第10話〔国王の秘密〕



第10話〔国王の秘密〕



「実は、殴られてないんです。」


僕が、あっけらかんに言うと、オリアンは驚いたように、


「な!なんだと!あれだけ殴られて、殴られてないだと!?」


「実は、殴られたふりをして、実際は僕の後ろにあった、固い『岩』を殴らせていたんです。

ね?え~っと、ファン?さん?

ファンさんが殴っているとき、固い物を殴ってる気がしませんでしたか?」


僕はファンに向かって聞いてみた。するとオリアンも、


「そうなのか?ファン?」


するとファンは、すこし考えて、


「そういえば、人を殴ってる感触じゃなかったな、もっとこう、固い物を殴ってる感じだった。」


すかさず、僕が話に加わり、


「でしょ。固い岩を殴り続けさせて、金棒にヒビが入るのを待っていたんです。」


するとオリアンは、少し感心したように、


「そんな事が出来るのか?」


「実際、オリアンさんも見たでしょう。僕には傷ひとつ無かった事を。

それに、ファンさんが、僕をなめてかかって来てくれたから出来た事で、もし真剣に攻撃して来てたら、僕なんて一撃でペチャンコでしたよ。そうでしょ?ファンさん。」


 全部ウソだった。でもこれで、ファンの面目は保たれるはず、金棒が砕けたことも、つじつまがあう。僕が、ただの男だという、証明にもなる、一石三鳥だ。


しかしその時、僕はオリアンの鋭い視線を感じた。だてにこの国で最強と言われているだけの事はある。僕の言動から、何かを感じ取ったのか、口もとには笑みがこぼれていた。

何かしゃくだったので、僕も「ニヤリ」と笑みを返した。するとオリアンはおもむろに、


「アハハハハハ、そういう事だったのか!おい!ファン!攻撃する時は、油断するなって、いつも言ってるだろ。相手も命懸けなんだ、こっちも真剣にやらなきゃ失礼だろ。」


オリアンの顔が優しくなった。そしてファンも、


「あ、ああ、そうだ!確かに油断してた。弱そうだから、なめてかかってた。勉強になったぜ!ありがとうよ、兄ちゃん。」


ファンが手を差し出して来たので、僕はファンの手を取り握手した。


「すいません、ファンさん、金棒を壊してしまって…」


「いいって、いいって、今度はもっと頑丈な物を作るぜ、岩をも粉々に出来るような金棒をな!」


ファンと僕が握手を交わしていると、


「よし!今日は、子供達を助けてくれた兄ちゃんに乾杯だ!」


オリアンの合図とともに宴が始まった。

と、いっても飲み物は『サタン』だが…

しかし、ここの『サタン』は少し違った。イブレドさんは、水にサタンの実を入れていただけだが、ここは果物の汁にサタンの実を入れていた。


ほんのりだが、甘い。ただの水より、よっぽど美味しい。

そして、ストリアさんが、どんどん料理を運んできてくれた。


「今日は特別だからね!どんどん食べておくれ!」


僕は、料理を食べながら、さっきストリアさんに聞けなかった事を、オリアンに聞いた。


「オリアンさん…少し聞きたい事があるんですけど…」


「あ?オリアンでいい。で、聞きたい事ってなんだ?」


「さっきイムとサプが、『お姉ちゃんはお城に連れて行かれた』って言ってたんですけど、働きに行ってるんじゃないんですか?」


「ガタン!」


オリアンは、いきなり椅子から立ち上り、真剣な目になり、僕の胸ぐらを掴んだ。


「いいか?タロウ!あいつらのお姉さんは、連れて行かれたんじゃない!拐われたんだ。他のやつらもそうだ、拐われて城の中に閉じ込められてるんだ!」


僕はオリアンが、ウソを言ってるようには思えなかった。


「まあまあ、オリアン。落ち着けって。」


中に入ってくれたのは、イムとサプのお父さん、アイガだった。


「兄ちゃんは、来たばかりで、何も知らないんだろ?オリアン、教えてやれよ。あの悪魔のような『国王』の正体を。」


「国王が、悪魔?一体どうゆうことだ?」


僕は、訳がわからなかった。ミウの話では『国王はとても優しく、国民のみんなから慕われてる。』という話だったはずだが、ミウがウソを言ってるようには思えない。とりあえず、話を聞いてみることにした。


