第2話〔ターダのタロン!?〕



第2話〔ターダのタロン!?〕



次の日の朝、僕は小さな寝息と石鹸のいい香りで目が覚めた。


「ん~?なんだかいい匂いがするな~。」


僕が目を開けてみると、すぐ鼻先に白い髪の美少女が、僕の布団に入って眠っていた。



「え!?え~~~~~~っ!!?」



僕は、わけがわからず、叫びながら布団から飛び出した。


そして息を整え、遠巻きに自分のベッドを見た。

やはり誰か寝ている。僕はゆっくり近づくと、布団をゆっくり持ち上げてみた。


すると、やっぱり女のコだ。ほとんど裸の体に、白い布のような物を巻き付けてるだけの状態で、眠っていた。すると、


「クシュン!」


小さなくしゃみと共に、女のコは目を覚ました。

そして、僕を見るなり、


「タロン!!」


叫びながら、抱きついて来たのだ。

僕は、知らない女のコが自分の布団に入っていたことにビックリしたのと、女のコに抱きつかれたのは初めての事だったので、パニックに陥っていた。

すると、


「ガチャ!」


「もう!お兄ちゃん、朝からうるさ……い!?…

な、なんですと~!!!

お、お母さん!お母さん!お兄ちゃんが知らない女の人!部屋に連れ込んでる!!」


妹が僕たちの姿を見て、一目散に階段をかけ降りて行った。


僕は、ハッと我に返り、抱きついてきた女のコを押し返そうと、肩を押したが、まったく手応えがない。というより、いままで目の前に居た女のコの姿が消えていた。

その代わり、布団の上にミウがいて、僕を見つめていた。


僕は、まさかと思いながらも、


「さっきの女のコはお前か?」


「ミュッ! 」


ミウはジャンプして僕の頭に飛び乗った。


すると、階段の下の方から喋り声が近づいて来た。


「ほんとだってば、お兄ちゃんと知らない女の人が抱き合ってたの!」


「まさか~、ター君に彼女なんて出来るはずないもの~、それに部屋に連れ込む度胸なんて、ないない。」


僕は「なんて失礼な母親だ…」とか思いながらも、この状況をごまかそうと、とっさにベッドの横に立ててあった、艦娘の抱き枕を手に取り抱きしめた。


「ター君入るわよ~。」


「う、うん。いいよ母さん。」


「ガチャ。」


「ホラホラ、お母さん、あれ!…あれ?」


僕は、抱き枕を抱えたまま、


「どうしたの?母さん。」


すると、妹が、


「お兄ちゃん、女の人が居たでしょ?」


「居ないよ、これを見間違えたんじゃないか?」


僕は抱き枕を妹に見せながら言った。


「おっかしいな~?確かにお兄ちゃんに抱きついていた女の人が居たんだけどな~」


すると、母さんがタメ息混じりに、


「ハ~…ほらね、ター君に人間の彼女が出来るわけないんだから。逆に彼女を作って紹介してもらいたいものだわ。」


「し、失礼な!そのうち母さんがビックリするような彼女を紹介してやるよ!」


とは言ったものの、アニメの抱き枕を抱きしめながらでは、まるで説得力が無かった。


すると母さんが、パンパンと手を叩きながら、


「ほらほら2人とも、休みだからって、のんびりしてないで、朝ごはん食べちゃいなさい。」


そう言い残すと、母さんは部屋から出て行った。

続いて妹も部屋から出ようとするが、まだ納得がいかないのか、何度も振り返りながら部屋を見渡していた。

妹が、階段の1番下まで降りたのを確認すると、


「やっぱり、ミウは見えないんだ。」


僕はミウを再びベッドに置き、話しかけた。


「なあ、さっきの女のコは、やっぱりお前なのか?」


ミウは布団に潜り込むと、布団が盛り上がり、中からさっきの女のコが顔を出した。


ショートカットの白い髪、さっきは気が付かなかったが、肌の色も白い、その白い肌に大きな黒目がよく映える。


僕はミウの可愛さに見とれてしまっていた。


「ターダのタロン。」


ボーっとしていた僕に、ミウが話しかけて来た。


「ターダのタロン、ターダのタロン。」


僕はミウが何を言ってるのかわからなかった。


「ターダのタロン?僕の名前は「ただのたろう」。」


僕は、自分の顔を指差しながら言った。


「ターダのタロン、ターダのタロン。」


ミウはその言葉しか言わなかった。

そして、布団から出ると、僕の腕を掴み部屋から出ようとした。


「ち、ちょっと待って!今出たらダメだって!」


僕が止めると、ミウは泣きそうな目で、僕を見つめた。


「何か伝えたいのかな?」


僕は直感的にそう思った。しかしこのままの姿でミウが出ると、大騒動になるのは間違いない。

なにせ、裸に布切れ1枚なのだから。

かといって、ヤモリのままでは喋れない。


僕は、部屋にあったGパンと、トレーナーをミウに渡した。さすがに下着は持ってないので、そのまま服を着てもらった。


やはり少しサイズが大きかったが、それはそれでまた可愛いい。


「ミウ、そのまま小さくなれるか?」


僕は身振り手振りをしながら、ミウにヤモリになるように言ってみた。


するとミウがうなずき、みるみる小さくなって、ヤモリに変身した。


その時初めて、ヤモリの手足についていた膜の正体がわかった。


今のミウの姿は、胴からしたが、紺色に変わり、上半身にはうぶ毛のような物がびっしり生えてる。


つまり、人の姿をしている時に着ていたものが、そのまま体と一体化するようだ。


ヤモリの体に膜のような物が付いていたのは、ミウが布切れを纏っていたからだと確信した。


しかし、なぜ裸だったのかはわからない。


僕も服を着替え、出掛ける用意をした。

ミウが、僕をどこかへ連れて行きたいんじゃないかと思ったからだ。


僕は、ショルダーバッグを肩にかけ、ミウを頭に乗せて部屋を出た。


そして、キッチンの前を通りながら、朝食を食べてる2人に、


「ちょっと出かけて来る。」


すると、母さんが、


「どこ行くの?ご飯は? 」


「ちょっと図書館に本を返しに、ご飯はお昼に食べるよ。」


すると、妹が、


「ついでにタイヤキ買ってきて~。」


可愛い妹の頼みだ、断れない。


「ハイハイ、わかった。買ってきてやるよ。」


玄関で靴を履きながら、


「あ、そういえばミウって裸足だったよな、僕の靴はさすがに大きいか。」


僕は、くつ箱の中から、妹のサンダルを一足取り、鞄に入れた。


「じゃあ、行ってきます。」


「行ってらっしゃい、気を付けてね。」


この何気ない、母さんとのいつものやりとりが、懐かしく感じる時が来ることを、その時の僕は、知るよしも無かった。



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