21話 授業参観と笙の思い出
「お、お前は……」
僕の目の前には改造メイド服を着たあの女性がいた。
その女性が着ているメイド服は通常の物とは異なり、エプロンドレスのスカートは長いものになっておりその両サイドにスリットがはいっている、いかにも蹴り攻撃がしやすい服になっていた。そして、エプロンはいたって普通のエプロンだった。何故にか手にはあれを手にして、意味ありげに笑みを浮かべていた。
「な、なぁ、七五三田。なんでこいつがいるんだ?お前のボディーガードか?」
「あ、そうだよ……今は俺のメイドだ」
「そうなのか?お前」
僕はそのメイドに問いかける。
「お前、言うな。ていか、お前はもう骨折が治ったのか?私の蹴りで腕が吹き飛ばなかったのは尊敬に値するが、たった数日で治るのは人間が出来る回復ではない。お前は人間か?それとも私たちと同じ妖怪か?」
「人間であり、妖怪だ。半妖ってとこか。で、なんでお前がメイドなんてしているんだよ」
「それは……」
急にメイドが尻込みし始めた。そんなに話せないようなことなのだろうか。
「それは、七五三田様(マスター)が『お前は脱走癖があるからしばらくは俺のメイドとして生活しろ』と言われたから、こうしてるだけだ!別に、私がこのような服装で生活がしたくて脱走してた訳じゃないからな!」
自業自得。事の発端を聞いた僕の率直な感想だ。
(それにしても、似合うな。もし、こいつの髪が黒ではなく茶色とかだったりすると、メイドって感じがしない。それに、肩甲骨当たりから生えている翼も相まって、異世界のメイドって感じがして個人的に好みだったりする。もう、あれだな。こいつをこいつ呼ばわりするのはなんか疲れたし、そろそろ名前で呼ぶか……)
「なぁ、笙。お前のマスターはなんか、ぐったりしているけど、どうしたんだ?」
「マスターは先日、百鬼夜行様とあるものを賭けてゲームをしたらしいのですが、どうも惨敗してそれであのような感じに」
急に話し方を変えてきてびっくりした。せっかくメイドになってるわけだから話し方もメイドっぽく上品に変えたらしい。実にいいことだ。その前に、百鬼夜行って妖怪の集まりじゃないのか!?まさか、別の個体なのか!?
「百鬼夜行って誰?」
「私たちの元締めです。見て頂いたら分かるのですが、簡単に言えば、黒ずくめのイケメンです」
「……」
僕がどう反応していいか分からずにいると、笙が首を傾げ「どうされました?」と聞いてくる。そういう、1つ1つの行動が一々可愛いくて、ドキドキしてしまう。
「いや、何でもない。そうだ、七五三田は何を賭けたんだ?」
「マスターは主従関係を賭けました」
「ん?それは、どういうことなんだ?」
「私たちはマスターと契約を交わし、従えています。あなたの所で言うと、従僕です。それを1日だけ逆転させることです」
(なるほど、僕と天邪鬼の関係が逆になることか。僕が天邪鬼の主だったとしても、今と大して変わらないような気がする)
「じゃあ、なんで笙は七五三田のメイドをしているんだ?今日1日は関係が逆転してるんだろ」
「誰がいつ、今日と言いましたか?」
笙が青筋を立てながら言う。メイドにあるまじきに顔をしながら。
「すいませんでした!」
僕が謝ると笙が「分かればいいんです」と呆れた風に言う。
そうこうしているうちに学校の校門の近くまで来ていた。
僕と七五三田が校門をくぐると、笙はそのまま付いてきた。
「あれ?七五三田。笙が学校に入って来たけどいいのか?」
「え?ダメだけど」
「なら、戻させて!」
七五三田は笙に学校に入って来るのは禁止だと伝えたら悲しそうな目で僕を見てきた。僕は胸元で×印をすると、いつかの悪い顔になった。
七五三田の精神より僕の命を優先させ、×から〇に変えると七五三田が絶望した顔をして歩いてきた。
「蒼。お前は正気か?」
「正気さ。いつも通りのお前でいろよ」
「俺の授業態度を知って言ってるだろ!この鬼畜野郎!あいつは勉強には厳しいんだ。あ~今日は災難だ」
「授業については暫くだけどな。しかも、もう少しすれば中間もあるし」
僕がテストのことを七五三田は絶望し切った顔になっていた。よく顔を見てみれば、目は光を失い『レイプ目』になっていた。現実で見ると、なんか怖いな。
◆
蒼が七五三田のレイプ目に少し恐怖を抱いている後方にいるメイド服姿の笙は恍惚としていた。
(マスターの授業態度には前から気になっていたわ。前の学校にいた時に更生させたけど、まさか戻ってることはないよね?)
