第7話〔ドラゴンフルーツ〕

〔「ただの太郎」でも、この世界を救えますか?〕



第7話〔ドラゴンフルーツ〕



僕とチェスハは、ドラゴンフルーツの木を見に行く為、朝から店を出た。


「チェスハさん、お店はいいんですか?」


「ああ、臨時休業だ。親父にも言ってある。どうせ誰も来やしない。最近は、戦の事でピリピリしてるからな。

それに、親父も誰にも邪魔をされずに、お前の剣を作れるってもんだ。」


僕たちは、人目を避けるように大回りをして、木のある丘に向かった。


途中、お城が見えた。僕は、ミウにウソをついている事が申し訳なかったが、どうしても確かめたかった事があったのだ。


しばらく行くと、大きな柵のような物が見えてきた。

それは、ドラゴンフルーツの木に近付けないようにする為の柵だった。


僕とチェスハは、その柵に沿うように歩いた。

すると、門らしき所があり、城の衛兵が2人立っていた。

すると、チェスハが、


「ここで待ってて。」


そう言うと、少しスカートをたくしあげて短くし、胸元のボタンを大胆に外した。

見てるこっちが、恥ずかしくなるほどだ。


そして、フラフラと衛兵に近付いて行き、


「こんにちは。お仕事大変ね。」


と、体をすり寄せ話し掛けた。

たぶん、まだ下っ端の衛兵だろう。顔が真っ赤になった。


「チ、チェスハさんじゃ、ないですか。ど、どうしたんですか?こんな所まで?」


「ん~?、さ・ん・ぽ・」


チェスハさんは、衛兵のホホをつつきながら言った。


「散歩?」


「そうだよ~、朝から店で「サタン」飲んでたら、体が火照っちゃって…」


チェスハさんは、はだけたシャツをパタパタしながら言った。


衛兵の視点は、もはや一点しか見ていない。

隣に立っている衛兵もチラチラとチェスハさんを見ていた。

その視線に気付いたチェスハさんは、隣の衛兵の所に行き、


「あら、初めて見る顔かしら、あたしはチェスハ、「ティージーの店」で働いているの。よろしくね。」


と、これまた体をすり寄せ、ホホにキスをした。

すると、その若い衛兵が真っ赤になりながら、


「はい!存じ上げております。チェスハさんは、衛兵たちの憧れの的ですから!!」


若い衛兵は元気に答えた。


「あら、嬉しい。」


と、ここで、チェスハさんは、さらに畳み掛けた。


「あら、靴に何か付いてるわよ。取ってあげる。」


と言うと、チェスハさんは前屈みになり、若い衛兵に胸元のを見せつけた、と同時に、後ろに居た衛兵にお尻を突き出した。2人同時攻撃だ。


もう、衛兵たちの目は泳いでいた。

衛兵が落ちたのを核心したチェスハは、本題をきりだした。


「ね~、今度、衛兵のみんなで「サタン」を飲みに行きましょう、うんとサービスするから。

その代わり、ドラゴンフルーツの木を少し見せてくれないかな?少しでいいんだけど、あたしの弟が遊びに来て、どうしても見たいって言うのよね。「危ないから強い衛兵さんが守ってる。」って言ったら、「じゃあ、その強い衛兵さんと結婚したら?守ってくれるよ。」なんて言うのよ。