オリアンは椅子に座り直すと、静かに話し始めた。


「今から200年程前に、湖の水が無くなりかけた事があったんだ。」


僕は、「あ!イブレドさんが言ってたやつだ。」と思ったが、話を遮るのは悪いと思い、黙って聞いていた。


「その頃は、まだ湖の水も透明で、綺麗な湖だったんだ。魚も一杯いてな。」


僕は、てっきり最初から赤い水だと思っていたので、おもわず、


「え!?透明だったんですか?」


と、聞いてしまった。


「ん?もちろんだ、その頃は綺麗な水だったんだ。城や街の生活水も、湖の水だったんだ。地下から綺麗な水が湧き出ていたからな。

その頃は、街と陸を繋ぐ橋もたくさんあり、俺たちのじいさん達も、自由に行き来してたらしい。湖で採れた魚を買いにいったり、こっちで採れた野菜や果物を売りに行ったりな。

確かに、その頃の国王は、みんなに愛されてたそうだ。

でも、200年前に大きな地震があって、城の一部が倒壊して、国王がそれに巻き込まれ、亡くなってしまった。

と、同時に湖の底に亀裂が出来て、湖の水がそこから流れ出て行ってしまったんだ。

このまま湖の水が無くなると、城はもちろん、街も水が無くなる。存亡の危機に面したってやつだ。

その時に『タロン』と名乗るヤツが現れて、大岩を軽々と持ち上げ、湖に放り込んだ。そのお陰で、湖の水が無くなる事はなかった。

そして、いつしか『タロン=勇者』って事になって、この国では『勇者 』の事を『タロン』って、呼ぶようになったんだ。

これが俗にいう『タロン伝説』だ。


「ん?確か、イブレドさんは、勇者は『ハッコウ』って名乗ったって言ってたけど、タロンとハッコウは、別人なのかな?」


僕は、疑問に思ったが、それは、国王とは関係ないと思い、何も聞かなかった。

そして、オリアンは話を続けた。


「その時は、城や街の連中、いや俺達のじいさん達も喜んだよ。国王が亡くなったのは、残念だったけどな…、でも、そこから何かが狂い始めたんだ、湖の水が、どんどん赤く染まり、そのうち魚もいなくなった。もちろん、生活水としての役割はまったくしなくなった。

さらに追い討ちをかけるように、山の奥に棲んでいたドラゴンが、湖の回りに棲み着くようになった。

もともと、アイツは、俺達の仲間だったんだ。」


「え?『アイツ』って?」


僕は話が、よくわからなくなり、オリアンに聞いた。

すると、オリアンは、サタンをひと口飲み、


「『ドラゴン』だよ、ドラゴンは本来臆病で、滅多に人の居るところには近づかない。まして、人を襲う事なんて、絶対しないんだ。『人を食べる』っていうのも嘘で、子供達だけで、山の奥に遊びに行かないように、親たちが勝手に言った事なんだよ。


それに、ドラゴンは最初から『赤色』じゃなかった。もともとは『緑色』で、湖の回りに棲むようになって、赤い色になったんだと。


「それと国王は、どう関係して来るんですか?」


僕は、なんだか話が逸れそうだったので、合いの手?を入れた。


「ふん、まあ、そう焦るな。ここからが本題だ。

国王が亡くなった後、息子が新しい国王になったんだが、ますます状況は悪くなった。

ドラゴンは暴れまくり、橋を壊してしまった。かろうじて残った大きな橋が唯一、湖の中と外を繋ぐ手段になったんだ。

湖の中の土地では、毒水の影響で作物は育たない。生活水は、その残った橋に水路を通し、湖の外から運んでいた。

幸い湖の外は、他の山からの湧き水がたくさん出ていたからな、こちらには、毒水の影響はなかった。

街からは、よくこっちに食べ物の買い付けに来た。なんせ、湖の中では食べ物のが作れないんだからな。

最初は、ちゃんとした料金を払っていたらしい。橋を通って、街に売りにも行っていた。

しかし、突然、街に売りに行くのが禁止になり、そのうち、買い付けに来ていた奴らも、安く買い叩くようになった。

国の金が無くなってきたんだよ…、買って売ってを繰り返せば、無くなってくるのは当たり前なんだがな、

そこで、国王は他の国に遠征に行くようになった。ここの野菜や果物、街で作ったものを売りに行くためにな。

今でも、何年かおきに行ってる。最初は普通に行って帰って来た。しかし、次に行った時には、一緒に行ったはずの、城のお手伝いが何人か帰って来なかった。事故に巻き込まれたとか言ってたらしい。が、それはウソだった!