私は百鬼夜行の中でも頭の良さは上位に位置する。もちろん頂点にいるのは元締めの百鬼夜行。この人がマスターのお小遣いからすべてを担っている。完全に七五三田の母だ。それでも、勉学については私がお世話をするように言われている。百鬼夜行いわく、めんどくさいらしい。
そのため、私は高校の勉強を復習するべく百鬼夜行からお金を貰い、本屋に行き参考書を買うと、その足で図書館に向かう生活をここ最近ずっと続けていた。いつでも勉強を教えられるように。そのため、抜き打ちテストを受けても80点以上を取る自信がある。
(もし、マスターがまともに授業を受けていなかったらどうしようか?前回は土日を全てを使って勉強させた気がする。まぁ、そのおかげで転入試験は簡単にクリアしたし。今回もそうしようかな?いや、罰は次の中間試験が終わってからにしよう。せっかく東雲蒼と言う半妖もいるし)
私がそんなことを思っていると、マスターが在籍するクラスについた。教室にはもうすでに多くの生徒でひしめき合っていた。
私は授業参観みたいに教室の後ろに立ってHRが始まるのを待つ。流石に真ん中にいるのもマスターの迷惑だと思い窓側に移動する。窓からは、学校付近がよく見えた。マスターが通っているこの学校は土地が高い所に建っているおかげだろう。
私が学生時代はこんな眺めが良い所では無かった。皆は着物を着て馬が闊歩する石畳を歩いて学校に行っていた。かれこれ150年ぐらい前だろうか。あの頃は今みたいに洋服はないし、車はないし何かと不便だった。でも、今は便利なものが生まれる代わりに環境が汚れたりとうるさいのは正直、しょうがないと思っている。
「代償無しに使えるものは無い」と昔に言われたがまさしくこれのことだろう。どんなものにも必ず終わりが来る。それは人間も同じだ。よく、映画とかで「私は永遠の命を探しに旅に出ます!」とかあるがいつも心の中で「あるわけないだろ。そんな無駄なことしてないでもっと現実味あふれることしろよ」って思ってしまう。こんなことを話したところで「そんな設定だからいいんだよ」と言われ会話が終わる。それと同じことをマスターにしたら同じことを言われ冷たい目をされたのをよく覚えている。私個人からすれば、そういうことを言い合える人と映画とか見たいと思っているが、中々いないのが辛い。
(今度、東雲のやつを誘ってみるか。この前のお詫びとして……別にあいつが気になっているとか思って無いし。思って無いし!)
私の心が乱れていると担任の教師と思われる大人が入って来た。すると、日直当番の生徒が「起立!」と言うとクラスの生徒がのそのそと立ち上がってから、あの生徒が「礼!」と言うとクラス全員が「おはようございます」と言ってから座った。それだけで、私はイラっときた。
(なんで、皆あんなゆっくり立ち上がるんだ!さっさと立てよ!私が学生の時はそんなんじゃなかったぞ!ってダメだ。落ち着かないと。こんな考え方はダメだと何かの本に書いてあったな。今の子は「これだから最近の若者は~」と言われるのが嫌なんだっけ。扱いづらくなったわね)
そんなことを思っていると、HRが終わり先生が出ていった。すると、生徒はほとんどが一斉にスマホを取り出しゲームやらSNSをし始めた。
私もスマホを持っているが、ゲームなんてしてないしSNSもしていない。正直、何が楽しいのか分からない。あんなものは目に悪いとニュースでも行っていた。今の私にとってはどうでもいいことだ。スマホなんて、マスターか五徳のどちらかと話すぐらいだし正直ガラケーでもいい。そのことを五徳に話したら「ダメだよ!笙ちゃんがガラケーにしたら誰とラインすればいいの?私の友達登録笙ちゃんとしかしてないのに……」と言われたから余計に変えにくい。今となっては東雲蒼の番号でもはいっているだろう。そう思うと腹が立ってきた。やっぱりあの時。蹴り殺しとけばよかったと後悔する。
HRの5分後……先ほどの担任と変わり、女性の教師が入って来た。その人の回りゆるふわっとした空気が流れていて、一目で人気のある教師だとわかった。その教師は見た目とは裏腹に担当教科は生物らしい。解剖とか好きなタイプかもしれない。そう思っただけで、寒気がした。
(にしても、マスターは真面目にノートを取ってますね。それに打って変わって東雲蒼は、私が気になって集中出来てませんね。それは仕方ありませんね。それに、何故にかあの女生徒はチラチラ私の事を見てくるけど、まさか見えているのか!?だとしたら、私たちの敵になる確率が高い。注意しないと……)