木を見せてくれたら、弟も喜んで、あなた達の事が好きになるかも、あたしも結婚するなら、弟が好きになる人じゃないとね。」


もう、衛兵はチェスハさんの言いなりだ。

チェスハさんは、離れて見ていた僕に、手招きをして呼んだ。


衛兵が門を開け、僕とチェスハさんは柵の中に入った。

僕とチェスハさんが、衛兵の前を通ろうとした時、衛兵の1人が、


「あ、あの…チェスハさん、チェスハさん達を、中に入れた事は、他の衛兵達には秘密にしてもらえますか?」


「もちろん、ここだけの秘密ね。あ!じゃあ、秘密ついでに、サタンもここの3人で飲みに行こうかな。」


チェスハさんは、衛兵に手を降り投げキッスをした、僕はお辞儀をし、奥に入って行った。

衛兵達は、門に鍵をかけ、何事もなかったかのように正面を向いた。


そこから、少し丘を登ると、僕が想像していた以上の大きな木が目の前に立っていた。

僕がその木を見上げなから近付こうとすると、


「タロン!危ない!!」


チェスハが、僕の手を引っ張り、後ろに引き戻した。


「タロン、気を付けろよ、この木の回りは深い溝があるんだ。」


僕は、木の根本にゆっくりと目をやった。

すると、根本の回りから自分の足元まで、広い幅の溝が、ぐるりと広がっていた。

僕は、溝の中を覗き込んでみた。かなり深そうだ。中には赤い実のような物が、たくさん落ちていた。キレイな円形で、鋭く落ち込む穴を見て、僕は誰かが、掘ったものだと思っていた。


「誰かが掘ったのかな?」


僕は独り言のように、チェスハさんに問いかけてみた。


「この溝は、落ちた実を食べに来た「ドラゴン」が実と一緒に、地面をかじったり、爪で引っ掻いたりして出来た溝じゃないかって言われている。」


「へ~、そうなんですか。」


僕は、納得するふりをしながらも、穴の回りについている、鋭角な堀あとを見逃さなかった。

さらに、溝に頭を入れると、やはり思った通り、強烈なアルコールの臭いがした。

僕は、すべての謎が解けた気がした。


つまり、こう言うことだ、


このドラゴンフルーツが地面に落ちると、腐って発酵しアルコールをふくむようになる。

さらに発酵が進み、雨で地面に染み込み、地下水と混ざりあい、その地下水が湖に湧き出て湖の水が赤くなったのだ。


酒好きのドラゴンが落ちた実を食べるのも納得が行く。それにこれだけの溝に、大量のドラゴンフルーツが落ちれば、かなり濃いアルコールになるはずだ。言わば、湖は、天然のワインだったのだ。