何回か遠征に行くと、城と街は活気に溢れだした。金が入って来たんだ。しかし、こっちは元のままだ、安く買い叩かれた。挙げ句のはてには、量を増やせと言ってきた。街に出稼ぎに行ってる家族がいる者は逆らえなかった…もし断れば、城の奴らに何をされるかわからないからな。」



「でも、あのおじいさんは、そんな酷い人には見えなかったけどな…」


僕はふいに、初めてこの世界に来た時に、馬車に乗せてくれた、おじいさんを思いだし、ポツリと言った。


「おじいさん?」


オリアンは聞き返して来た。


「はい、初めて来た時に街まで乗せてくれたんです。確か、荷台の箱に『ロコナ』って書いてあったかな?」


「あ~、ロコナのじいさんか。あのじいさんだけは特別だ、ロコナのじいさんは、今もまともな値段で買い付けてくれる。あのじいさん一族は『本物の勇者』がいつか必ず来ると信じてるらしい。言い伝え通りの本物の勇者がな。」


オリアンはこの土地に伝わる『言い伝え』を話した。が、僕がミウに聞いた話とは少し違っていた。


「本物の勇者…」


僕は、本当に本物の勇者が居るのか?と考えていた。


「おっと、話が逸れたな。

何回も遠征を繰り返すうち、城のお手伝いが少ないからと『若い娘を出せ』と言ってきた。みんな行きたくなかったが、家族が少しでも助かるならと、泣く泣く城に行ったよ…」

それは、さらに国王が新しくなっても続いた。

城に行った娘達は、最初は歓迎され、良くしてくれたみたいだ、たまにこっちに帰って来ては、嬉しそうにしてた。

だが、遠征について行った娘は帰って来なかった。理由は様々だ、他の国で結婚した者、病気になって帰れなくなった者、事故に遭って亡くなった者…いろいろだ。

ちゃんと家族には見舞金を払ったみたいだが、こっちはたまったもんじゃない、年寄りと子供だけになる。

幸い、獣族は人より子供を多く生む。だから、こうしてなんとかやっていけてるんだ。

でも、娘達は減り続けた、中には家族全員で城に行き、帰って来なかった所もある。衛兵に聞いても、城で幸せに暮らしているの一点ばりだ。


そして、今の国王が王位を継いだ時、いきなり俺達に謝罪してきた。「今までの国王が酷いことをした。」と。

俺はまだガキだったが、オヤジ達は、謝罪を受け入れ、共存を選んだ。

それからしばらくは橋も解放され、行き来も自由になった。国王みずから買い付けに同行してたこともあった。

そして国王は、みんなから慕われる国王になったんだが、全部演技だった。

そのうち、ドラゴンが人を襲うようになった。

今までも、暴れる事はあったが、人を襲ったことは1度もなかったんだ。


どうやったのかは知らないが、ドラゴンを手なずけて、俺達の仲間を襲うようにしたんだ。

街に住んでる者は襲わない、俺達『獣族』だけを襲うようにな。


王子は、俺達の仲間がドラゴンに拐われては、俺達の所に見舞金を持って来て、頭を下げた。「自分がドラゴンを退治する事が出来ないから。すまない。」とな。

たぶん、王子はまだ知らないんだろうな、国王が裏で何をやってるのか。」


俺達は、俺達なりに調べたんだ、城に行った娘達がどうなったかってな、街にも俺達の仲間が何人か居るんだ、城を探るために。

そいつらによると、他の国に行った娘達は、奴隷として売り飛ばされていたんだ!娘だけじゃない、子供達もそうだ!獣族は人より丈夫だ、奴隷としてはうってつけなんだろ。でも、もうそれも終わらせる、俺達が必ず国王を倒す!そして、城に監禁されている仲間を助ける。

湖の水が無くなるこのチャンスにな!」


僕は、オリアンの話が信じられなかった。

1日とはいえ、街に居た僕には、そんな酷い事が起こっているなんてこれっぽっちも感じなかったからだ。街のみんなはもちろん、ミウでさえ、「国王は優しい、国民みんなを守ってくれている。」と言ってたぐらいだ。


僕は、一度街に帰ってみることにした。そして、自分なりに調べてみようと思った。そして、お城に住んでるミウに、それとなく聞いてみようと思った。


「オリアン、僕は一度街に帰るよ。お城に友達が住んでいるんだ、何か知らないか、聞いてみようと思う。」


するとオリアンは、急に真顔になって、


「おい!その友達は若い娘か? 」


オリアンの迫力に押されながらも、


「う、うん、可愛い娘だよ。」


オリアンは、さらにつめより、


「早く城に行って、その娘を城から出せ!早くしないと国から出てまうぞ!

