っていたので、直接裏に行ってみた。
するとそこには、ちょうど『ご飯』を炊いているファンが居た。
僕に気が付いたファンは、
「お~!タロンじゃないか!どうした?様子を見に来たのか?」
僕は、軽く頭を下げ、
「お早うございます。ファンさん。様子もそうなんですけど、もうひとつファンさんに作ってもらいたい物があって…」
「もうひとつ…?」
「はい、あの…僕、ファンさんの金棒壊してしまったから…お詫びというか、なんというか…」
「ハハハハハハ!!なんだ、まだ気にしてるのか!金棒の事はもういいって。」
ファンは、僕の背中をバンバンと叩きながら言った。
「で?作ってもらいたい物って何だ?」
「はい、実は子供飲める『サタン』を作ってもらいたくて。」
ファンは少し驚いたように、
「子供が飲めるサタン?」
「そうです。僕の国では、サタンは子供から大人まで飲める飲み物で、大人は、今、ファンさんが作っている『お酒』を飲んでいるんです。」
「オサケ…?」
ファンは訳がわからない様子だ。
「お酒が出来たら、ファンさん達に試飲してもらいますよ。僕は、美味しいかどうかよくわからないんで…」
「まあ、よくわからないがやってみるよ。
で、子供のサタンはどうやって作るんだ?」
「それなら、簡単です。今ある『果物のサタン』に砂糖を入れるだけですから。」
「なに!?それだけでいいのか?」
ファンはあまりの簡単さに、ビックリしたようだ。
「それじゃ、今日にでもアイガの店で作ってみるよ。」
「はい!子供達も喜ぶと思いますよ。砂糖の量はいろいろ試してみて下さい。あまり入れすぎると、体にもよくないですから。」
「ああ、わかったよ。それから、このご飯は、炊けたら、水とカビをいれるんだよな?あと腐りかけのドラゴンフルーツだっけ?」
「ドラゴンフルーツは、ありましたか?」
「お~!あるぞ!ドラゴンが食い散らかしたドラゴンフルーツが、そこら中にあるからな。」
僕は、心の中で「ヨシッ」とガッツポーズをした。
どうやらここの『ドラゴンフルーツ』には発酵に必要な菌がすべて入ってるみたいだ。これで全ては揃った。
あとは城に行って、オリアンの話が本当かどうか調べるだけだ。
「それじゃ、僕は街に行ってきます。ご飯は、少し固くてもかまいません、水やカビを入れると泡が出てきますけど、そのままにしておいてください。」
「おう!わかった。任せておけ!ウラムの家はわかるか?」
「はい。オリアンさんに地図を書いてもらってますから。」
僕は、手を振りながら、ファンさんの家を後にした。
地図を頼りに歩いていると、何人もの村人を見かけたが、オリアンの話を裏付けるように、お年寄りばかりだった。
ウラムさんの家を見つけ、訪ねてみると、もうロコナじいさんの馬車が停まっていた。
ウラムさんの所は、主に野菜を作っているみたいだった。
僕は、荷物の積込を手伝いながら、街まで乗せてくれるように、おじいさんにお願いをした。
すると、おじいさんは、何も聞かずに、快く引き受けてくれた。
ウラムの家を後にしたロコナじいさんの馬車は、他の村も回り、あっという間に荷台が一杯になった。
前に乗せてもらった時は、荷台に座ったが、今回はおじいさんの隣に座らせてくれた。どうらや『ロコナじいさんの孫』という設定らしい。
そのまま橋まで行くと、一度門の所で止められたが、ロコナのおじいさんが『許可証』を見せると、すんなりと通してくれた。僕の事はあまり聞かれなかったみたいだ。
ロコナのおじいさんは、湖の中と外、どちらにも信頼されているらしい。
橋を渡ると、初めて来た時と同じ道を通り、街に向かった。
僕は、おじいさんに国王の事を聞いてみた。
「おじいさん、国王ってどんな人なんですか?」
おじいさんは、にこやかな表情で、逆に聞き返してきた。
「お前さんは、どう思っとる?」
逆に質問され、僕は困ったように、
「実際に会ってないから、なんとも…、でも、街の人達は、優しくていい国王だと。しかし、オリアン達は、とんでもない悪党だと言うし。まだよくわからないんです。」
僕は、今の正直な気持ちを言った。
すると、おじいさんは、にこやかな表情のまま、
「お前さんが、その目で確かめればいい。それで思った通りに行動すればいいんじゃないかの?
なんせ、お前さんは『伝説の勇者』なんじゃから。」
僕は、『伝説の勇者』という言葉を聞いて、
「い、いや、あ、あのじ、実は…」
僕が口ごもると、おじいさんは悟ったように、
「ん?なんじゃ?お前さんは勇者じゃないのかの?」
「は、はい…昨日、オリアンに聞いた『言い伝え』だと、ちょっと違うかな…って…」
すると、おじいさんは大きな声で笑った。
「ホォッホッホホ~!『言い伝え』とな?
勇者の『言い伝え』ならわしの家にもあるぞ、城にもある。じゃが、それはしょせん人の言葉じゃ。
その言葉を聞いた人が、誰を『勇者』と決めるのは、その人次第なんじゃよ。
少なくとも、あのお嬢ちゃんは、お前さんが『勇者』だと信じてる。もちろん、わしもな。」
そう言うと、おじいさんは小さい目で、ウインクをした。
僕は、ミウの顔が思い浮かんだ。
「そうだ!勇者じゃなくたっていい。ミウのために出来ることをやるだけだ。」
僕は、ミウに早く会いたかった。
そして、湖のほとりに差し掛かった時だった。
「ドボン!」
僕は、音のした方向を見た。
すると、湖の真ん中に、ボートから何かが投げ込まれていた。「なんだろう?」と、目を凝らして見ると、落ちた物が、もがいているのか、水しぶきが上がっていた。
さらによく見ると『人』だ!2人いる!しかも手足を縛られている。このままだと溺れ死んでしまう。
ボートは、2人を投げ込むと、さっさと帰って行った。
僕は、おじいさんに、
「すいません!ちょっとここで、待っててもらえます。」
と言った瞬間、馬車から飛び降り、湖から出ている岩をピョンピョンと飛び歩き、溺れている人の近くまで行くと、湖に飛び込んだ。
すごい『アルコール』の匂いだ。
ちょっとでも水を飲むと、酔っぱらうのが目に見えている、僕は急いで溺れている人の所に行き、2人の腕を掴むと、
近くの岩を蹴って、一気に岸まで跳んだ。
すぐに縄をほどき、意識を確かめた。
少し、水を飲んだみたいだが、大丈夫みたいだった。
僕は、ホッとしたが、その2人の顔に見覚えがあった。
「この2人は、昨日『ドラゴンフルーツの所にいた衛兵じゃないか?
確かにそうだ!あの若い衛兵達だ。」
僕の頭に、浮かんできたのは、
「もしかしたら、僕達を柵の中に入れた罰で、突き落とされたのか?でも、あのままだと確実に2人は死んでいる。
そんなにお城の規律は厳しいのか?」
あれこれ考えてもラチがあかない。僕は、おじいさんに頼んで、2人を荷台に乗せて貰らい、そのまま街に向かった。
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