湖に落ちて、死んでしまうというのは、毒水のせいではなく、アルコールを飲み過ぎて、酔っ払い、体の自由が効かなくなり、溺れ死ぬということだったのだ。

これなら、体が真っ赤になるというのも納得が行く。

もしかしたら、ドラゴンが最初暴れ回ったのも、湖の水を飲み過ぎて、酔っていたのかも。さらにドラゴンの体が赤いのも…、

考えていたら、きりがない。


ただ、不思議なのは、この溝だ。確実に人の手が加わっている。

湖の水の秘密が解ったと思ったら、新たな謎が出てきた。

僕はとりあえず、ドラゴンフルーツの秘密が解ったので、チェスハさんに、


「チェスハさん、もういいですよ、帰りましょうか。」


と振り向きながら言った。


と、同時に僕は一瞬にして青ざめて固まってしまった。

そこには、チェスハさんだけでなく、チェスハさんの正面に、大きなドラゴンが、立っていたからだ。


僕が溝に頭を突っこみ考え事をしてる間に来たのだ。


僕は、ドラゴンの目の前に立って固まっているチェスハさんに、ゆっくりと腕を伸ばし、服を掴んだ。

そして、さらにゆっくりと自分の横まで体を引き寄せた。


「チ、チェスハさん、だ大丈夫で、ですか?」


「あ…ああ…だ…い丈夫…だ。」


あの気丈なチェスハさんが震えていた。

2人とも死を覚悟したが、僕は、チェスハさんだけでもなんとか逃がしたい。そのことだけを考えていた。チェスハさんが居なくなると、ミウが悲しむと思ったからだ。


僕は、ゆっくりと辺りを見回した。なにか攻撃出来るものはないか、と思ったからだ。


すると、まだ熟れてない、固そうなドラゴンフルーツの実が落ちているのを見つけ、ゆっくりと拾い上げた。

すると、熟して無いにも関わらず、思ったより、柔らかかった。

それでも、ほんの一瞬でも隙が出来れば、チェスハさんを逃がすことが出来るかもしれないと思い覚悟を決めた。


僕は、ゆっくりとチェスハさんに顔を近付け、


「僕が、このドラゴンフルーツをあいつにぶつけますから、その隙に逃げてください。で、そのまま衛兵に助けを求めてください。 」


「お、お前は、どうするんだ…?」


「こう見えて、走るのだけは、速いんですよ。」


僕は、ひきつりながらも笑顔を見せた。しかし、ウソだった。チェスハさんを安心させる為のものだったのだ。


「チェスハさん、行きますよ。」


「あ、ああ、い、いいよ…」


「せ~の!」


僕は、おもいきりドラゴンフルーツをドラゴンに向かって投げた。

すると、


「ドッガ~~~~~~ッン!!!」


物凄い衝撃がドラゴンを襲った。

投げた本人の僕が1番ビックリしていた。


「実の中に爆弾でも入ってたのか?」


チェスハさんも、ポカンと見ていた。


当り所がよかったのか、急所に当たったのか、ドラゴンはもんどりうって倒れた。


「チェスハさん!今!!」


僕は、チェスハさんの肩を押した。


ハッと我に返ったチェスハさんは、ドラゴンの横をすり抜け走り出した。


それに続き、僕も走り出そうとした時、起き上がったドラゴンが、僕の横をすり抜け、空に飛び立って行った。


と、思った瞬間!僕の体がフワリと浮かび、あっという間にドラゴンと共に大空に舞い上がっていた。

ドラゴンが横をすり抜けた時、鞄がドラゴンの爪にひっかったのだ。


「チ、チェスハさ~ん!」


僕は大声で、チェスハさんの名前を叫んだ。


最初は逃げるので必死だったチェスハだが、木から離れ、衛兵の近くまで来たとき、余裕が出来たのか、後ろを振り向いた、しかし、そこに太郎の姿は無かった。


「タ、タロン!!ど、どこだ!?タロン~~!!」


「チェスハさ~ん!!」


チェスハは、声のする方向を向いた。


すると、空高く飛んでいるドラゴンの足に、太郎がぶら下がっていたのだ。


「タ、タロン!?ま、待ってろタロン!すぐ助けてやるからな~!」


チェスハは、衛兵と共に、丘を駆け下り、そのままお城に向かった。

すると、お城の前で買い物に出掛けようとしていたミウに出会った。


ミウの姿を見たチェスハは、今まで見たことないぐらい取り乱し、ミウに抱きついた。


「ミウ!ミウ!ミウ~!」


「ど、どうしたの!?チェスハ?」


「タロンが!タロンが!ごめんなさい!あたしの…あたしのせいなの…」


チェスハはミウの胸で泣き崩れた。

初めて見るチェスハの姿に、只事ではないとミウは思った。


「いったい、何があったの?」


「タロンが…ドラゴンに連れて行かれたの…」


それを聞いたミウは真っ青になり、買い物袋を地面に落とした。

しかし、キッと目を見開き、


「チェスハ!一緒に来て!国王様に助けに行ってもらうように頼もう!」


「う、うん…ゴメンね…ミウ…」


ミウは、チェスハの手を引きお城のに入った。


「国王さま~!国王さま~!」


ミウは、叫びながら城の中を走った。

すると、先に帰ってきた衛兵に話を聞いていた国王が、ミウの前に現れた。

ミウは、国王の前にひざまづき、


「国王様!お願いします。タロンをタロンを助けてください。」


涙ながらに国王に訴えた。


「ミウ、話は聞いておる、ドラゴンフルーツの木に行ってたらしいの?」


「ドラゴンフルーツの木?」


何も知らないミウは、チェスハを見た。

チェスハは目を真っ赤にし、


「国王様!ごめんなさい!タロンに頼まれて、あたしが連れて行きました。」


チェスハも国王の前にひざまづいた。


「お主は確か、「ティージー」の所の。」


「はい!チェスハでございます。」


「ティージーの親父さんには、世話になってるからの、よし、わかった!すぐに兵を整え、タロンの救出に向かわせよう。

そのタロンとやらは、ミウが連れてきた、タロンなんじゃろ?