今、城の奴らが大量の馬車を用意している。俺達が攻め込む前に、城から連れ出す気だ。

とはいえ、今日はもう遅い、橋は門が閉められ、夜に通ることが出来ない、例え『証明書』を持っていてもな。


僕は『証明書』を持ってないことに気付いた。


「あ!証明書…」


そうだ、たしか森でオリアン達に絡まれた時、オリアンの仲間に拾われたままだ。

するとオリアンが、


「おい!イスペド!お前だよな、タロウの『証明書』を拾ったよな。どこにあるんだ?」


するとイスペドは、頭をかきながら、


「悪い…兄ちゃん、無くしちまった。ドラゴンを追いかけて、湖の近くまでは、持っていたんだけど、気付いたらなかったんだ。悪い!兄ちゃん。」


イスペドは両手を合わせ、頭を下げた。

すると、オリアンは、


「まあ、いい。無くしたもんは、しようがねえ。

明日、ロコナのじいさんは、どこに来るんだ?」


すると、アイガが、


「たしか、明日はウラムの所じゃねえか?なあ、ウラム。」


「あ?ああ、そうだ。明日は、うちに寄ってくれる予定だ。」


「よし、じゃあ、その時「タロウ」も一緒に運んでもらうよう、頼んでみるか。」


オリアンが僕の肩を、ポンと叩いた。そして、


「あのじいさんとなら、大丈夫だ。すんなり入れてくれるさ。」


確かに、初めて来た時も、すんなり入れた。


僕は、僕が街に行っている間に、オリアン達に作ってもらいたいものがあった。


「オリアン、僕が街に行ってる間に、作ってもらいたい物があるんだけど。いいかな?」


「ん?なんだ?言ってみな。」


「僕は『ドラゴン』を仲間にしようと思っているんだ。いや、もともとオリアン達の仲間だったんだから「取り返す」って言った方がいいのかな?

ドラゴンさえ味方になってくれれば、もう誰も拐われずに済むし、空を飛んで、城にも行ける。湖の水が無くなるのを待たなくていいんだ。」


さすがのオリアンも、その提案には驚いたようで、


「な、なんだと!?そんな事が出来るのか?」


たぶん出来ると思う。城の連中は、湖の『毒水』でドラゴンを言う通りに操っているんだ。ドラゴンは毒水が大好きみたいだからね。

だから、もっと凄い『最強の毒水』を作ろうと思う。

ここでは『お米』も作っていたんですよね?」


「ああ、米なら、ファンの所に、でっかい田んぼがある。」


「それじゃ、ファンさん。ご飯を樽一杯に炊いて、そのご飯に、水とカビの生えた米を入れて、蓋をしたら、日陰の涼しい所に置いていてもらえます。腐りかけの『ドラゴンフルーツ』が有れば一緒に。」


「なんだそれ?」


そこにいる全員が顔を見合わせた。


「まあ、いい。タロウが言うのなら、間違いねえだろ。」


オリアンは、なにやらファンと話を始めた。僕が、言ったことを確認してるのだろう。


その日僕は、そのままアイガさんの店に泊まった。

今日、聞いた話が衝撃過ぎて、なかなか寝付けなかった。

僕は、オリアンが言った『言い伝え』を思い出していた。


『湖の水が飲み干される時、黒い鎧を身に纏い(まとい)漆黒の翼で空を駆け抜け、紅蓮の炎で悪を討ち滅ぼさん』


オリアンはこれでも完全じゃないと言った。長い間に忘れ去られて行った言葉があるらしい。


僕は、自分の力に気が付いた時、もしかしたら自分が『勇者』なのでは?と思ったが、オリアンの言い伝えを聞いて、やっぱり違うのかと、少し残念だった。ミウも残念がるに違いない。


僕が、落ち込んでいたその頃、お城では、僕が亡くなったと、ミウに告げられていた。








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