その女生徒は先ほどの休み時間にクラスメイトから「委員長」と呼ばれていた。もし、これが本当なら彼女が使役している妖怪は先日暴れた「酒呑童子」となる。あれから、百鬼夜行内では酒に弱い妖怪は遭遇したらすぐ逃げることになっているが、これも私にとっては関係の無いことだ。
今までの話を見て頂けたら分かるのだが、私には特にこれと言った弱点が無い!ホントは少しあるけど、今は言わないことにしよう。
学校が終わり、放課後。
私はマスターの後ろにくっつきながら帰る。
「なぁ、俺の授業態度はどうだった?」
「ダメダメでした」
私が意地悪く言うと、マスターは顔を青くし始める。どうやら、罰のことを考えているみたいだ。流石に可愛そうに思えてきたので、真実を言う。
「嘘ですよ。本当はよくできていました。少し、感心しました」
「なら、今回は罰は無――」
「罰については先延ばしです。近々、中間試験がありますよね?その時に、東雲蒼と対決してもらいます」
私の予想外の提案にマスターはアホみたいな顔をして私を見る。
「どうしました?まさか、勝てないとでも思っています?」
「いや、別に思って無いし。勝てるし」
「そうですか。では、このことは五徳を通じ私から連絡しておきます」
話が終えるとしばらく無言の状態が続いた。
しばらく歩いていると後ろから誰かが付いてきているのに気づいた。振り返ると、マスターのクラスメイトの委員長と呼ばれた女生徒がいた。
「何のようですか?後をつけてきて」
私が問いかけるとその女生徒は「帰り道が一緒なだけです」と答えた。
あり得ない。今私たちが歩いている道は霊界につながる道だ。普段、マスターは霊界の一室を使って生活している。この霊界に繋がる道は殲滅隊員か大妖怪や悪魔を使役している者しか通れない。それなのに、この女生徒は悠々と道を歩いていた。
(関係の無い人物が入れば直ちに本部に通達され排除に来るのだけど、何故か誰も来ない。もしや、客人と扱われている?だとすると、無闇に攻撃は出来ない。う~んどうすれば……そうだ!百鬼夜行に頼るか!)
私はそう思いスカートのポケットからスマホを取り出し、百鬼夜行に電話を掛けるとすぐに出てくれた。
「もしもし?笙です」
『笙か。どうした?」
「今日は客人なんて招いていませんよね?」
『招いていないが、それが?」
「それが、私たちの後ろにマスターの同級生が引っ付いてきてしまってるのですが、本当に客人ではないいですね?」
『ああ、そうだ。もし、敵なら攻撃してしまって構わない』
百鬼夜行はそう言って電話を切った。私は戦闘の許可が出たため、メイド服から戦闘服に変身する。戦闘服と言っても私が動きやすい服を着ているだけだ。上半身は黒のスポーツブラに黒のパーカー。下半身は黒のスエットといった、そこらへんの服やでも買えるぐらいの簡単なものだ。私がこの服に着替えた途端、女生徒は後ずさりし始めた。ここで逃がすわけにいかない私は右足で跳躍し、背後にまわる。それに驚いた女生徒は私の横を通って走り抜けようとした。
(逃がさない!)
そう思った私はすでに足が出ていた。足は女生徒の鳩尾を的確に狙って振り落としていた。
(やばっ)
もう遅い。足は鳩尾を蹴り飛ばし女生徒は天高く舞った。
(ありゃあ、死んだな。私たちについてきたのが悪かったな)
そう思った瞬間、女生徒の手が少し動いた。
(おいおい、相手は普通の人間じゃないの!?まさかアンデットとかだったら、最悪。武器で倒しとけばよかった)
私は通常、蹴りで戦うのだが協力戦だと錫杖を持って戦う。個人的に武器を使うのは好きじゃない。そもそも、自分の体以外信用が出来ないからだ。前に、百鬼夜行のメンバーで狩りに行ったことがある。その時に、途中で錫杖が折れ1人だけ外で観戦してるだけになってしまったことが有るからだ。その時から、どんな敵でも蹴りだけで倒してきた。だから、今回も足で戦ったわけだが相手がアンデッドなどの死霊系統だったりすると、呪いが移ったりするからすぐに解呪しなければならないから、最悪なのだ。
「まだ生きてる?」
私が聞くが返答が無い。死んだのか?だとすると、さっき手が動いたのはなんだ?私が疑問に思っていると、女生徒の周りに黒い手みたいのが蠢いていた。それは段々と女生徒を飲み込んでいき消えていった。
「今のは、いったい……」
戦闘を終えた私はマスターと霊界に行く。
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