国の為に来てくれた勇者じゃろ?そんな勇敢な若者を無下には出来ん。

すぐに助け出してやるから心配せんでいい。」


その言葉を聞いたミウは、


「ありがとうございます。国王様!

チェスハ、大丈夫よ、タロンは勇者なのよ、絶対大丈夫だわ。」


ミウはチェスハの肩を抱きながら言った。

しかし、それは自分にも言い聞かせていたのだ。


タロンの救出隊が出ると聞いて、安心したチェスハは、柵の中に入れてくれた衛兵達の心配をした。命令を無視したのだ、只では済まない。そこで、少しでも罰を軽くして欲しいと頼んだ。


「お願いします。国王様。あの2人は、あたしの頼みを聞いてくれただけなんです。あの2人には責任は無いんです。どうか御慈悲を!」


その姿を見たミウも、


「私からもお願いします!どうか御慈悲を!」


「わかっておる、お前たちは、本当に優しい娘達じゃ、こんな女性達がこの国を支えてくれている、なんて素晴らしいことじゃ。

ただ、あの2人は、チェスハとタロンを危険な目に合わせた、無罪と言うわけにはいかない、わかるな。

じゃが、安心せい、お前たち2人に免じて、重い罰は避けよう。」


「ありがとうございます。国王様!」


2人は同時にお辞儀をした。


「チェスハよ、お主は店に帰っていなさい。ミウは、部屋に戻って報告を待つがよい。

大丈夫だ、すぐに見つけて帰って来る。」


そして、隣にいた側近に、


「すぐにタロンの捜索隊を出せ。」


すると側近は、近くの衛兵に、


「すぐに兵を集めろ!」


と、命令を出した。


ミウは、再び国王にお辞儀をし、チェスハを玄関まで送って行った。


そして、2人が居なくなると、国王の側近が、国王に近づき、


「国王様、このような大事な時期に、兵を湖の外に出してよろしいのですか?」


「な~に、2~3人外に出して、すぐに帰って来させればよい、タロンはドラゴンに食われた事にしてな。

今、この城には勇者が履いて捨てるほどいる。1人、2人居なくなっても、なんの問題もないわ。

それから、あのチェスハは、今度の遠征に連れて行くぞ。あの女は高く売れる、旅の途中の、兵への慰みにもなるしな。」


「しかし、店の親父が、チェスハを手放すでしょうか?」


「あの親父は、仕事バカだ、武器の修理係として連れて行くと言えば、文句は言うまい。それに今回の事で、わしに借りも出来た事だしな。

旅の途中で事故に遭うことはよくあることじゃ、

帰って来んでも、誰も文句は言うまいて。

それから、城の女共も連れて行くぞ、そろそろ入れ替えないとな、見飽きてきたわい。

また湖の向こうから連れて来ればよい。準備を怠るなよ、湖の水がなくなる前に出発じゃ。」


「は!かしこまりました!

それから、あの衛兵の2人はどうしましょう?」


「ああ、あの2人は湖に突き落としてしまえ、運が良ければ命だけは、助かるじゃろうて、死んでしまっても、毒水の威力がまだ衰えてない事がわかるという寸法じゃ。

しかも兵への見せしめにもなる。わしの命令を無視するとどうなるかとな。ハハハハ。」



その頃、僕はドラゴンの足にしがみつき、広い湖の上を飛んでした。


国民みんなから慕われている国王に、恐ろしい裏の顔がある事など、夢にも思わずに…




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